79.離屋の夜、その3
「~♪」
コンクールからの帰りのバス。風歌は僕の腕にぴったりとしがみつきながら、ニコニコ、そして、すやすやと眠っている。
すっかり、一途なベタベタな恋人に覚醒した風歌。
そして、通路を挟んで隣には、元ヤンキーに覚醒した心音が座っていた。
「すみません。皆さん。」
「いいの、いいの。私だって許せなかったんだから。それに・・・。」
謝った僕。それに応える心音。
そして、心音は風歌の方を見る。
「風歌も、今回の一件で相当勇敢な心を持ったと思うし、今これを見ていると・・・。」
心音は、はあっ、とため息。
「今までのサポートは本当に何だったのか・・・。」
心音はふうっっと、深呼吸する。
先ほど覚醒するまで、ものすごくシャイだった風歌。
心音のサポートで、風歌はいろいろとコミュニケーションを取れたのだ。
確かに風歌の行動は僕に好意を寄せているとしか言いようがなかった。
最初にあった時の握手と言い、夏祭りや、茂木の別荘の海での泳ぐ練習など、風歌の行動はそう考えると頷ける。
確かに、まるで僕のことを最初から知っていた。そんな雰囲気だった。
<本当は、ずっと前から知ってた。>
という風歌の言葉も頷ける、事実、風歌のピアノも相当な実力があるのだから、コンクールで上位も狙えるはずだった。
茂木と同じく、どこかコンクールで僕を見かけていたのだろう。
そして、シャイな風歌の隣には心音の姿があったのだが。
「結局は自分から、でしたね。」
「そうだね。まあ、これで、風歌のサポートは橋本君も加わってもらえるし。あの子、やっぱり。少し恥ずかしがり屋なのは変わらないから。」
心音の言葉に僕は頷く。
きっと、風歌は少し恥ずかしがりやなところがこれからも、僕以外の面々に対して続いて行くのだろう。
しばらくバスは走り続け、お互い沈黙の時間が流れる。
だが、風歌がしがみついている僕の右腕だけとても暖かい。
バスは高速道路を降り、一般道へ、そうすると、花園学園までは20分足らずで行くことができる。
「ねえ、橋本君。」
その沈黙を破るかのように言い出したのは心音だった。
僕は心音の方に耳を傾ける。
「これからもコーラス部で一緒に活動してもらいたいんだけど。良いかな?」
心音はさらに続ける。
「今日のことがトラウマになっちゃって、辞めちゃうのかと思うと、私は・・・。恐くて・・・。」
心音は少し震えている。
僕は少し考える。
今日は僕のせいで、ここに居るみんなに大変な思いをさせてしまった。
なかなか答えが出せない僕。
「お願い。輝君。一緒に、これからも。」
隣の席でずっと腕を組んでいた風歌が口を開く。すやすやと眠る風歌。僕の夢でも見ているのだろう。
僕は風歌の顔を見る。
そして、心音の顔を見る。
「うん。」
心音が頷く。
「わかりました。今後も、お役に立てるように頑張っていきます。」
「やったー!!」
心音はにこにこと笑っている。
「勿論、橋本君は指揮か伴奏のどちらかをお願いするね。来年、もしも、沢山男の子が入ってきたら歌ってもらうかもしれないけれど・・・。」
心音はそう言いながらニコニコと笑っている。
「あ、ありがとうございます。とてもうれしいです。」
僕はそう言いながら頭を下げる。
そうして、バスはこの出来事から十分も経たないうちに高校に到着した。
すやすやと眠っている風歌を起こす。
「ふぁぁぁ~。」
風歌はゆっくりと体を起こしていくように、小さく背伸びをする。
「あっ、輝君だ。」
風歌はにこにこと笑ってい、そして、手をギュッと力強く握った。
「これからも、橋本君は、コーラス部に来てくれるよ。」
心音はニコニコ笑って風歌に伝える。
「や、やったー。」
風歌は大きくガッツポーズ。
そんな形で、帰りのバスを降りていく、僕たち。
そのまま解散となったが・・・。
まだまだ、僕の腕にしがみついて、離れない風歌。
「♪~。だってこれからたくさん遊べるもん♪この後どこか遊びに行かない?」
風歌は僕の耳元で言う。
僕は戸惑うが。
「おやおや、緑風歌さん。それをするには少しお話しないといけないんだよね。」
それを遮ったのが史奈だった。
史奈は瀬戸運送と呼ばれる運送会社の社長令嬢。
今回のバスも瀬戸運送が出してくれ、史奈も一緒に同行していたのだった。
史奈の低い声に風歌は少し戸惑っている。
「まあ、まあ、風歌。とにかくよかったじゃない。後は、瀬戸会長や加奈子たちのお話をよく聞いて、橋本君と仲良くね~。」
心音は風歌に向かって言う。
「それじゃ、橋本君。今日は本当にありがとう。加奈子たちから、いろいろと話を聞いているから。私は大丈夫。これからも、私ともお出かけしてほしいなぁ~。な~んて。それじゃあね!!」
心音は僕の方を向いて、元気よく話して、帰路に就いて行った。
心音の帰路を見送る、僕と風歌、そして、史奈。
当然、コーラス部も全員帰路に就いたため、ここに残されたのは僕たち三人だけだ。
史奈を見て突然緊張する、風歌。
「さあさあ、私たちも帰りましょうか。」
史奈はそう言って、僕を後押しして、帰路に就くように言う。
「風歌さんは、橋本君に付いてきて。」
史奈の言葉に縦に首を振る風歌。
そうして、僕と史奈、そして、風歌の三人は、校門を出て、まっすぐ駅の方に向かう。
そして、百貨店と家電量販店の交差点にたどり着く。
この町の中心部にある交差点で、交差点の右に曲がれば駅へ。左へ行けば市役所へと続いている。どちらも徒歩で十分以内で行くことができる。
何なら、駅も市役所も巨大な建物なので、この交差点からだと嫌でも視野に入ってくる。
生徒会メンバーと、そして、コーラス部のメンバーと、この百貨店のフードコートで何度も食事をした。
その交差点に何人かの人影があって、その人影は僕たちを待っていたようだ。
コンクールの会場に電車で移動してきてくれていた、加奈子、葉月、結花の生徒会メンバーと今日はお店をお休みにして、応援に来てくれた早織。
さらには、マユの姿もあった。誰かが、連絡をして待っていたようだった。
「ひ、ひかるんごめん。まさか、例の安久尾建設の人と出くわすだなんて。私も今日は部活だったし。助けられなくて本当にごめん。」
マユが謝ってくる。
「大丈夫。何とか事なきを得たから。」
僕はそう言うが、マユはとても心配している。
僕たちは交差点を出発して、僕の家へと向かう。
歩きながらではあるが、一通り、何が起きたか話し終える。
やはり殴られた、蹴られた、などの暴行を受けた話をすると、マユ、そしてマユだけでなく、ここに居たメンバーはますます顔色を変えていく。
特に、運動が苦手で、暴力は絶対に振るわないであろう、早織と風歌は、一気に血相が変わっていった。
「ご、ごめん。そんなところにひかるん一人でだなんて。」
マユはますます悲しい顔をするが。
まずは、無事でよかったことに安堵するマユ。
そして、その表情を見て安心する、生徒会メンバー。
そして、このメンバーで、風歌の方に視線を向ける。
「そして、この子が例の・・・・・。」
マユがみんなに確認を取る。
皆は頷く。
ふうっと。マユはため息。そして。
「まずはお礼だよね。ひかるんを助けてくれて本当にありがとう。」
マユはそう言って頷く。
「そうね。輝君を助けてくれたわけだし、私は構わないわ。」
史奈はそう言って頷く。
「そうっすね。今日一日、ハッシーを助けてもらったわけだし。勇気を認めるしかないっすね。」
結花はそう言う。
葉月と加奈子はそれを確認して。
「わかった。私もそれで構わないわ。輝を助けてくれたし。詳しい説明を葉月に任せられるかしら。」
加奈子がそう言って、葉月は頷く。
「うん。それじゃあ、風歌。もしかしたら、以前、説明したと思うけど。ここに居る人たちは皆、輝君と付き合ってます。」
葉月は改めて風歌に確認するように言った。
「少なくとも、高校までの三年間はそうしてもらって、将来誰にするか、輝君に決めてもらう。その時が来たら、皆恨みっこなし。ここに入るということは、風歌もというルールだよ。」
葉月は風歌の目を見て言う。
風歌は、ドキッとする表情を一瞬したが。
「う、うん、知ってる。私だって、負けないもん!!ずっと前から、輝君のこと知ってるもん!!」
風歌は叫んだ。
ちょうど、僕たち一団は雲雀川の橋の上に差し掛かっていた。
大きな橋の上から風歌の叫び声は夕焼けの空一杯に響き渡っていたのだった。
そうして、僕たちは、僕の家、つまり伯父の農家にたどり着いた。
僕の暮らしている離屋に案内し。そこからは・・・。
そこからは、帰り道、終始僕の腕にしがみついていた風歌がいきなり両手を僕の背中に回して抱き着き。
「輝君、お願い!!」
そういって、風歌は自分からキスを求めてくる。
風歌は着ているものを一気に脱ぎ捨て・・・。
そう、この夜。風歌は、最初から最後まで、全て譲らなかった。
聞けば例の袋の箱も持っており、今日、一日目でかなりの量を使っていた。
風歌は、僕の上に乗ったり、触ったり、そして。
すべてを出し尽くしてしまったのだった。
「あ~あ~。風歌、凄すぎ。」
「はあ、私も少しくらい分けてほしかったわ~。風歌ちゃん。」
葉月と史奈がため息をつく。
今日この日、心音の覚醒もすさまじかったが。
やはり、風歌の覚醒の方がすさまじく。
覚醒した風歌は誰にも止めることができなかった。
「にへへぇ。ごめん、全部、やっちゃった。」
生まれたままの風歌は、満足そうな格好で、ご機嫌な表情をしている。
改めて、この離屋にいるメンバーは、負けてなるものかと火が付くのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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