75.コーラス部の練習、再開
水族館で、各々自由な時間を過ごした僕たち。
再び茂木の別荘に戻る。
そして、各々部屋を片づけをして、すっかり酔いも覚めた原田と吉岡が再び車を運転する。
「どうだったか?少年。」
「はい。ありがとうございました。」
原田はニコニコしながら笑っていた。
「そうか、よかった。お前をここに連れて来て良かったよ。また来年も、加奈子ちゃんと一緒にいい成績を残してくれたら、連れて来てやるぞ!!」
原田は笑って、夕日に沈む海を背にして車を走らせた。
昨日来た道を戻り、高速道路を走らせ、雲雀川に着いた頃はすっかり夜になっていた。
改めて、原田と吉岡にお礼を言った。
そして、何だろうか、また会えるとわかっていても、原田のバレエスタジオで、皆と別れ、それぞれの帰路に就くのがとても辛かった。
帰宅後、伯父と伯母にお土産を手渡し、離の家の自分の机にイルカのぬいぐるみを置き、僕はベッドで横になった。
夏休みはこうして過ぎていった。
伯父の畑の手伝いをし、お盆には僕の両親が様子を見に来た。
僕の両親は元気になっている僕の姿を見て一安心したようだ。
そうして、夏休みの後半、お盆が明けたころ、コーラス部の練習が再開した。
関東コンクールの練習だ。
本番まで、二週間。二学期最初の週末が関東大会の日。
故に、コーラス部の二学期の活動も、少し早く、夏休みの後半から始まった。
練習内容は勿論、課題曲と自由曲の練習。
県の合唱コンクールと同じように、課題曲の伴奏は風歌、そして、自由曲の伴奏は僕だった。
「少し短かったと思いますが、楽しい夏休みを思う存分過ごしたと思います。ここから、関東大会に向けて頑張っていきましょう!!」
「「「はい!!」」」
心音の言葉に、部員たちが勢いよく返事をして。
「「「よろしくお願いします!!」」」
そう挨拶をして、練習が始まった。
まずは自由曲から。
「自由曲からお願い、橋本君、ピアノ行けそうだし、メリハリも十分あるから、強弱表現とか、みんな、休み前にやったことを思い出すと思うから。」
心音の言葉に、僕は頷く。
僕は、心音の指示通り、メリハリをかなりつける感じで、伴奏をしていった。
心音は目の色をキラキラさせながら、指揮を振っていく。
その心音の瞳の色をどこか懐かしそうに見る僕がいた。
何だろう。確かに、技術的にはまだまだかもしれないが、ひょっとすると、全国コンクールの出場もあるかもしれないと期待してしまう。
おそらく心音も一緒なのだろうか。
案の定、今日は休み明けということもあり、僕のピアノ伴奏を聞きながら、以前指摘があったところを、もう一度修正していく時だった。
さすがに以前言われていたところ、修正能力も高く、反応がいい印象のコーラス部員たち。
僕も、それに負けじと、伴奏をしていく。
「うんうん。とても、良い感じ、休み前の復習もばっちりだね。」
心音はそう言いながら、皆のハーモニーを聞いていく。
「は、橋本君も、良い感じだよ。良い感じに、伴奏、盛り上がってくれてる。」
一緒にサポートしてくれている、風歌。
「さあ、次は課題曲だね。」
心音の言葉に、部員たちは少し休憩して、課題曲の準備をする。
「風歌は本番緊張しないで、走らないようにするのが課題だね。私の指揮、しっかり見てね。」
「う、うん。心音ちゃん。」
心音の言葉に風歌が頷く。
頷く風歌を見て、心音は少し笑う。
―まあ、気持ちはわかるけれど・・・・・。ここは指揮をしっかり見てね。大丈夫だから。―
心音はそんな顔して、風歌を見つめる。
風歌はまるで何かを察するように顔を赤くする。
風歌の伴奏は落ち着いて入ることができていた。
こうして、夏休みの後半、最初の練習は無事に終わった。
「しっかり復讐が出来たと思います。これからはさらにレベルの高い、関東のコンクールです。今まで以上に気を引き締めて、レベルを上げていきましょう!!」
心音の締めの一言。
「「「はい!!」」」
部員たちの勢いのある返事だった。
そうして、夏休みの後半、毎日のように僕たちは関東コンクールに向けた課題曲、自由曲を練習していった。
一歩、一歩と確実にレベルが上がっている気がした。
そして、再開したコーラス部の練習を無我夢中で継続しているうち、あっという間に八月下旬の二週間が過ぎ、花園学園での一年次の夏休みが終わっていった。
本当に密度の濃い、夏休みだった。
コーラス部の練習は勿論、バレエ教室の合宿、夏祭り、海でのイベント。一年前には考えられない、今までで、いちばんいい夏休みを過ごし、充実感が湧いてきたのだった。
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