74.水族館にて
僕たちは朝食を済ませて、部屋の片づけを済ませ、茂木の別荘を出た。
「ヨシッ。朝食を作ってくれたおかげで、私もすっきりしたぞ。そういうわけで近くの水族館に出かけようか。」
原田の一声で、僕たちは外に出て、水族館へと向かう。
といっても、念には念を入れて、夕べ酒を大量に飲んでいた原田先生と吉岡先生は車の運転はせずに、電車とバスで出かけることになった。
「ここら辺は実を言うと公共の交通機関の利便性もそんなに悪くないんだよ。」
そう言って、原田先生は近くの駅まで僕たちを案内してくれる。
駅に張り出されている時刻表には、確かに二時間に一本とかの設定ではなく、三十分に一本の割合で電車が来る設定になっていた。
「まあ、かなり人も居るし、一応、東京へのアクセスもいいからな。」
そうして、僕たちは電車に乗り、一駅先で降りて、その電車と見事に接続していたバスに乗って、水族館へと降り立った。
「ヨシッ。水族館に到着だ!!好きなものを見ていくぞ~。といっても、全員一緒に回ると、大人数になるので・・・。」
原田先生はニヤニヤしながら、昨夜と同様、白いビニール袋を取り出した。
突然目の色が変わる女の子たち。
「さあ、少年よ。クジを引け!!」
原田先生の、名言をもじった、躍動感あふれる一言に僕は自動的にそのビニール袋の前に進み出た。
「番号は見るなよ。」
原田先生はニコニコしながら、僕が紙を取り出したのを確認していった。
他の皆も、クジを引いた。
そして。
「さあ、少年、数字を言ってみな。」
原田先生の声に僕は応える。
「一番。」
僕はコールする。
「やったぁ、やったぁぁ。」
こちらに甲高い声を飛ばし、ピースサインをする葉月。
「よろしくね。輝君。」
葉月はウキウキした表情で、こちらに近づき僕の手をつなぐ。
一瞬、ドキッとする僕がいたが。
「う、うん。」
「そう、そんな感じで楽しまなきゃ。この場所はそう言うところだよ~♪」
葉月はそう言って笑う。
そうして、僕たち一行は水族館の中に入り。
「それじゃ、皆、お先に~♪」
葉月は一瞬、みんなの前で勝ち誇った表情をして、僕の手を取り。
「輝君、こっちだよ~♪」
葉月、僕の手を掴んで水族館の館内の奥へ進む。
「おお、楽しんでな、そして、一時間後にはイルカのショーがあるからな。」
原田先生はそう言って、葉月と僕を見送る。
「はーい♪」
葉月は元気よく手を挙げ、僕は原田先生に頭を下げて、一緒に館内の奥に進んでいく。
館内はとてもひんやりしている。
最初の展示フロアはこの近辺の海の展示だ。
フロアの中央には子供たちが集まっている。
「触って楽しめるコーナーみたいだね。」
葉月はそう言って、子供たちの合間を縫うように触って楽しめるコーナーへ進む。
当然、僕もついて行く。
ヒトデ、ウニ、小さな生き物の展示が行われている。
「どうぞ、好きなものに触れてみてください。」
展示の係の人が僕たちに向かって言う。
「きゃあ!!」
早速、ヒトデに触れる葉月。
「ほら、輝君も。」
僕もヒトデに触れてみる。
ヒトデの感触もそうだが、水が冷たい。
「どうですか?他に興味はありますか?」
係員の人が聞いてきて。
「う、ウニも触れるんですか?棘がある印象ですが。」
僕は応える。
「ええ。勿論、こう、ウニの下側からすくうように触ってください。」
係員が見本を見せる。
僕も同じようにやってみる。
「どうですか?実はウニの下側には棘が無いのです。」
ウニの下側に触れたと同時に係の人が種明かしをするかのように言った。
「ほ、本当だ。」
僕は頷く。
「本当、不思議だね。」
葉月も驚く。
僕たちはウニを水槽の元居た位置にもどして、係員に頭を下げて、次の展示へ。
『ここよりも暖かい海』
と書かれた展示室。
「うぁ~。きれ~。」
色とりどりの熱帯魚が縦横無尽に僕と葉月の視野に入ってきた。
珊瑚をいくつか入れた水槽の中には色とりどりの熱帯魚がたくさんいた。
葉月はそれに見とれている。
大きな、大きなアクアリウムというべきなのだろう。
葉月と僕はゆっくりとこの展示場を進んでいく。
さらに進むと、とてつもなく大きな水槽にたどり着く。
「うぁ~、大きいね。」
葉月は目の色を丸くして言った。
ジンベイザメに、マンタ、さらにはそれを囲うように熱帯魚やいろいろな魚たちが泳いでる。
ジンベイザメの大きさに目が行くが。
僕たちは小さな魚たちに目が行っていた。
小さな魚たちの群れ。その集団で泳ぐ美しさ。
大きな魚が近づいては群れが離れて、そしてまた何事もなかったかのように集まる。
それを繰り返す。
「すご~い。」
「うん。本当にすごい。」
葉月と僕は終始その大きな水槽の、小さな魚たちの群れを見ていた。
「一緒に、泳いでみたいね。」
葉月の言葉に僕はドキッとする。
「はい。一緒に、どこか、南の島とかに行けたら・・・。」
僕は頷く。
「うん。そうだね。その時は絶対。ふ、二人だけでだよ。」
葉月は笑いながら言った。そして、半分緊張しているかの表情も見せていた。
「はい。」
僕は首を縦に振ることしかできなかった。
大きな水槽をゆっくり回り、次の展示室は。
『ここよりも寒い海』
と題する展示室で。
「か、かわいい~。」
今度は葉月は顔を赤くして、心から喜んでいる。
ホッキョクグマ、ペンギン、そして、アザラシと。
とても可愛らしい生き物たちが各々の水槽で過ごしていた。
さすがに夏は暑いのだろうか。
ホッキョクグマは寝込んでいる。
ペンギンも泳いでいて、ここの暮らしに満足しているようだ。
「みんな可愛いね。」
葉月はそう言って、寝ている姿の寒いところに暮らす生き物たちを延々と見ていた。
僕はその葉月を愛おしく思った。
この水族館の館内を元気で明るい葉月とともに、回れたせいかとても楽しくなる。
そして、原田先生に言われた通り、イルカショーの時間となったので、会場に移動する。
僕と葉月は見通しがいいところに座る。
「すごく楽しみだね。」
葉月が楽しそうな表情を浮かべる。
それに呼応するかのように、僕も顔の表情が緩む。
「ふふふ、輝君も楽しそう。」
葉月が笑っているが。
「あっ、は、橋本君に、は、葉月ちゃん。」
「おー、二人とも楽しんでる~?」
風歌と心音がやって来た。
どうやら原田先生のくじ引きの結果、二人がペアだったらしい。
「ほら、ほら、風歌。折角二人を見つけたんだからさ~。」
心音が内緒話をしている。
「は、葉月ちゃん、は、橋本君。隣、いい?」
風歌が緊張しながら僕に尋ねてくる。
「ええ、勿論、別にいいですよ。」
僕は心音と風歌に言った。
葉月は少し戸惑ったが。
「ふふふ。まあ、風歌ならいっか。」
少し余裕の表情を浮かべる。
そうして、葉月と僕、そして、心音と風歌と一緒にイルカのショーを見た。
最初は白イルカたちがクルクルと回って僕たちを歓迎してくれる。
「かわいい♪」
拍手をして心から楽しむ葉月。
「う、うん。か、可愛い。」
さらに真っ赤になっている風歌。
心音はそれを見て楽しそうに笑っている。
僕も白イルカのクルクル回るところに、ドキドキしながら見ている。
とてもかわいい動物だ。
そして、メインイベントが始まる。
イルカたちがジャンプして飛び回る。
輪っかを持ったアシスタントがいて、その輪をイルカがくぐったり、ボールを高く上げて得意げにジャンプを披露する。
そして。
イルカは今日いちばんの大ジャンプを決めた。
「きゃあ!!」
一番の大声は風歌だった。風歌の手が、思わず僕の膝に触れる。
「ご、ご、ごめん。」
風歌は顔を少し赤く染める。
「だ、大丈夫。僕もびっくりしたから。」
僕はそう言って笑う。
イルカの水しぶきをもろに食らった僕たち。
服が少し雫でぬれている。
「これくらいだったら、そのうち乾くよ。」
心音がそう言って笑っている。葉月も親指を立ててうなずき、ピースサインを送る。
こうして、イルカのショーは終了し、僕たちもお土産ショップに移動する。
伯父と伯母に少しばかりのお土産を買った。
「まあ、そうだよね。いつもお世話になっているよね。」
葉月は笑いながら言っていた。
お土産ショップで再び風歌と巡り会うが、風歌はぼーっと突っ立って、顔を赤くしていた。
風歌の視線の先にはイルカのぬいぐるみ。
葉月も思わず立ち止まる。
「「か、かわいい。」」
葉月、風歌は声をそろえて言う。
何だろうか、僕もぬいぐるみの可愛さに目が行く。
自分への記念として、三人でイルカのぬいぐるみを一つずつ購入して、水族館の館内を出た。
「もーっ、どこに居たのよ。風歌。」
館内を出る途中で心音に見つかる。
どうやらお土産屋さんではぐれてしまったようだ。
「ご、ごめん、これ、可愛くてつい。は、橋本君と葉月ちゃんも一緒のを買った。」
風歌は心音にぬいぐるみを見せる。
「へえ、可愛い。良かったじゃない。」
心音も少し嬉しそうだった。
こうして、水族館での一日を過ごして、原田達と合流した。
各々、いろいろなお土産が入った袋を下げているのが見えた。
そして、各々海の生き物たちが可愛かったのか、イルカやカメ、アザラシのぬいぐるみを記念として買っていた。
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