71.夜の砂浜
「おーっ、やっぱり先についてたね。」
「でも、結花のトンネルでの叫び声、すっごく、こっちまで聞こえてたよ。私もびっくりしちゃった。」
すぐ後に出発したマユと葉月のペアがゴールにたどり着き、僕たちと合流する。
笑いながら、結花を見る二人。
「も、もう、からかわないでくださいよ!!」
結花は顔を赤らめたように言った。
「でも、可愛い後輩でよかった。意外な一面が知れた。」
葉月はとても笑っていた。
そうして、あとから来たペアにも結花がトンネル内で、大声で叫んだことが話題になっていた。
「ふふふ、それで、お化けたちは皆逃げて行ったのかもしれないわね。」
史奈が笑いながら言うと。
再び結花に寒気が走り。
「ちょ、ちょっとからかわないでくださいよ。」
「ふふふ。冗談よ。結花ちゃんのかわいい一面が知れてよかったわ。普段はちょっと、ツンツン、キャピキャピしている感じだったから。」
史奈が笑っていた。
そうして、話していると、全てのペアが合流し。
「ヨシッ。全員たどり着いたみたいだな。」
一番最後に来た原田先生と吉岡先生のペアが来た。
二人は、今回は強制的にペアだったらしい。
「まあ、一番最後から、はぐれたメンバーを探すというのも担っているよ。みんなここは初めてだし。」
原田先生はそう言って、笑いながら言っていたが、実際には全員無事に到着していたようで、安心しきっていた顔だった。
「さあ、さあ、まだまだ、お楽しみは続くよ。だから僕たち、皆がナイトプールに入っている間、実はお酒を少し休んでいたんだよね。だから、肝試しもそうだし、こちらも・・・・・。」
吉岡先生はそう言って、バケツを置く。
原田先生もニコニコしながら、大きなビニール袋を持ってきた。
その中には花火が大量に入っていた。
花火といっても、何尺玉とか言う打ち上げ花火ではなくて、線香花火がいくつも入っている、おもちゃの花火セットだ。
「わーい。」
「やったぁぁぁ!!」
一緒にいるメンバーから叫ぶ声。
「ふふふ、いつもより多く買っていますね。」
「そうね。先生もとてもうれしそう。」
ここに毎年来ている藤代さんと加奈子は、例年よりも多い花火の数を見た。
吉岡先生が持ってきたろうそくに火をつける。
「さあ、好きなのを取ってくれ、ジャンジャン、色とりどりの砂浜に仕上げようじゃないか!!」
原田先生は笑って、ピースサインを送る。
僕たちは花火を一つ一つ取っていった。
花火に火をつける僕。
緑色の閃光が一気に砂浜に向かって舞い落ちる。
「うわぁ!!」
とても綺麗に彩る夜の砂浜。
緑から、赤に色が変わる。
「きれぇ~。」
「本当、素敵。」
葉月と加奈子が思わず、息を飲む。
「それじゃあ私も。」
葉月が花火を持ち、火をつける。それと同じように動作をする加奈子。
二人の花火はすぐに着火し。
色とりどりの色が二人の手元の花火から流れ落ちる。
「わー。」
ドキドキな視線を送る加奈子。
「やっぱり楽し~。」
葉月はワクワクしながら、こちらを見ている。
「見て見て、ハッシー。」
「おーい、ひかるん。」
結花とマユは花火を振り回しながらありとあらゆる方向に、色とりどりの花火を傾けている。
それを目にして、夢中で手を振る僕。
「おーっ、わかってるじゃん!!」
結花とマユはそれに反応するかのようにさらに花火を取り出しては、火をつけて、持っている腕を振り回した。
とても楽しそう。
さて、ところ変わって、藤代さん、風歌、早織のおとなしいメンバーは、談笑しながら、一本の線香花火を見つめている。その輪には風歌と一緒に心音もいる。
僕も、その輪に途中からではあるが、入れてもらうことができた。
「こうしてみると切ないですね。火が消えるまでの時間が。」
藤代さんはどこか儚げに話す。
「そうだね。でも、一瞬が美しいのよね。」
心音は藤代さんの言葉に、さらに付け足す。
「はい、とても美しいです。」
藤代さんは、頷く。
「ま、まるで、橋本君のピアノの演奏や、み、みんなの、バレエみたい。一瞬の時間の発表会。」
風歌は緊張しているが、まるで的を射たようなことを言った。
「そうだね。一瞬の演奏が、記憶に残るもんね。」
心音は風歌の肩をポンポンと叩きながら、笑う。
「あっ、さ、早織ちゃんの料理も、同じ。見た目は豪華でも、食べ終えちゃうと・・・・。」
風歌はさらに続ける。そうだ。風歌は、夏祭りに重箱の料理を食べて、早織が定食屋の娘ということを思い出して言った。
「あ、ありがとうございます。でも、味も、見た目も皆さんの心に残るなら、頑張っちゃいます。」
早織は笑う。
「美しいですね。一瞬が。」
藤代さんはニコニコと微笑む。
火が消えては、また別の線香花火をつける。
変わりばんこに、変わりばんこに、線香花火を持っている人を変えながら、最後の火が落ちるその時まで、僕たちは花火を見つめていた。
やがて、その線香花火の本数が余るようになった。
おそらく、ゆっくり、ゆっくり、一本一本丁寧に、残していったのだろう。
メンバー全員が、線香花火の周りに集まり、最後の火が落ちる、その時まで、線香花火のわずかな灯りの美しさを楽しんでいた。
それは、とても、儚く、だからこそ美しい、そんな瞬間だった。
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