70.別荘の夜イベント
食事とナイトプールを楽しんだ僕たち。
プールから上がり、水着から普通の服に着替えて、居間に集合する。
食材はまだまだ余っているが、一旦食休みと次のイベントをすることに。
「それじゃあ、夜の、メインイベントをしますかね。」
原田先生はそう言いながら、僕たちを外に連れ出す。
すでに、お酒の缶を何本も飲んでいるので、少しぼーっとしながらのイベント開始の第一声である。
しかし。
「折角だから、楽しまないとね~♪」
原田先生はそう言いながらニコニコ笑う。
「ここまで楽しんでいる先生は久しぶり。」
加奈子は僕に耳打ちをする。
おそらく、ここに来ている人数が例年より多いからなのだろう。
僕たちは原田先生のいう通り、別荘の外にでた。
「それじゃ、毎年恒例、肝試し大会、やりますっ。」
原田先生は酔った勢いのまま司会進行を進める。
「いつもは、私とヨッシー、加奈子ちゃんと雅ちゃんペアでやっているのだけど。今年は人数が多いし、かつ、いつものように加奈子ちゃん雅ちゃんでペアくむと・・・。」
加奈子の表情が少し不満げになる。
そして、他のメンバーも不満気になる、先ほどのビーチバレーの時と同様の表情。
それを確認する原田先生。
「いろいろと、問題が起こりそうなので。先ほどのバレーボールと同様にここでもクジでペアを決めるぞ!!」
原田先生は再び、クジの入ったビニール袋を取り出した。
「今度は少年、お前は最後に引いてもらって、良いか?」
「はい、大丈夫です。」
原田先生の言葉に反応する僕。
「ヨシッ、それじゃあ、じゃんけんなりして、残るメンバーのクジの順番を決めてくれ!!」
原田はそう言うと、再びジャンケンが盛り上がる。
「「「「最初はグー、ジャンケンポン」」」」
何だろうか、これから、肝試し大会というのに、あまりにも、その声でお化けが逃げるような声だった。
クジを順番に引いていき、最後に自分の番が回ってきた。
当然、残り一枚。
その一枚を僕は引く。
「さあ、少年、数字を言ってくれ!!」
原田先生の指示で、僕は紙にかかれている数字を言う。
「二番。」
僕は数字を言った。
「ヨッシャ―!!」
高らかに叫んだのは結花だった。
「ふふふ、ここは結花ちゃんに譲ってあげましょう。行きの車と言い、バレーボールのペアと言い。」
史奈が頷く。
他のメンバーも同じように頷いた。
「やったわね。結花、楽しんでいってらっしゃい、お天道様は見ていたのよ。」
心音がポンポンと叩き、嬉しそうにしている結花を落ち着かせる。
心音と結花は同じ中学校の先輩後輩の間柄。
「いい?ここで、嬉しさのあまり空回りすると、橋本君に嫌な印象を与えちゃうかもだからね。落ち着いてね。」
心音はさらに結花の耳元で囁く。
その言葉に深呼吸する結花。
「それじゃあ、少年と結花のペアからスタートだな。」
原田先生はスマホを取り出して。僕たちに地図を見せる。
「いいか、この道をまっすぐ行くとトンネルがある。まずは、このトンネルを抜ける。トンネルを抜けたすぐの道を右に、海沿いの方に曲がる。後はランニングとサイクリングのコースになっているから、一本道だ。岬をぐるっと回っていくと再びここにたどり着くことができるが、その手前の砂浜がゴールだ。
この砂浜は、昼間、皆で海水浴をした場所だ。場所は分ると思う。
そして、右に曲がるタイミングも、サイクリング、ランニングコース入り口という看板があるから、わかると思うので、参考にしてくれ。」
原田先生が、肝試しコースを説明する。
僕も一緒にスマホを取り出し、地図アプリで、コースを確認する。
僕は原田先生に向かって頷く。
「ヨシッ。それじゃ、行ってこい。」
そう言って、僕と結花を送り出す原田先生。
「ふふふ、結花、しっかりね。橋本君の言うことをよく聞いて。」
心音がそう言って、送り出す。
僕と結花は一歩一歩、歩き始めた。
夜の暗闇に視界が遮られ、皆の姿が見えなくなる。
「改めて、よろしく、結花。」
僕は結花に言うが。
「う、うん、よ、よろしく、は、ハッシー。」
結花が少し震える。
「お、思ったより暗いとこじゃない?ここ。」
結花が僕に言う。声が少し震える。
「そう・・・。かな?ここまでは、伯父さんの家の周りと似ているけど。」
僕が今居候している伯父の家、伯父の家も大農家で、周りは畑と山ばかりの場所で、こういう景色が広がる、すなわち夜も周辺の明かりは、伯父の家くらいになる。
以前、原田先生が僕を伯父の家まで送り届けたとき、とても暗かったような話をしていたよな。
「そ、そうだよね。あの家の周りも、そうだよねー。」
結花は僕が伯父の家の周りと一緒という言葉を発した途端、手をぎゅっと握る。
「あ、あたしも、その家に行ったことあるし、ここなんて、へっちゃら、へっちゃら。」
明らかに強がる結花。
ひょっとして、お化けが怖い・・・・・・。
いう質問はしないようにした。
どういうリアクションをするか想像できたし、おそらく結花のプライドがそれを許さない。
クラスの一軍女子、そして、キラキラのヤンキー系女子として。
ここは手を繋いで、黙って歩こう。
「は、ハッシーの手、温かくてよかった。」
結花は安心する。
僕は頷く。
「それは、何より。さあ、進もうか。」
正直に言うと、僕も少し緊張して、お化けが怖い。
小さいときは、祖父母も生きていたため、よく伯父の家に遊びに行った。その時、よく、伯父がノリノリで、怖い話をした。
しかも、伯父の家周辺の、近くの祠だったり、畑だったり、裏山だったりを題材にした。
そのせいで、伯父の家に泊りに行ったとき、夜はトイレに行けなかったことを覚えている。
今は、慣れてしまったし、だんだんと伯父の家に住んでいるうちに、暗いのも慣れていた。
だがしかし、ここは明らかに知らない土地。何だろうか。当時の思い出がよみがえる。
懐中電灯を照らしつつ、スマホを見つつ、地図があっているか確認する。
僕と結花のためにも、速く終わらせなければならない。迅速かつ正確に。
だが、僕と結花は同時に立ちすくんでしまった。
目の前に巨大なトンネルが現れる。
最初にして、最大の難関。
「は、ハッシー、と、トンネルだね。」
「あっ、うん。トンネルだ。」
おそらくこれが原田から指示されたトンネルだろう。
だが、このトンネルは、明らかに薄暗い。
幸いにも明かりがあるが・・・。
かなりの長めの感覚で明かりが設置されており、暗い所がはっきり見える。
「いい、そーっと、そーっと、入るわよ。」
「うん、そーっと、そーっとね。」
明らかに歩く姿がゆっくりになり、僕と結花はトンネルに入った。
最初は明かりがついているから安心するが。
一気に明かりが遠のき、暗い場所に差し掛かる。
「ま、まっくら、何も見えない、ハッシー、居るよね?」
「う、うん。い、いる。」
僕は思わず結花の手を掴む。
ものすごい勢いでその手を握り返す結花。
ピタ、ピタ、と音がする。
水の水滴だろう。
だが、その水の水滴が不幸にも結花の額に落ちる。
「ぎゃぁぁぁぁー!!」
結花の叫び声。
さらに、その叫び声が、トンネルの奥にこだまして、声が跳ね返ってくる。
僕たちは思わず、お互いを抱きしめた。
「は、はあ、はあ、はあ、はあ。」
「は、はあ、はあ。」
お互い、呼吸を整える。
「はあ、びっくりした、水滴か。」
「それは、こっちのセリフだよ、結花。そうだね、水滴が落ちたんだね。」
僕たちはお互い顔を見つめる。
「は、ハハハッ、ご、ごめんねハッシー。」
「う、うん、僕の方こそ。ごめん。」
「本当は・・・・・。」
「ホントは・・・・・・。」
「「とても怖くて、こういうの苦手なんだ。」」
お互いに、打ち明ける僕と結花。
なーんだ、そうなんだ。
そこからはお互い笑い合いながら、トンネルを抜けて、指示された道を右に曲がり、サイクリングロードに入った。
僕は、結花に小さかった頃の記憶を話した。それで、この場所で、当時のことも思い出したことを。
「ああ。あのおじさん、ノリがいいもんね。そういう話、好きそうだし、子供にしてそう。」
そう言って、無邪気に笑う結花がそこには居た。
懐中電灯の先に、明らかに、先ほどまでみんなで遊んでいた、海の砂浜が見えた。
そのころには、僕も結花も笑っていた。
「ゴール!!」
「やった、ゴールだ!!」
僕たちはお互いに抱き合った。
「夜の潮風が気持ちい。」
結花が素直な感想を言う。
「そうだね、そして、やっぱり。」
僕は結花に上の方を指さす。
空を見上げる結花。
都会では見られない、満点の星がそこにはあった。
「きれー。」
「うん。」
僕と結花は、夜の潮風に当たりながら、そして、ゴールした喜びを満天の星空に祝福されながら、他のペアの到着を待つことにした。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
少しでも続きが気になりましたら、下の☆マークから高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。




