7.生徒会
「橋本輝君だよね。この後、少し時間、あるかな?」
凛とした表情の女子生徒は僕に向かって、こう声をかけたのだった。
「は、はいっ!!」
思わず裏返ってしまう。
そうして、急に席を立ちあがる。
「あっ、慌てなくていいよ、場所を移動したいので、荷物を持って、一緒に行こう。待ってるから。」
そんな声に、頷く僕だが、少し急ぎ目に帰り支度を終えて、荷物を持って、女子生徒に連れられて教室を出た。
「こっちだよ。」
ニコニコと手招きされる僕。
その彼女に僕はついていく。
一年生の教室のエリアを抜け、階段を下り、体育館棟の方へ向かう。
連れて来られたのは、体育館棟のすぐ脇にある建物。そこにはいろいろな部活の部室があった。
その、いろいろな部室が連なる廊下にある、一つの部屋の扉を、彼女はノックする。
「失礼します!!」
と元気よく挨拶をして、僕に入るように促す。
何かの、部活なのだろうか。
「し、失礼します。」
と僕も緊張しながら、頭を下げる。
部室と呼ばれる部屋の中には他に二人の女子生徒がすでに待機していた。
連れてきた女子生徒を含めると、この部屋の中には自分も入れて四人。
そして、先ほど、連れて来てくれた、ボブヘアの女子生徒を含め、三人とも皆かわいい美少女だった。
「こんにちは。あなたが、橋本輝君ね。」
いちばん身長の低い女性が挨拶をする。その声は品のある声だった。
そして、ものすごく笑顔で、優しそうな顔で。
背は低いが、大人っぽい顔立ちで、黒髪のロングヘアを、丁寧にヘアアイロンを施して、ストレートヘアにして、さらにそれを大人っぽく結んでいる。
いかにも、大人のお姉さん、という感じの顔立ちと、ヘアスタイルから、実際に、“身長の低さ”は感じられない雰囲気の人だ。
「花園学園生徒会長の、三年E組、【瀬戸史奈】です。よろしくお願いします。そして。」
「生徒会役員で、二年C組の、【花園葉月】です。改めて、橋本輝君。お姉ちゃんを助けてくれて本当にありがとう!!」
僕をここまで案内してきた、ボブヘア彼女は改めて自己紹介をする。
こちらは、当たり前であるが、元気な声だった。
だが、彼女のお姉ちゃんという言葉が気になった。
お姉ちゃん・・・・・・。お姉ちゃんというと。
「この子は理事長の娘さん。そして、あなたが助けた妊婦さんの妹さんです。」
瀬戸会長が補足する。
僕は納得。して。ああという表情になる。
「よろしくお願いします。赤ちゃんも、お姉さんも元気そうでよかったです。理事長から近況をうかがっております」
僕は。頭を下げる。
「へへへッ。そんなにかしこまらなくていいよ。命の恩人だもん。」
葉月は照れたように笑う。
そして、この教室に居るメンバーの最後の一人が瀬戸会長と、葉月先輩に促され挨拶をする。
「生徒会役員で二年C組の【井野加奈子】です。優しそうな人で安心しました。」
彼女が笑う。一番まじめな声のトーンで自己紹介をした。まさに、クールで真面目な子だった。
加奈子先輩も凛とした顔立ち。肩までかかる、ロングヘアではあるが、瀬戸会長のようにストレートでまとめているわけではなく、髪の毛を縛っている跡が、くっきりと残されている感じだ。
普段は、髪の毛をきつく縛っているときがあるのだろうか。
体型もこの三人の中でいちばんシュッとしていて、胸のふくらみも小さめだ。
というより、胸のふくらみに関して言えば、瀬戸会長と葉月先輩は、女子高校生の、いや、成人女性の平均を明らかに超えている感じがする。
「あ、あのっ、一年B組の橋本輝です。よろしくお願いします。」
僕は三人に頭を下げる。
「ふふふっ、橋本君。よろしくね!!そして、ようこそ!!花園学園生徒会へ。もうお気づきかもしれないですが、ここは生徒会室です。」
瀬戸会長はニッコリ笑顔で、こちらに微笑む。
「生徒会。ここが。ですか・・・・。」
生徒会長、そして、生徒会役員を名乗ったので、ここの部室は、どのような部室か想像はしていた。想像しては居たのだが、改めて、瀬戸会長から聞くと、僕は緊張して、背筋が引き締まった。
「うん。正真正銘の生徒会だよ~。」
葉月先輩が元気に、ウィンクして、こちらに声をかける。
「そして、今年から共学ということで、是非、男の子に生徒会に参加して欲しい、という思いがありました。誰か参加してくれる、参加して欲しい男の子はいるかなと思っていたところ、パパから話があってね。」
葉月先輩の表情がニッコリ笑顔になる。
彼女はそのまま瀬戸会長に視線を傾ける。
「橋本輝君。是非、あなたに生徒会役員に入って欲しいです!!理事長と私たちの推薦で、あなたに生徒会役員をやっていただきたいのですが、引き受けてくださいますか?」
瀬戸会長が頭を下げる。
「そ、そんな、僕は部活とか決めてないし、他にも何があるかわからない状況なので・・・・・。」
僕は正直に言った。
確かに、部活動紹介終了後、いきなり連れて来られて、いきなり入って欲しいと言われても。
本当に、これでいいのか迷っているのが、現状だった。
「もちろん、他にやりたいことがあっても構いませんよ。私も生徒会以外に部活に入っていますし、この学校の生徒には、助っ人で五つくらいの部活を掛け持ちしている人も居ます。どうでしょう。橋本君さえよければ生徒会に入ってくださいますか?」
瀬戸会長はそれをお見通しなのか、ニコニコと笑っている。
そして、瀬戸会長と葉月先輩が、他にも魅力的に生徒会について、話してくれた。
何だろうか、不思議な気持ちになる。
大丈夫だと。
だが、そう思っても、一つ大きな問題があった。そう、ここは生徒会。選挙とかが必要なのでは。
「でも、選挙とかあるのでは?」
僕は、恐る恐る、聞いてみた。
「それは生徒会長のみ。生徒会長だけは厳格な選挙戦があるのだけれど、会長に当選してしまえば、本部役員とかは会長が直々に指名できる制度です。だから、選挙に関しては、心配しなくていいよ。生徒会をやってみたくて、入りたいと思ってやっている人と、選挙で選ばれた人が同時に居ることによって、いろいろな意見が通しやすくなるということかな。」
葉月先輩は僕を安心させるように、ニコニコ笑って、補足してくれた。
流石は、理事長の娘さん。学校の、こういった制度に関してはとても詳しいようだ。
「ただ、生徒会長になりたいと思ったら、厳しい選挙を勝ち抜かないといけないので、覚悟しておいてね。この一年間の頑張りで、橋本君も当選できるかもしれないですが・・・・・・。」
瀬戸会長が葉月先輩の言葉に補足する感じで言った。
今まで、葉月先輩と同じように笑顔で話してくれた瀬戸会長は、この言葉を言った瞬間だけ、表情は厳しくなる。
僕も、確かにそうだ、生徒会長になるには・・・・・・。と、心の中で、肝に銘じ、瀬戸会長に深く頷いた。
だが、瀬戸会長が、厳しい表情をしたのはこの時だけだった。
僕が深く頷いた瞬間を確認すると、瀬戸会長の表情は一気に緩み。
「なーんてね。でも、一年後、現時点では、橋本君になってくれたらいいな、って、実は思っているのよ~。」
「そう!!私もちゃっかり、そう思ってる。」
瀬戸会長の言葉、葉月先輩も同情するかのように続けてた。
お世辞でもとても嬉しかったが。
葉月先輩は僕に一気に近づく。
「お姉ちゃんを助けてくれた、君のこと、会長も私も、すっごく評価してます。」
僕の耳元で囁いた。
僕は何か、体のどこか一部が溶けそうな、そんな雰囲気だった。
「あらあら?葉月ちゃん、とても大胆ね。」
瀬戸会長が言うが。
「まあ、いいわ。入学前に、直接的ではないにしろ、お世話になったのだから。今日は御咎めなしね。橋本君は男の子なのだから、すごく緊張しちゃっているわよ。」
ニコニコとこちらにウィンクして笑っていた。
「す、すみません、会長。」
葉月先輩の顔が赤くなる。その表情に、さらにドキッとする僕。
先ほどの葉月先輩の言葉に凄くドキドキしているが、和気あいあいとしている雰囲気だと感じ取れる。
本当に不思議と、僕の心は決まっていた。
僕は改めて、みんなの顔を見まわす。
瀬戸会長、葉月先輩、加奈子先輩の三人は頷いた。
「あの・・・。こんな僕でよければ、よろしくお願いします。」
僕は頭を下げた。
「「「やったー!!」」」
三人は僕を心から歓迎してくれた。
「と、言うわけで、今日は橋本君の歓迎を兼ねて、お茶会にしましょう!!」
瀬戸会長は僕を席に座らせ、紅茶と、クッキーでごちそうしてくれた。
紅茶の甘い香り、飲んでみるととても甘い。
クッキーもほんのりいい感じ。バターの風味だろうか。同時にトッピングしているイチゴジャムも味が効いている。
「どうかしら?お口に合えばいいのだけれど。」
瀬戸会長が僕の目を覗き込む。
「ちょっと会長、ずるいですよ。ここは私です!!」
「あらあら。そうだったわね。ごめんね。葉月ちゃん。」
葉月先輩が勢いよく、飛び出す。
顔の頬が少し膨らんでいて、むーぅっという表情だ。
「どう?輝君。美味しい?」
「とても美味しいです。」
僕は、本当に美味しかったので、勿論、素直な感想で言った。
「やったー!!ありがとう!!改めて、君にお礼もしたかったので、頑張っちゃいました!!」
葉月先輩は照れるように言う。
「ふふふ。このクッキーはみんな、葉月ちゃんの手作りなのよね。」
瀬戸会長は、ニヤニヤ笑いながら言う。
なるほど、だから、さっき、瀬戸会長が聞いてきたとき、葉月先輩は嫉妬していたのだ。
最初に、瀬戸会長にあんなふうに、覗き込まれると、このクッキーを作ったのは瀬戸会長だと思われてしまう。
「へへへっ。実はそうなんだ。」
葉月先輩が顎をあげ、ドヤ顔で、胸を張っている。
さらに、ニコニコと僕に向かって、ウィンクしている。
「はい。とても美味しいです。ありがとうございます!!すごいですね!!」
「でしょ、でしょ。料理、特にお菓子作りだけは、頑張って練習しました!!
「葉月のクッキーとても美味しい。」
隣で、加奈子先輩が言う。彼女は相変わらず、少し物静かで、クールで、真面目だった。
先ほどまで、口を開いて喋っていたのは、瀬戸会長と葉月先輩。
加奈子先輩の言葉を聞いたのが久しぶりな気がする。
「加奈子先輩は、こういった感じなのですか?」
久しぶりに加奈子先輩の言葉が聞けたので、僕は加奈子先輩に聞いてみる。
「そ、そうだね。輝が来たから、少し緊張しちゃって。ごめんね、輝。」
加奈子先輩は少し恥ずかしそうに言った。
「そうね、加奈子ちゃん、初めての人とか、こういう場面だと、こんな感じかな。」
瀬戸会長が加奈子先輩をフォローする。
「でもね、輝君。」
葉月先輩が僕に声をかける。
「実を言うと、加奈子を侮ってはいけないよー。次の会長候補は、理事長の娘である私よりも、加奈子と言われているんだ。私も選挙には立候補しないで、加奈子をサポートしようかなぁと思ってるんだ。」
「そうね。新入生代表で入学してきてから、全部テストは学年一位だしね。生徒会の仕事もしっかりやってくれているし。」
瀬戸会長も葉月先輩の言葉に続くように加奈子を持ち上げる。
「そ、そんな大したことないですよ。」
加奈子先輩は照れたように笑う。
学年トップはすごい!!
ものすごい優等生だ。
「すごい、それは、優秀ですね!!」
僕は驚く。なるほど、成績優秀な美少女生徒会長候補。というわけだ。
「そ、そんなことない。」
僕の言葉に、加奈子先輩が咄嗟に反応する、少し顔が赤くなるが、一瞬で戻る。
「勉強は・・・・。だれでも、出来ると思うし。私は、勉強が、好きだから・・・。」
それが、僕に見られて恥ずかしくなったのか、加奈子先輩はボソッ、ボソッと、緊張しながら言った。
しかし、そう言えてしまうことの方が凄い。
「そう言えちゃうのが普通にすごいのよね。」
瀬戸会長がにこにこと笑う。
「普段は、こんな感じだけれど、得意なこととかはものすごく、熱が入るんだよー。勉強とか色々ね。」
その言葉に対して、葉月先輩がさらにウィンクしながら付け加える。
加奈子先輩は顔を赤らめながらも、うん、うんと頷いていた。
しかし、僕の中では葉月先輩も、会長候補の中に入ってもいい感じがする。
少なくとも、この生徒会の中では、ものすごく、元気でムードメーカー的なポジションだろう。
「あの、葉月先輩は会長に立候補しないのですか。」
僕が聞いてみる。少し恐る恐るだったが。
「ハハハァッ。私はいいよ。確かに理事長の娘だけど・・・・・。それをあまりよく思っていない人も結構多いし。それに私自身は誰かをサポートしたり手伝いする仕事がしたいかな。パパも結構忙しいし。勉強だって、あんまり成績良くないし。」
なるほど、確かにそうかもしれない。
理事長の娘ということで、特別扱いされている可能性も無きにしもあらずだ。
この言葉を聞いて、実は少し安心する僕。前の学校は、安久尾が理事長にかなり優遇されていた。
それに葉月先輩の、誰かのサポートになりたいというのは間違っていないのかもしれない。彼女にとても向いているなと思った。
確かに、父親である、理事長の仕事はとても忙しい。そんな中で、こんな僕のような生徒も気にかけてくれるのだ、感謝しないといけない。
他にもそんな人を見てきたのだろう。葉月先輩のサポート、応援があれば、百人力出来そうだ。
「だけど、加奈子ちゃんが出るには発信力が課題よね~。」
「そうだよね。実績は確かにあるけれど、どこまで評価されているか。成績がずっと学年一位ということで、同学年ではそれで知名度はあるけれど、一年生と、三年生が問題だよね~。」
「成績に関して言えば、毎回十位までは張り出されているから。それを見ていれば・・・。私たち三年生は分るかもしれないけれど。」
瀬戸会長と葉月先輩が考え込むように言う。
加奈子先輩は無口でそのまま頷いている。
「ねえねえ、輝君はどう思う。」
葉月が言う。
「そうですね。自分の頑張ってきたこととかアピールすればいいのではないかと・・・・・。まずは、加奈子先輩は勿論、立候補した皆さんを知らないと、投票できないですし。」
「そうだよね。やっぱり一年生の投票集めが課題かな。」
葉月先輩はそう言って、次の生徒会長選挙の課題をあげて、少しため息をつく。
しかし、葉月先輩はすぐに横にいる僕を見る。
「ああ、ごめんね。輝君の歓迎会なのに、うちらの事情を話しちゃった。」
葉月先輩は慌てて、ハッとしたかのように、話題を変える。
「そうね。橋本君、ごめんなさい。」
瀬戸会長も頭を下げる。
「いえいえ。気にしないでください。この学校のこととか知れて嬉しいですし。」
僕はそう言った。
むしろ、そっちの方が気が楽だった。前の高校のこともあるし、あまり自分のことを聞かれるとぼろが出てくるかもしれないし。
そういえば、僕は年齢的に言えば、葉月先輩や加奈子先輩と同じなんだよな。と気づく。
だが、そこも黙っておきたかった。
どうやらここまでの話を聞いていると、理事長は、実の娘である葉月先輩にも、このことを話していないようだ。
つまり、花園学園に僕が来た経緯は、理事長と、僕だけの秘密だった。
「あら、そうなの。橋本君がそう言ってくれてよかったわ。」
瀬戸会長が安心したかのように微笑む。
「そういえば、パパから、こっちに引っ越してきたから、この高校を受験したって聞いたんだけど。前はどこに住んでいたの?」
同じような質問を結花から昼休みに聞かれたので、前住んでいたところを正直に答える。
「へえ、東京に近いんだね。いいなぁ。私も東京の大学行こうかなぁ。」
葉月は憧れるように言った。
「いいわね。しかも、海が近い。海に行きたいわね。」
「良いですね、海♪」
瀬戸会長の言葉に飛び切りの笑顔で頷く葉月先輩。
加奈子先輩も、言葉は出なかったが、大きく首を縦に振る。
「あら、橋本君、ごめんなさい。ここら辺は海から遠いから。憧れるのよね。」
確かに、北関東で山に近い場所。
瀬戸会長の言葉は僕でも憧れる。確かに、海は綺麗だ。
「そんな、でも、ベッドタウンで、何もないですよ。近くの海は、工業地帯でひしめき合ってますし、僕の町はショッピングモールがいくつかあるだけで。」
そのショッピングモールの大半が、安久尾建設が作ったものだった。
今でも、思い出す度に、何かが震える。前に住んでいた場所を思い出す度に。
「輝君?大丈夫?」
葉月先輩が気付く。
「いえいえ。大丈夫です。少し、めまいがしたと言いますか。」
僕は適当に嘘をつく。
ごめんなさい。葉月先輩。瀬戸会長。加奈子先輩。やっぱり話したくないのです・・・・・。
僕は心の中で、謝る。
「輝、急に顔色悪くなったよ。大丈夫なの?」
珍しく、加奈子先輩が発言をする。
「ありがとうございます。加奈子先輩。僕は大丈夫です。」
僕は頷いて深呼吸する。
「ごめんなさいね。気を悪くさせちゃったかしら。」
瀬戸会長が言った。
「いいえ。全然、大丈夫です。むしろ、皆さんがいい人なので、明日も生徒会の活動があれば行きたいと思っています。」
僕は腕を振って元気さをアピールした。
「本当?すごくうれしい。でも、疲れているなら無理はダメだよ。」
葉月先輩が喜んだが、すぐに、真剣な表情で、僕の目を覗き込んだ。
「そういえばもうこんな時間ね。今日はそういうことにしておいて、お開きにしましょう。明日から、生徒会の仕事を手伝ってもらえればいいからね。」
瀬戸会長はそう言って、片づけを始める。
「すみません。やります!!」
僕は慌てて、席を立ち、お皿を片付ける。
「大丈夫よ。そこに座って待っていて。すぐ終わるから、お家はどこ?心配なので途中まで一緒に帰りましょう。」
瀬戸会長はそう言って、葉月先輩と加奈子先輩を促し、お皿とティーカップを片付け始める。
申し訳なさそうに感じる僕だったが、こんなにいい人と出会ったのは初めてのような気がする。
やがて、片づけが終わると、帰り支度を始める。
そして、校門の前で、待ち合わせをする。
僕と加奈子は通学用の自転車を持ってくる。
葉月と、瀬戸会長は徒歩のようだった。
瀬戸会長に家の場所を聞かれ、伯父の家の場所を言い、方角を指さす。
「ちょうど加奈子ちゃんと一緒の方向ね。私たちも途中まで、一緒の方向だから、一緒に行くわね。」
瀬戸会長はそう言いながら、歩き始める。
帰り道は、花園学園のこと、特に授業の話や先生の話をしながら進む。優しい先生、厳しい先生などの話題だ。
やがて、学校からの道を、道沿いに歩くと、大きな交差点に差し掛かる。
交差点には、大きな百貨店と、家電量販店がそれぞれ道の両脇に立っている。
百貨店と、家電量販店を繋ぐオリジナルの歩道橋も完備されている。
ちなみに、家電量販店と百貨店は僕でも知っているお店だった。
家電量販店はこの店が本店で、建物の上の階に本社があるようだ。
百貨店は、大手私鉄の子会社の百貨店。
この雲雀川にも、この大手私鉄は乗り入れている。他にJRや新幹線、さらには最新型の路面電車と言われるライトレールもあるそうだ。
この町は、昔から、この北関東の交通の要所らしい。
ちなみに、交差点を右折すれば駅へ、左折すれば市役所へという交差点だ。
「じゃあ、私は電車だから。今日はありがとう。ゆっくり休んでね。」
瀬戸会長はそう言って手を振り、駅の方向へ向かう。
「じゃあ、私はこっち。輝君、本当にありがとう。そして、遅くまでごめんね。何かあったら、パパでも私にでも相談してね。」
葉月は交差点を左折し市役所方面へと歩き出す。
僕と加奈子は、交差点を直進し、自転車に乗って一気に歩みを進める。
一応ここは中核市の分類ではあるが、少し自転車をこげば、街並みが一気に変わる。先ほどの百貨店と家電量販店の駅周辺の交差点の賑わいはどこへやら。ほんの数分で、古くからの住宅地が並んでいた。
「輝、無理しないでね。自転車ゆっくり進めよう。」
加奈子は時折僕を気にしながら、後ろを振り返ってくれる。
やがて自転車は、【南大橋入り口】という名前の交差点に近づく。
正真正銘、この町を流れる、雲雀川にかかる橋だ。
この川沿いの土手で、葉月のお姉さんとも出会った。
「じゃあ、こっちなので、今日はありがとうございました。」
僕は加奈子先輩に頭を下げる。
「うん。気を付けて帰ってね。」
そういいながら、僕は交差点を曲がり、南大橋の方へと進む。
加奈子先輩は直進して、市内の住宅地方面へと自転車を進ませる。
南大橋を渡れば、一気に町の景色が変わり、田畑も目立つようになる。
その川を渡り、少し行くと林が多い地帯があり、その林の中に伯父の家があるわけだ。
ここまで、花園学園から大体三十分くらい。
本当にすぐに景色が変わって、この町の多様性が見られて少し楽しい。
生徒会か。
僕を歓迎してくれて本当に良かった。
いずれは、過去の出来事を話さないといけないときが来るかもしれない。しかし、それまでは、少し頑張ってみようと思った。