67.砂のお城は(美女たちの水着回、その3)
風歌の泳ぎの練習を終え、皆の所に戻る。
心音、風歌と会話しながら、結構その話を楽しみつつ、皆の所に戻る。
そして、皆のところに戻ると、素晴らしい作品ができていた。
美しい砂のお城だった。
「素晴らしいわね。誰かが住んでるみたい。」
史奈がそれを見る。
その言葉を聞いて、ニコニコ笑う二人。
早織と藤代さんの姿だった。
「「あ、ありがとうございます。」」
二人の声が揃う。
「ああ、八木原さん、ごめん、橋本君、取っちゃったね。」
心音がすまなそうに言う。
それを察した風歌がすまなそうに頭を下げる。
「ああ、別に、大丈夫です。藤代さんともおしゃべりできたし。それに、いいタイミングで輝君が戻って来たから、完成したお城をこうして見せることができたので。」
早織が丁寧に言った。
本当に、そのお城は、真面目で、丁寧に取り組む二人、早織と藤代さんの作品。
そう、僕は、その砂のお城に見とれていた。
まるで本当に、どこかヨーロッパにあるようなお城だった。屋根の形、壁の細部に至るまで、丁寧に作られていて、ところどころに、装飾が見られる。
「す、すごいよ。早織。こんなこともできたんだね。」
僕は早織の眼を見る。
「まあ、皆よりは泳げないから、一応。でも、ほとんど作ってくれたのは藤代さんなので・・・・・。」
早織はすこし照れたように言う。
「あ、あの・・・。その・・・。八木原さんがここまで手伝ってくださったから、綺麗にできたのです。見栄えに気を遣っていただいて。ここら辺の装飾とか。」
藤代さんは指さす。
うん。流石は、定食屋の娘である。お客様に出す料理と同じく、見栄えは少しでもいい方がいい。
砂ではあるが、その砂のお城の装飾はまるで、何か色でもついているよう艶やかなものであった。
「とても綺麗、すごいよ。早織、そして、藤代さん。」
僕は素直に二人に伝える。
「そ、そんなことないよ。藤代さんが本当に。」
早織は僕の眼を見て恥ずかしそうに言った。
「あ、あの、本当に八木原さんが・・・・。」
藤代さんもお互いに謙遜し合っている。
ここが本当に二人のいい所だ。
「住みたいわね。こういうところに。」
史奈が笑っている、そして、僕の方を見る。
「あっ、会長、ずるい。私も住む。」
葉月がそう言いながら、ニコニコ笑っている。
「ひ、輝、私も住んでいい?」
加奈子は僕の肩をポンポンと叩きながら、頷く。
「そ、そうですね。早織と、藤代さんに決めてもらおうかな、二人が良ければ・・・。」
僕は早織と、藤代さんの方を見る。
早織は一瞬ためらったが、藤代さんが。
「はい。皆さん構わないです。このお城、結構大きいので。」
藤代さんがそう言ったので、早織は少し安心した表情になる。そして。
「えっと、わ、私も、住みたい。その、輝君と。」
早織は顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言った。
「わーい。やったぁ、決定!!」
早織と藤代さんの言葉を聞いた、葉月が自信満々な顔でピースサインを送る。
「ふふふ。良かったわ。」
史奈も安心した表情を見せる。
その他の皆のリアクションも、ほぼ同じだ。
その時、原田先生から声がかかる。
「おーい。お前たち!!素晴らしい会話の中、申し訳ないが、小休止で、ゲーム大会するぞ!!」
原田先生が大声で叫び、手招きをしている。
先生のその手にはスイカが抱えられている。
原田先生と一緒に居た吉岡先生の手には棒と細長いタオル。
二人とも楽しそうな表情でこちらを見ている。
「楽しそうで何よりだぞ。少年。」
原田先生はそう笑いながら、僕に微笑みかけてくれる。
「さあ。海でのお楽しみ。一緒にやろう!!」
一緒にいた吉岡先生は笑いながら言っている。
原田先生は両手で抱えたスイカを、僕たちから少し離れた砂浜の上に置き、にやりと笑いながら手を振る。
「というわけで、最初は輝君から行こう。」
吉岡先生はそう言って、棒と目隠し用のタオルを両手に持ち、笑っている。そして、僕に原田の置いたスイカを指さす。
なるほど、スイカ割り大会だ。
「ヨッシャ―!!行くぞ、少年!!」
原田先生は、こちらに駆け寄りニコニコ笑いながら、吉岡先生からタオルを取り、僕に目隠しをする。
僕の視界が一瞬にして見えなくなる。
「「そーれっ。」」
原田先生と吉岡先生は勢いよく、僕の身体をぐるぐる回す。
何も見えず、目が回る僕。
「元気よくスイカ割と行くぞ!!」
そういって、僕の身体を回すのをやめる原田先生と吉岡先生。
まずい、本当に酔いそうだ。バレリーナは回転の動作も必要だ。故に、バレエをやったことの無い僕からすれば、かなり目が回っている。
そして、何も見えなくて、ドキドキする。
「輝君、頑張って、こっちこっち~。」
葉月の声がする。
葉月は頑張って手招きをしているようだ。
「ひかるん、こっちだよ。頑張れ!!」
連れてマユの声。
葉月とマユの声のする方に行く。
「あっ、輝、そっちじゃなくて、もっと右右。」
加奈子の声。
「いいよ、そのまま、そのまま。ほらほら、風歌も声かけなきゃ。」
心音の声。
それに呼応するかのように、風歌の声が聞こえる。
恥ずかしがっているのだろうか、他の声にかき消される。
「いいよ、いいよ。いけぇ~!!」
僕はいくつかの声に反応して、棒を振ったが、見事に空を切った。
「ハハハ、ドンマイだな。最初にしては良い所まで行ったぞ。良かったな。」
原田先生はそう言って、目隠しを取ってくれた。
残りのメンバーもスイカ割を楽しむ。
だけど・・・・・・。
原田先生と吉岡先生の、目隠しをしてからグルグル回される行為がとてもエグい。
さすがはバレエ経験者。
バレエを経験していない人は、これにズタボロにされる。
「あれ~、ねえ、輝君。どこ~?」
そういいながら、スイカとは逆の方向へ進む葉月。
目隠しを取った後は、僕たちが遠くに居ることに気付き、顔を真っ赤にする。
「な、何も見えないわね。どこかしら。」
回転の感覚が落ち着くまで待つ史奈。
「会長、こっちですよ~。」
「ほらほら、会長、しっかり。」
葉月、加奈子は笑いながら史奈のサポートをするが・・・・・。
案の定、史奈のスイカ割も空を切った。
「うぁぁぁ。」
「キャー。」
目隠しにおびえる、風歌と、早織。
そして、マユ、結花、そして、心音でも、スイカ割の棒は空を切った。
「超ムズくね。」
結花が言う。
同じように頷くメンバー。
「よーし。」
加奈子が満を持して深呼吸する。
「お願いします。」
加奈子はそう言って原田先生と吉岡先生の元へ。
目隠しをされる加奈子。
そして、グルグル回される。
ふうっ。と深呼吸する加奈子。
少し加奈子の身体が上下するのを見てドキドキする。
着ているものが、水着の布一枚だろうか。
慎重にだが、まっすぐに歩を進める加奈子。
凄い、スイカ迄の距離がだんだんと縮まる。
そして。
「えーいっ。」
加奈子が棒を振ると。
バーン。
加奈子の棒はスイカにクリーンヒットした。
「ヨッシャー!!」
「す、すごい。」
「すげー。」
僕たちは目を見開いたかのように喜ぶ、そして、僕は思わずガッツポーズを決める。
「ふう、よかった。」
加奈子は落ち着いた表情に戻る。
「さすが加奈子。」
葉月が笑う。
「うん、とてもすごい。やっぱり、バレエをやっているから目が回らないんだろうな。」
僕は加奈子に向かって微笑む。
「そうだね。それに、原田先生のあれには慣れているから。ね。」
加奈子は藤代さんの方を見る。
藤代さんは笑って頷く。
「はい。ああいうふうに、昔はよくいじられてました。」
藤代さんはそう思いながら、どこか懐かしそうにこの光景を見つめていた。
「さすがは加奈子ちゃん。ほら、もう一度チャンスをやるぞ、少年、まだスイカが割り切れていないから、いいとこ見せるぞ。」
原田先生は親指を立てながら、僕と加奈子の元に駆け寄ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってください。」
僕は戸惑ったが。
「ほらほら、頑張れ頑張れ。」
原田先生はそう言って、僕の両手を引っ張り、再び吉岡先生のいるスタート地点へ。
再び、目隠しをされる僕。
「では、いつもより多く回したいと思います。」
原田先生はそう言って吉岡先生の方を向き、原田先生と吉岡先生は笑って頷き。
先ほどよりは比べ物にならない勢いで、僕の身体を思いっきり回す。
さらに何も見えないため、思わずふらつきそうになる僕。
「さあ、勇気をもっていってこい少年。」
原田先生の声に反応し歩を進める。
「頑張れー。」
「輝、ファイト。」
皆の声。当然、皆は大きな声で叫んでいるようだが、僕はかすかに聞こえる程度。
先ほどのグルグル回されたせいで、何も聞こえてこない。ただただ、目が回っている。
一歩、一歩、ふらつきながら。
「輝、そっちじゃない。」
「輝君、待って、そっちは・・・・・。」
葉月と加奈子の声が甲高くなる。
だが、僕は正確に聞き取れず。
その声のトーンの高さから、スイカが近づいているものだと思い。
「えーい。」
僕は棒を振った。
バーン!!
音が鳴る。
やった。やった。スイカに命中した。
「「「キャーッ」」」
それと同時に悲鳴が聞こえる。
「あちゃ~。」
そしてため息も聞こえる。
急いで原田先生が駆け寄り。
「ああ。やってしまったかぁ。少年。」
原田先生もため息、急いで原田先生は僕の目隠しを取る。
そして、僕が見た光景は。
それは、粉々に崩れ落ちていた、早織と藤代さん手作りの砂のお城だった。
跡形もなく見るも無残に破壊された砂のお城。
「ご、ごめんなさい!!」
僕は頭を下げる。
「ふふふ。お気になさらず。また作り直せばいいのです。」
藤代さんは笑っている。
「あ~あ。輝君、初のマイナスポイントだね。」
葉月はそれを見て笑っている。
皆も同じ顔だった。誰も怒っていないようだ。
「確かに、悲しい思いもあるけど、その分楽しめたから。」
早織はそう言いながら僕を慰めてくれる。
なんだか申し訳なさでいっぱいだった。
「ごめん、本当にごめん。早織。藤代さん。」
僕は謝るが、皆笑っていた。
「さあ。許してもらえたことだし、仲直りのスイカと行きましょう。」
史奈がニコニコ笑いながら入ってくる。
「はははっ、ドンマイだな。でも。ほら。」
原田先生と吉岡先生は持っていたナイフで、スイカを切り分け、皆に配っていた。
「残念だったな。でも、御疲れ様、ナイスファイトだったぞ。」
僕は吉岡先生からスイカを受け取った。
「ありがとうございます。」
仲直りのスイカはとてもいい味がした。
皆が笑っていた。
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