63.大輪の花(美女たちの浴衣回、その3)
「本当に良かったね、輝君。」
飛び入り参加の特設ステージの後、葉月に声をかけられる。
「ああ、そうだね。でも、もう限界かも。」
僕は少し疲れていた。
「ふふふ。そうね、いきなりステージに飛び入りしたのだもの。」
史奈はそう言って笑っている。
飛び入り、といっても、結花と葉月の助けがあったからだろう。おそらく僕一人ではできなかったはずだ。
それに、心音にも感謝しなければならない。
風歌も一緒にサポートしてくれたのは、ありがたかったし、風歌と僕の二人であれば、飛び入り参加は出来なかっただろう。
葉月や結花、ここに居る、コミュニケーションの高いメンバーが居てくれたおかげだ。
「風歌先輩もありがとうございました。僕一人では潰れてましたし、飛び入りで参加する分には少し勇気が必要だったかと思います。」
それを踏まえて、僕は風歌にお礼を言った。
「えっ、う、うん。ありがとう、こちらこそ。」
風歌は激しく、がくがくと頷く。勢いよく首を縦に振っていた。
「でも、結果的に本当にすごかったね。最高だよ。」
結花は笑いながら僕の肩を勢いよく叩く。
「はははっ、結花のあれが無かったら、僕は飛び入り参加していなかったな。」
僕は笑いながら結花に言う。
その反応を見て、そうだね。と、頷く加奈子。
そして。
「ひかるん、ピアノ続けてて本当に偉い!!」
マユは親指を立てる。
「あの、皆さん、本当にありがとうございました。」
芽瑠は頭を下げて、お礼をしている。
何よりも、彼女が想定した形とは異なることになったが、芽瑠が楽しんでくれたみたいで、本当に良かった。
「良かったよ。芽瑠ちゃんもナイスヴォーカル!!」
心音は芽瑠に向かってハイタッチする。
「うん。本当に良かった。」
僕は芽瑠に笑顔を見せる。流石にピアノが飛び入りで入っても、元々の歌の力がなければ、歌唱賞はもらえない。
「あの、あとで、お礼、させてください。」
芽瑠はそう言ったが。
お礼なんて、とんでもない。
むしろ助けられてよかった。
僕がみんなから助けてもらえた分。何か恩返しができてよかったと感じる。
「お礼は、別に大丈夫だよ。」
僕は芽瑠に言うと。
「いえいえ、そんな。」
芽瑠は戸惑っていたが。
「ふふふ。芽瑠ちゃんも良い子だね。でも、今は、このお兄ちゃんのいうことを聞きましょうか。」
史奈は笑っている。
「そうだね。今日じゃなくて、後になって、やっぱり、助けて欲しいって、声かけるかも。僕は実はそんな感じの人なんだ。」
僕はそう言いながら、芽瑠に言う。
「はい。その時は、必ず。」
芽瑠はそう言って、笑顔になった。
「そうだ。芽瑠ちゃんさえよければ、この後、芽瑠ちゃんも一緒に、私たちとお祭り回ってみない?」
葉月は笑いながら芽瑠に提案する。
「えっ。いいんですか?」
芽瑠は目を見開く。
さすがに歌唱賞をとっても、元々のメンバーが直前で、バックレたことのショックは大きいようで、今になってそれが再び戻ってきたようだ。
その表情が段々と、芽瑠の顔に現れてきた。
トラウマになる前に、そのことを忘れて、僕たちと一緒に回って、この後は、楽しい一日にした方がいい。
僕たちは葉月の提案に頷く。
そうして、僕は葉月、加奈子、史奈、結花、早織、心音、風歌、マユそして、芽瑠の九人の浴衣美女とともに街を歩くのだった。
僕たちは市役所を抜け、川沿いにたどり着く。
川沿いの土手は人が混んでいるが、まだまだ少し座れそうだった。
土手を下り、河川敷の一角で場所を取る。
この町の名前の由来ともいえる、雲雀川。
近くで見るととても綺麗である。
地方の中核市ということで、河川敷の人込みは、確かに人は多いが、東京というほどでもないのが幸いだ。
「まあ、場所はどこでも問題ないよね。上を見るから。」
葉月はそう言って、持ってきたシートを敷く。
全員が入れそうな大きさのシート。
僕たちは葉月の持参したシートに靴を脱いで上がり、座り込んだ。
「はい、これ。改めて、橋本君、誕生日おめでとう。」
早織がそう言って、さっきまで抱えていたバスケットを開ける。
その中にはふろしきが二つあり、その二つの大きなふろしきを開くと、二つの大きな重箱がある。
その重箱を開けると、色々な料理が、所狭しと敷き詰められている。
その重箱の数、一段、二段、三段、四段。さらに、それがもう一セット。
重箱を開ける度に、目の色をキラキラ輝かす僕。そして、早織以外の浴衣美人たち。
「ありがとう、早織。」
僕は本当に驚き、まるで声が裏返るかのような声色で、お礼を言った。
本当に重箱の中は色とりどりの料理がたくさんあった。
「本当。八木原さんすごい。」
「すごい。きれ~。」
心音と風歌が、目の色を輝かせる。
「ああ。そういえば、言ってなかったけ。早織ちゃんのご家族は、お店を経営してて、すごく美味しいんだよ。」
葉月がニコニコ笑って、心音と風歌に説明する。
「そして、輝君の誕生日ということで、沢山持ってきたのよね。」
史奈がニコニコ笑い、それに早織も頷く。
「えっ、今日、誕生日だったんですか?」
今度はそれを聞いた芽瑠が僕に聞く。
僕は恥ずかしそうに頷き。
「おめでとうございます。」
芽瑠は、このことを知って、すごく喜んでいた。
「本当、輝君嬉しそう。これには私も完敗ね。おいしそうなんだもの。」
史奈がニコニコ笑っている。
「本当。早織ちゃん凄すぎ。」
「しかも、マジで映える。」
葉月、結花が大きく頷く。心音は、結花の心情を察したのか、その重箱を写真に収めているようだ。
重箱から、各々の紙皿に食べたい分の料理を取り分ける。
早織の料理はとてもおいしかった。さすがは定食屋の娘だった。
「すごく美味しい。」
「本当。どうやって作るんだろう。」
加奈子と葉月が聞いてくる。
それを聞いた早織は、一つ一つ料理を説明していく。
「えっと、これは、こうやって・・・・・・・。材料は・・・・・。」
早織の声に耳を傾けメモを取る葉月と加奈子。
料理に関しては、葉月は早織に負けていられないようだ。
そして、早織の料理を食べながら、しばらく待機していると。
「そろそろだね。」
葉月が笑いながら言う。
そして、葉月の指さす方向に。
ピュー。ドン!!
ピュー。ドン!!
花火が夜空に打ちあがる。
大輪の花。そう、夜空に咲く大輪の花。
「すごい。」
僕は興奮している。
「ふふふ。喜んでもらえてよかった。どうだった?輝君の誕生日。」
葉月は笑いながら僕の手を繋いでくる。
言うまでもない。今までの誕生日の中でいちばん最高だった。
色とりどりの花火が夜空に花を咲かせていた。
その度にいろんな色に変わる夜空の色。
「みんなで、見られてよかった。」
僕は笑って言った。
「「「うん!!」」」
全員うなずいていた。
葉月が企画してくれた僕の誕生日企画。
雲雀川のお祭りと、花火大会は本当に素晴らしかった。
大輪の花は、夜空にいつまでも、咲き続けていた。
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