62.特設ステージ(美女たちの浴衣回、その2)
市役所の建物を出て、僕と浴衣美女たちはお祭りを回る。
本当に両隣に、色とりどりの浴衣を着た、飛び切りカワイイ女の子たち。
今度はどこにどんな屋台があるのか、この町全体を一回りしたので把握できていた。
再び屋台で、食べ物を、買えるだけ買って、城址公園の広場に着いた。
僕が持っている、食べ物は、皆から奢ってもらったものだった。
「ごめん、部活で忙しかったから、これで許して。」
マユが申し訳なさそうに頭を下げていたが、僕は何度もみんなに頭を下げる。
「いいんだよ。輝君が生まれてきてくれた特別な日なんだから。」
葉月はニコニコ笑いながら言っていて、他の皆も頷いている。
僕はゆっくりと頷き。改めて、今日が今までの誕生日の中でも、特に、特別な日ということを実感する。
そして、相変わらず、城址公園の広場に設置された、特設ステージはにぎやかだ。
「行ってみようよ。」
葉月の声に誘われて、城址公園に設置されている特設ステージに行く。
現在は休憩時間のようだが、その時間が終わり。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより。このお祭り、特設ステージのメインイベント、第二十回雲雀川グランプリを開催いたします!!」
司会の言葉に会場がわーっ。となる。
地元出身の、葉月たちも、テンションが上がる。
「ふふふ。ごめんね。やっぱりこの時間やるかなと思って、ステージに連れてきたの・・・。毎年恒例の一般市民の公募で実施しているコンテストだよ。あのアイドルグループの総選挙で上位に入った人も、ここのコンテストで入賞していたんだって。」
葉月の言葉に僕は驚く。
なるほど、それだけ凄いコンテストなんだ。
「おかげさまで、このコンテストも二十周年を迎えました。過去には、地元出身の、アイドルや芸人、超がつくほどの人気声優も、ここのコンテストに出場しています。」
おお。これはすごい。
だが、出場者の応募はすでに締め切っているようで、飛び入り参加はできないようだ。
「本当に残念、輝君にでてほしかったな。」
葉月はそう言う。
「本当にそうね。輝君なら結構上位に行けそう。」
史奈もそういっている。
他の皆も頷いている。
「ハハハ。そういってもらえると嬉しいですが、一人ではちょっと。」
僕も少し緊張している。
何組かのアーティストの演奏を見る。
どの出場者も楽しそうに出し物を披露していた。
ほぼほぼすべての屋台がある場所を見終わっているので、折角なので、この雲雀川グランプリを楽しむことにした。
本当に出演者たちは楽しいパフォーマンスを次から次へと披露していく。
そして、あっという間に、数時間が経過して。
「さあ、いよいよ、この雲雀川グランプリのステージ、最後の組の登場です。」
司会のアナウンス。
司会の言葉の間に、スタッフたちが機材を運んでいる。
ギター、ベース、ドラム、キーボード。音楽の組のようだ。
だけど。
司会のアナウンスが終わってもなかなか最後の組が登場しない。
次第にざわつく観客たち。
「早く。早くー。」
「おい、どうしたー?」
僕たちの後ろからはっきりとした声が聞こえる。
そんなざわつきに押し出されてか、一人の少女が出てきた。
赤い色の浴衣を着て、きちっと決めてきている。
だが、顔の表情は涙で覆われている。
「ぐすん。ぐすん。」
一人の少女はセンターに立つ。中学生くらいだろうか。
「えっと、五人組の中学生バンドと聞いているのですが・・・。」
司会が言う。
「ご、ごめんなさい。・・・。わ、私以外、み、皆、来なかったんです。」
「「「えっ!?」」」
観客のざわめきがさらに大きくなる。
「ほ、本当にごめんなさい。」
何度も頭を下げる赤い浴衣の少女。
なんというハプニングだ。
このヴォーカルの女の子以外、全員がバックレたということだ。
これはやむを得ない、棄権の可能性も。
「そしたら、今回は棄権ということで・・・・・・。」
「はーい、はーい。はーい。」
隣で結花の声がする。
「はい。はい。」
結花に呼応するかのように心音。
さらに、葉月もビシッと手を挙げる。
「ここに、素晴らしいピアニストがいるよ。ピアノだけでもつけられるよ~。」
結花が叫ぶ。
「さあ、ハッシー。」
結花が言う。
「ナイス、結花。さあ、輝君。やってみよう。」
葉月が僕の背中を押す。
何だろうか。もしも、この少女の率いるバンドメンバーがバックレて、少女が虐められているのであれば。
居ても立っても居られない。
だが、しかし、飛び入りとなると、かなり勇気が要る。僕はすぐに風歌の顔を見る。
「えっと、風歌先輩が、譜めくりとかで、サポートしてくださるなら・・・・。」
僕の言葉に、葉月と結花、さらには心音もうんうんと納得した表情になる。
風歌は一瞬戸惑う表情を見せたので。
「そ、それに仮に僕の知らない曲が出てきたのであれば、風歌先輩であればピアノやれそうですし、その場合は僕が譜めくりをしますので。」
僕の言葉に、風歌は驚いたが。
「えっ、えっと、その、だ、大丈夫、ピアノ、譜めくりやれると思う。」
風歌は、一瞬顔を赤くして、頷いた。
その表情をみて、心音は親指を立てている。
「風歌もナイス。頑張ろう。」
と、心音。
「おーっと、飛び入りの参加でピアノだけでも出来そうです。いかがしましょうか?」
司会の言葉に、少女の涙がピタリと止む。
「えっ?で、出来るなら・・・・・・。」
僕はその少女の声を聞き、風歌とともに、ステージに上がる。
少女から楽譜を見せてもらう。
幸運にも、そこにかかれていたのは、何年か前の朝ドラマの主題歌。合唱版でももちろんある。
これは、行けるかもしれない。
風歌の顔を見る。
「は、橋本君、いけそう?」
「うん、これなら。譜めくりをお願いできますか?」
「勿論。」
風歌の力強い声、普段は緊張して驚いたような素振りを見せるが、風歌も楽譜を読むことが当然できる。おそらくこの曲を見て、風歌も初見で行けそうだと思ったのだろう。
僕と同じで、この時だけは真剣な表情だ。
「伴奏は完璧じゃないけど、楽譜の上に、ギターのコードがあるから、難しそうな個所は、それを基に簡単に直せば、出来ると思う。」
僕は少女に伝える。
因みに、ギターのコードは五線譜の上に、CとかDとか記載されているアルファベットのこと。
これを基に、ギターやベースの奏者は演奏していくのだが、ピアノの人間も、大方わかる。
「あ、ありがとうございます。」
少女は頭を下げる。
そして。
「あの、やります。」
少女は言った。
「それでは、思わぬハプニングがありましたが、無事に歌が歌えそうです。それでは改めて準備をお願いします。」
少女のタイミングで行こう。泣き止んで落ち着いてくるのを待って。伴奏に入ろう。
僕はキーボードの椅子に座り、呼吸を整える。
少女の呼吸も整ってきたのが分かる。
振り返って、僕に合図を出す。
その顔は、もう、迷いはなさそうだ。
思い切って、僕は前奏をしっかり弾く。
バックレた連中の分まで。
そして、少女は力強く歌った。
彼女の歌は天使のような声だった。
何だろうか、本当に歌手だった。
その声に、さっきまでざわついていた観衆が驚きの表情を見せる。
彼女は本当に歌が好きなんだな。
僕も、そして、横にいる風歌も笑顔に変わっていく。
そして、パフォーマンスがフィニッシュした。
ドーッと地響きを成すような拍手に覆われる。
「すごいぞ。」
「天使だ。」
「綺麗な声だ!!」
「ピアノの子もいきなりなのにすごい!!」
そういう声が、ステージにいる僕のところにも届く。
「あ、あの、ありがとうございました。えっと・・・。」
浴衣の少女が頭を下げる。
「ああ。橋本輝です。」
「【宮原芽瑠】です。本当にありがとうございました。このお礼は必ずしますので。」
「いえいえ。そんな。」
僕は芽瑠にそう言って、ステージを降りた。
「ナイス、輝君。」
「ハッシー、最高!!」
葉月、結花に迎えられる。
「ふふふ。まさかこんなところで聞けるなんて思わなかったわ。」
史奈が笑う、そして、加奈子も笑顔でうなずく。
全員とハイタッチで迎える。
最後に観客に居る会場の人達全員に投票用紙が配られ、僕たちは、印象に残った組に、投票する。
そして。
「歌唱賞は・・・・・。」
一瞬の沈黙。そして。
「宮原芽瑠さんです。本当に、予定変更で、伴奏者変更にもかかわらず、堂々とした綺麗な歌声は魅了されました!!」
会場からは、大きな拍手が鳴り響く。
何だろう、僕も本当に良かった、と一緒に喜ぶ。
こんな感じはいつ以来だろうか。
芽瑠は賞状をもらった。そして。
「本当に助けてくれた、橋本さんに、感謝したいです。ステージに上がってきてくれませんか?」とのことだったので、僕は恥ずかしがりながらも、皆に後押しして、ステージに上がった。
「あ、あの、この子を見たとき、昔の僕を思い出したので。当然のことをしたまでです。本当に良かったです。」
そういって、僕は一礼をした。
会場からは拍手が鳴り響く。
「よかった。」
「はい、ありがとうございました。」
芽瑠に何度も頭を下げられながら、僕と芽瑠はステージを降りて行った。
そして、仲間たちからハイタッチ出迎えられた。
そのハイタッチは、会場にいた観客も巻き込んで、数えきれないほどの人と、ハイタッチを交わしたのだった。
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