61.雲雀川の夏祭り(美女たちの浴衣回、その1)
夏合宿帰宅後、そして、マユの家での一件が終わり、八月最初の週末を迎える。
今日は葉月の家に集合して、皆で遊びに行こうという約束をしている。
今朝は早めに来てと言われたので、朝食を済ませて出て行く。
市の中心部に入れば入るほど、何だろうか、いろいろと屋台の準備をして、人がかなり溢れている。
そうして、やってきたのは葉月の家でもある、理事長の家。
玄関のチャイムを鳴らすと、理事長の慎一が顔を出す。
「やあ、輝君。おはよう。葉月が待っているよ。すまないね、僕も結構忙しくてね。今日も出かけるんだ。」
理事長はそう言いながら、僕を家に上げてくれた。
「二階の広い部屋で待ってて、と伝言を預かっているよ。グランドピアノが置いてある、部屋があるよね。」
僕は頷いて、二階に上がる。
そして、広い部屋で待機する。
さすがに静かすぎると思い、試しに、大きなテレビをつけると、すごく嫌なものがいきなり視界の中に入ってきた。
今日は、八月六日。広島の平和式典。安久尾外務副大臣は、各国の要人を恭しく迎えている様子が見て取れる。その後ろには、与党の幹事長、反町の姿もある。
安久尾・・・。
テレビをいきなりつけてしまった僕にも落ち度はあるが、改めてみるとごくッと喉を鳴らし。
傍の椅子に座り込む。
確かに、平和を願うために、必ず行わないといけないものなのだが、なんだろう。何か、心の底から変な感情が湧いてしまう。
朝から、嫌なものを見たなと思うが、辺りを見回して、少し気分が晴れる。
ここは葉月の家。理事長の家。それが幸いだった。
アンティークのイスとテーブルは加奈子の生徒会演説の打ち合わせ、スタンウェイのピアノは加奈子との、いわゆる初めての出会いだった。
この大きなテーブルだって、演説会の映像をみんなで見た。
平和だった。感謝だった。戦争を経験した先人たちに感謝せねばならない。
すると突然、テレビが消える。
「おはよう、輝君。気にしたら負けだよ。式典に、例の二人が映ってたんでしょ。そんなことは忘れて、振り返ってみてごらん。」
葉月の声。
葉月に指示され振りかえると。僕は息を飲む。
白地にピンクの花、おそらく牡丹だろうか。そして、その生地に薄紫の帯を締め、浴衣を着た葉月の姿がある。
にこにこと笑う葉月。とても清らかさがある、そんな葉月の表情と浴衣だった。
葉月は僕の方に歩み寄る。
「お誕生日おめでとう。輝君。」
僕に応える余地もなく、葉月は僕の唇に、葉月の唇を重ねる。
「・・・・。ありがとう。葉月。覚えててくれて。」
僕は深呼吸していった。
「よかった。今日は輝君の特別な日。いっぱい楽しもう。」
葉月はそう言って、笑っていた。僕は頷く。少し照れる。
「私からのプレゼントは・・・・・・。こーれ。」
葉月はそう言いながら浴衣姿を僕に見せるように一回転する。
「浴衣?よく似合っている。」
僕は葉月に言うが。
「うん。ありがとう!!でも、浴衣ってことはね・・・・・。」
葉月の言葉に僕はあるものを連想させる。
「何か、お祭りでもやっているの?確かに来る途中に屋台の準備があったけど。」
「ピンポーン。大正解!!」
葉月の言葉に僕は何だろうか、心が躍る。
「毎年八月の最初の週末に雲雀川市は大規模なお祭りをやってます。今日の夜には花火大会もあるんだよ♪」
楽しそうに笑う葉月。
「今日は輝君にお祭りを案内するね。そして、食べたいもの何でも言って、私が奢ってあげる。それが、私のプレゼント。輝君の誕生日を知って、ピンって来たんだ。確か、今日は丁度週末でお祭りやってるって。」
葉月はそう言いながら、笑っている。
「ありがとう。葉月。」
何だろうか、思わず無邪気に飛び跳ねる僕。そして、一緒に飛び跳ねる葉月。勿論、ここは家の中なので、飛びはねるといっても、そんなぴょんぴょんとではなく、実際には、小さく。しかし、心の中では思わず、大きく飛び跳ねる。
それと同時に少し懐かしい感じがする。
お祭りは本当に久しぶりだった。
「他の皆も、花火大会までに、あとから来るってさ。心音も風歌も来るみたい。みんなで楽しもう!!」
葉月はそう言って、笑っている。僕は頷く。
僕たちは葉月の家を出る。
葉月は、生まれも育ちもこの地域なので、いろいろと説明してくれる。その葉月の案内で、屋台を回る。
「いいよ。好きなのを選んで♪」
葉月はニヤニヤしながら笑っている。
というところなので、焼きそば、たこ焼きを二つずつ買って、それを城址公園のベンチで座って食べることに。
ただ、焼きそばとたこ焼きとなると、どこでも食べられる気がする。
せっかくなので、もっとお祭りらしいものをとも思ってしまった。
「ごめん、葉月、これ食べたら、お祭りらしいのを買って食べよ。」
「ははは。いいよ。好きなもの食べて。実は、お祭りで使いたいといったら、パパがお小遣い多めにくれたんだ。でも、次は、私もお祭りらしいものを食べたいかも・・・・・。」
葉月は笑いながら屋台で買ったものを食べる。
まあ、少し早めの昼食だ。
これも悪くない。
城址公園には特設ステージが設けられて、いろいろな音楽が流れる。
今は、和太鼓の団体の披露だろうか。
ドンドン、ドンドン、と大きな太鼓の音が鳴り響く。
「輝君も飛び入りで、出れるかな?ピアノ弾けばカッコいいんじゃない?」
葉月はそんな話題をするが。
「いや、いや、僕は・・・・。」
どうやら、まだ僕は一人で舞台に立つには少し緊張するし、勇気が必要だ。
コンクールも控えて、こういったメンタルの訓練はしているが、さすがに、いきなりの飛び入りはまだまだ難しい。
「それに・・・・・。」
僕は傍に貼ってあるポスターを指さす。
どうやらすでに出演が決まっており、順番が決まっているようだ。
コンテストもありそうだが、これも事前に応募が決まっているらしく。
「あー。残念。まあでも、いいか。私も、輝君のピアノ演奏は聞いているし。加奈子の発表会とか、合唱コンクールとかで。」
「そうですね。」
葉月は少し残念そうだが、僕は、出演者の応募を締め切ったというお知らせを見て少し安堵する。
そんな感じで、買った食材を全て食べ終え、再び次の食材を購入すべく、葉月とともに屋台へ向かった。
葉月と会ったのは午前中の早い時間帯。
そこから、お祭りへ向かったので、人はまばらだったが、時間に比例して、人が一気に増えている。
「すごい混んできたね。」
「うん。大丈夫かな。」
僕は少し不安ではあるが。
「大丈夫。私に付いてきてね。」
葉月はギュッと手を繋いでくれる。
人混みでも、地元出身者の葉月が居れば、迷うことはなさそうだ。
僕自身も方向音痴ということではないのだが、さすがにこうも人が多いと、迷ってしまう。
葉月のナビゲートはありがたい。
人混みの中を通っていく僕と葉月。
葉月は僕の手をギュッと握っている。
すると、交差点に差し掛かり、その交差点から向こうは、人混みは車道から歩道の両脇へと移り、車道は開けている。
当然、交差点の信号機は機能しておらず、勿論、ここはこの時間帯は歩行者天国となる。
「私たちもちょっとだけ見よう。」
葉月は僕を連れて、歩道へと向かう。この雰囲気はイベントが始まるのだろう。
人のいない、車道を使って何かあるのだろうか。
「これから何か、始まるんですか?」
「うん。御神輿と、山車巡業ね。もうすぐ来るかな。」
するとどうだろうか。豪華な山車が、次々とやって来た。
「この近くの町内会がいろいろな山車を飾り付けて、魅力を競うんだ。毎年山車のデザインは違っていてね。ほら。」
葉月はそう言って、山車が来る方向を指さす。
指さした方向を見ると、背の高い山車が、何人もの人々によって、引っ張られてこちらに向かってくる。
山車の頂上には、人形があり、きっとその人形を祀っているのだろう。
現に山車の中間部分にはその人形の従者の役の女性が、そして、男の一人が山車の上に立ち、引っ張る人達を取り仕切っている。
そして、山車の周りに太鼓や笛の音を奏でる子供たちの姿。
山車に乗ったり、周りで小さな太鼓を持ちながら歩く。
「私も小さいころにやったよ。練習したりして。」
葉月はニコニコ笑っている。
いくつかの山車が通過するのを見る僕と葉月。
本当に豪華な山車が幾つも通り過ぎる。これが、毎年違う装飾をするのだから、驚きだ。
「えっと、次が私の町内会のやつかな。」
葉月の言葉に僕は頷く。
葉月の町内会の山車も、他の町内会の物に負けず劣らず、豪華な装飾がなされていた。
「ほらほら、パパもいる。」
葉月はにっこり笑って指さす。その方向に、山車を引いている理事長の姿がある。
理事長は、ハッピを着て、頑張っている。
「パパもかつては、山車の一番上で取り仕切っていたんだけど、今年は下の方で山車を引く役だね。」
葉月の家はここからかなり近い。そうなれば、町内会とかで、太鼓の練習とか色々なことで、この祭りに参加するよな。
そして、持ち回りで役割も当然交代することが容易に想像できる。
「へへへっ。ごめんね。これを見てほしかったんだ。」
葉月はニコニコ笑い、自分の町内会の山車と理事長の活躍を僕に見せて、ご満悦の様子。
「それじゃ、もう一回、屋台に行こう。あっ、この時間なら、皆、着いている時間かもね・・・。」
葉月は少し表情を変え。
「はあぁ。」
葉月は笑顔とため息がもう一度出る。
―本当は、輝君ともうちょっとだけ二人きりで居たかったけど、残念。―
そんな葉月の心の声。
葉月の案内で、もう一度、屋台へ向かうついでに、例の百貨店と家電量販店のある交差点へ向かう。
「あーっ。居た。居た。」
「おーい。」
二人の人影がこちらに向かって手を振っている。
史奈と加奈子だった。
二人とも葉月と同じで、浴衣を着ている。
お互いに朝顔がプリントされているが、ベースとなる柄が違う。
史奈は白地に青と水色の朝顔。
加奈子は、紺地に赤や紫の朝顔がそれぞれの浴衣にプリントされている。
「遅くなって、ごめん。輝。やっぱり浴衣だと髪を整えなきゃと思って。」
加奈子は少し息を切らしながら言った。
朝はゆっくり起きて、いつもはまとめないで登校している彼女の髪も、今日はバレエの練習でも行くようにまとめられている。
「ふふふ。そんなに、急がなくても大丈夫よ。減るもんじゃないんだし。」
史奈はにこにこと笑う。
浴衣を着ている史奈、大人っぽく、上品な感じだ。
「輝、その・・・。遅くなってごめん、一学期、ピアノと推薦人、やってくれて本当に、ありがとう!!お誕生日、おめでとう!!」
加奈子は小さな包みを僕にくれた。
「ありがとう。」
僕は加奈子にお礼を言う。
「あとで、開けてね。マグカップ。プラスチックの、机に向かったり、ピアノに向かって、長時間居ることが多かったから。」
「うん。ありがとう、加奈子。」
何だろうか、加奈子の一生懸命選んだものが伝わる。
絶対にプレゼントを用意すると意気込んで、何するか迷ったのだろう。
「ふふふ。私からも、はい。誕生日おめでとう!!」
史奈はそう言って、包みをくれた。
ボールペンのようだ。僕は、史奈にお礼を言った。
ニコニコ笑う、史奈と加奈子。
そうして、僕たちは再び、屋台の方へ向かう。
偶然にも、ここに居るのは、僕が花園学園に入学して、初めて知り合ったメンバーだった。
本当に幸せな時、最初に出会ったこのメンバーは本当に宝物かも知れない。
屋台が多く出ている場所に到着する僕たち。
今度はお祭りらしいもの。
綿菓子、りんご飴を購入する。りんご飴は、いろいろなフルーツ飴があるので、オレンジ、葡萄といろいろ購入して、皆で分け合うことになった。
「あま~い♡」
葉月の飛び切り笑顔が飛び出す。
「やっぱりお祭りはこうでなきゃね。」
葉月がウィンクする。
僕も、綿あめの棒を持って食べる。
うん。やっぱり甘い。そして、食べやすい。
「ふふふ。葉月ちゃんはお菓子が大好きね。」
史奈はそう言いながら、持っていたりんご飴をペロリ。
「ああ、会長、一口ください。」
葉月もペロリ。そして。
「輝、よかったら、私のりんご飴舐める?」
加奈子はさりげなく、差し出す。
うん、やっぱり甘い。
「あっ、加奈子ちゃん、抜け駆けの間接キス、ずるい。」
史奈はこういう場面では計算高い。僕も史奈の言葉に顔を赤くする。
「そーですか。そしたら、会長もあげればいいじゃないですか?」
加奈子はやはり、ライバル意識があるのだろうか。
やはり、先日のマユとの下宿先とのやり取りが、加奈子には自信になっているようだ。
「えーい。パクッ。」
史奈は僕の持っていた綿菓子を食べる。
「あー、会長も加奈子もずるい。輝君、綿あめあげる♪」
葉月は僕に葉月の持っている綿あめを食べさせるように、僕の口の前に差し出す。
僕はその綿あめを口に入れる。
事実上、これで、三人と間接キスをしたことになる。
人混みの中、すべてのやり取りを見ていた人は居ただろうか?
少し恥ずかしそうになる僕。
そうして、葉月と二人で、さらには史奈と加奈子も入れた面々で、屋台会場を一周、つまり、僕と葉月は屋台会場を二週して、再び百貨店の前へやってきた。
「ふふふ、結構歩いたね。」
葉月は僕の方を見る。
まあ、今日は、この町すべてがお祭り会場といっても過言ではない。
なれない浴衣と草履で、彼女たちはへとへとのようだ。
再び百貨店に戻ってくる僕たち。どこか、喫茶店でも入って少し休もう、ということになった。
だが、百貨店の入り口にはすでに休憩している人たちが多い。
どうやら考えることは皆同じのようで、夏だからだろうか。冷房の効くところで涼んでいるようだ。
僕たちは仕方なく、他に座れるところがないか確認すべく、辺りを見回したが、座れる場所がない。
中に入って、いっそのこと最上階のフードコートに行けばいいと思っていたが、おそらくこの状況を見ればフードコートも一杯だろう。
それに、僕たちは屋台でかなり食べている状態。きっと。
『一時間以内でお願いします。』
『ご飲食以外のご利用はご遠慮ください。』
というような例の張り紙が一日中出されていることだろう。
そして、入り口のロビーのような部分も満杯で、さらに中も一杯。再び人混みを抜け出せるまでは相当な時間がかかりそうだということもここで察した。
「市役所の方に行ってみる?あそこだったら、少し座れるかもしれないし、人がそんなにいないと思う。」
葉月の提案に僕たちは頷く。
移動を開始しようと思った、その時。
僕たちに向かって、足音が近づいてきている。
「あーっ。ハッシー。居た。居た。」
結花が近づいてくる。そして。
「ふう。間に合ったわね。」
「・・・。よかった、皆と、合流できた。」
心音と風歌も別の方向からこちらに近づいてくる。
三人とも色とりどりの浴衣を着て、手を振っている。
結花は、白と朱色の細かな模様がある浴衣だ。
心音は落ち着いた紺色に蝶が印刷された柄。
風歌は、緑色に菖蒲の柄がプリントされている。
葉月たちも入れて、これで合計、六人の浴衣美人たち。本当に圧倒されてしまう。
「はい。ハッシー、遅くなって、ごめん、誕生日おめでとう。」
結花からも小さな包みをもらう。
「ありがとう、結花。」
僕は笑って受け取る。
「プレゼントで、一杯だね。使う?」
そういって、葉月が、袋を差し出してくれる。
「あ、ありがとう葉月。」
僕は葉月から袋を受け取る。
予備のきんちゃく袋ではあったが、入りそうだ。
プレゼントは、袋に入れれば、小さくまとめられた。
「ホンットーにごめん、人混みでプレゼント買うの時間かかっちゃった。」
結花は両手を勢いよく、ポンと合わせて言う。
「まあまあ、良いんじゃない。こうして、皆合流できたんだし。」
史奈はそう言って、笑う。
そして、市役所の方に移動しようとすると、ツンツンと僕を呼ぶ。
「あの・・・。お誕生日おめでとう。これ・・・。コーラス部からのお礼。」
風歌が包みを渡してくれた。
「えっ、ありがとうございます。嬉しい。」
「・・・。よかったぁ。葉月ちゃんたちから誕生日、聞いてよかった。」
風歌の顔がほころぶ。
「えっ、ちょっと、風歌、何してるのよ。」
心音はどうやら僕の誕生日を知らなかったらしく。
「ごめーん、橋本君。お礼とプレゼントは、何か今日、屋台で奢らせてー。」
と、結花と同じように、両手をポンと合わせて謝った。
同じ中学校の先輩後輩同士、よく似ている。
こうして、六人の浴衣美女と一緒に場所を移動することになった。
一目散に座る場所を確保したい、僕と葉月だったが、折角新しいメンバーも合流したので、市役所方面を目指しながら再び屋台を巡る。
市役所の玄関では、早織とマユが待ち合わせをしている約束になっている。
二人とも、午前中はそれぞれ、お店と、部活なので、午後の夕方近くから合流して、その後、皆で花火大会を見る予定だ。
心音からは、焼きトウモロコシ、そして、かき氷を奢ってくれた。
「すみません、気を遣ってもらって。」
「いいの、いいの。これが、本当の私とコーラス部からのお礼だからね。」
心音はそうウィンクする。
「輝君、人気者になったね。」
「本当ね、入学して間もないのに。」
葉月、史奈はそう言いながら、笑っている。
かき氷は、全員違う種類のシロップを注文し、本当に七色のかき氷になった。
そして、全員の味を一口ずつ交換していく。
少しドキドキ。だけど、今回はスプーンもそれぞれ違うものを使っているので、自分が使っているスプーンで好きな味から交換していった。
さすがに心音と風歌の前で、全員と付き合っていて、ハーレム状態です。さらに後二人そういう状況の人がいます。ということは伝えられないし・・・。
そうして、僕たちは市役所の入り口に差し掛かった。
入り口で待っていたのは、僕の両隣にいる美女たちと、同じように、浴衣を着て、視線を遠くにして僕たちを待っている二人の美女だった。
そう、そこで待っていた、早織と、マユとも合流する。
どうやら、葉月がLINEで、市役所方面へ向かっていると連絡しているようだった。
「おーっ、ひかるん、お疲れ様。」
「いやいや、マユこそ、お疲れ、部活の直後なのに、ありがとう。」
「そーなの、こういう日も部活なんだってさー。陸上部は辛いよね。最も、お祭りがあるって、聞いたのは先週のことだけど。去年は、お祭りも知らなかったから、何もしないでまっすぐ下宿に帰ったよ。この場所も、市役所が、かなり高い建物で、目立つからわかったかな。」
マユはそう言いながら、ウィンクする。
「あらためて、お誕生日おめでとう。ひかるん。ごめん、部活がずっと続いて、さらにはこの間再会したばっかりで、忙しかったから、プレゼントは屋台で好きなもの買おう!!私が奢るから。」
マユはそう言いながらウィンクする。
マユの浴衣は、黒色ベースのアジサイの浴衣だった。そして、花の髪飾りが、日焼けしている素肌のいいアクセントになっている。
「髪飾り、かわいい。」
加奈子が言う。
「ふふふ、ありがとう。加奈子ちゃん。普段はボブヘアの髪の毛を目立たない、ゴムでまとめているけど、こういう時は特別よね。」
マユの言葉に、加奈子は頷く。
僕も同じように頷く。
マユと加奈子は、あの夜の一件以来、仲がいいようだ。
そして、対照的に、白色で金魚の柄がプリントされている早織。
「・・・・。お誕生日、おめでとう。プレゼントは、これ。」
早織は大きなバスケットを両手で持っている。
バスケットを開けると、中には豪華なふろしきの包みがある。
「あとで、渡すね。今日は午後からお店が臨時休業だったから。来ちゃった。」
早織はそう笑いながら、僕に笑顔を見せる。
確かに、お祭りの日に、川向こうの、早織のお店がある場所まで来る人は居ない。
例年、お祭りの日は昼食の時間のみの営業なのだそうだ。
僕たちは、歩き疲れたというのもあり、少し市役所の中で座ることに。
やはり館内は広く、涼しく、人混みもそこまでない感じだ。
エレベーターに乗り込み、展望台へ向かう。本当に高層ビルの建物にあるエレベーターだった。
その展望台は、広いロビースペースと、展望レストランからなる場所だ。
原田先生のバレエコンクールの打ち上げにもここの展望レストラン街のお店の一つを利用していた。
あの時は、茂木に初めて会い、辛いことを思い出したので、うっすらとしか覚えていないが、昼間の、明るい時間にここを訪れると、少し落ち着く。
そして、ロビースペースは空いており、僕たちは各々椅子に腰かけて、眼下に望む夏祭りをしばらくぼーっと見ていた。
何だろうか、レストラン街があるのに、静けさがある。
「ああっ、レストランなら今日は全店舗貸し切り。毎年恒例、『打ち上げ花火特等席ツアー』でね。」
葉月がニコニコ笑いながら言う。
「だから、ここは夜まで誰も来ないよ。」
葉月はニコニコ笑っていた。まるで自慢するかのように地元の知識を鼻を高くして話していた。
そんな話をしているうちに、僕たちの体力が回復してくる。
お互いに顔を見合わせ。
「そしたら、行こうか。」
「「「「うん!!」」」」
僕と、浴衣美女たちは再び、お祭りの会場に出て行った。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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