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54.合宿の夜

 

 ホテルの僕の部屋。

 しばらくゆっくりする僕。


 本当に静かな山奥。標高は二千メートルを優に超える場所。そして、そのホテルからも、さらに標高が高い山々を見渡せるのが驚きだ。

 流石にここで落ち着くのもいいが、やるべきことは早めに終わらせてしまおう。

 ということで、持ってきたテキストを開いて、学校の課題を実施する。


 この合宿、このバレエスタジオの生徒も、この時の自由時間は、部屋ごとにそんなことをやっているのだそうだ。確かに、高校より、中学校や、小学校の方が夏休みの宿題がかなり多いような気がする。確かに、小学校だと自由研究や工作などいろいろやることがあるので大変そうだ。


 中学や高校だと勉強のテキストがメインになる感じがあったので、おそらく、小学生の生徒はそういった、工作などは家でやって、ここでは加奈子をはじめ、勉強ができる生徒に手伝ってもらって、夏休みの宿題のテキストを一緒に進めるのだろう。


「結構大変で。私は部屋中引っ張りだこで、自分の課題ができないんだよね~。」

 加奈子はそんなことを言いながらも笑っている。


 バレエ団の生徒の中でもトップ、そして、テストの成績も学年一位の加奈子。そういうこともあり、小学生や中学生の生徒に、夏休みの宿題で、わからないところを教えるのも、加奈子の役目だった。


 僕のいる部屋は、加奈子の部屋と、フロアが違うため、そんな加奈子の様子を見ることはできないが。

「加奈子ちゃん。」

「加奈子先輩!!」

「加奈子先生。」


「「「この問題、わかんな~い。」」」

 と、いろいろな生徒から声がかけられるところが容易に想像つく。


 しかし、僕がいるこの部屋はかなり静かなせいか、かなり自分の課題を進めることができたし、夏休みの課題を一気に貯金することができた。しかも、こんな状況が、あと数日続く。


 少なくとも、この貯金のおかげで、夏休みの後半で、手が付けられない状況は避けられそうだ。

 僕も、うん。確かに普段は宿題などを毎日やっているが、この夏休みに至っては、学校の課題をやらない日がかなりある。


 切りのいいところで、課題を終わらせ、原田先生からもらったしおりと、練習のクラスの一覧表を確認して、明日の楽譜を整理する。

 明日もかなりみっちりだ。


 ふうっと、ため息をついた、その時。

「トントントン。」

 扉をノックする音が聞こえる。


 それに気づく僕。気のせいかと思うが一応、扉の前に立つ。


 さすがに、ここは山奥のホテル。得体のしれないお化けが出てくると怖い自分がいる。


 だが。

「トントントン。」

 もう一回ノックする、音が聞こえる。

 僕は気のせいが、確信に変わる。


 恐る恐る扉に手をかけ、ドアノブを回す。


 扉を開けた瞬間、僕の視界は一瞬、見えなくなる。


「輝!!よかった。」

 加奈子のほっとした声。そして、僕の背中に腕を回す加奈子。


「か、加奈子、なんでここに?」

 僕は驚きの声をあげるが、加奈子は彼女の口元に人差し指を当てる。


「しーっ。バレちゃうから。早く扉を閉めて。」

 僕は慌てて部屋の扉を閉める。


「輝!!」

 加奈子は唇を僕の唇に当てる。そして、お互いの舌も合わせる。


 お互いの顔が離れる。そしてキョトンとする僕。


「お、起きててくれてよかった。何してたの?」

「ああ。学校の課題と明日の楽譜の読み込み。一人で集中できたので、かなり進んだ。」

 僕は加奈子に向かってそういうと。


「そ、そうなんだ。私は、予想通り、皆から質問攻めにあって、皆の学校の宿題教えてたよ。そんで、消灯時間はとっくに過ぎているんだけど・・・。輝、起きてるかな・・・。と思って。」


 加奈子の言葉に、僕は慌ててスマホを見る。

 スマホの時計はもう既に日付が変わっていた。


 とても集中していたのだった。


「と、いうことは、加奈子はもしかして・・・。」

「ぬ、抜け出してきちゃった。そ、その・・・。これ・・・。原田先生から餞別と謝礼。」

 とたんに緊張する加奈子。おそらく真面目さがまだ抜けないのだろう。


 消灯時間後に部屋を抜け出して、ここに来るとは。

 原田先生からの選別は、案の定、例の、小さな袋だった。


「あの、私が、自分で、抜け出してきちゃったんじゃなくて、先生から、その・・・。ここは修学旅行とかではないんだから、消灯時間後だって、ある意味、自由だよって。自分が高校の頃は何度も抜け出したって。それに、加奈子ちゃんは自由時間にもかかわらず、毎年、他の生徒の夏休みの宿題手伝わされているんだからさ、自分の自由時間を過ごしなよ。って、これ、渡されて・・・。」


 なるほど。そういうことか・・・・・。

 確かに、真面目な加奈子には、そうした原田先生の後押しが必要なのかもしれない。


 そして、僕のバッグの中にも、まさかの事態を想定して、『加奈子♡』と書かれた、例の、小さな袋の箱詰めが入っている。持ってきてよかったと思った。


 とりあえず、加奈子をベッドに座らせる。

 やはり、加奈子は消灯時間を無視して、ここに来たことが少し億劫のようで、彼女の心臓の音が僕でも聞こえる。


 だが、ベッドに座れば座ったとしても、加奈子の心臓の音はより激しくなるし、一向に収まる気配すらない。

 それに引っ張られて、僕の心臓と、呼吸の音がだんだんと早くなる。


「輝。」

 小さな声で、加奈子が言う。

「一緒に、いい?」

 僕は頷いて、お互い唇を重ねる。


 部屋の灯りを暗くし、お互い着ていた服を脱がせて、そのままベッドに横になる。

「どうかな?私って。もっと、よく見て欲しい・・・。」

 加奈子が僕に問いかける。


 薄暗い中でもわかる、バレリーナの綺麗なライン。

 バレエの衣装を着るためか、下着が重複しないように、面積の少し小さなセクシーな下着。

 それを見ただけで、正直ドキドキする。


「どう?輝?見てくれてる?」

「うん。」

 僕は深く頷く。


「綺麗なシルエット。すごく素敵。」

 ありのままを言う、僕。


「うん。そう。」

 加奈子は少し暗い声。


「どうしたの?」

 加奈子の自信の無い声に僕は、反応する。


「私、綺麗かな?かわいいかな?って。会長も、葉月も、結花も、そして、早織も。みんな。みんな。大きくて、ずるい。」

 加奈子は両手で、自分の胸を押さえる。

 確かに、あの四人は、女子高校生はおろか、普通の女性の平均以上はある。


「早織なんか特にずるい。眼鏡を取ればかわいいし、校内合唱コンクールの夜だって。服を脱げば・・・。結花も勿論・・・。あの二人は後輩なのに・・・。」

 あの夜、確かに、早織の服を脱げば、飛び切り大きな胸元が現れた。

 そして、結花も、葉月たちに負けない大きさだ。そして、自分よりも後輩という事実が加奈子には突き刺さる。


 なんで、自分だけ・・・。そんな現実がやっぱりあるのだろう。誰かと比べられればそうなる。


「大丈夫。大丈夫だよ。加奈子には、加奈子しかない、ものがあるから、シルエットは一番凄くきれい。」

「シルエットって?」

 加奈子はもう一度聞き返す。


「体のライン。スタイルがいいということだよ。大好きなバレエを続けているからなんだよね。」

 僕は、恥ずかしながらもそれを伝える。


「ありがとう。良かった。」

 少しホッとしたのだろうか。加奈子は安心する。


「それに。」

「それに・・・・・。」

 これは僕の推測だが、真面目に一生懸命な加奈子だからだろう。きっと。


「僕の推測だけど、加奈子は、僕と出会うまで気にしてなかったんじゃない。バレエ一生懸命取り組んでいるし・・・・。きっと、いざ、こんな関係になって、四人と並ぶときが増えたから。僕はバレエやってる加奈子が好き。だって・・・・っ。」


 僕の言葉が途切れる。加奈子の唇がそれを阻止する。

 深く、深く、唇を重ねる僕と加奈子。


「ありがとう。輝。」

 加奈子はぎゅっと抱きしめる。


「ねえ。輝。」

 加奈子の声。


「今日は、私だけを見てくれる?」

 加奈子の言葉にドキッとするが。


「勿論。」

 僕は、そういって、深く頷いて、思いっきり、加奈子を抱きしめる。


「ひ、輝。ご、ごめん。」

 加奈子は急に謝る。


「ど、どうしたのです?」

「シャンプー、合宿で、いつもと違うし、自分の持ってきた分が少ないから。その、練習の汗とか匂いとか・・・・。」

 加奈子の言葉にドキッとする。


 そういえば、最初に農家の離屋で抱きしめたときと同じ感じがする。

 あの時も、バレエコンクールの本番の後で、僕の離屋のお風呂場にみんなで入った。


「大丈夫。言うまで気付かなかった。」

 僕は内心ドキドキしているが。あまり気を遣わせたくないと思って、加奈子にそう言った。


「そう、よかった。」

 再び、唇を重ねる僕と加奈子。


「今日は、私が、全部、スッキリさせてあげる。パンパンだよね。」

 加奈子の緊張した声、そして、緊張して、震えた手で、その、パンパンになっていると思う箇所を指さす。


 深く、深く、僕は頷いた。

 勿論、ここまで来て、断るなんて、僕は出来なかった。







今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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