45.ポニーテールとツインテール
校内合唱コンクールが終わり、翌週の月曜日。この週を乗り切れば夏休みである。
生徒会での夏休みの活動も特になく、夏休み明けから、文化祭、体育祭の準備に取り掛かる。
この日の昼休みは少し豪華に変貌する。
僕の隣には結花、目の前には早織が居て、一緒にお弁当を開ける。
結花も、合唱コンクール迄は一軍女子の集団と一緒に昼食をとっていたが。今日に関しては特別だ。
「大丈夫。ハッシーには、合唱の指揮と伴奏で仲良くなったと言ってあるから♪」
楽しそうにする結花の表情。
「あの。これ。食べて。」
早織はそう言いながら、唐揚げのどっさり入った箱を僕と結花に手渡す。
さらには、ポテトサラダや、チキングリル。パイナップルやリンゴをおしゃれにカットしたデザートがその箱に詰められていた。
そう、この昼休みが少し豪華になった要因がまさにこれだった。
早織は、家族で森の定食屋、いわゆるレストランを営んでおり、家庭科部でもものすごく頑張っている。
このお弁当もかなり豪華に自分で作って仕上げてきた。
某グルメリポーターが、何とかの宝石箱、と興奮しそうに言っていたが。これはまさに、その宝石箱そのものだった。
「おーっ、すごい。流石、八木原さんだ。」
結花は無邪気になりながら、唐揚げを勢いよく食べている。
実際に僕も早織の唐揚げを食べたが、本当に美味しかった。
「ふふふ。良かった。」
早織は微笑んでいる。
だが僕たちは知っている。彼女は今も黒ぶち眼鏡を地味に掛けているが、眼鏡を取ればとてつもなく可愛い子なんだということを。そして、今着ている制服のボタンを外せば‥‥‥‥。
合唱コンクールの放課後、例の離屋での夜の一件があり、その翌週ということもあり、何だろうか。良いクラスメイトと出会えた。そんな気がする。
そんな楽しい昼休みの時だった。
勢いよく、教室の扉が開く。
「失礼します!!」
と、勢いよく元気に言った女子生徒。
そして、その背後でペコペコとお辞儀をした女子生徒の二人が入ってきた。
元気よく挨拶をした方の生徒はポニーテールで白色のリボン。
ペコペコと黙ってお辞儀をした方はツインテールで綺麗なピンク色のリボンでそれを結んでいた。
この二人に見覚えがあった。
確か、葉月と加奈子のクラスで、合唱コンクールで指揮と伴奏をした人だ。
金賞クラスの二人がわざわざ僕たちのクラスにやってきたのだ。
「あ、あの二人って。」
「そうだよね。確か、金賞クラスの指揮者と伴奏者で‥‥‥‥。」
「う、うん。橋本君と一緒に。最優秀指揮者賞で並んだ人だ。」
クラスのメンバーがざわついている。そう、ポニーテールの生徒の方は、先日の合唱コンクールで、最優秀指揮者賞を取った人物。ちなみに、僕が最優秀伴奏者賞で、この表彰こそ、一年生で初めてのことだったようだ。
このクラスのメンバーにとって忘れている人はいなかった。
なんせ、今日は合唱コンクールを終えて、週末を挟んだ直後の月曜日なのだから。
そんなすごい人たちが一体何故?と思ったが、二人は僕たちに目の前でぴたりと止まった。
「せ、先輩?」
結花の声が裏返る。
「久しぶりね、結花。」
ポニーテールの生徒は結花に声をかける。
「あっ。知り合いなの?」
僕は結花に声をかける。
「うん。同じ中学校で、とてもお世話になった。先輩。」
結花は元気よく僕に言った。
「となると、結花に用事かな。席を空けるね‥‥‥‥。」
と僕は言ったが。
「いいえ、違います。今は、君に用があります。」
ポニーテールの生徒は僕を指さす。
「改めて、最優秀伴奏者賞おめでとう。橋本輝君。」
ポニーテールの生徒は頭を下げる。
「あ、ありがとうございます。」
僕は頭を下げる。
「私は、二年C組、コーラス部部長の【桐生心音】です。」
ポニーテールの生徒、桐生心音はそう言って自己紹介した。
「そして‥‥。」
心音は一緒にいたツインテールの生徒の方に顔を向ける。
少し恥ずかしそうにするが。
「み、【緑風歌】‥‥。です。‥‥コーラス部で、‥‥ソプラノ、‥‥時々、‥‥伴奏をしています。‥‥よろしくお願いします。」
そういって、ツインテールの生徒、緑風歌はペコペコとお辞儀をした。
「ピアノ、すごかったね。私の予想だと、最優秀伴奏者賞は絶対、ここにいる、風歌だと思ったのに。」
心音はそう言いながら、ニコニコと笑っている。
さらに、顔を真っ赤にしながら風歌は両手を僕に差し出す。
「あ、会えてうれしいです。橋本君!!」
声が裏返ったような緊張で、僕に両手を差し出してきたので、僕はそれに応えて、握手をすると、風歌はさらに顔が赤くなり、勢いよく僕の両腕を上下に振った。
「あ、あの。大丈夫ですか?」
僕は風歌に声をかけるが、風歌は息を整え、
「は、はい。大丈夫です。」
そういって、握手をした両腕を放す。
「こら、風歌、橋本君、勢いの握手で、困っているでしょ。」
心音と呼ばれる人物は風歌の方を向いて、何かを教えるように言った。
「ひ、ひゃっ、ご、ごめんなさい。」
風歌は顔を赤くしながら頭を下げたのだった。
それを見ていた、心音が、深呼吸して。
「改めて、今日は、校内合唱コンクールで、最優秀伴奏者賞を取った、橋本君にお願いがあってきました。」
心音はそう言いながら、ウィンクする。そして。
「橋本輝君。私たちのコーラス部に是非入部してほしいです。勿論、生徒会との掛け持ちもOKです。同じクラスの加奈子と葉月には私から話を通しておいてあるから。」
心音はそう言って、僕に向かって頭を下げる。
「え?あ、あの僕。」
さすがに女声合唱に男子一人は僕はきついと思ったが。
「大丈夫、君にお願いしたいのは、指揮とピアノ伴奏かな。早速なんだけど、県の合唱コンクールのピアノ伴奏頼めないかな?」
矢継ぎ早に頼んでくる心音。
僕は、少し戸惑うが。
「あ、あの。心音ちゃん。橋本君、困ってる。」
風歌が心音をサポートする。
「あっ。ごめんなさい。少し、興奮しちゃったね。」
心音は少し冷静になる。
「あ、あの、見学だけでもいいので。来てくれると嬉しいです。」
深呼吸した風歌はそれを見て、言った。
僕は、少し戸惑うが。
「すごいじゃん、ハッシー。コーラス部部長からの直々のお誘いじゃん。行ってきなよ!!」
と結花の声。
「うん。ピアノ弾いている輝君、すごくかっこよかった。やってみてもいいんじゃないかな。」
早織は冷静に適切にアドバイスをくれた。
僕は頷き。
「そ、それじゃあ、見学だけでも。」
僕はそう言うと。
「本当?ありがとう!!」
心音は得意げな表情をする。
「う、嬉しい。ありがとう。」
風歌は顔を真っ赤に染めながら、お礼を言った。話すことは苦手なようだが、いい人に感じた。
「じゃあ、放課後、音楽室で待ってるね。」
心音はそう言って、風歌を連れて、教室を出て行った。
コーラス部。少し不安になるが、結花そして、早織。さらには先ほどの二人のやり取りを見て、少し冒険してみたいと心で言っている僕の姿があった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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