44.離屋の夜、その2
合唱コンクール当日の放課後、家に帰る僕。
そして、僕の後を、史奈、葉月、加奈子、結花、そして、早織がついてくる。
家に帰る道中、薬局によって、ベッドの枕元にある同じ箱を購入する。
そして、五つ目の箱が四つの箱に並べて置かれた。
五つ目の箱には。“早織”と名前が書かれている。
「ふふふ。誰が一番先に箱の中身が無くなるか競争ね。」
史奈はそう言って早織に言う。
早織も頷く。だが、その顔は、怒っているような表情ではなく、むしろ、一緒に楽しんでいるようだった。
コミュニケーションの高い、葉月、史奈、結花が必死で、早織に、暗黙のルールを説明した。
最初こそ戸惑ったものの、早織はもともと、おとなしい性格だからなのだろうか。
生徒会の先輩やクラスの一軍女子に、逆らえないと思ったのか、そして、僕と一緒に行動できるメリットの高さを選んだのだろうか。
そのどちらを選んだのかもわからないが、何か希望に満ちているような。そんな気がした。
「あの。私。自信ないですけど、負けませんから‥‥。」
一通り、話を終えると、早織はそう言いながら、頷いた。
そう話しているうちに、僕の家に帰り、農家の離屋に着いた僕たち。
改めて、早織にお礼を言う、僕。
それを確認して、皆の表情が少し真剣な表情になる。
重い口を開く葉月。
「ありがとう。そして、ごめんね。八木原さん。本当は、私たちもこういう関係は、いけないことだとわかっているんだけど、こうなった経緯として、どうしても輝君を助けたかったからなんだ。」
葉月はそう言って、少し、深刻そうな顔をした。
「輝君。大丈夫?例のこと、つらいことかもしれないけど、八木原さんに話しても‥‥‥‥‥‥。」
ゆっくり、ゆっくり頷く。
そうだろうな。この話をしないと、こういう関係になっている状況を説明できなかったし、最後まで早織に納得してもらえないだろうとも僕は思っていた。
「そしたら、八木原さんにお話しするね。知っておいて欲しいことだから。そして、どうして、こんな関係になっているのか、私たちしか知らない輝君の秘密を話すね。」
葉月はゆっくり、ゆっくり口を開いた。
そうして、僕の方を見る。僕は頷く。
「輝君。本当は私たちと同じ学年なの。つまり、八木原さんとは一つ年上なんだ。どうしてかというとね、前の高校を強制的に辞めさせられたからなの。」
葉月の言葉に、早織は耳を疑う。そして、ごくっと。息を飲む。
ここからは僕が話した方がよさそうだなと思い、僕が話すことにした。
前の高校のこと、僕は今までどんな活躍をしていたかということ、中学のピアノコンクールの成績が、安久尾たちの息のかかった審査員によって、金の力で書き換えられたこと。
そして、安久尾の罪を全て、僕に濡れ衣を着せて、退学にさせられたこと。
話の途中からやっぱり僕は涙が出てきた。
それを見かねた、葉月と史奈が代わりに話の続きを話してくれた。
「私たちもね。偶然同時にそのことを知ったの。だから、こうして、助けてあげたいと思って。こういう関係になっているのね。」
史奈がそう話し終える。
そして、加奈子が歩み寄り。
「だから‥‥。お願い。八木原さんも輝のこと、助けてあげて。みんなで、助けて、乗り越えて欲しいの。だから‥‥。だから‥‥。」
加奈子は早織の手を強く握る。その目には僕と同じで涙がこぼれる。
早織はひたすら泣き続けた。やがて涙でぬれるからだろうか、眼鏡が汚れるからだろうか。眼鏡をはずす。
本当に可愛らしい顔から流れる涙を見て、何か申し訳なさをひしひしと感じる。
「ごめんね。橋本君。こんなに‥‥。苦しかったのに‥‥。無理なお願いをさせて。」
早織は、そういって自分を責めている。
どうやらこちらの立場も考えずに、新メニューの話をお願いしたことを責めているのだろうか。
首を横に振る僕。
「そんなことは全然ない。むしろ、料理、みんなで作るの楽しかったし。八木原さんとも仲良くなれて良かったと思う。本当にごめん。こんな、ことになって。」
僕も涙を拭き、僕と、早織はお互いのことを見つめ合う。
「ありがとう。一緒に、いてくれて。今は少しずつ、辛くない感じになってきている。」
僕はそう言うと、早織も泣くのをやめる。
「うん。良かった。」
早織はそう言って、僕に近づき、両腕を背中に回す。
「橋本君。本当に、ありがとう。」
早織の声は少し明るくなる。
「ありがとう、八木原さん。」
「名前で呼んでもいい?輝君。とかで。」
早織の言葉に、僕は首を縦に振る。
「私も、早織って呼んで欲しい。」
早織はそう言いながら、笑っている。
「もちろんだよ。早織。」
僕は、早織のことを初めて名前を呼ぶ。
それを見ている生徒会メンバーたち。
「ふふふ。これで、早織ちゃんも私たちの仲間ね。」
史奈はニコニコしながら喜んでいる。
「輝君。モテモテ。私も頑張らないと。」
葉月はうんうん、と頷き、気合を入れる。
「当然、私が一番よね。」
加奈子は今まで、バレエの発表会で仲を深めたのか、自信に満ちている。
「何を言っているんですか?最近は私の指揮を見てくれましたよーだ。」
結花も笑っている。
「私だって。」
早織は一呼吸置く。
「私だって、負けないもん!!」
早織はそう言って、僕の唇に彼女の唇を重ねる。
「わーっ、いいなぁ。私も。」
それを見た葉月。
「そうね。私も欲しい。」
史奈も同じだ。
「「「「私たちも、一緒にいい?」」」」
生徒会メンバーが声をそろえて言った。
ゆっくりゆっくり首を縦に振る僕。
断ることはできなかった。
こうして、心の傷を癒してくれる。
いけないこととはわかっていても‥‥‥‥‥‥。
何かを求めようとする僕。それに応えようとする、仲間の姿がそこにあった。
皆と唇を重ねる僕。
その後のことは、言うまでもない。強いて言えば。
僕は再び胸の鼓動が速くなった。
加奈子以外のメンバーはものすごく目を丸くし、加奈子は嫉妬のような顔をしていた。
早織の服を脱がす。当然だが、早織は眼鏡を外す。そうすると再び可愛い顔が僕の目の前に現れる。
だがしかし、さらに驚いたものがあった。
服を脱がして、そこから現れたのは。史奈、葉月、そして結花にも劣らない、大きな谷間だった。
「すごい。早織。こんな大きいのがあったんだね。」
「あらあら。イケナイ子ね。何で黙っていたのかしら。」
葉月、史奈の声。
加奈子は落ち着かせようと深呼吸して、さらに、勢いよく僕に抱き着くのだった。
私も見て。そんな感じで、加奈子は僕を抱きしめた。
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