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40.トラウマを乗り越える時、その1~期末試験~

 

 さて、六月もそんな感じで、月末を迎える。七月は合唱コンクールの行事がある。

 だが、それを前にして、近づいてくるのは一学期の期末試験だった。


 生徒会室では、生徒会メンバーが、作業を終えて勉強をしている。僕もそこに混ざる。


「今回も加奈子が一番だよね♪」

 葉月はそう言いながら、加奈子のノートを見せてもらい、頑張っている。


「そういう葉月も余裕でしょ。」

 加奈子はそう言って、葉月のノートを見る。

「ほら、これなんかすごく見やすいし。」

 加奈子はそう言いながら、なんで私のノートを見るの?というような顔をしている。


 確かに葉月も、そこそこ成績は良い。順位も、加奈子ほどではないが、上位の三割くらいの層にはいるらしい。


 問題は‥‥。

 史奈、結花、義信の三人。


「ほらほら。会長!!試合が期末試験の直後にあるのは分りますが。勉強しておかないとだめですよ~。」

 葉月はそう言いながら、史奈の背中をさする。


「そうよね~。でも、眠くなるのよね~。」

 史奈は口をあんぐり開けて。堂々と大きなあくびをしている。

 そして、小さな体を目一杯広げて、大きく背伸びをしている。


 こうしてみると、史奈が一番背の高い人物に見える。バレーボール部所属ということもあってか、一生懸命、それに悩み、カバーしてきたのだろう。


「わかります。わかります~。チョー眠いっすよね~。」

 結花が同情するかのように答える。


「ふう。こっちも安心します。このお二方を見ていると、勉強しなくてもいいような。」

 義信もそれに同情する。


「コラッ!!そこ。生徒会役員として、恥ずかしい成績は取って欲しくないよ。」

 加奈子が喝を入れる。


「「「は~い。」」」

 三人は、勉強を開始するが、ぼんやりと教科書を眺める。

 勿論、その目には力が入っておらず、どうも、集中していないようだ。


 一方の僕はというと。悩んでいた。

 教科書の内容。勿論わかる。

 それにこの花園学園は前の高校より、授業の進むスピードが少し遅いようで。まだまだ以前やったことのある内容だ。


「輝。どうしたの?」

 加奈子が聞いてくる。

「気持ちが悪かったりする?」

 葉月が僕の目を見てくる。


「すみません。何でもないです。別に。」

 僕は黙々と教科書を見る。


「まあでも、輝君も余裕だよね。十番以内の成績優秀者に名前があったし。」

 葉月もルンルン気分で言ってくる。


 それを聞いた、結花と義信。

「そうだ。係長、勉強教えてください。二次関数とか。」

「やったー、ハッシーが居れば、これで‥‥‥‥。」


「ああ。大丈夫。ここはこうで。」

 義信から渡された、数学の二次関数の問題を黙って解く。


 さらには英語の長文を黙って解いて、結花に渡す。


「す、すごいっすよ。係長。よ~し。無双するぞ~。」

 義信は上機嫌だが。


「待って、待って、ハッシー。確かにこれが正解でも、なんで正解かわからないよ。」

 結花はそう言いながら、先ほどの加奈子、葉月と同じように僕の状態を気にしている。


「何でもないですよ。」

 僕は素っ気なく答えたが。


「何でもなくないよ!!」

 結花が机を叩く。


 それに呼応したのか、眠気が覚めた史奈。


「そうね。今の気持ちを素直に話してみたら。輝はもう。一人じゃないんだから。」

 史奈の優しい口調に僕は自然と言葉が出てくる。


 去年の期末試験で、カンニングが疑われ、呼び出しを食らい、安久尾の罪を一方的に擦り付けられ、退学されたことを話す。


「ごめん。すごく。トラウマ。この時期。」

 僕はそう言って、再び黙々とテキストを読んでいく。


「あちゃー。」

「それは、結構、精神的にきついんじゃ‥‥‥‥。何でそんなこと黙ってたの輝?」

 葉月、加奈子は困った顔を一緒にしてくれる。


「でも、大丈夫よ。そうだ。これからは期末試験まで、輝の家で、勉強会しましょ。」

 史奈の思い切った提案に。


「だ、大丈夫ですよ。そこまでしなくても。」

 僕は史奈の提案に焦ったが‥‥。


 史奈は僕の背中に腕を回す。

「気にしなくていいよ。嫌なことは全部、私たちが受け止めてあげる。」


 史奈はさらに唇を僕の耳元に近づける。

「輝君の全部を、私に‥‥。私たちに‥‥。出していいよ。」

 そうして、僕の耳たぶを史奈は少し噛む。

 痛い。というわけではなくて、頭から足までに強烈な違う意味の電流が駆け巡る。


「「あ。会長ずるい!!」」

「私も!!」


 葉月、加奈子、結花も声を揃えて、僕に駆け寄る。


 そうして、翌日以降、試験期間中は僕の家で勉強会をすることになった。

 史奈も部活の終わりから合流したり、加奈子はバレエのレッスンで途中ぬけたりしたが。

 そこは入れ替わりを繰り返して、必ず誰かが僕の家にやってきて、一緒に勉強会をした。


 さらに義信も僕の家にやってきたのだが、彼は空気の読める人間だった。日が沈むと。

「それじゃ、係長。ごゆっくり。大丈夫です。誰にも言わないので。」

 そういいながら、毎日、自分の家に帰っていった。


 その後のことは言うまでもない。

 諸々の事情で、全員がそろうことはなかったが。

 僕の部屋にある、名前の書かれた四つすべての箱から、少なくとも一枚以上、中身を取り出していた。


 そうして、期末試験を迎えた。

 同じクラスの結花が試験開始直前まで話してくれた。

「大丈夫だよ。ハッシー。絶対大丈夫!!」

 そんな言葉を何度も、何度もかけてくれる。


 各教科も少し問題を解くペースは遅かった。

 だが、試験期間中の僕の席は、出席番号がクラスで一番最後のため、一番後ろの窓側。

 そして、一年次の選択科目は実技科目のみ。こういった科目は全て全員同じ教室で授業ということもあり助かった。

 それゆえに、結花の後ろ姿が確認できる。


 ―頑張れ、頑張れ、ハッシー!!―

 そんな風に結花の背中は話している。



 そして。

「キーンコーンカーンコーン。」

 期末試験、最後の科目の終了のチャイムが鳴る。


「みんな、試験お疲れさまでした。いろいろあるが、しっかり反省して、頑張るように。解散!!」

 担任の佐藤先生はそう言って、ホームルームを終えた。


 そう、僕が呼び出されることもなかった。

 安心した。


「ねっ。ハッシー。呼び出されなかったでしょ。」

 結花は得意げになって、親指を立てた。


 そして、試験は返却され。今回も十番以内の成績優秀者の張り紙に僕の名前があり、そして、加奈子は相変わらず、学年トップだった。


「さすが、輝君。本当に頑張ったね。」

 張り紙を一緒に確認した、葉月は一緒に喜んでくれた。


「ありがとうございます。皆さんのおかげです。」

 僕はホッと胸をなでおろす。


「ハッシーのおかげで、私も赤点は免れたって感じ。」

「俺もっす。ありがとうございます。係長!!」

 結花と義信も、僕の家で一緒に勉強会をしたからだろうか。

 二人は前回よりも成績がアップしたようだ。


 こうして、トラウマを一つ乗り越えることができた。

 本当に、感謝しかなかった。






今回もご覧いただき、ありがとうございます。

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