39.小さなプレゼント
週末が空けて、月曜日の朝。教室に入る僕。
「は、橋本君。」
教室から、緊張気味の声が響く。
見ると早織が手招きしている。
僕はすぐに早織の元へ。
慣れない大きな声で呼んだのだろう。早織の顔が少し赤い。
「あ、あの、本当に、週末はありがとう。そして、その、新メニューを考えてくれて、ありがとう。あのね‥‥。」
早織は口ごもる。
「私のお店、おかげで、売り上げが先週と比べて、かなり上がったの。本当に、ありがとう。」
早織は緊張しながらも、話してくれる。
週末食べた新メニューは上々の売り上げだった。確かに最初に来たときも大きくお客の出入りが上々だった。
「へえ。すごいね。やったじゃん。」
僕はまるで、自分のことのように喜ぶ。
聞けば、僕たちが土曜日の昼に帰ってからもお店には客足が絶えなかったらしい。
そして、その噂を聞きつけた、客が翌日の日曜日に殺到。
日曜日は売り上げがかなり跳ね上がり、以前よりではないが、徐々に回復しつつあるそうだ。
「だからね。これ‥‥。」
早織は紙袋を渡される。
「生徒会の皆さんで。どうぞといって渡してね。」
紙袋の中にはお礼のお菓子が入っているそうだ。
さらに。
「そして、これは橋本君に、お野菜、これからも持ってきてもらうから。お礼で。」
紙袋の中にはお菓子の他に小さな袋がある。
「ごめんね、小さいキーホルダーなんだけど。自転車のカギとかにつけてね。ああ、橋本君が使わなそうだったら、伯父さんに、車の、トラックのカギに着けて欲しい。」
綺麗な、青色の革製のシンプルなキーホルダーがそこにはあった。
「ありがとう。なんか申し訳ない。」
僕は頭を下げる。
「ううん。いいの。本当にありがとう。」
早織から思いがけない、小さなプレゼントをもらった僕。
キーホルダーのデザインも本当にシンプルなものだったため、僕は自転車のカギに着けることにした。
ちなみに、伯父のトラックのキーにも同じような色違いの革製の物がすでに使用されているので、今さら色違いの物をもらってもと流されそうだったため、僕がありがたく使わせてもらうことにした。
その日の生徒会は、早織がくれたお菓子を食べながらの作業になった。
「本当に美味しい。良かったわね。輝君。」
史奈はそう言いながら笑っている。
そして、次から次へと、頬張るのだった。
「う~ん。最高ね。」
史奈はニコニコ笑っている。
「八木原さんも笑顔になってよかった。」
結花はそう言いながら、史奈と同じように、一人黙々とお菓子を食べ続ける。
義信も同じだ。黙々と貪るようにお菓子を食べる。
「いや~っ。係長のおかげで、また一人、救われましたな。最高じゃないですか。」
義信も笑っている。
「みんな、お菓子ばっかりで、仕事に集中してよね。」
加奈子はそう言いながら、結花、義信と対照的に黙々と仕事をする。
さすがバレエの人だ。
こういう面で、体重に気を付けているようだ。お菓子も少量しか食べていないし、これから食べるであろう分は自分の席の目の前にキープしている。
葉月も同じで、自分の席の目の前にお菓子をキープしていた。
やはり、お菓子作りだけは自信があると思っているのだろう。
早織の手作りのお菓子だと思うと、自分が負けたと思うようになるのだろうか。結花と義信に比べて、手を付けていないのがうかがえる。
だが、そんな風に思うのはほんの一瞬で、一つ一つのお菓子はとてもおいしそうに食べる葉月の姿がそこにはある。
やはり、女子なのだろうか。お菓子を食べることに関しては、話は別なのだろう。
「うん。美味しい。やっぱり、私の作るものと違うね。」
葉月は、大きく頷く。
僕も結花や義信ほどではないが、早織からのお菓子をいただく。
本当に美味しい。
そんなこんなで、仕事を終えての帰り道。
さすがは女子たち。生徒会メンバーは僕の自転車の鍵のキーホルダーに目が行く。
「あれ、輝君。キーホルダー変えた?」
葉月が聞く。
「あっ。ホントだ。輝、おしゃれね、それ。」
加奈子も頷く。
「ああ、八木原さんから頂いた。畑の野菜でお世話になるから。って。気に入らなければ、伯父さんにあげてって。」
「「「へえ~。」」」
生徒会メンバー、葉月、加奈子、結花の三人の声がハモりだす。
ちなみに、史奈は今日もバレーボール部で帰りが遅くなるそうで、生徒会の仕事を終えると部活のために体育館へ移動していったのだった。
「八木原さんがねぇ。」
「そうなんだね。」
結花と葉月が意味深な顔で言う。
はあ~。というため息の後に。
「あっ。」
という表情をする加奈子。
「どうして、選挙と、バレエの発表会の時にお礼のプレゼントを渡さなかったのだろう‥‥。」
加奈子はそう呟く。そして、加奈子は結花と葉月とは対照的に、ものすごく後悔した表情に変わる。
少し考え事をする加奈子。そして、ハッと思いついたかのように、僕の方向を向く。
「ねえ、輝。輝の誕生日って、いつ?」
加奈子は興奮したかのように質問してくる。
―これだ!!―
という表情をする。葉月と結花。
―加奈子ナイス!!―
葉月は加奈子の肩をポンと叩く。
結花はニヤニヤ歯を見せながら、親指を立てる。
「えっ。えっと。‥‥‥‥。」
僕は少し戸惑う。
祈る表情で見つめる三人。
僕は八月六日の日付を言う。
「えっ、私と一か月違い。な、なんだろう。すごくうれしい。」
加奈子はそう言いながら笑っている。
「ちょうど夏休みで、今年は週末に当たるね。」
葉月はニヤニヤしながら笑っている。
「よーっし。ばっちりメモッとくね。あ、元会長にも教えとこ♪」
結花は笑いながら、スマホを取り出し、カレンダーアプリを開く。
なんだろう。少し期待していいのだろうか。
「あ、ありがとうございます。」
僕は照れたように笑う。
「いいっすねー。係長。最高の夏休みにしてくだせえ。」
義信はそのやり取りを見て、ニヤニヤ笑っている。
「ふう。ハッシーの誕生日。あまり先じゃなくて超ラッキー。」
結花はそう言いながら、スマホを操作する。葉月と加奈子も同じように頷いている。
いつもと同じ、帰り道。
そんな感じで、早織からの小さなプレゼントをもらった一日が終了していった。
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