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38.新メニューお披露目

 

「あ~。あ~。あ~。あ~。あ~。」

 義信の裏声がいい感じに響く、生徒会室。


「係長、お疲れ様です。調子はどうですか?」

 その裏声と、彼の本来の声色のギャップが少し面白い。


「合唱コンクール?大分いい調子だよ。結花の指揮も凄く成長していきたし。」

 今日の音楽の授業の感想を普通に言う。


「おお、いいっすねぇ。いいっすねぇ。そんで係長は安定の伴奏でしょう。きっといい感じに歌えるんでしょうなぁ。」

 義信はそう言いながら、笑っている。

 僕は結花の方を見る。結花も笑っている。


「本当に、マジでハッシーすごいよ。なんかちょっと自信がついてきた。」

 結花も笑顔になりながら義信に応える。


「いいっすねぇ。一年B組は。僕らE組は、確かに、『旅立ちの日に』で有名ですが。なんか、まとまらないといいますか。僕もこんな感じですし。」

 義信はそう言いながら笑っている。


「ははは。そうなんだね。そういう時もあるさ。」

 僕はそう言いながら、義信の肩を叩く。


「そうっすよね。それならいいすね。」

 義信はそう言いながら、僕と結花を席に促した。


「ふふふ。みんな、頑張っているようで、何よりね。」

 史奈はそう言いながら、笑っている。今日も、彼女は生徒会室に来ていた。


「会長~。そんなところに居ないで、手伝い、行かなくていいんですか?試合近いんでしょ?」

 葉月は史奈に向かって言う。手伝いとは、バレーボール部のことだろうか。


「ふふふ。そうね。こうして、輝君の顔も見れたし、バレー部の方にも顔出そうかしら。」

 史奈は僕の方に向かって、手を振ってくる。


 そうして、生徒会室の方の扉に向かい、バレーボール部の方に向かうが。

「わからないことがあれば、LINEしてね。待ってるから‥‥‥‥。」

 史奈は僕の正面に来て、両方の手で、僕の頬を触り、さらに両手を僕の背中に回す。


「うん。わかったよ。史奈さん。」

 僕は彼女の耳元で、言う。


「ふふふ。待ってるね。」

 そういって、史奈は生徒会室を出て行く。


「あちゃ~。余計火に油を注いじゃったか。」

 そう思いながら、嫉妬の顔を浮かべる葉月。

「ふふふ。葉月。私も負けないわよ。さっきのは、私じゃ絶対できなかったけど。」

「そうですよ。葉月先輩。私もいますよ。勿論、前会長だって、どんな手を使ってくるか‥‥‥‥。」

 加奈子、結花がニコニコ笑っている。

 確かに史奈は年上のお姉さん。背は低いが、こういうところだけは、やたらと大人の色気というものがある。


 だが、史奈が出て行ってから、ものの数秒で、再び勢いよく、ガラガラと生徒会室の扉が開く。

 扉を開けたのは史奈だった。


「えっ、何で、数秒で戻って来たんですか?会長?」

「私も驚きました。バレーボール部に行ったのかと。」

 葉月、加奈子がドキッとする。


「あらあら。すぐに戻ってきても不安なのかな?ちょっと急用を思い出してね。」

 史奈がニコニコ笑う。


「はいは~い。良い子の皆はここに、集合!!」


「い、一体、何ですか?」

 葉月が史奈に向かって言うと。

 てへぺろ~。という顔を史奈はしている。


「さあ、入って入って。」

 史奈はそう言いながら、一人の生徒を生徒会室に通した。


 入ってきた人物はよく知っている人物だった。

 黒ぶち眼鏡の奥から、早織の緊張した瞳が伝わってくる。


「あ、あの‥‥。失礼します。」

 恥ずかしそうに頭を下げる、早織。


「みんなに、用があってきたみたいよ。私が部屋を出て、緊張しながら、生徒会室の前に居たから、私が様子を見て声をかけてきたんだけど。へへへ。」

 史奈はゆっくりと笑う。

「さあ、さあ。」

 史奈の表情をみて、早織は勇気を振り絞る。


「あ、あの、み、皆さん。この間はありがとうございました。新メニュー。次の週末から。出るので、食べに来てほしくて。その‥‥‥‥。」

 早織はそう言いながら、早織の家族の経営するお店。森の定食屋の新メニューのチラシを配る。そこには、先週末に、僕たちの家で、作った料理のイラストが並ぶ。


「す、すごい。もう、新メニューが出るんだね。」

 葉月は興奮しながら言う。


「はい。家族みんなに話したら是非って。」

 早織は少し恥ずかしくなりながらも、笑顔でいた。


「それで、橋本君に、お願いがあるんだけど。」

 早織は、さらに、顔を真っ赤にしながら、週末の朝に畑の野菜を届けに来てほしいことを告げた。もちろん、断る理由もなく、伯父に話を伝えると、言っておいた。


 少し楽しみが増えた今日一日。僕たちは力いっぱい、生徒会の仕事をこなしていった。




 そして、再び、週末の朝を迎える。

 僕は、伯父のトラックに乗り込み、市場に行くついでに、畑の野菜を、森の定食屋に届けた。

「おお、雰囲気もいい店じゃねえか。」

 伯父はそう言いながら、併設されていた駐車場にトラックを止めて、野菜や果物が入った段ボールを取り出す。

 早織は、早朝にもかかわらず、待っていてくれた。


「あ、ありがとうございます。」

 早織はそういいながら、僕と、伯父に頭を下げる。

 そうして、僕と伯父と早織の三人は野菜の入った段ボールを運び入れた。


「それじゃ、お昼にまた。」

 僕は、そういって、伯父の運転するトラックに乗り込む。

「うん、待ってるね。」

 早織はそう言って、見送ってくれる。


 そして、お昼時を迎えた。

 生徒会役員全員で、僕の家に集合し、早織のお店に向かう。

 今日ここには、義信の姿まである。義信は僕の家、伯父の家を葉月に教えてもらって来たのだった。


「すっげーっ。広い農家っすね係長。」

「まあね。でも、ここは伯父がやっているから。それを伯父に行ってあげてよ。」

 義信は大きく頷いたのだった。


 これで、生徒会メンバーで僕の家、つまり伯父の家を知らない人は居なくなった。


 そして、今日は史奈の午前中の部活が終わるタイミングを待ち、史奈が僕の家に来てから、お店に行くことになった。

「だって、皆が、一生懸命考えた、料理なんでしょ。それは、食べに行くわよ‥‥‥‥‥‥。」

 そういいながら、史奈は足取りは軽いが、顔は渋い顔をしている。


 ―苦手な野菜が入っていなければいいけれど‥‥。―

 そんな表情だった。


 とはいえ、史奈がどうしても食べてみたい、とかなり興味津々で、熱心だったので、この時間に行くことになった。


 史奈、義信と徒歩組にペースを合わせたため、自転車で行くよりは少し時間をかけて、森の定食屋に到着する。


「へえ、おしゃれなお店ね。」

 史奈は定食屋の外観を見るなり、少し気に入る。


「すみません、沢山歩かせてしまって。」

 僕は史奈に謝るが。


「気にすることないわ。部活でも、このくらいの距離は走るわよ。」

 史奈はそう言って、ニコニコ笑う。義信も同じだった。


 良かった、と安心する。自転車組の、僕と、葉月、加奈子、結花。

 そうして、僕たちは、森の定食屋の扉を開ける。


「いらっしゃいませ。」

 早織に頭を下げられ、出迎えられる。


「あっ。来てくれたんだね。」

 早織は笑顔で迎える。


 お店の中を見るとビックリ。

 僕以外にも他のお客さんがいる。


「すごいね。お客さんが、かなり来てくれているね。」

 僕はそう言いながら、笑う。


「うん。事前に宣伝をしたからかな。まだまだ、満席というわけにはいかないけど、少しお客さんがもどってきたかな。」

 早織はそう言いながら、僕たちを席に案内する。


「みんなの分は予約席みたいな感じにしているから、大丈夫だよ。」

 早織はそう言って、案内した席に僕たちを座らせた。


「さて、注文は‥‥‥‥。みんな、聞かなくてもわかります。新メニューですよね。」

 早織は注文を取ろうとするが、そこは暗黙の了解。目当ては新メニューとわかっている。

 僕たちは頷いた。


「それじゃ、カレーと天ぷら定食がありますので、カレーの人。」

 そう聞くと、全員カレーに手を挙げた。


「皆さんカレーですね。デザートも付けますか?」

 これも満場一致で頷いた。


 そうして、季節のカレーが運ばれてきた。何だろうか。おそらく、早織の母か祖母が作ったからだろうか。そう、プロの料理人が作ったからだろうか。

 確かにカレーなのだが、この間とは全く違う、よりスパイスが効いていそうなカレーが出てきた。


 一口目を食べる。

 本当に美味しい。

「「「「すごく美味しい!!」」」」

 全員が声をそろえる。


「さすが、輝の畑ね。」

 加奈子はそう言って、カレーを食べる。

「まあ、正確には伯父さんの畑だけど‥‥‥‥‥‥。」


 僕はそう言いながら、ゆっくり食べる。そう。ゆっくり味わうように。


「いやいや、どっちでもいいじゃないですか、係長ぅ。本当うまい。」

 モリモリと勢いよく食べる義信。


「本当に、こういうお店の料理人が作ると、マジで映えってるじゃん。食べる前にインスタしちゃおう。」

 おもむろにスマホを取り出し、写真を撮る結花。


「あ、私も私も。」

 と葉月も同じようにスマホを取り出す。


「しまった。」

 という表情をする、加奈子と僕。


「そうだ。写真、撮っておくべきだったね。輝。」

 加奈子はそう言うと。


「そうですね。でも、デザートは写真、撮りましょう。」

 僕は加奈子とお互いに目を合わせて、笑う。


 史奈もおいしそうに、黙々とカレーを食べている。

 その表情は野菜が苦手、という表情ではなさそうだ。


「瀬戸会長、大丈夫ですかぁ?」

 結花が聞いてくる。


「何言ってるの?カレーだったら、はじめから言ってよ。カレーならどんな野菜が入っても、大好きよ♪」

 なるほど、確かに、カレーであれば、子供からお年寄りまで、皆が食べられる料理だ。

 小学校の頃、給食の人気メニューもカレーだった理由も、これを見てうなずける。


 本当に料理をおいしそうに食べる史奈の姿がそこにはあった。


 そして、デザートが運ばれてくる。

 ラズベリーソースのアイスクリームとパンケーキだった。

 こちらも、何だろうか、この間みんなで作ったデザートよりも、本当に美味しそうに見える。

 早織がしっかりと復習して、自分のものにした結果なのだろう。


 今度は忘れずにスマホで写真を撮る、僕と加奈子。

 お互いに、親指を立てて、笑顔になる。


 先ずは、アイスクリームを溶けないうちに食べる僕たち。


「本当に冷たくて最高!!」

 味わいながら食べる葉月。

「マジ、最高じゃね。良かったね、八木原さん。」

 結花がそう言うと早織は笑っていた。


「ホント‥‥‥‥。ウマいっすね。」

 義信が少し弱々しく言って居る。

 だが、どうしたの?と、声をかけるものは居ない。


 僕もそれを見て笑っている。

 うん。勢いよく食べて、頭がキーン、となった義信の姿がそこにはあった。


「私たちは味わって食べようね。輝。」

 加奈子が笑っている。

「うん。そうだね。」

 僕も笑っている。


 続いて、パンケーキを食するが、これも絶品だった。

 そう、久しぶりに活気に満ちた食事のひと時がそこにはあった。


 そうして、楽しい食事のひと時を終え、森の定食屋で会計を済ませようとする僕たちだが。


「ああ。お金は良いよ。」

 早織がニコニコ笑っている。


「い、いや、でも。」

 僕は首を横に振るが。


「本当に、お金は結構ですよ。本当に今回はありがとうございました。」

 そう言いながら、見せのレジの奥、つまり厨房から、人が、二人出てきた。


 早織も合わせて三人、三人ともどことなく似ている。


「紹介するね。お母さんとおばあちゃん。」

 早織の言葉に、彼女の母と祖母は頭を下げる。


 僕たち生徒会メンバーも頭を下げる。


「本当にありがとうございました。ここまでご協力いただけるなんて。」

 早織の母はニコニコと頭を下げる。


「早織からもらった作り方を基に、私がアレンジしてスパイスやら見た目やらを少し工夫してみました。いかがでしたか。」

 早織の祖母はニコニコ笑っている。


「は、はい。とてもおいしかったです。」

 僕は早織の祖母に言う。


「その言葉だけで十分ですよ。本当になんとお礼を言っていいか。」

 早織の祖母は目の奥に熱いものを浮かべながら笑っていた。


 そう言うことならば、彼女たちのお言葉に甘え、僕たちは店を出たのだった。

 その時も、早織、そして、彼女の母と祖母は深々と頭を下げ、僕たちを見送ってくれたのだった。


今回も、ご覧いただき、ありがとうございます。

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