35.畑の野菜
翌日の日曜日。
僕たちは、再び【森の定食屋】に赴き、早織を迎えに行く。
早織は、今日は休んでいいとのお店、つまり早織の母親から、許可が下りたので、僕と葉月そして、結花、さらに加奈子は、みんなで自転車に乗り、結花を迎えに行った。
「私も、昨日、食べたかったなぁ。」
加奈子はそう言いながら不満そうな顔をしている。
ちなみに、加奈子は昨日の土曜日はバレエのレッスン。そして、次の発表会などのミーティングのため不在だった。
「まあ、いいじゃない。今日は思いっきり食べれば、そのための輝君の家での新メニュー会議なのだから。」
葉月はそう言って、加奈子をなだめる。
「そうよね。」
加奈子は頷く。
そして、史奈は今日も部活で、練習試合ということで、不在。
「ごめんね。結構大事な試合が近づいているのよね~。その時は、みんな、応援に来てほしいなあ。まあ、私は、相変わらずマネージャーポジションなので、出ないけど‥‥。」
そういいながら、今朝、僕たちは雲雀川にかかる橋の手前で史奈と別れた。
雲雀川に架かる橋。つまり。僕の伯父の家の側で、史奈と別れ、史奈はそう言って、一人気合を入れながら、橋を渡り、高校の方へと向かって行った
つまり、僕の伯父の家から史奈は高校へ向かうということになる。
そう。今週末も。四人の美女と一夜を過ごしてしまった。
今回は、以前のように原田先生からもらったアイテムは無いので、僕が薬局で箱詰めのものを購入していた。
しかも四箱。箱の表面にはそれぞれの名前、そして、その名前の下にハートマークを書いて。
「輝君が一人で購入するのも負担になるし。」
と、葉月。
「そうね。割り勘で。四人別々に買って、誰が一番早く無くなるか競争しましょう。」
と、史奈。おいおい。競争って。
しかも、その史奈のアイディアに全員が頷く。絶対一番に使い果たしてやると意気込みながら、闘志を燃やす目つきになった。
そして、昨夜はその四つの箱からそれぞれ一つずつ、使っていたのだ。
笑顔とため息が同時に出る僕。いずれは一人にしないといけない。傷つけているのではないかという何かが襲ってくる。
そう思いながら、自転車で、【森の定食屋】に向かう。
【森の定食屋】は開店前であった。午前中の速い時間なので、それも当然だ。
「へえ、かなり素敵なお店。」
加奈子が目を丸くする。
その玄関の前に、早織が待っていた。
「お待たせ。八木原さん。待った?」
僕は声をかける。
「橋本君。北條さん。花園先輩。それに‥‥。生徒会長さんまで。」
僕たちは手を振るが、早織は、生徒会長である加奈子を見た瞬間、緊張してしまう。
「ははは。ごめんごめん。生徒会の活動もしているからさ。今日も折角だから見てみたいと思って。というので、連れてきたんだ。」
僕は早織にそう説明する。
「そ、そうなんだね。」
早織は不器用にも初めましてと、加奈子に挨拶をする。
加奈子も微笑み返しながら、挨拶をする。
そうして、早織も自転車に乗り。僕の家。つまり伯父の家に案内した。
伯父の家に到着する僕たち。
「ここが、僕の家。正確には、僕の伯父さんの家で、居候させてもらっているんだけど‥‥‥‥。」
僕は早織に説明する。
するとどうだろう、早織の眼の色が変わり、一面の畑を見た瞬間。
「す、すごい。農家なんだ。」
早織は少し表情を緩ます。
「そうなんだよね。使えそうな野菜、あるかな?」
僕はそう言いながら、伯父の家の畑に案内する。
「おーっ。輝、新顔がいるな。どうしたんだい?」
様子に気付いた伯父が母屋から出てくる。
「ああ、同じクラスの八木原さん。実は‥‥‥‥。」
ここに来ている理由を説明した。
「おお、そういうことなら、たーんと、持っていってくれよな。俺も新しい取引先ができて嬉しいよ!!市場に出すものより安くしてやらあ。」
伯父は威勢よくそう言いながら、一緒に畑を案内する。
「あ、ありがとうございます。」
早織は伯父に向かって、頭を下げた。
そうして、今育てて実を結んでいる野菜を案内することになった。
僕は、畑の一画のビニールハウスへと案内する。
「最初は、トマトなんだけど。いろいろ、大きさがあって。」
僕は説明する。
「そんなんじゃ、わかんねーよ。ここら辺にあるのは普通より少し大きい奴で、向こうにあるのが、いわゆるミニトマトだな。簡単に言えばな。本当は品種とか教えたいんだが。まあ、どんな料理に使いたいかでおすすめを取って来てやるよ。」
伯父はそう言って、補足で説明する。
早織はトマトの様子をじっと見ている。
「今は、丁度、春の野菜の終わりと夏の野菜の始まりだからな、そういう意味ではいろいろあるぜ。」
伯父はそう言いながらさらに補足する。
一旦ビニールハウスを出て、次はキャベツだ。
「キャベツは春の野菜なんで、もう収穫は終わりごろで、ここにあるのが最後かな。」
僕は早織に説明していく。
「うん。すごくおいしそう。」
早織は笑いながらそれを見ている。キャベツ畑にはモンシロチョウも飛んできている。
「おっと、いけない、いけない。」
そういいながら、僕は防護ネットをキャベツに掛ける。
「虫食い防止ね。」
早織はそう言いながら笑っている。
「そうだね。あまり農薬は使わない。虫が食べるということはそれだけ美味しい証拠。」
僕はそう言いながら、伯父の格言のようなものを披露していく。
その他にも、ピーマン、ナス、キュウリ、玉ねぎ、ジャガイモ‥‥‥‥。
ありとあらゆる野菜の畑を回った。
最後は、山の斜面のような場所にできている畑とビニールハウス。
ここは、簡単に言えば、果物を育てている。
「すごい、果物も育てているんだ。」
早織は目を丸くする。
ここも育てているものを数えるときりがない。本当にたくさんの果物の木がある。
「特に力を入れている果物ってある?」
早織が聞いてくる。
「それなら三つあるかな‥‥‥‥‥‥。」
僕は早織に教える。
「二つはここにある、ベリー系。イチゴとラズベリーなんだけど。昨日のデザートのラズベリーソースとかここので作れたりする?一応、レストランとか、ケーキ屋さんとか、デザートのそういう需要があるから、ベリー系を育てているんだけど。」
僕はイチゴとラズベリーの果実のあるビニールハウスの中へ案内する。
実際に確認する早織。
「うん。ラズベリーソースとかここのものを使えそうかも。」
早織はニコニコと笑っている。
「もう一つは?」
早織が僕に聞いてきたので、僕はベリー系の苗を育てているビニールハウスをあとにして、そのもう一つ、特に力を入れている果物の木の元へ案内する。
その木には、まだ実が熟していなかった。
「この木なんだけど。今の時期は入手ができないなあ。」
僕はまだ実がついていない、数本の連なっている木を指さす。
「これは何の木?」
早織はそう言う。
「そういえば、全然気づかなかった。私も、最近輝君の家に遊びに来るようになったけど、ここに来て実をつけたところ見たことがない。」
葉月は目を丸くする。
「言われてみればたしかに。一体何なんだろう‥‥‥‥‥‥。」
結花も真剣に考える表情。
そのままクイズ大会に持ち越す展開となる。
「おおっ、みんな悩んでいるな~。」
伯父が横から声をかける。そして。
「実は、これは俺の自信作。当たった人には豪華景品あり。俺が実際に、唯一、飛行機に乗って、現地まで行って、育て方を学んだもんだぜ。」
伯父は笑いながら言う。
そういえば、伯父はこの果物を育てたいがために、唯一海外へ行って学んだのだ。
他の野菜は日本でも学べるところはあるが、これに関しては、海外へ出て行って、学んだ方がいいと思ったと。
「ほい。『このー木、何の木‥‥‥‥‥‥』」
伯父は楽しく歌いながら、悩む葉月、結花、早織を見て笑っている。
それを楽しそうに見る僕と伯父。そして加奈子。加奈子は笑いながら、楽しそうに見ている。
悩んでいる葉月、結花、早織の三人が降参した顔になって、加奈子が口を開く。
「ふふふっ。これは葡萄の木よ。そうですよね?原田先生から教わりました。実際に、ローザンヌとか海外に行って、沢山ワインを飲んで。この葡萄の農家をめぐるのも楽しかったって。」
加奈子はそう言いながら、答えた。
「おお、さすがは、輝から聞いた通りの人だよ。成績優秀で、海外が本場のバレエを習っている子は違うね~。負けた。伯父さんの負けだぁ。」
伯父はそう言いながら笑っている。
「葡萄は秋だからね。だから。まだ実は付けていないんだ。」
皆が、ああ~っ。という顔をしている。
「へえ。素敵。」
早織はそう言いながら、葡萄の木を見つめる。
「果物はよくわかったと思う。次は、一通り見た中で、力を入れているおすすめの野菜とかは?」
早織が僕に聞いてみたので。
「そうだなぁ。野菜は季節ごとに育てているのが違って。まあでも、ビニールハウスにある、トマトとか、キュウリとか、ナスとかは比較的温度も温かいので、長期間収穫している。」
僕はそう言って、早織に説明する。
「そうなんだね~。」
早織は考える。
「どう?八木原さん。使えそうなのはあった?」
僕は聞いてみる。
「うーん。えっとね。ちょっと難しいかなぁ。季節ごとに野菜が違うとなると‥‥‥‥‥‥。」
早織は考える。
確かにそうかもしれない。今までは市場に野菜を出荷していただけだが、こういうレストランとかに野菜を出すということは、同じような野菜を毎日出さないといけなくなってしまう。
「はーい。はーい。はーい。」
結花が手を挙げる。僕は結花に振る。
「そうしたら、季節ごとにメニュー入れ替えてみれば?例えば、季節の野菜カレーとか。あの店、確かに、いろいろなメニューはあったけど、そういう、カレーみたいなのって無かったし。」
結花は最初は得意げに言ったが、だんだんと不安になる。
しかし。
「「「それだ!!!」」」
僕たちの声がそろった。
「結花、ナイス!!」
葉月がそういう。
「うん。私もそう思う。」
加奈子もうんうんと頷く。
「ああ、いいかも。ありがとう。北條さん。」
早織もその案に乗ったらしい。
早速、畑の野菜を少しずつ収穫し、母屋のキッチンを借りることになった。
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