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20.演説会本番

 

 さて、そんな選挙戦もいよいよ終盤。

 といっても校内の選挙戦なので、国会議員の出口調査のように、誰に投票するなどの回答はないため、本当に、開票されるまでドキドキな瞬間だ。

 そして、選挙活動のメインイベントとなるのが、生徒会立候補者による演説会だ。

 そこには推薦人も登壇してスピーチをするという。


 僕は、生徒会長の加奈子先輩の推薦人。演説会での登壇も予定している。

 そのせいか、日が経過するにつれて、少しずつ緊張し来ていたのだった。

 周りはほぼ全員女子生徒、その前での登壇はいくらピアノの発表会で場慣れしている僕でも、別次元で緊張する。


 演説会に先立ち、担任の佐藤先生は、ホームルームを実施する。今回の内容は、開票に備えて、開票作業を行う選挙管理員の選出だ。


「さてと。生徒会選挙が盛り上がっているが、重要なことを決めなければならない、このクラスから代表者二名。選挙管理委員を選ばないといけない。やることは開票作業のみなので、そこまで負担はならないだろう。すでに承知の通りだが、橋本は今回の立候補者の一人の推薦人のため、橋本以外で二人だ。誰かやりたい人はいるか?」


 一瞬クラスの皆が僕の方を見たが。それもほんの一瞬。へぇーというような感じだ。

 結花だけは。頑張れってね!!という表情をする。


 そして、選挙管理委員は以外にもすんなり決まり、結花を含んだ、一軍女子グループに所属している、二人が手を挙げていた。

「決まりだな。よろしくお願いします。」

 そういって、佐藤先生はホームルームを終わらす。


 僕は引き続き、加奈子先輩のために、選挙活動とバレエの練習を行う。

 加奈子もバレエをやりながら頑張っている。

 そして、瀬戸会長も、この時期は本当に試合が多く、バレーボール部の部活をやりながら、僕たちをサポートしてくれている。

 といってもレギュラーではないので、マネジメントがメインなのだが、それでも忙しさは変わらない。会長は、おおらかに、かつ、元気よく頑張っているので、こっちも明るくなれる。


 それを見ている葉月も。

「私が選挙、一番頑張らなきゃだね~。」

 と、ニコニコしながらこちらを見てる。


「だって、加奈子と輝君はバレエもあって、瀬戸会長は部活で、週末は試合でしょ。」

 葉月先輩はニコニコしながら、スケジュール管理をたくさんしてくれたり、縁の下の力持ちとして本当にサポートしてくれた。


「は、葉月先輩も忙しかったら大丈夫なので。」

 僕はそう言って、葉月先輩に言うが、

「ありがとう!!まあ、でも、これが私のやりたいことだからね。気にしないでいいよ。輝君。」

 葉月先輩はそう言いながら笑っている。


 そうして一日一日が積み重なるように経過し、選挙戦の最終日、演説会の日がやってきた。

 演説の原稿を僕は葉月と瀬戸会長、そして、加奈子に見てもらった。


「うん。うん。よくできていると思うよ。明るく話してね。女子ばっかりで緊張するかもしれないけれど。」

 瀬戸会長は相変わらず、落ち着いた雰囲気で僕に語り掛けてくれた。


「間違ってもいいし、アドリブも入れていいからね。大丈夫!!」

 葉月先輩はそう言いながら僕にウィンクする。


「それに、まとめは加奈子ちゃんにやってもらいましょう!!」

 瀬戸会長はそう言って、加奈子先輩に締めの一言をお願いする。


「あのっ‥‥。」

 加奈子先輩は瀬戸会長の言葉に一瞬ヒヤッとしたが。すぐに深呼吸する。


「えっと、会長、葉月、そして、輝。その‥‥。ここまで、ありがとうございました。演説会本番よろしくお願いします。」

 加奈子先輩はいつも通りだった。

 口数が少なく、真面目な所も加奈子先輩らしい。

 挨拶を済ませ、僕たちに頭を下げる加奈子先輩を見て安心する瀬戸会長と葉月先輩だったが。


 僕は少しずつ緊張してきた。


 やがて、時間になり、全校生徒が演説会の会場である、体育館棟の一階部分、講堂に集結する。

 講堂の席は生徒で一杯になった。

 想定はしていたが、体育館を埋め尽くすような、かなりの人数。これには、この間のバレエコンクールより緊張してしまう。


 入学式の時には意識はしなかったが、今回は壇上に上がる側、女子生徒で埋め尽くされる空間を見渡すことになる。

 少し深呼吸をしようとするが、他の候補者も、当然推薦人も僕を除いて全員女子。


 しかし、葉月先輩と加奈子先輩は僕の様子を見て、この状況をすぐに理解してくれた。


 葉月は、その手を、ポンと僕の肩を乗せてくる。

「大丈夫。輝君は実はとても有名なのです。私のクラス、学年で。」

「そうだよ。結構頑張ってくれて良かったね。とみんなから言ってもらってる。」

 葉月先輩と加奈子先輩の言葉に少し自信が持てた。


「それでは只今から生徒会長選挙の演説会を始めます。」

 司会の声で始まった。どうやらすべての行事の司会は【放送部】と呼ばれる部活の人に依頼しているようだ。

 今回の司会も放送部員が務めている。


 初めに候補者の紹介が行われる。

 加奈子先輩も壇上に呼ばれて、紹介された。


「それでは、演説に入りたいと思います。最初の候補者からです。」

 司会の言葉に促されて、最初の候補者の推薦人の演説が始まった。


 推薦人、そして、会長候補の演説が一人、また一人と終えるたびに僕の出番が近づいてくる。

 呼吸を整えながら、加奈子先輩、葉月先輩、そして、瀬戸会長の顔を見回す。


「それでは、続いての候補者です。二年C組、井野加奈子さん。まずは推薦人のスピーチです。一年B組。橋本輝君。」

 僕は黙って、立ち上がり。壇上へ進む。


「大丈夫よ。」

 瀬戸会長は手を振ってくれる。


「トップバッター。いってらっしゃーい。」

 葉月先輩は笑顔でピースサインを送る。


「輝‥‥。うん。私を信じて。」

 加奈子先輩は僕を見た。とても真剣なまなざしで。


 壇上のマイクにたどり着き、深呼吸した。

 何だろう、つい先日、バレエの発表会でピアノ演奏をしたからだろうか。

 最初は緊張していたが、何でも話せる自分がいた。


 加奈子先輩が一緒に居る、それだけで。


 別に、変な意味ではない。

 そう、まるで、先日のバレエの発表会のイメージが一気に湧いてきた。


「皆さんこんにちは。推薦人の橋本です。」

 僕は挨拶をする。


 不思議とざわついていない。いや、僕がそのざわつきを気にしていないだけだからだろうか。

 そのどっちでも良かった。


 大きく息をしてゆっくり話す僕。


「知っている通りに、この花園学園は、今年から共学となり、男子生徒も入学するようになりました。しかし、いまだクラスに、男子が一人ずつ配属されたこの高校は、僕にとって、少しドキドキしています。」


 やはり、周りを見回しても、女子しかいない。

 しかし、どういうことだろう、確かに先日のバレエのコンクールも、言われてみれば、女子しかいないような場所なので、不思議とこの場所に立つのは初めてじゃなさそうだった。


「そんな時に声をかけていただいたのが、この生徒会のメンバーの一人、井野加奈子先輩でした。」


 少し喉が渇いてきた。だが、乗り切らないと。


「加奈子先輩は、真面目に仕事をして、こんな僕にも丁寧に教えてくれ。あたたかく迎え入れてくれました。本当に、真面目に仕事をする、素敵な人です。

 生徒会での今までの仕事面に関してのスピーチは、これから演説がある、僕以外の二人の推薦人にお任せしようと思います。

 僕が一番驚いたのは、加奈子先輩の習い事で、バレエをやっているときです。ダンスの振付、練習に、ストイックに取り組み、先日のコンクールでも予選を通過し、他にも様々なバレエコンクールで良い成績を収めています。

 本当に、好きなこと、得意なことには、ひたむきに努力して、真面目に仕事をされる方なのだなと思います。」


 どうだろう。少し早くなっていないか。もう少しゆっくりでも。


「そして、加奈子先輩がバレエを踊るように、生徒会の仕事がとても好きなんだなと、入学して、間もないですが感じています。きっと、いい学校にしてくれると信じています。」


 僕は心の中でうなずく。

 そして、最後に深呼吸して。


「だから、これからも、加奈子先輩と一緒に、生徒会の仕事を僕はやってみたいです。どうか、先輩に清き一票をよろしくお願いします!!」

 僕は頭を下げた。

 そして、会場からは拍手が、今までの候補者や推薦人の人達と同じように、沸き起こる。


 それを確認した僕。

 大丈夫だ。これで、きっと、大丈夫だ。


 僕は壇上を降りていく。


「ありがとう。輝。」

 加奈子先輩はグータッチで迎える。


「大変よくできました!!」

 葉月先輩はピースサインをして、僕を迎える。


「よく頑張ったわね。橋本君。」

 瀬戸会長はニッコリ笑いながら、僕を席に促した。


「さあ、あとは私たちの番ね。」

 てへぺろと、笑いながら、瀬戸会長は推薦人の演説に向かう。


 葉月先輩も、瀬戸会長も、僕よりも何倍もはっきりした声で、推薦の演説をした。

 これまでの、生徒会の加奈子先輩の仕事ぶりを思う存分評価する。堂々とした力強いスピーチをしたのだった。


 そして、立候補者である、加奈子先輩の番。

「皆さんこんにちは。二年C組の井野加奈子です。私が生徒会長を目指そうと思ったのは‥‥。」

 その声のトーンは明らかに普通の時の声とは違っていた。

 僕は驚くが、そんなことは一瞬だった。

 加奈子の目を見ればわかる。


「さすが加奈子ちゃん。やっぱりね。」

 瀬戸会長は、最初は心配していたが、声を聞くと頷いた。


「やっぱりね。だから、生徒会長は加奈子しかいないと思って、私はあきらめて、サポートする側に回ったの。」

 葉月先輩はそう言いながら、笑っている。


 加奈子先輩は、高校をどうしたいのか、どう取り組みたいのか、はっきりとした声で伝えた。

 そう。彼女の瞳はバレエをしているときと同じ瞳の色をしていた。

 生徒会の仕事が大好きで、いつかは自分もと、きっと思っていたのだろう。


「ねっ。普段は、クールで、真面目で、おとなしいけど、好きなこと、やりたいと思ったことには全力で向かうでしょ。」

 瀬戸会長が僕に向かって言う。その顔はとても笑っていた。


「はい。本当に。すごいです。」

 僕はそう言いながら、安心したかのように見る。


<テンポ>

<またテンポ!!>

<それでも私は、輝のピアノ伴奏の方がいい!!>

 そんな言葉が、再び思い起こされる。


 演説を終えた加奈子は、やり遂げたような顔をしていた。

 それを見た僕は確信した。加奈子ならきっと大丈夫と。


 そうして、僕たちの生徒会の選挙活動は終わった。後は結果を祈るのみだった。








今回もご覧いただきまして、ありがとうございます。

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