192.国際通り、そして‥‥
史奈の運転のもと、車は海沿いの道を走り続け、那覇市内へと向かっていく。
途中には、米軍の嘉手納基地も見え、小型の戦闘機が飛び立っていく様子や、いくつかの軍用のヘリが止まっている様子が確認できる。
「米軍の基地かぁ。広いね。」
僕がそう呟く。
「そうだね。色々と問題があるけど、テレビのニュースとかにも注目だね。」
葉月がそう言って、車の車窓を眺める。
「うんうん。いろいろ見ておかないと。」
加奈子も一緒になって、車窓の外から、嘉手納基地に出入りする、戦闘機の姿を見ていた。
因みにだが、この車に乗っているメンバーは再び入れ替わり、今は、葉月と加奈子が車に乗っている。
葉月、そして、加奈子もこの春から高校三年生。二人とも、大学の推薦入試を十二分に狙える成績だし、そうなってくると、推薦に必要な面接対策も兼ねているのだろう。よく時事ネタにも問われる、米軍の基地を車窓からしっかりと見ていた。
「そうだな。推薦入試の面接で聞かれるぞ。最近のニュースで気になっているものは。ってな。」
原田先生がうんうんと頷く。
「そうね。頑張ってね。」
史奈もニコニコと笑って、ミラー越しに、後部座席に座っている、葉月と加奈子を見ていた。
葉月は、幼稚園の先生になるため、僕と一緒にピアノの実技を勉強している。
加奈子も、ローザンヌのコンクールには出場するが、その後は、日本の大学、特に芸術系のバレエが学べる大学に進学する予定だ。
勿論、成績優秀なため、経済学部や、商学部などの文系学部に通いながら、バレエ団に入って、引き続き、バレエと学問の両立も検討しているようで、現時点では迷っているというのが実際の所だろう。
最も、僕が加奈子と出会って、安久尾建設との問題を解決していなければ、加奈子は未だに父親と仲直りが出来ず、高校卒業後は、後者の進路一択だった。
「その、ありがとね。輝。」
加奈子は僕を見る。
「ん?」
僕は加奈子を見る。
「確かに、ローザンヌと並行しながら、推薦入試で、大学へ行くんだけど、輝のお陰で、パパとも仲直りできたから、大学で、体育系のバレエダンスが学べる学部や学科も視野に入れることができた。」
加奈子はそう言って、僕の手をギュッと掴む。
「うん。良かった。加奈子なら、色々な道へ行っても大丈夫そうだし、バレエも続けられそうだね。」
僕がそう優しく言うと。加奈子は、力強い笑顔で笑っていた。
そうして、車は、嘉手納基地を横切り、海沿いの道から、だんだんと町の中へと入って行く。
いよいよ、那覇市内へと入って来た。
「那覇市に来たね。」
「そうだね。」
葉月の言葉に、僕は寂しそうに頷く。他のメンバーも同じような表情だ。
「折角だし、飛行機まで時間があるが、首里城の方を回ってみるか、首里城自体は改修工事中だが。周りの石垣とかも綺麗だよ。」
原田先生の言葉に皆は頷く。そうして、念のために、原田先生は時計を確認して、スマホを取り出し、吉岡先生の運転する、後ろの車に乗っているメンバーに電話する。
後ろの車に乗っているメンバーとも了解が撮れたようで、車は首里城の方へと、進んで行くことになった。
そうして、ニ十分ほどで、首里城に到着。近くの駐車場に車を止めて、首里城を見る。
本殿は改修工事中ということもあり、見ることはできなかったが、正門や、石垣は見ることができ、その綺麗と豪華さは、はっきりとわかるものであった。
「すごい、真っ赤で綺麗な門。」
マユがニコニコと笑って、駆けだしていく。
「本当ね。石垣も素晴らしいわ。」
史奈がうんうんと笑っている。
「改修工事が終わったら、また来たいです。もっと真っ赤で豪華な造りになるそうです。」
早織が辺りを見回し、今回の改修工事の内容が書かれた看板を指さして笑っていた。
「うんうん。そうらしいね。」
結花はスマホを見ながら、改修した後にどうなるかを調べている。結花のスマホの画面を心音も一緒に見つめている。
「まあ、そうだな。そんな感じで、また皆で行こう。」
原田先生はニコニコと笑って、頷いた。
「はい。すごく楽しみです。」
雅も原田先生と一緒になって笑っていた。
「うんうん。そうだね。その時はまた僕たちも誘ってね。運転、いつでもやるからさ。」
吉岡先生は皆にそう言って、ニコニコと笑っていた。
吉岡先生の言葉に僕たちは頷き、一瞬ではあったが、首里城の石垣、そして、朱色の綺麗な門を目に焼き付けて、次の目的地へ向かう。
次の目的地、即ち、この沖縄旅行で最後に訪れる場所。国際通りへと向かった。
この国際通りで昼食を食べ、お土産を購入して、那覇空港で飛行機に乗るという流れだ。
沖縄、国際通り。通称、『奇跡の1マイル』と呼ばれる場所。戦後目覚ましい復興を遂げた象徴とも呼ばれる場所。
この通りの両側には、様々なお店がたくさん並んでいる。
「すごい。」
と、目を丸くしてつぶやく加奈子。
「すごいね。」
葉月も一緒にニコニコ笑っている。
「ここが、戦後、すさまじい復興を遂げた場所ね。沖縄の文化、色々集まってるね。」
史奈がニコニコと笑っている。
「さて、何を食べようか。何を買おうか。気になるお店があったら、順番に入って行こう‥‥。」
原田先生は、うんうんと頷く。しかし。
「と言いたいところだが‥‥。」
原田先生のこの言葉に反応する。
「さすがに全員で回ると、入りたいお店、食べたい店がバラバラで、効率が悪すぎる。」
原田先生の言葉に僕たちは頷く。そして、頷くと同時に。
「ま、まさか‥‥。」
マユの顔が一気に緊張が高まる。
「も、もしかして‥‥。」
心音も一気に緊張が高まり頷く。
義信、そして、吉岡先生以外の他のメンバーは、一気に背筋が凍り付いたような顔をしている。
「そういう事だ。最初で最後の自由行動を行う。それに先立って、恒例の一緒に回るくじ引きをここで使わせてもらうぞ。」
原田先生は、ウィンクをして、くじが入っている袋をここで取り出す。
この言葉と袋を見て、一気に緊張が走る僕たち。
いや、僕よりも女性陣の方に緊張が走っているようだ。
「えっと、十三人居るので、三人グループが三つ、二人グループが二つという体制だな。私は、吉岡先生とペアを組んで、全体を統括しつつ、集合場所とか、連絡を取り合う係をやろう。」
原田先生の言葉に、吉岡先生はうんうんと頷く。
「となると、三人グループが三つ、二人グループが一つ、ということになるな。」
原田先生はそう言って、袋にある、くじの紙を調整した。
その光景をドキドキしながら見ている僕たち。
そして。
「ヨシッ。準備が整ったぞ。言っておくが。恨みっこなしだからな。」
原田先生は僕たちにそう念を押して伝える。
「良いじゃない。最高の思い出作りましょ。」
史奈がニコニコ笑う。
「そういう事なら、負けないから。」
結花がうんうんと頷く。
「おおっ、勢いが良いな、折角だ、ここまでの運転に感謝して、会長さんからくじを引いて良いぞ。」
原田先生は史奈に向かって言う。
「ふふふっ、ありがとうございます。それじゃあ。お言葉に甘えて。」
史奈はそう言って、くじを引いた。
その他のメンバーも、順番にくじを引いて行く。そして。
「さあ。お待ちかね。少年の番だな。袋に手を突っ込んで、くじを引いてくれよ。」
原田先生はそう言って、僕に袋を差し出した。
僕は大きく頷き、くじを引く。手に紙を掴んでその紙を袋の外に出し、胸元にその紙を密着させる。
そうして、全員がクジを弾き終わる。
「さあ、同じグループのメンバーを見つけて、出発だ。」
原田先生のこの言葉で、メンバーを探していく、僕たち。
といっても、僕は自然とメンバーが出来上がるのを見回している。
「あらあら。残念ね。」
史奈の声がする。その史奈の方に視線を向けると。早織と義信が史奈の隣にいる。
「おおっ、そうっすね。でも全力でお守りしますぜ。お嬢に、会長。」
義信のこの言葉に、史奈と早織は、うんうんと笑顔になる。ここが一つ目のグループ。
「あーっ。こっちも残念。でも、こうなる運命だったのかも。」
葉月の声がする。葉月を中心に、結花とマユが一緒に居る。
「そうっすね。でも、葉月先輩も、マユちゃんも、元気がいいので、楽しめそう。」
結花が楽しく笑っている。
そうなると‥‥。
「ひ、輝。」
「輝君。」
僕の双方から、加奈子と風歌の声。加奈子の隣は雅が、風歌の隣には心音が一緒に居る。
なるほど、どうやら、僕はコーラス部のペアと一緒に回るか、バレエ教室のペアと一緒に回るかのどちらからしい。
大きく頷き、自分の胸元のくじを番号を確認する僕。
確認した結果、バレエ教室のペア、加奈子と雅の二人と一緒に国際通りを回ることになった。
「やった。」
「はい。すごく嬉しいです。輝様。」
加奈子と雅は小さな声ではあるが嬉しそうな表情をする。
そうして、一緒に回るグループが決まったところで、原田先生から、改めて、集合時間と集合場所の確認が伝えられ、僕たちは、くじ引きで決まったグループのメンバーと一緒に行動することになった。
「行こう。輝。」
「行きましょう。輝様。」
加奈子と雅に手を引かれながら、僕は国際通りを進んで行く。
お昼時ということもあり、最初に昼食を取ることになった。
入ったお店は、野菜を中心とした沖縄料理のお店。
ゴーヤチャンプルーを中心に、豆腐や煮物そう言ったものが食べられる定食屋のようなもの。
「なんかやっぱり、私たちと一緒に回って、正解かも。」
各々が注文した料理を見て、うんうんと頷く加奈子。
「そうですね。私も加奈子先輩も、バレエをやっているということもあり、体重管理というもののためにも、野菜を中心としたヘルシーな料理を好みますので。それに輝様も。」
雅の言葉に僕は頷く。
「そうだね。元々、伯父が農家だから、野菜中心の食べ物が好きだったりする。」
僕はニコニコと笑って、二人の言葉にそう応えた。
そうして、一口一口をよく噛んで味わいながら、沖縄料理を食べる僕たち。
「沖縄に来てよかった。味が体全体、心まで染みてくる。」
僕がそう言うと。
「そうだね。」
「そうですね。」
加奈子と雅はニコニコと笑って頷いた。
そうして、昼食を食べ終え、改めて、国際通りを散策する僕たち。
沖縄のメインストリートを象徴するかのように、南国らしさを演出するために、等間隔でシュロの木が置かれている。
そして、国際通りに集まるお店たちは、超がつくくらいの人気店。どのお店から回っても楽しめそうだった。
まず最初に向かったのは。
「沖縄に来たし、少しならいいかな。輝も居るし、これから結構歩くし。」
「はい。そうですね。」
加奈子の言葉に雅も頷く。
そうして、二人に案内され連れて行かれたのは、アイスクリームのお店。南国のフルーツを沢山使ったアイスクリームが沢山並んでいた。
「食後のデザートです。輝様は、どれが好きですか?」
雅がニコニコ笑いながら、アイスクリームが並んでいる商品棚を指さす。
「輝、私と同じやつが好きだよね?」
加奈子が少し焦りながら、僕の肩をポンポンと叩いて言う。
「そう、だね。じゃあ。これで。」
僕はパイナップルとバニラがミックスされたアイスを指さす。そして、そのアイスを注文する。
「うわぁ。美味しそう。」
「はい。これが輝様の好みなのですね。」
加奈子と雅は僕が注文したアイスを見て、ニコニコと笑っている。
「そしたら、私はこれで。」
「はい。私はこちらを。」
僕が注文したアイスを見て、加奈子と雅は僕とは違う種類のアイスクリームを注文した。
そうして、各々が頼んだアイスクリームが店員から渡される。
早速、スプーンで一口すくって食べる僕。
「どうですか?輝様。」
雅が僕の動作を食い入るように見つめている。
「うん。流石は南国沖縄という感じ。とても美味しい。」
僕がそう答えると。
「それはとても素晴らしいです。」
雅がニコニコ笑う。
そして。
「輝。こっちも食べない。」
加奈子がニコニコ笑って、彼女が注文したアイスクリームを指さす。
「輝様、こちらもどうぞ。」
雅もうんうんと頷き、雅が手に持っているアイスクリームを指さす。
そうして、お互いのスプーンで、一口ずつ食べる。僕たち。
加奈子が注文したキウイフルーツのアイスクリーム、雅の注文したマンゴーのアイスクリーム。
本当に、どれも美味しく、南国沖縄のフルーツの甘さがひしひしと伝わって来た。
「ひ、輝様と間接キスです。もっと食べて良いですよ。輝様。」
雅はニコニコと笑って、うんうんと頷く。
「ちょっと、雅ちゃん。」
加奈子は顔を赤くしながら、雅の方を見る。
僕も、雅の言葉に顔を赤くしながらも。
「いや、大丈夫。雅の方こそ、沢山食べて。こういう時ぐらいしか、デザートとか、食べないと思うから。」
僕がそう言うと。
「ありがとうございます。輝様。本当に優しくて、素敵なご主人様です。」
雅がニコニコ笑っていた。
アイスクリームを食べながら、国際通りを歩いていく。
続いてやって来たのは、置物のお店。
沖縄の海をベースにした、青とエメラルドグリーンの色をした、イルカや海の家のオブジェ。琉球ガラスのコップ、そして、シーサーが置かれている。
「すごい綺麗。」
加奈子が目を丸くして、置物を見ている。
「はい。吸い込まれそうです。輝様と一緒に。」
雅も目を丸くしながら、置物を見ている。
本当にどれも奇麗だ。幻想的で、吸い込まれそうだった。
「折角だし、安いものがあれば、買っても良いんじゃない。」
僕がそう言うと。二人はうんうんと頷いて笑っていた。
少し価格が安めのものを探す僕たち。
笑うシーサーの置物と、エメラルドグリーンの琉球ガラスのコップに目が行く。
「これが良いかな。」
僕はそう言って、買い物かごにシーサーと、エメラルドグリーンの透き通ったグラスを入れて行く。
「はい。とても素敵です。輝様。」
「良い買い物をしたわね。」
雅、そして、加奈子が頷き笑っている。
二人も、琉球ガラスで出来たグラスのコップをそれぞれ購入し、自分が買ったグラスを梱包がなされるその時まで、見つめているのだった。
「バレエも、こういう、透き通った、透明感の溢れる演技をしてみたいな。」
加奈子がうんうんと笑っている。
「はい。頑張りたいです。輝様や皆様の前で、最高のものを一緒に出来たら嬉しいです。」
雅もニコニコと笑っていた。
その後は、時間とお金の許す限り、お土産として、色々なお菓子を購入した。
サーターアンダギーや紅芋タルト、そして、フルーツの飴玉。どれも少しずつ購入した。
そして、集合時間を迎えた。
「とても楽しかったね。輝。」
加奈子がニコニコと笑う。
「はい。輝様、どうでしたか?楽しんで頂けましたか?」
雅も食い入るように、僕の目を見つめている。
「うん。とても楽しかった。」
僕はニコニコと笑って、そう応えた。
集合場所にたどり着き、他のメンバーたちと合流する。
「おー。皆時間通りで感心したぞ。どうだったか?楽しめたか?」
原田先生はニコニコと笑って、僕たちにそう問いかける。
皆、一斉に頷いた。
「そうか。良かった、本当に良かった。それじゃあ。名残惜しいが、帰るとしよう。」
原田先生はうんうんと頷きながら僕たちに車に乗るように促す。
全員が車に乗り込み、車が動き出す。
そして。十五分程度で、那覇空港へと到着した。
「ふうっ、無事に戻って来たわね。」
史奈がホッと胸をなでおろす。思えば、ずっと、レンタカーを運転してくれた史奈。
「ありがとう。史奈。運転、大変だったよね?」
僕がそう言うと。
「ふふふっ、どういたしまして。でも、輝君がずっと一緒に居てくれたおかげで、楽しかったわよ。」
史奈がニコニコ笑っていた。
「あのっ、会長、本当にありがとうございました。」
「はい。本当に、お疲れ様でした。ありがとうございました。」
一緒に乗っていた、葉月、加奈子も史奈に頭を下げる。
「良いのよ。私は、いちばん、年上のお姉さんだから。」
史奈が得意げになって笑っている。
「ハハハッ、本当にお疲れ様だったな。良かったぞ。」
原田先生はうんうんと史奈に向かって頷いた。
そうして、那覇空港の構内へと入り、改めて、車を運転してくれた、原田先生、吉岡先生、そして、史奈にお礼を言った僕たち。
原田先生と吉岡先生は、親指を立てて、大きく頷いて笑っていた。
そして、史奈はレンタカーを利用しての初めての運転ということもあり、無事に終わったのだろう、顔を赤くして、照れたように笑っていた。
さらには、沖縄旅行を福引で当てた風歌にもお礼を言った。
「にへへっ、皆で行けて楽しかった。」
風歌もご満悦の様子だ。
そうして、僕たちは、大きな荷物をカウンターに預け、保安検査場を通過していく。いよいよ、帰りの飛行機に搭乗するための準備がすべて整った。
搭乗口でしばらく待っていると、搭乗開始の合図がなされ、飛行機に乗り込んでいく僕たち。搭乗券に記されている座席に座る。
「楽しかったね。輝。」
加奈子がニコニコと笑って僕に語り掛ける。
「うん。春休みの沖縄、すごく楽しかった。」
僕がニコニコ笑って、そう応えた。
「皆、新学期も頑張ろうね。」
葉月がうんうんと頷き、笑っている。
葉月の言葉に皆が頷く。そして。
飛行機は那覇空港を離陸していく。夕日を背にして、関東へと向かう。
春休み、沖縄旅行を満喫した僕たち。それぞれの顔に充実した表情があふれ出ていた。
本当に楽しかった。そんな、春休みのメインイベントだった。
第8章、沖縄編はここまでです。
ゆっくりな更新となりましたが、沢山の方にご覧いただき、ありがとうございました。
しばらくお休みを頂き、9章以降は、なろうでも更新していきますが、カクヨムの方で先行して連載していく予定です。
カクヨムの方も合わせてご覧いただければ嬉しいです。
これからも、よろしくお願いいたします。




