191.海辺の灯台
翌朝、やはり、少し早めの時間に目が覚めた僕。
今日は、沖縄の最終日、海辺の道を行きながら、海辺の灯台を見学し、那覇市内に戻って、国際通り、そして、時間があれば、改修中ではあるが、首里城を見て、空港へ向かうという内容だ。
ホテルの窓辺へ行き、海辺で迎える朝を目に焼き付ける僕。
北関東の内陸部だと、絶対に見られない光景。いや、前に住んでた、反町市にある両親の家からも見られない光景だろう。
そんな光景を目に焼き付けていると。
「おはよう。輝君。」
史奈の声。部活の朝練をしていた史奈。早く起きるのにはなれているのだろう。
「ふふふっ、二度とみられない朝ね。」
史奈は窓辺に向かい、僕の隣でその光景を見る。ちなみにだが、僕も史奈も、生まれたままの姿だ。
「良いかしら。」
史奈はそう言って、僕の身体に手を当てる。僕はそれに反応し、唇を重ねる。
「上手くなったわね。当然よね。」
史奈はうんうんと笑っていた。
「さてと、運転するのだから、体を温めて、何か着て、もう少し休ませてもらうわ。部屋のお風呂、借りるわね。」
史奈はそう言って、部屋に備え付けられている、洗面所とお風呂の場所へ向かう。
「うん。ありがとう。」
僕はそうって、史奈の後姿を見届ける。
そして、ベッドの上には、朝起きるのが苦手な二人。こちらも生まれたままの姿で眠っている。
僕がベッドの傍に来たのを気付いたのだろうか、加奈子がもぞもぞと動く。
「ひかるぅ。おはよー。もーいっかい一緒に寝よう!!」
そう言って、加奈子が、僕の手を引っ張る。
「ひかるく~ん。こっちも~。」
風歌も積極的に手を引っ張り、僕はベッドに再び倒れこむ。
加奈子、そして、風歌の身体を抱き寄せる僕。
「おはよう。」
僕は二人にそう語り掛けると、ニコニコと笑って、再び寝息を立てる、加奈子と風歌。
そんなことをしていると、史奈が朝のシャワーから出てくる。そして。
「ホラ、皆、行くよ。」
そう言って、僕、加奈子、そして、風歌が寝ていた布団をはぎ取る。
「ご、ごめん。一緒になって寝てた。」
僕が史奈に謝ると。
「まあ、いいわ。この二人だから。」
史奈は僕にウィンクしながら言う。そして、その後、加奈子と風歌を見る。
「ふわぁぁ~。朝?」
「今なんじぃ~。」
そんな感じで、加奈子と風歌はむにゃむにゃと眠い目を擦りながら、起き上がる。
時間を伝える僕と史奈。
それに気づき、大急ぎで支度をする加奈子。
「うわぁっ、ありがとう。輝。」
加奈子は大急ぎで飛び起き服を着る。
「ふわぁぁ。急ごう。」
風歌は相川らのんびりとしたペースで、ベッドから降りて、服を着て行く。
そうして、朝食の集合時間ギリギリに部屋を出る僕たち。
朝食の会場へはやはり、他のメンバーが先に到着しており、僕たちはいちばん最後の到着となった。
「おはよう。少年。やっぱり、いちばん最後だったな。まあ、加奈子ちゃんが居るからそうなるか。」
原田先生は笑いながら、僕を見ていた。
加奈子はすごく恥ずかしそうに、顔を赤くしているが。コクっと頷く。
「は、はい。起きるの遅かったです。」
「にへへっ、実は、私も。」
加奈子の恥ずかしそうに答えた、その後に、風歌がニコニコと笑って、照れながら、原田先生に向かって頷く。
「ハハハッ。まあいいさ。」
原田先生は豪快に笑う。そして。僕たちに内緒話をするように身をかがめながら、僕たちに目を合わせ。
「この様子だと、ちゃんと、お楽しみが出来たようだな。多めに袋を仕込んどいて、正解だった。他のメンバーには言うなよ。」
原田先生はニヤニヤと笑いながら、僕、史奈、加奈子、そして、風歌の四人だけに聞こえるように言った。
恥ずかしがりながらも、黙って、頭を下げる僕たち。
「まあ。今日が、最終日だ。沖縄の味、後悔が無いように楽しんでくれよ。」
原田先生は、そう言って、親指を立て、朝食会場の席を指さした。
僕たちはうんうんと頷き、各々、テーブルへ向かう。
本日も朝食バイキングということで、思い思いの沖縄料理をお盆に乗せて行く。
「じっくり味わって食べよう。」
原田先生の言う通り、僕はそう思いながら沖縄の料理を一口、一口、口に入れて味を確かめる。
確かにそれは沖縄でしか食べられないものだった。
「ふふふっ、作れるかなぁ~。こんなふうに。」
同じようにじっくりと沖縄料理を味わっている早織。僕の斜め右前方に座っている。
「早織ならすぐ作れそうだね。」
僕がそう言うと。
「うん。早くマスターして、お店に出さないとだね。ああっ、その時は、私も誘ってね。」
早織の隣でマユがうんうんと頷きながら笑っている。
「早織なら、出来るんじゃない。輝と言ってること被っちゃって、申し訳ないけど。」
僕の隣に座っている加奈子。うんうんと、頷きながら笑っている。
「にへへっ、私も頑張ろう。」
風歌が笑って、頷いていた。
「そうだね。私も、早織に負けないくらい、料理を覚えて、作ってみよう。」
葉月はうんうんと頷きながら、早織と同じように、料理をじっくりと味わい、その味を覚えているようだった。
各々、このホテルでの最後の食事を済ます。
沖縄旅行最終日の今日、どうやら、沖縄の風景は、僕たちの記憶の中に鮮明に焼き付いたようだ。
そうして、各々、部屋に戻り、大きな荷物を整理する。忘れ物がないかを確認して、ホテルの部屋を出て、チェックアウトとなった。
フロントに集合して、チェックアウトの手続きを済ませる。
「楽しかったね。このホテル。」
葉月がニコニコと笑う。
「うんうん。いろいろ、海で遊べてプールで遊べて良かった。」
マユがニコニコと笑っている。
「沖縄の料理も、美味しかった。」
早織はどこが満足そうに頷いた。おそらく、今回の食事から学べるものは多かったのだろう。
新メニューで出てくれば良いなと思ってしまう。
「良いっすね。皆もお嬢も。」
義信がニコニコ笑っている。
「輝君も磯部君も、新メニュー出来たら食べに来て、ここで食べた料理は、全て写真に撮ったから。何かしら、色々、工夫できるはずだから。」
早織の言葉に、僕と義信は嬉しくなる。
「勿論行きますよ。お嬢。」
「ありがとう早織。」
僕と義信はお礼を言った。
「あらあら。私も行っていいのよね?」
史奈もニコニコと笑って、早織に念を押すように言う。
「も、勿論です。」
早織はうんうんと笑っていた。
そうして、僕たちは車に乗り込み、ホテルをあとにする。
史奈が運転する車、その助手席に僕は乗り込む。
後ろに原田先生がサポートし、他のメンバーは、心音と風歌が乗り込んだ。
「さてと、行くとするか?頑張れそう。」
原田先生は史奈に向かって尋ねる。史奈は大きく頷き、エンジンをスタートさせて、車を発進させた。
初日と比べると運転は慣れてきているようだ。
車窓の右方向に海を見ながら、海沿いの道を進み、海辺の灯台を経由し、那覇市内へと向かう。
沖縄の海はやはり綺麗だ。青と、エメラルドの色が綺麗に混ざり合っている。
「海、綺麗。」
風歌は、うっとりしながら、海の方を見る。車窓の右、というより、右前方は全て海という、そんな道を僕たちは走っている。
「綺麗だね。風歌。」
心音も嬉しそうに風歌が見ている方向を指さす。
「そうだね。」
僕も一緒に頷く。
「私も、見えるわよ。少し運転に余裕が出たというのもあるし、前を見てても、海が見えるから。」
史奈も元気よく、風歌の言葉に応え、ハンドルを動かしている。
「そうだな。目に焼き付けておけよ。」
原田先生はニコニコと笑って、僕たちにそう語り掛けた。
そうして、車で走ること、小一時間。海辺の灯台が見えてきた。
青い海、そして、青い空のもと、白く、大きな灯台が聳え立っている。
「すごい。近くで見ると大きい。」
風歌が灯台の上の方を見上げる。
「うわぁ。ホントだね。」
心音も目を丸くしながら、上を見上げる。
僕と、史奈も、目を丸くしながら上を見上げ、その灯台の大きさに驚く。
「すごい。海辺の灯台、初めて見たかも。」
僕はそう言うと。
「そうね。私も初めて、こんなに大きいなんてね。」
史奈がニコニコ笑って、僕の言葉に反応する。
そうして、僕たちは東大の傍の駐車場に車を止め、吉岡先生の運転していた車に乗っていたメンバーと合流する。
「すごいね。車から見えてた?」
葉月が僕に向かって、そう問いかけ、大きな灯台を指さす。
僕はうんうんと頷き、笑った。
「ホント、こういうの見るの初めてじゃない。海沿いの県にもともと住んでたうちらも。ね。ひかるん。」
マユはニコニコ笑いながら、僕の肩に勢いよく手を乗せて、こう語りかける。
僕はうんうんと頷き。
「そうだね。初めて見る。」
僕はそう言って、笑っていた。
「ハハハッ。皆、こういう大きな灯台を初めて見るようだから、来てよかった。確かに、初めてだな。うん。私も何回かしか見たことが無いな。」
原田先生はそう頷いて笑っていた。
「勿論僕もそうだよ。来てよかった。」
吉岡先生もニコニコと笑って、僕たちを見ていた。
「さあ。上まで登ってみよう。」
原田先生は灯台を指さし、中の階段へ向かうように指示する。
先生の言葉に頷く、僕たち。
ほとんどのメンバーが、登ろうとするが。
一拍遅れて移動し、いちばん最後に動き出した加奈子。
それに気づいて、加奈子に手招きをする僕。
加奈子は頷き、少し足を速めて、皆の元へ。
「どうした?加奈子らしくなさそうだけど。」
僕がそう言うと。
「ううん。海風、そよ風が素敵だなって。灯台も、勿論、大きくて、純白で綺麗だし。」
加奈子がうんうんと笑う。どこか作り笑いをしている。
「不安?」
「うん。最終日になるとね。どこか寂しいなって。また頑張らないと、と思うけど、上手く結果が出なかったらどうしようかなって。」
今年の加奈子の目標は色々ある。しかも、かなり高いハードル。大学進学の勉強に、クリスマスコンサート、さらにはローザンヌと、やることが目白押しだ。
「大丈夫だよ。きっと、僕が、サポートするから。加奈子が、サポートしてくれた時みたいに。」
僕がそう言うと。
「ありがとう。輝。そうだよね。輝が一緒だからね。」
加奈子は僕の手をギュッと握る。それにドキッとしてしまう僕。
「大きくレベルアップしてるよ。加奈子だって。成績も、バレエ教室も、今まで、トップを走り続けたから、分からないかもだけど。」
僕がそういうと、加奈子はさらに強く僕の手を握る。
「現に、楽譜がわかるようになったじゃん。」
僕はさらにそう言うと。
「うん。ありがとう。輝。その、これからも、バレエ教室で一緒にスタッフしてくれると、嬉しいな。」
加奈子の言葉に、僕は大きく頷いた。
少しだけ、不安が取り除けた加奈子。足取りもだんだんと軽くなる。
そうして、灯台の中。階段を上り進めていく僕たち。
いくつもの階段を登って行く。だが、加奈子の足取りも軽くなったのか、それとも、上から見る風景を楽しみにしているのか、そのどちらも言えるのだろう。加奈子を含めて、みんな全員の足取りが軽い感じがする。
そして。
「うわぁ。」
「すごい!!」
興奮した声がいくつも飛び交う。
そう、僕たちは、灯台のいちばん上に到達した。
青い空、青い海。水平線がどこまでも続いている。
「すごいな。水平線がどこまでも見渡せるな。」
原田先生はニコニコ笑っていた。
「本当に綺麗。」
僕は思わず、遠くの方を見てしまう。遠くの島、海の向こう。その向こうに何があるかと想像してしまう。
この方向だと、台湾やユーラシア大陸があるのだろう。海の向こうには、さらなる冒険が待っていそうだった。
「輝。海の向こう、行ってみたいね。」
加奈子がニコニコと笑って、問いかける。
「そうだね。」
僕がうんうんと笑って、そう言うと。
「今度は、皆で海の向こう、海外の方にも行けたらいいね。」
葉月がうんうんと頷き、笑っている。
「あっ、海外、行ってみたい。」
この会話を聞いた、風歌は、突然目の色を変える。きっと、海外という場所に興味津々なのだろう。
「うん。私も、海の向こう、興味がある。」
早織も興味津々で、灯台から見える、その先の風景を見渡していた。
「うんうん。色々な場所にこれからも皆で行きたいよね。」
マユがニコニコと笑っていた。
「はい。たくさん海外のバレエコンクールに出場してみたいです。加奈子先輩に負けないように。」
雅は僕たちのやり取りに反応し、これからも、加奈子に負けたくない、勝ちたいという思いを披露する。
「おーっ、それを言うなら、私は声楽のコンクールかな。まあでも、途中で挫折して、海外を適当に冒険して帰って来るかな。」
心音はニコニコと笑って、頷く。
「どこまでも付いていきますよ。まあでも、風歌先輩と、ハッシーと、生徒会長かな。海外のコンクールで活躍できそうなのは。」
結花は心音の方を向いて、ニコニコと笑う。そして、その後に、僕と、加奈子、そして、風歌の方を向いて真剣な顔で頷く。
「そりゃそうだ。ハハハッ。皆の足元にも及ばないな。」
心音が結花の言葉にうんうんと頷き笑っていた。
「あらあら。私も、混ぜて欲しいわね。海外旅行、とっても素敵。これからの大学生活で行ってみようかしら‥‥。」
史奈は顔を赤くして、ニヤニヤと笑って頷く。
「良いっすね。夢がいっぱいっすねぇ~。」
義信がうんうんと頷き、大きく背伸びをして笑っていた。
「そうだぞ!お前たち、羽ばたいて行けよ。」
原田先生はうんうんと頷き、こう告げた。
「特に加奈子ちゃんは、今年は、ローザンヌに出るんだからな。」
原田先生はそう言って、加奈子の肩をポンポンと叩く。
「「おおっ。」」
ローザンヌという言葉に皆が反応する。
「ああっ、既に知っている人も何人かいると思うが。改めて、報告だな。課題曲は少年のピアノ伴奏を自由曲は何と、少年の指揮で演奏してくれている音源を使うぞ。」
原田先生はそうウィンクして、皆に言った。
「すごい。加奈子ちゃん、頑張って。」
風歌がニコニコ笑って、加奈子の方を向く。
「ひ、輝君も、演奏、頑張って、やっぱり、すごい。」
風歌が照れた顔をして、僕の方を向いて笑う。
「ありがとう。頑張るね。」
加奈子は顔を赤くする。
「うん。先生から聞いたときはビックリしたけど、僕も今、すごく、頑張ってるところ。」
僕は風歌に向かってそう語り掛ける。
どうやら風歌は、初めてこのことを聞いたようだ。目を丸くして、ニコニコと笑っている。
「ハハハッ。改めて、この数日、君が福引を当ててくれたおかげで、楽しめたよ。沖縄に連れてきてくれてありがとな。そして、君も続こうぜ!」
原田先生は風歌の肩をポンポンと叩いていた。
風歌は、コクっと頷いた。真剣な顔だった。
他のメンバーも、原田先生が正式に発表したということもあり、灯台の上、海の向こうを見ながら、加奈子にエールを贈った。
海の向こう、この広い空の下、どこまで世界はつながっているのだろうか。
灯台に映る海の景色を見て、僕たちは大きく深呼吸をする。それぞれ、決意を固めて、その景色を目に焼き付け、灯台の階段を下りて、車に向かうのだった。
車を発進させ、灯台をあとにする。
いよいよ、この旅の最後の目的地であり、いちばん最初にこの旅をスタートさせた場所でもある、那覇市内へと向かうのだった。




