19.生徒会選挙の活動
ゴールデンウィークの連休が明ける。連休明けの最初の日。
今日はいよいよ。生徒会長選挙の立候補の説明会と、届け出、さらに告示の日。
「さあ。気合を入れて、頑張るわよ~。」
瀬戸会長は緊張感を持ちながらも、どこかウキウキしながら言った。
「さあ。加奈子ちゃん。挨拶して。」
瀬戸会長はそう言いながら、加奈子先輩を僕たちの真ん中に出す。
「あ、あの。最後まで、よろしくお願いします。生徒会役員の経験を活かせるように頑張ります。」加奈子先輩はそう言いながら、頭を下げた。
今、加奈子先輩の周りには、三人の推薦人がいる。瀬戸会長と葉月先輩とそして僕だ。
今この場所には加奈子先輩を含め、たった四人しかいないが、選挙期間中いろいろな場所で、いろいろな活動をして、支持者を一人でも得られればいいなと思う。
「それじゃ。この紙に書いて行こう!!」
葉月先輩はそう言って、立候補の届け出用紙を広げる。
「まずは‥‥。」
葉月先輩は加奈子先輩の方を見る。
加奈子先輩は頷く。
『立候補者:2年C組、井野加奈子』
一番大きな枠に加奈子先輩は自分の名前を書いた。
「そして。」
瀬戸会長はウィンクしながら前に進む。
『推薦人1:3年E組、瀬戸史奈』
「よーっし。」
葉月先輩が元気よく前に進む。
『推薦人2:2年C組、花園葉月』
「それじゃ、最後に。輝君の番。」
葉月先輩は僕の方を向いた。
「ふふふっ、今回の推薦人、いちばんの目玉ね。」
瀬戸会長もにこにこと笑っている。
皆に促され、ペンをもって、自分の名前を書く。
なぜだろうか。ものすごくドキドキしている。
自分の名前を書くことに、緊張したことはこれまでなかった。
ゆっくり丁寧に、名前を一画、一画書いていく。
『推薦人3:1年B組、橋本輝』
最後の一画を書いて、ペンを紙から離す。
僕たちはそれと同時に拍手をした。
そうして、僕たちはその紙を提出し、晴れて、加奈子先輩は生徒会長選挙に立候補したことになった。
翌日、校内の各所で、張り紙が張り出される。
もちろん、生徒会長に立候補する、候補者の生徒の名前と、推薦人の名前だ。
やはり、校内のどこの掲示板も、人だかりが一杯だった。
僕はその珍しさに、あっけにとられたが。
すぐに瀬戸会長がフォローする。
「毎年の恒例行事ね。誰に投票するか悩むもの‥‥。」
瀬戸会長はそう言いながら、笑っていた。
少し騒がしい一日のその日の昼休み。
「ハッシー、ヤバくない?推薦人になったの?」
そんな風に声をかけてきたのは、クラスの一軍女子と言われる、北條結花だった。
結花とはクラスでいちばん接点がある。男子が僕一人のこのクラスにとって、唯一の接点が結花だった。
「まあ。成り行きでね。すごっく勇気が必要だったけど‥‥。」
僕は下を向きながらも結花とコミュニケーションをとる。
「すげーじゃん。ホント。マジで。」
結花は興奮気味に僕に向かって言う。
「そうなのかな?今年から共学になったということだけれど、ほぼほぼ女子しかいないところで、どう思われているかすごく気にしてしまう、僕がいるんだけど。特に、結花さんからこういわれると。」
僕は正直に話す。確かに、最初は戸惑ったが、瀬戸会長や葉月先輩、加奈子先輩を見ていると放っておけなくて。
今までは、生徒会メンバーのおかげで、推薦人になるぞ。と思っていたが、いざ、全校生徒の前に名前をさらされるとなると、少し緊張してくる。
「いいんじゃない。堂々としていいと思うよ。ちなみに一年生は他のクラスにも男子がいるから~。最初は少し驚いたけれど。考えてみれば、まあ、普通って感じかな。」
結花は、確かに最初は少し驚いていたが、あとは普通にコミュニケーションをとっている。
「ありがとう。そういってくれると、助かる。」
僕は結花にお礼を言う。
「うん、うん、そうしなって。きっと、生徒会でも入学してきて、最初の月で、頑張ったからこういうところに立っているんだよ。大丈夫。大丈夫。」
結花はそう言って、自分の席、クラスの一軍女子のたまり場へと戻っていく。
それを見る僕。結花に言われて少し安心する僕が居た。
そうして放課後、生徒会室へと向かう。
「さあ。加奈子ちゃんの選挙活動開始よ!!といっても、顔を覚えてもらうために、朝、校門に立って、挨拶することくらいしかないんだけどね。」
瀬戸会長はそう言って、活動を提案する。
「そうですね。他の候補もいるので、あとはクラスを回ったり、いろいろ準備したり、SNSとかにアップするくらいですね。」
葉月先輩は瀬戸会長の提案に乗った。
もちろん加奈子先輩もそれに頷く。
「よ、よろしくお願いします。」
加奈子先輩はそう言いながら恥ずかしそうに頭を下げる。
「ということで、輝君、明日の朝は少し早く出て来られる?」
葉月先輩にそう言われたので、僕は黙ってうなずく。
だが、肝心の加奈子先輩は頷くのが少し後だった。
生徒会の選挙活動がこうして始まったのだった。
早速、翌日から生徒会長選挙の活動に取り掛かった。
生徒の登校時間前、僕は一番乗りで学校に来た。
そして、ほぼ同時に、瀬戸会長と葉月先輩が学校に登校した。
「おはよー、輝君。一番乗りだね~。」
「おお、早いわね。橋本君。いつも朝練とかがなくて、こういう朝早い登校に、てっきりなれていないのかと思ったわ。」
葉月先輩と瀬戸会長がにこにこと笑う。
「はい。農作業も手伝っているので、実は早く起きることに関しては慣れてます。」
「ああ。そうだよね。」
「ああ、そうだったわね。」
僕の反応に二人は頷く。
「でも。」
瀬戸会長の少し頬が膨れる。
「少なくともLineは返そうね。心配するから。」
瀬戸会長に言われて、慌ててスマホの通知を見る。
【おはよー。今日は何するか覚えてかな?通知を見たら今すぐ自転車に飛び乗って、学校へレッツゴー】
その後に、かわいいキャラクターのスタンプが押されている。
時刻を見るとちょうど、用意して、自転車をこぎ始めた瞬間だ。
「すみません。自転車に乗っていて、マナーモードにしていたので。」
僕は瀬戸会長に頭を下げる。
「うんうん。大丈夫。大丈夫。こういう時は、次からは早めにモーニングコールするわね。私も電車に乗ってから心配になったから。」
瀬戸会長はそう言いながら準備を始めた。
準備を進めようとしたその瞬間。
「お、おはよう。」
はあはあと息を吐きながら、加奈子先輩が到着。
加奈子先輩は、間に合ったことを確認して、思わず、両手で、セーフの合図を作る。
「あらあら、それでも、ギリギリよ。加奈子ちゃん。ダメじゃない。立候補する本人がこんなギリギリに登校しちゃ。」
瀬戸会長がにこにこと笑う。
「ご、ごめんなさい。会長。ごめんね。葉月、輝。」
「まあ、いいわ。時間には間に合ったんだし。」
瀬戸会長がニコニコ笑う。
「まあ、そこが加奈子らしさなんだけどね。それでも時間通りに来ることが、真面目な加奈子って感じだよね。」
葉月先輩が頷く。
僕も頷く。確かに朝早いとギリギリまで寝ていたい気分だ。
「さてと、選挙運動、開始よ!!」
瀬戸会長は、この雰囲気に終止符を打つかのように、ポンッと手を叩き、旗を持ってきた。
旗には『花園学園生徒会』と書かれている。
「生徒会長候補者には、この時期、無料で自由に貸し出されているの。そして。」
瀬戸会長は、『井野加奈子』と書かれたタスキを持ってきた。
よく、選挙の候補者が書けているタスキだ。
「まあ、これも作りものなのだけどね。それじゃ、出発しましょうか。」
瀬戸会長はそう言いながら、校門の前へと、僕たちを案内した。
加奈子先輩は当然、タスキをかけている。
僕たちは、登校してくる生徒たちに向けて、校門に立って、挨拶運動を開始した。
「おはようございます!!」
「おはようございます!!」
そう挨拶をしながら、登校してくる生徒がみんなこちらの方を向いて挨拶を返してくれる。
男子である僕を一瞬不思議そうに見る視線も少しあったが、そんなもんなんだなと思いながら、生徒たちはみんな校門のを潜り抜けて行った。
それを見て僕は少し安心する。
挨拶運動、これは効果がありそうだな。
僕たちはそう思いながら、翌日以降も挨拶を続けた。
相変わらず、加奈子先輩は時間ギリギリで滑り込むように一番最後に来たが、一応、時間通りなのでいつものことだと思い、誰も咎めることは無かった。
すると、翌日以降、男子である僕に対しても、挨拶を返してくれる女子生徒が現れ始めた。
五月中は、朝は早く登校し、夕方は加奈子先輩と一緒にバレエ教室に通い、コンクール決勝に向けての練習の日々が続く。
バレエ教室の原田先生も、加奈子先輩が生徒会長選挙に立候補することを知っており、
「ヨシッ。かなり仕上がっているぞ。会長選挙も頑張れよ。二人とも!!」
原田はそう言って、毎回僕たちを送り出してくれた。
課題曲、自由曲もだんだんと仕上がってくる様子があり、練習の度に手ごたえを感じた。
そうして、翌朝は選挙活動に向かう。生徒会メンバー特に加奈子先輩と一緒に居る時間がとても長いが、その分充実さもあり、五月はあっという間に過ぎていったのだった。
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