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189.美ら海水族館にて

 

 沖縄旅行三日目の朝を迎える。

 ホテルの部屋で目が覚める僕。


「おはよう。輝君。」

 葉月がニコニコと笑って、元気よく声をかける。僕よりも少し早めに目が覚めていたようだ。だが、姿は生まれたままの姿で、微笑んでいる。


 僕の頬に自分の唇を当てる葉月。僕も、葉月の頬に、僕の唇を当てる。


「へへへっ。もらっちゃった。」

 ニコニコと笑う葉月。朝からドキドキさせてくれる。

 そうして、マユと早織も順番に起きて来て。


「おはよう。ひかるん。」

 無我夢中の表情で、葉月と同じように、僕の頬に唇を当てるマユ。

「お、おはよう。輝君。」

 早織も、マユの動きを真似て、僕の頬に唇を当てる。


 全員、脱いだ服に手をかけておらず、生まれたままの姿の僕たち。


「ふふふっ。さあ。今日も楽しもうね。」

 葉月の言葉に僕たちは頷き、ベッドから降りて、仕度を済ませる。

「今日は少し曇っているけど、雨は降らないみたいで良かった。」

 マユがうんうんと頷き、笑っていた。


 僕たちは各々、服を着て、身支度を整え、ホテルの朝食会場へと向かう。

 昨日と同じ、朝食バイキング形式だ。


 朝食会場に到着する僕たち。

「おはよう、少年、よく眠れたか?」

 原田先生の言葉に僕は頷く。


 昨日の夜を共に過ごした、三人とは、そのまま朝食でも同じテーブルになり、色々と会話を弾ませる僕たち。

 やはり、話題の中心は、今日の朝食についてだ。

 昨日と同じメニューもあれば、連泊した客に向けて、違うメニューも結構ある。


「すごい。色とりどりですね。」

 早織は一つ一つの料理を見てうんうんと頷く。

 そうして、口元に料理を運び、味を確かめる。


 早織のその仕草はまさにプロだ。流石は料理の研究に余念がない。


「すごいね。早織。やっぱり、自分のお店に少しは活かせそう?」

 僕はそう聞くと、早織はうんうんと頷く。


「そうだね。私たちの場所は海から遠い場所にあるから、こういう場所、海と言っていい場所の料理に憧れはあるから、一定数の需要はあるね。味付けを工夫すれば行けそうかなぁ。」

 早織はうんうんと頷きながら、一口一口、料理を味わう。

 昨日、そして、一昨日も、そんな感じで、沖縄料理を観察していた早織。収穫はありそうだ。


「すごいね。やっぱり、プロの観察の仕方は違うね。」

 僕がそう褒めると、早織は顔を赤くして笑っている。

「ホント、ホント、うち等なんかすぐ食べちゃう~。」

 マユがうんうんと頷きながら、笑っている。

「そうだね。私も料理するけど。こういう場所に来たら、何も考えずに楽しんじゃうかも。」

 葉月はニコニコ笑いながら、朝食を食べていた。


 そうして、朝食を済ませ、各々部屋に戻り支度をする。


 今日は美ら海水族館の方まで行って、色々と見学をする予定になっている。


 早速、レンタカーに乗り込み、美ら海水族館まで車で行く僕たち。

 今日は史奈の運転はお休みで、原田先生と吉岡先生が車を運転してくれることになった。


 史奈が助手席に座り、原田先生の運転を見る。今度は、僕が右後ろに行って、原田先生と一緒に、右後方からの視線を一緒に注意して見る。

 じゃんけんの割り振りの結果、他に一緒に乗るメンバーは、心音と風歌となった。


 美ら海水族館迄のドライブは、左側の車窓に海を見ながらのドライブ。

「ふふふっ、素敵ね。運転しながらだと、海を見られる余裕がないもの。」

 史奈はうんうんと頷きながら、左側を見つつ、海沿いの道を楽しんでいる。


「ハハハッ、そうだな。一昨日の運転、本当に、ご苦労だったな。海を見ながらのドライブを楽しんでくれよ。」

 原田先生はニコニコ笑って、史奈を労う。


「そうっすね。会長。今日は楽しみましょう。沖縄の海。」

 心音はニコニコ笑っている。

「はい。にへへっ、海。楽しい。」

 風歌もうんうんと頷きながら、ニコニコと笑っている。


「ふふふっ、皆、いつもと変わらないみたいで本当に嬉しいわ。」

 史奈がニコニコと笑って、車窓左側の海を少し楽しみ、視線を前に戻す。

 自分が運転する時を想定して、危険予測のトレーニングも怠らないようだ。


 僕と、原田先生は対向車に気を付けながらも、海の方を見る。

 本当に綺麗な海だった。


 そうして、僕、史奈、原田先生の三人は視線を前に戻す。車は、名護市の市街地へ。ここは流石に前方を注意して、気を抜かずに走行しなければならない。

 幸いにも、飛び出してくる人は居なかったので、すこし、余裕を持ちながら前方を見ていた。


 その市街地を抜けると、再び、海を見ながら車は走り、美ら海水族館の駐車場へとたどり着く。

 駐車場に車を止め、僕たちは車を降り、水族館の中へ。


 ジンベイザメのモニュメント、そして、沖縄らしさが出ている大きな建物に迎えられる僕たち。


 開放的な外観に一同は驚愕する。

「すごい。海の方まで見渡せる建物。」

 葉月が海の方を指さす。そして、海の遥か向こうには、伊江島と呼ばれる島がうっすら見える。

「本当、今日も天気が味方してくれて良かったわ。」

 史奈は海の向こうの伊江島を見ながら少しうっとりする。


「すごい。綺麗。」

 加奈子は今見ている光景を目に焼き付けている。

「にへへっ。来てよかった。」

 同じような表情をしている風歌。本当に満足そうだ。


「ハッシー。来て来て。サンゴが育成されているみたい。」

 結花が指さしたのは、美ら海水族館の水槽の一部。どうやら、館内の水槽が真上から見られるようになっているようだ。

 沖縄のサンゴ礁が見事に再現されている。


「すごい。トロピカルな海。やっぱり、こういう海は沖縄でないと見れないよね。」

 マユがニコニコと笑ってそれを見つめている。

「うん。綺麗。これだけでも、一日中ここに居たくなっちゃう。」

 心音もうんうんと頷きながら、その館内の水槽を見ている。


 そんな皆を、原田先生と吉岡先生が誘導しながら、水族館の入口へと向かう。

 この水族館は、深海へ行くように、最上階が入り口で、一階が出口となる構成だ。


 先ずは、ここ周辺の海の様子が再現された水槽のフロア。

 周辺の浅瀬の砂浜を再現された展示物が出迎えてくれる。砂浜にはいくつかヒトデ横たわっている。そのヒトデの周辺をナマコが泳いでいる。さらには岩場の方へ目を向けるとヤドカリや小さなカニの姿を見ることができた。


「すごい。沖縄。こんなにたくさんの生き物が居るんだ。」

 葉月は目を丸くして言う。

「すごいっすね、社長。面白いっすね。」

 義信も間近で見られる浅瀬の生き物たちに興味津々のご様子。


「そうだね。結構。面白いね。沖縄は本当に海が間近に体験出来て素晴らしいよ。」

 僕はニコニコ笑いながら、葉月と義信の言葉に頷き、砂浜、沖縄の言葉でイノーというのだが、その、イノーの生き物たちの水槽を見ていた。


 しばらく観察した後、更に歩みを進めると、今度は、サンゴ礁の水槽へ。この水槽もかなり規模が大きく、沖縄の海のサンゴ礁が見事に再現され、かなり大規模にサンゴの飼育が出来ているようだった。


 サンゴ礁の水槽の中を熱帯魚たちが沢山泳いでいる。


 まるで、海の中のアクアリウムだ。


「すごい。来てよかった。」

 風歌は水槽の中を泳ぐ、カラフルな魚たちに見とれている。

「ありがとう。風歌。福引、当ててくれてさ。」

 僕は風歌にお礼を言う。風歌は首を横に振る。


「ううん。生徒会の皆、葉月ちゃんのお父さん。みんな頑張って、景品、用意してくれた。ありがとう。」

 風歌は、にへへっ、と笑って、うんうんと頷きながら、僕にお礼を言う。

「こうしてみると、泳ぎの練習したくなる。お魚さんと泳ぎたい。カラフルな。お魚さん達と。」

 風歌は優雅に泳ぐ熱帯魚たちに見惚れていた。

「そうだね。僕も、こういう海で泳いでみたい。」

 僕はそう思いながら、昨日、シュノーケルのツアーで泳いだことを思い出す。


「昨日も泳いだけど。明日も、明後日もね。」

 僕はそう言いながら風歌に問いかける。風歌もうんうんと笑っている。

「うん。また泳げるといいな。」

 風歌はニコニコと笑って、頷いていた。


「へへへっ、楽しそうじゃん。風歌。」

 風歌の後ろから心音が声をかける。

 心音も、水槽の中を見渡す。


「ふうっ、本当に綺麗だね。」

 思わずため息が出る、心音。

「こんな綺麗なものに見惚れるのは久しぶりだなぁ。」

 心音は思わずうっとりしながら風歌と一緒にサンゴ礁の水槽を見る。


「そうっすね、パイセン。そして、ハッシーも色とりどりのお魚さんに夢中だね。」

 心音と一緒に居た結花。結花も、先ほどの心音の言葉と同じような心持ちだろうか。久しぶりに綺麗なものを見るような目で心音、そして、風歌と一緒にサンゴ礁の水槽と、一緒に泳ぐ、色とりどりの沢山の魚たちを見ていた。


 三人の言葉通り、この水槽の中を泳ぐ魚たちの数は、昨日のシュノーケルツアーで見た魚たちの数よりもはるかに多い。

 そして、こちらには、水族館ということもあり、この水槽で飼育されている魚たちの名前もわかるようにされている。

 魚たちの種類が記載されている掲示板を見ながら、あれがあれで、というように指をさしたり、目で追ったりしている僕たちの姿があった。


 そうして、このフロアの奥の方へ。

 色々なサンゴが展示されているフロアへ向かう。


 この場所で、興味津々なのは早織と雅。

「すごい。色々なサンゴがあるんだ。」

 早織はうんうんと頷きながら、サンゴの展示をよく見ている。

「そうですね。色々と勉強になります。地球の環境とかそういうのも興味あるので。」

 雅はうんうんと頷きながら笑っていた。


 二人の言葉通り、サンゴにもいろいろな種類がある。

「すごいね。色々な種類のサンゴがあるから、ここら辺の海は綺麗なんだろうね。」

 僕がそう言うと、早織と雅は目の色をキラキラと輝かせながら頷いていた。


 そんな感じで、サンゴ礁のフロアを巡り、一つ下の階層へ僕たちは向かう。

 一つ下のフロア、つまりは次のフロアは、太平洋の沖合を泳ぐ魚たちのフロアだ。


「うわぁ~。」

 目の色をキラキラさせた表情でそう感嘆する風歌。息をのんだ表情で風歌の視線の先を見る。


「ひかるん、見て見て、すごいよ。」

 マユは僕を風歌視線の先へと行くように手を繋いで促す。

「待って、マユ。私も、輝と一緒に行く。」

 加奈子はそう言って、僕とマユの後を付いていく。勿論、葉月や史奈も負けていない。


 そう、僕らの視界に映ったものは、大きな水槽。しかも世界最大級とも言われる巨大な水槽だった。

 そして、その大きな水槽の中には、雄大に泳ぐ海の生き物たち。その生き物たちの中でも特に目立つのはジンベイザメだ。


 雄大に泳ぐジンベイザメ。水槽の近くへ行って、ジンベイザメの大きさを確かめる僕たち。


「すごい。ものすごく大きいって、ネットとかを見て知ってたけど、近くで見ると、かなり大きい。」

 加奈子は水槽を見ながら、ジンベイザメの泳ぐ姿を目で追う。

 勿論、水槽の大きさにもものすごく驚いているようだ。


「すごいね。ひかるん。感動しちゃった。」

 水槽の近くまで、僕と加奈子を連れてきたマユ。

 彼女も加奈子と同じく、ジンベイザメを目で追う。


「うん。なんか感動。」

 僕はそう言いながら笑っていた。マユと加奈子もうんうんと頷き笑っている。


「ふふふっ、すごいわね。ジンベイザメ。他にもたくさんの生き物が自由に泳いでいるわね。」

 僕たちの隣に、史奈がニコニコと笑ってやってくる。


「そうだね~。ジンベイザメの他にもいろいろなお魚さんや海の生き物たちが居るね。」

 ニコニコと笑いながら葉月もやって来る。

 そうして、葉月はジンベイザメだけではなく、色々な生き物を見て行く。


「あっ、マンタ、可愛いよね。目一杯に体を広げて泳いでいてさ。」

 葉月はそう言って、マンタを指さす。親子なのか、夫婦なのだろうか。二匹のマンタが泳いでいる姿を葉月は指さす。


「親子なのかな?」

 僕は葉月にそう問いかける。加奈子も僕の問いかけに真剣な表情をして笑っている。


「親子‥‥なんだろうね。習性とか、大きさとかを見ると。でも、夫婦だったらいいな。」

 加奈子は少し顔を赤くしながら、僕の方を見る。

「私も、加奈子と同じ。」

 葉月もそう言って、僕の方を見た。


「あらあら。抜け駆けは許さないわよ。私も夫婦だったら嬉しいわ。勿論、親子でもね。」

 史奈がうんうんと頷きながら笑っている。勿論、彼女も顔が少し赤い。だが二人とは違い、目の色を少しキラキラさせながら笑っていた。

「へへへっ、ひかるん。マンタの家族かぁ。いいよね。」

 マユも顔を赤くして僕の身体を掴んでいる。


 大きな水槽の前に居た僕。そして、葉月、加奈子、史奈、マユの四人。おそらく、四人それぞれ、僕との間に色々なことを想像したのかもしれない。それを察して、どこか胸がドキドキする僕が居る。


 少し緊張しつつも、僕は皆の言葉に応える。

「そうだね。親子なんだろうけど、夫婦だったらいいな。でも、どっちだったとしてもほっこりするね。」

 僕の言葉に、一緒に水槽の前に居た四人は顔をさらに赤くして頷く。

 そうして、水槽の魚たちを見ていると。


「なになに?何の話?」

 後ろから結花が声をかけて、割り込んでくる。

「気になる~。」

 心音も一緒に入ってくる。


 そして、早織、心音、さらには雅も心音と結花の後ろから興味津々に、水槽の前に居る僕たちに近づいてきた。


「マンタの親子の話。子供の方のマンタが大きくなってきているから、夫婦や家族に見えたって言いうね。」

 僕は、泳いでいるマンタを指さして、正直に答える。


「ふ~ん。」

「へぇ~。」

 心音と結花は、少しどこか不貞腐れたような表情をしながら頷く。


「きゃっ‥‥。」

 と、両手で口元を覆う風歌。

「えっ、は、はい。とりあえず良かった。」

「はい。私もそう思います。」

 早織と雅は、若干ドキッと反応したものの、冷静さを取り戻している。


 まずいことを言ってしまったかなと僕は思う。少しの沈黙。


「ご、ごめん。でも、まあ。その、一緒に泳いでいる所を見ると、ほっこりするよね。」

 と、僕はもう一度、皆の目を見て、どこか、念を押すかのように言った。


 皆は僕の言葉にうんうんと深々と頷く。大丈夫なようだ。


「そうね。他にもたくさんのお魚さんが居るわね。それを見ててもほっこりするわ。」

 史奈の声。

「うん、えっと、沢山の小魚さん達の群れ、集団で群れているから一つの宝石みたいで綺麗。」

 風歌が、気を取り直して、小魚たちの群れを指さす。


 皆も、うんうんと頷く。


「そうだね。綺麗だね。一人一人の力は強くなくても、皆の力を合わせれば、どんなことでもできるんだね。」

 僕は小魚たちの群れを見て、うんうんと頷きながら、皆に言った。

 皆も一斉に頷き、笑顔の表情になる。


 先ほどのやり取りを振り返ると、高校を卒業するまでに、いずれは一人、選ばないといけない。

 でもしかし、今は、皆の力を合わせて何かを成し遂げてみたいという気持ちの方が強い。


 皆もそれをわかっているようだ。少し安心する僕が居る。


「おーい、少年。」

 そんなやり取りを見ていた原田先生が後ろから声をかけてくる。


 僕たちは後ろを振り返り原田先生の声がした方へと視線を向ける。

 先生は大きく手招きをしながら、大きな水槽の傍にある、カフェを指さす。


「折角だから、こっちで楽しもう!!」

 原田先生はそうして、大きな水槽があるフロアのカフェに集まるように手招きをする。


 この水槽を見ながら、食べたり飲んだりできるカフェのようだ。


「すごい。まるで、海の中にいるみたい。」

 加奈子がカフェの中を見回す。

 そこには、優雅に巨大な水槽を泳ぐ魚たちを見ながらくつろげる席がいくつも用意されていた。


「そうだね。これなら、何時間見ても飽きないね。」

 僕が加奈子の言葉に頷く。


「うん、うん、泳ぐの苦手な私も、楽しめそう。」

 風歌がニコニコ笑う。

 その風歌の笑顔に同情するように大きく頷く早織と雅。


「そうだね。ゆっくり、ほっこり出来そうだね。」

 僕は風歌の言葉に笑顔で頷いた。

 風歌はニコニコ笑っていた。


 そうして、カフェに入り、各々、飲み物や軽食を注文して、席に座る僕たち。


「すごいわ。ジンベイザメをゆっくり見られるわね。雄大で美しいわね。」

 史奈がニコニコ笑っている。席について、どこかホッとしたようだった。

「へへへっ、私は、マンタと小魚の方が面白いかな。常に群れで動くんだね。」

 葉月がニコニコ笑いながらそれらを見ている。


 水中の中にいるみたいで本当に幻想的な場所。

 そうして、魚たちに見惚れているとあっという間に僕の頼んだ食事が運ばれてくる。ラテアートコーヒーと紅芋タルトのセットだ。


「すごい。」

 ラテアートコーヒーのイラストに釘付けになる僕。

 マンタのシルエットが綺麗に描かれている。


「すごいね。ラテアートのコーヒー。」

 それを見た葉月思わずニコニコ笑う。

「うんうん。こういう事ができるようになりたいと思ってるんだけど、なかなか難しくて。」

 早織がそのイラストを見て、どこか憧れを抱いている。料理が好きな早織。こういったこともできるようになりたいと思っているのだろう。


「早織ならすぐ出来そうな気がする。」

 僕が早織に向かってニコニコ笑う。

「うん、うん、そうだよ。私も頑張ってみようかな。」

 葉月もニコニコ笑っていた。


「そうね。早織ならきっと大丈夫。」

 一緒に居た加奈子もうんうんと頷きながら、早織を見ていた。


「はい。ありがとうございます。本当に、ありがとね。輝君。」

 早織は僕に向かって、ニコニコと笑ってお礼を言った。


 そうして、ラテアートのコーヒーを名残惜しそうに口元へと運ぶ僕。

「にへへっ、イラスト、崩すのもったいないね。」

 風歌も一緒に名残惜しそうな表情をする。


「そうだね。ハッシー、ゆっくり飲もうね。」

 それを見た結花が念を押すように言う。

「まあ、でも、冷めないうちに飲んだ方が良いかもね。私も同じの頼んで写真に撮ったし。」

 心音はニコニコ笑いながら、僕にウィンクしていった。そして、同じように、マンタのイラストが描かれていた、ラテアートのコーヒーを指さした。


 指さした方向を見て、僕はうんうんと笑顔で頷く。


 そうして、ラテアートが崩れる間一髪のところで僕はスマホを取り出し、写真を撮る。

 写真を撮り終わると、口元へと運んで、コーヒーを飲む。


 イラストが崩れてしまった名残惜しさはあるが、沖縄のコーヒーはどこか南国の雰囲気を感じ取れた。

「沖縄のコーヒー豆なのかな?すごく美味しい。」

 僕がそう言うと、皆はうんうんと頷く。


 そうして、セットで頼んだ、紅芋タルトを次は食べる。

 これも十分すぎる美味しさだ。コーヒーの味と、タルトの甘さが絶妙にマッチしている。


「すごいな。これを食べれるなんて。しかも、大きな水槽を泳ぐ魚たちを見ながら。」

 僕がそう言うと、皆もうんうんと頷いた。


 雄大に泳ぐ魚たちは、時間の間隔も忘れてしまう。


「そうっすね、社長。なんだか、俺もゆっくり食べてます。」

 ガッツリ体育会系の義信。僕よりも食べる量が当然多く、ここでも他の皆よりも少し多めに食べ物を注文している。

 だがしかし、彼は泳ぐ魚たちを見ながら、ゆっくり食事をしているようだ。いつもなら、かなり速いテンポで食事を平らげてしまうはずだ。


「うん、うん。磯部君もゆっくり食べてるね。」

 史奈がニコニコ笑いながら義信の様子を見ている。

 僕も、うんうんと頷く。


「そうだね。雰囲気がかなり素敵だから。どうもそっちに目が行っちゃうね。」

 僕がニコニコと笑って話しかけると皆はうんうんと頷いていた。


 そうして、各々注文したメニューを食べ終えて、再び、黒潮の旅のフロア、その巨大水槽に泳ぐ魚たちを見る。

 順路通り進むと、巨大水槽を真上から望める場所に差し掛かる。

 ここに関しては、誰もが目を丸くして驚いていた。


 そうして、長めに滞在した、黒潮の旅のフロア。


 最後にやって来たのは、深層の旅のフロア。

 文字通り、深海に住む海の生き物たちの展示だ。


 当然だが、海も深いので、太陽の光がわずかしか届かず、フロアも少し暗いのが印象的だ。


「おお。未知の冒険の始まりですな。社長。」

 義信がニヤニヤと笑いながら、水槽の方へと向かっていく。


 未知の冒険かぁ。何だろうか、この言葉に憧れる。


 水槽の中には、やはりあまり見たことのない生き物たちが展示されている。

 深海の生き物ということもあって、色々な飼育技術も必要なのだろう。こういった水族館でしか展示されておらず、こういった生き物たちを見に、水族館に訪れる人もいるのだろう。


「すごいね。輝。」

 加奈子が水槽の隣に来る。黒潮の海のフロアから、加奈子は積極的に隣に来ている感じがする。

「そうだね。珍しい生き物ばっかり。」

 僕が加奈子の言葉に頷く。


「アトランティスとかもあったりして。人魚姫とかも居るかな?」

 加奈子が少し顔を赤くして言う。僕もどこか緊張してしまう。

 真面目で、成績優秀な加奈子。その加奈子から、突然、ロマンティックな言葉が飛んでくる。

 バレエは色々なお話の役を演じているから、少し想像してしまうのだろう。時々、聞くことになる加奈子のこういう言葉たちに、僕はドキドキする。


「居るんじゃない。信じていれば。バレエでこういうお話はやったことがあるの?」

 僕は加奈子に聞いてみる。


「えっと、自分ではやったことないけど。その、昔、学びを含めて、他のバレエ団とか、劇団でこういうお話を見に行ったことがあったから。」

 加奈子は顔を赤くしてそう答えた。


「そうなんだ。」

 僕はそう笑って、うんうんと笑っていた。何だろうか、加奈子の言葉から、そのバレエ団が人魚姫のお話を踊って演じている姿が容易に想像できてしまう。

 バレエ団のプリンシパル。いちばん踊れて、綺麗な人が人魚姫を演じているのだろう。

 舞台の背景はこんな感じで。


 そう思ってくると、急に胸が熱くなる。


「どうしたの?輝。」

 加奈子が僕に聞いて来る。


「えっと、僕も、人魚姫とか居るって、最近、信じるようになった。」

 僕は顔を赤くし、首を横に振りながら、そう答える。


「へえ、そうなんだ。どうして?」

 加奈子がそう聞くと。


「えっと、スタッフとして、手伝うようになったから。その。皆が、人魚姫ではないにしろ、ファンタジーの王国のお姫様とか、妖精とか、色々なモノから王子様に変身する役を演じているのを見て。こういう華やかな王国があるのかなって。」

 僕がそう続ける。どうだろうか。遠まわしだったか。それとも、あまりにもストレート過ぎたか‥‥。

 僕は、加奈子の反応を見ていた。


 加奈子はギュッと僕の手を掴む。強い握力で。


「ありがとう。輝。これからも、頑張るね。」

 加奈子はそう言って、笑っていた。

「うん。僕も応えられるように頑張るから。」

 僕はそう答えて、うんうんと頷いた。


「なになに?二人で何してるの?」

 加奈子と反対側の僕の隣に、葉月がやって来る。


「未知の冒険の話をしてたかな。アトランティスとか。」

 僕は少し考えて、そう話した。

「へえ。アトランティスかぁ。いいね。」

 葉月の後を追って、僕の方に近づいてきたマユ。そうして、僕の目を見たマユ。

「冒険したいね。」

 マユがニコニコ笑って言った。うんうんと頷く僕。


「ふふふっ、アトランティスには、マーメイドも居たりして。」

 史奈がニコニコ笑って、僕たちに近づきながら言った。

 その言葉にドキッとする、僕と加奈子。


「そう、だね。居たらいいね。」

 僕は史奈の方に向かって小さく頷く。

「はい。居たらいいですね。」

 加奈子も同じような動作をして、史奈の方を見た。


「ふふふっ。可愛い。人魚姫になっちゃおうかな。」

 史奈がニコニコ笑って、僕たちに言う。少しドキドキしてしまう僕と加奈子。だが、胸の高鳴りの仕方が、僕と加奈子は少し違ったようで。

 加奈子は、僕の手をさらに強く握る。そのお陰もあって、僕は呼吸をあっという間に整えることができた。


「にへへっ、人魚姫。ワクワク。」

 風歌がニヤニヤと笑って、深海の水槽を見ている。彼女も僕たちに近づいてきていたようだ。

「とてもロマンティック。」

 一緒に近づいてきた早織もこの話を聞いて、うんうんと頷いた。

「はい。本当に、綺麗な人魚姫様なんだと思います。勿論、海底王国も。」

 雅がそう言って、ニコニコ笑いながら僕たちの背後からそう言ってくる。


「まあ。私は冒険の方が気になるかな。一緒に泳げたらいいね。」

「私もパイセンと同じかな。海の向こうまで泳いでみたい。」

 心音と結花がうんうんと頷きながら笑っていた。


 そんな感じで、少しドキドキしながら、深層の海のフロア、深海の珍しい生き物たちの展示を一通り見る僕たち。


 その展示している貴重な生き物を見て、大満足だった。


 そうして、美ら海水族館の館内を一通り巡った僕たち。


 本館最後に立ち寄った場所は、お土産屋さんだった。

 そして、ほとんどが、美少女たちということで、お土産屋さんで最初に行った場所は。


「にへへっ、やっぱり可愛い。」

 風歌が顔を赤くしながら、視線の先を見ている。

「か、可愛い。」

 加奈子もドキドキしながらそれを見ている。

「うん。やっぱり可愛いよね。」

 葉月も同じような表情で笑っていた。


 最初に行った場所。やはり、ぬいぐるみの売り場だった。

 ぬいぐるみ。やはり、記念として残りやすい。


 家には、昨年の夏に、茂木先生の別荘に行った際、同じように水族館に立ち寄った時に買った、イルカのぬいぐるみが一つ。寂しいし、仲間が増えるのはとても良いことだろう。しかも海の仲間だ。


「そうだね。可愛いね。そして、去年買った、イルカさん、寂しいなって。」

 僕がそう言って皆の方を向くと。


「「「ああっ。」」」

 ほとんどのメンバーが大きく頷いた。茂木先生の別荘に行ったとき、水族館でぬいぐるみを買ったメンバーだ。


 そうなると、どれにしようか‥‥。


 しかし、悩むのはほんの一瞬。おかれていた、マナティーのぬいぐるみと目が合う。

 こういうのは最初のインスピレーションが大事。ということで。


 マナティーのぬいぐるみを一つ買うことにした。


「これにしたんだ。可愛いよね。」

 葉月がニコニコ笑って言う。

「そうだね。目が合ったから。」

 僕は照れるように頷く。


 他のメンバーも、各々、僕と同じマナティーか、イルカ、ジンベイザメ、ウミガメと、色々なぬいぐるみの中から一つ選んで購入していた。


 他には、キーホルダーと、お菓子をいくつか購入し、水族館の本館を出る。


「ふふふっ、良かったね。」

 葉月がニコニコと笑っている。

「私も、久々に感動したかな。海の仲間たちに。」

 加奈子が笑っていた。

「にへへっ、皆楽しんでいてよかった。」

 風歌がうんうんと笑っていた。

 文化祭の福引を当て、皆と一緒に沖縄に行けた喜びをかみしめている風歌の姿。


「僕も本当に良かった。ありがとう。」

 僕は風歌、そして、皆にお礼を言って、美ら海水族館の本館を出る。

 僕の明るい表情に皆は大満足したのか。


「はい。私も、輝様と皆様と一緒に巡れて嬉しかったです。」

 雅がニコニコ笑っている。

「へへへっ、私もハッシーと一緒に回れてよかった。」

 結花がうんうんと頷いていた。

「あっ、それはこっちの台詞よ、結花。」

 心音もニコニコと笑って、親指を立てて、僕にきりっとした表情を見せる。

「うんうん、結構、私も元気出たかな。」

 マユも一緒に、きりっとした表情で、僕の肩をポンポンと叩いて言った。


「あらあら、皆、元気が良くてうれしいわ。」

 史奈がうんうんと頷いて笑っていた。そして、さりげなく、僕の手を繋いで笑う。


「輝君とも一緒に回れたわね。今度は、二人で来ましょうね。」

 僕にそう耳打ちをする史奈。


「あっ、会長ずるい。決めるのは輝君ですよ。」

 葉月がぷくーっと頬を膨らませてこちらを見る。


「良いじゃない。今は減るもんじゃないんだし。」

 史奈はそう言って、ウィンクしていた。


「おーい。お前たち。お土産をたくさん買ったから、一度車に戻るぞ。」

 原田先生の大きな声に、僕たちは頷く。


 そうして、車にお土産を積んで、再び、美ら海水族館周辺の観光を楽しむのだった。





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