184.春の沖縄旅行
春休みが始まって二日目。僕たちは、羽田空港の第一ターミナルに居た。
全員が大きな鞄を持ち、これから飛行機に乗るという恰好。そう、僕たちはこれから飛行機に乗る。
「にへへっ、皆で、沖縄。やったぁ。輝君と一緒、やったぁ。」
風歌が得意げに笑っている。
「そうね。こればっかりは、風歌ちゃんにお礼しないとね。本当に、ありがとう。」
史奈がうんうんと頷いて、風歌に頭を下げる。
「ありがとう風歌。誘ってくれて。」
僕も風歌に、頭を下げる。
「にへへっ、輝君と一緒。文化祭の福引の特賞。」
風歌は得意げになり、文化祭の福引大会で当てた、特賞の沖縄旅行券をニヤニヤと笑いながらみんなに見せていた。
そう。メイド喫茶と、花園学園グランプリで、忙しかった、秋の文化祭。その前日祭の福引大会で、風歌は、葉月の父、慎一理事長が用意した、特賞の沖縄旅行の旅行券を見事引き当てた。
そうして、春休み、風歌は、その沖縄旅行に僕たち皆を誘ってくれた。
「にへへっ、それに、輝君は、冬休みのホテルのお礼。輝君の引き当てたホテルの宿泊券で皆泊まった。それに、今年、みんな頑張ったから、お礼。」
風歌は得意げに、エッヘン、とした顔でニコニコ笑っていた。
一緒に行くのは、勿論、僕と関係を結んでいるフルメンバー全員。加奈子、葉月、史奈、結花、早織の生徒会メンバーに、心音と風歌のコーラス部の面々、マユも部活も丁度休みの期間だったので、一緒にここに来ていた。そして、新しくこのメンバーに加わった雅ももちろん、沖縄旅行に参加。
そして、今回は、生徒会の義信と、バレエ教室の原田先生と吉岡先生の姿もあった。
そう、まさに、この一年、僕とともに活動したフルメンバーが集まった。
「誘ってくれて、ありがとな。」
原田先生は風歌にお礼を言うが。
「いえいえ、こちらこそ、レンタカーの手配と、運転ありがとうございます。」
風歌は原田先生と吉岡先生に深々と頭を下げる。
先生二人は首を横に振る。
「それくらい、お安い御用だよ。」
吉岡先生は親指を立てて笑っていた。
確かに、沖縄は、電車が無い。ゆいレールはあるが、それ以外の公共交通機関は限られてくるため、レンタカーはほぼ必須だ。ただ、高校生ということもあり、運転は当然まだできない。そんな中で運転ができる人が居ればなぁと思い、検討した結果、原田先生と吉岡先生に白羽の矢が立った。
先生二人に話してみると、ニコニコ笑って了承してくれた。
そうして、いちばん楽しみにしてそうな顔で、この羽田空港までやって来た。
「ありがとうございます。風歌先輩。」
早織も風歌に頭を下げる。
風歌は首を横に振る。
「早織ちゃんが、一番頑張った。冬休みのホテルも、皆が楽しんでいる中、頑張って、料理、勉強してたし。むしろ、足りない分の費用、ありがとう。」
風歌はニコニコ笑って頭を下げる、僕たちも一緒に早織に頭を下げる。
「いえいえ、キングオブパスタの優勝賞金の一部ですし、むしろ、皆さん、事前準備の段階から、手伝っていただいたので、バイト代の代わりで。」
早織はうんうんと頷き、笑っていた。
今回の沖縄旅行の費用の足りない分はキングオブパスタの優勝賞金から使うことになった。
早織の母と、祖母も二つ返事で了解してくれた。
「皆さん手伝ってくれましたし、楽しんでください。」
「この優勝賞金は店長代理の早織のものですので。」
ということで、早織の母と祖母はニコニコと笑って、僕たちを送り出してくれていた。
「あとで、お土産、ああ、お祖父ちゃんにも、供え物として。用意しないと。」
早織はそう言いながらうんうんと頷き。僕も。
「そうだね。」
と笑っていた。
そうして、メンバー全員、飛行機のカウンターで、チェックインを済ませ、大きな荷物を預けて、保安検査をくぐり、飛行機に搭乗した。
安全に関するビデオ説明が流れ、いよいよ飛行機は離陸のための滑走路に向かう。
改めて、シートベルトが閉まっているかを確認する僕。
「えっと、シートベルト、シートベルト・・・・。」
僕の隣には、同じように、おどおどしながら、シートベルトを確認する風歌。
飛行機の座席の座る順番を決めたとき、僕の隣には、今回の旅、福引を当てた一番の功労者である風歌が座るべきと、満場一致で決まったのだった。
「大丈夫、シートベルトはここにあるし、ちゃんと締まってるよ。」
僕はニコニコ笑いながらシートベルトを引っ張る。
「ありがとう。輝君。実は、飛行機、初めて。」
風歌がうんうんと、安心したように笑っているが、少し緊張もしている。
「そうなんだね。」
僕はそう言いながら風歌に優しく問いかける。
「うん。皆、飛行機、初めての子、結構いる。北関東の、内陸は、日本で、空港から、いちばん遠い場所って思われているから。」
なるほど、確かにそうかもしれない。北関東の大方の地域の人は、東京に出てから飛行機に乗る。
しかし、東京に出るまでで、二時間前後所要する。
そうなってくれば、車や電車など、陸路を使っての移動がほとんどだろう。
そうして、僕たちの乗る飛行機が離陸する番になり、改めて、シートベルトのサインが点滅する。
さあ、いよいよ、空の旅、これは、飛行機に乗ったことのある僕でも緊張してしまう。
一気に飛行機は滑走路を加速し、今日いちばんのスピードを出していく。そして。
ふわっと、全身が浮く感覚。
「すごい、飛んだ。」
風歌がニコニコ笑っている。
「そうだね。飛んだね。」
僕はうんうんと笑いながら、頷く。
眼下に見える、東京の街。それをあとにしながら、飛行機は針路を切り替え、南西の方角へ。
沖縄行の飛行機の航路はほとんど、海の上を進んでいく。フライトの時間も二時間以上を要し、国内線だと、長い方のフライト時間になるのだろうか。
「すごい。飛んでる。」
風歌は飛行機の窓の外を見ながら、ウキウキの気分で僕に話しかける。
「そうだね。飛んでるね。」
僕は優しく風歌に話しかける。
そうして、無料の機内サービスも出て、風歌は緊張しながらも、提供された、ジュースを飲んでいく。
「美味しい。飛行機はこういうのが出るんだ。」
風歌はうんうんと笑っていた。
そして。その後すぐに眠ってしまった風歌。
風歌の寝顔を見つつ、飛行機は沖縄へ向かう。
離陸してから、二時間以上経過しただろうか。ここから、高度を下げて行く。その高度を下げた感覚を感じたのだろうか。
「うわぁっ。」
風歌が一気に目を開ける。
「もうすぐ着くよ。大丈夫?よく眠れた。」
「うん、寝れた。着陸、ドキドキする。」
風歌はうんうんと頷き、緊張しながら、シートベルトを確認し、着陸に備える風歌。
そうして、低空飛行で、沖縄の本土に侵入する飛行機。アメリカ軍の管制塔との管轄の関係で、高度を下げた飛行を続けて、着陸態勢に入る。これも、沖縄ならではの事情。
そうして、飛行機は、沖縄の那覇空港に着陸した。
「うわぁっ。着陸できた。やったぁ。」
風歌はニコニコと笑っている。
「そうだね。沖縄だね。楽しもう!!」
僕は風歌に優しく声をかける。
「うん。楽しもう!!」
風歌はニコニコと笑っていた。
僕たちは飛行機を降り、荷物を受け取り、空港を出た。
さあ、この春休みのメインイベント、春の沖縄旅行の始まりだ。
僕たちは気合を入れて、空港を出て、次の目的地へと向かうのだった。




