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180.雲雀川管弦楽団

 

「なるほどねぇ。貴方にそんな秘密があったのねぇ。」

 史奈はニコニコ笑って、藤代さん、即ち雅を見る。


「ホント、ホント。マジビックリ、思いっきり仕返しちゃいましょうよ、パイセン。」

「それがいいわね、結花。うち等は、元ヤン、いわゆる、あなたと反対の属性のようだし。」

 結花と心音は、にやにやと笑い、雅の方を見ている。

 雅のカミングアウトで、彼女とは、対象の属性にいる二人。おそらく、何か感じるものがあるのだろう。


「はい。ドキドキします。よろしくお願いいたします。」

 雅はいつになく、顔を赤くし、嬉しそうな顔で、結花と心音、そして、僕の方を見る。


「いちいち、興奮しなくていいの。まあ、私も、毎報のコンクールの夜の時は、雅ちゃんのあれで、まあね・・・・。」

 同じバレエ教室で、長年の知り合いの加奈子から突っ込まれる。

 だが、彼女の言葉から、事実か語られたように、あの夜、雅の例の言葉の数々に、加奈子も興奮状態になっていた。そこに関しては、他のメンバーには、黙っていようと思う。


「は、はい。すみません。」

 やはり、雅は、加奈子からのツッコミには少し緊張してしまうようだ。流石は、長年、一緒にバレエ教室にいたメンバーである。


「まあ、いいんじゃない。ちょっと驚いたけど、雅ちゃんは、何度も、ひかるんと加奈子ちゃんを助けてくれたし。」

 マユがニコニコ笑う。


「う、うん。私もそう思う。」

 風歌がドキドキしながら言う。


「まあ、私も、原田先生のバレエ教室に昔通ってたし、雅ちゃんのことももちろん知っているから、別にいいよ。にぎやかになりそうだし。同じ学校の後輩として、ライバルとしてよろしくね。」

 葉月がうんうんと頷き、ここに居る皆をまとめる。


「はい。よろしくお願いします。」

 雅はそう言って、皆に頭を下げる。


「それじゃあ、改めて、藤代雅ちゃん、私たちの仲間にようこそ。そして、高校合格おめでとう!!」

 葉月はニコニコしながら、雅の方を見る。


「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 雅は皆に頭を下げる。


 色々とあったが、雅は、僕たちと同じ高校、花園学園の高等部にこの四月から通うのだ。

 一足早いが、高校で、初めての後輩ができた瞬間だった。


「良かった。無事終わったみたいね。あっ、勿論、私は、OKだよ。雅ちゃんが仲間に、そして、ライバルになるの。去年の夏休みから仲もいいし、ヨロシクね。」

 ニコニコ笑いながら早織が現れる。彼女は、雅のウェルカム記念ということで、料理を運んできた。


 そう。話し合いをしているのは、森の定食屋。早織のお店だ。

 祖父、道三亡き今、早織の成長は本当にすさまじく、この店の厨房も、高校が休みの日であればこうして、任せてもらえるようになった。


 そうして、雅の合格祈念と、ウェルカム記念を祝した料理を堪能する僕たち。

 本当に美味しく、先日のキングオブパスタの出来を上回っているようだった。


 料理をおいしく食べる雅、そして、他の全てのメンバー。

 こうして、食べて、話していると、改めて、学年が上がり、先輩になるという実感が湧いて来る。


「よろしくお願いします。皆さん。そして、輝様。」

 改めて、雅は皆に向かって挨拶をしていた。





 早織のお店で、雅が正式に、後輩、兼、僕たちの仲間に加わった翌日も、今年のクリスマスコンサートに向けたバレエの練習だった。

 練習だったのだが。その練習はいつもと違っていた。


「よう、少年。早速だが、加奈子ちゃんと、雅ちゃんと一緒に車に乗ろうか。今日の練習はここではやらないぞ。」

 原田先生はそう言って、僕を迎えるなり、車に促す。


 先生の指示に反応して、車に乗り込む僕。あまりにも急だったので、僕は先生にどこへ向かっているのかを聞く。

「はははっ、驚かして悪かったな。まあ、時機にわかるさ。」

 原田先生はニコニコ笑いながら車を運転する。加奈子も雅もうんうんと笑っている。


 そうして、たどり着いた場所は、この町で、何度も来たことがある場所。雲雀川オペラシティという場所だった。加奈子のバレエのコンクールも、僕のピアノコンクールの地元の大会も、全てここでやっていた場所だ。


「今日って、何か、本番だったりしますか?」

 僕はものすごく緊張してしまう。


 原田先生は首を横に振る。

「いいや。そういう事じゃない。」

 そう応える、原田先生。


 そうして、僕たちは雲雀川オペラシティの建物の中に入る。建物の中に入るのだが、ホールへは向かわず、そのまま練習場がある場所へ向かう。


「練習場。」

 僕は原田先生に向かってつぶやく。

「ああっ、そうさ。」

 原田先生はニコニコと笑っている。


 そうして、原田先生の案内のもとでたどり着いたのは、この雲雀川オペラシティのホールの建物の中で、一番大きな練習場だった。


 その大きな練習場に入るように促されると、四十人くらいの人達から、大きな拍手で迎えられた。

 思わず頭を下げてしまう僕。

 そして、その中央には、僕のよく知っている人物が立っていて、僕を出迎えてくれた。


 茂木博一。音楽大学の教授で、これまでに色々と、加奈子のバレエと言い、僕のピアノコンクールで、色々サポートしてくれた人物だった。


「よく来たね。橋本君。待ってたよ。」

 茂木先生はニコニコ笑う。


「改めて、昨年はピアノコンクールでの全国大会の入賞、そして、井野さんは先日の毎報新聞バレエコンクールの優勝、本当におめでとう。橋本君も毎報新聞バレエコンクールのサポート、本当にお疲れ様でした。」

 茂木先生は、僕に向かって、握手を求めてくる。

 緊張しながらも、握手に応じる僕。それを見ていた人たちが、再び大きな拍手をする。


「そして、ここに居るのは、雲雀川管弦楽団、地元のオーケストラ団員の皆さんです。僕が、音楽監督で指揮をしています。」

 茂木先生が、僕たちのことを拍手で迎えてくれた、四十人くらいの人を紹介する。確かに、色々な人達が、様々な楽器を持っていて、大きな楽器の奏者の人は、目の前にその楽器が置かれている。


 僕は楽団の人達に一礼をする。ニコニコと笑っている楽団の人達。


「さてと。それじゃあ、それを踏まえたうえで、少年、正式に、今年の、今年度のお前と、そして、このバレエ教室のプランを発表させてもらおう。」

 原田先生はニコニコ笑う。その言葉に僕は頷く。


「まず、前置きとして、我がバレエ教室最大のイベントは、十二月のクリスマスコンサート。メインステージは加奈子ちゃんが主役を演じる、『白鳥の湖』だ。ここまでは大丈夫だな?」

 僕は原田先生の言葉にうんうんと首を縦に振る。


「そして、去年、お前も参加してもらって分かったと思うが、クリスマスコンサートは、例年、メインステージの他にあと二つ、前半の部としてステージがあるのを知ってるな。」

 原田先生の言葉に僕は頷く。


「はい。各クラスの発表と、今年のコンクールの報告ステージですよね、成績優秀者で構成される。」

 僕は原田先生に説明する。


「そうだ。各クラスの発表は良いとして、コンクールの報告は、例年、ゴールデンウィークの地元のコンクールの成果を報告している。お前も、加奈子ちゃんと出たやつだな。で、今年の、つまり、次のゴールデンウィークのコンクールの課題曲というのが、チャイコフスキーの『弦楽セレナーデ』から一曲を選ぶというものなんだ。お前も、知ってるか?その曲。」

 勿論知っている。チャイコフスキーの『弦楽セレナーデ』。おそらく、三大バレエ曲の次くらいに有名な曲だろう。

 僕は知っているということで、首を大きく縦に振った。


「ハハハッ。お前なら、勿論知ってると思ったよ。」

 原田先生は茂木の方を見る。


「実は、課題曲を選曲したのは私なんだ。私は今年も審査員をするよ。それでね、去年の橋本君と井野さんの演技を見てピンと来たんだ。特に、橋本君のピアノを見てね。今年のコンクールの出場者は、音楽の知識をさらに広げて欲しい狙いでね。バレエと言えば、チャイコフスキー。彼の作曲した、三大バレエ曲以外にも有名な曲は沢山ある。それを知って欲しくて、勉強して欲しくてね。橋本君、君みたいにね。」

 茂木はうんうんと笑う。何だろうか、茂木の説明に僕は嬉しくなる。茂木はそうして、原田先生に続きを説明するように促す。



「で、それを踏まえたうえでなのだが。実は、我がバレエ教室は、何年かに一回のクリスマスコンサートは、こうして、雲雀川管弦楽団の皆さんとコラボをさせていただいている。この人達の生演奏とともに踊るんだ。実は、今年がその年なんだ。」

 原田先生は楽団の眠さんの方に手を向け、一礼をする。


「おおっ、それはすごいですね。」

 僕は思わず興奮してしまう。目の色をキラキラ輝かせながら原田先生を見る。


「そうだろっ。メインステージと、コンクールの報告ステージは、生オーケストラとコラボだ。」

 原田先生はうんうんと頷く。しかし。


「だがな。今年は、大きな問題が一つあることがわかったんだ。」

 原田先生はこう切り出してきた。


「えっと、それは一体?」

 僕は原田先生に聞いてみる。原田先生は茂木の方を向いて頷く。


「実はな。僕が、クリスマスコンサートの当日、出張で別の仕事が入っちゃっててね。つまり、指揮者が不在なんだ。」

 茂木先生は僕に向かってそう説明する。なるほど。指揮者が不在なのか。


「で、代わりの指揮者なんだけど、茂木先生と、そして、加奈子ちゃんや雅ちゃん、そして、バレエ教室の皆で相談した結果、満場一致で決まった。」

 原田先生はうんうんと頷く。


「えっと、代わりの指揮者というのは、どなたが・・・。」

 僕の質問に対して、原田先生は僕の肩に手を乗せこう宣言した。


「それは、少年。お前だっ!!」

 原田先生の言葉に一瞬の沈黙をしてしまう僕。そして。


「えっ。ぼ、僕ですか?」

 僕はそう答える。


「ああ。お前で良いんだよ。お前で。」

 原田先生はうんうんと頷く。

「そうよ。輝。輝の指揮で、踊ってみたい。白鳥も、黒鳥も。」

 加奈子が頬を赤くしながら言う。

「はい。輝様。バレエ教室の皆様は、貴方様を待っています。どうか、引き受けていただきますでしょうか?」

 雅が僕にそう言ってくる。


「私も、すぐに二つ返事で頷いたよ。それに、君はピアノの他に、指揮も見て見たいと言っていたよね。それだったら、いい機会だと思うんだけど。どうだろう。私が全力で教えるから、やってみないか?」

 茂木、いや、茂木先生がそう言ってくる。僕の目を優しく見つめながら。


 それでも少し考えてしまう僕。

 そして、そんな僕に、背中を押してくれたのは、加奈子だった。


「お願い、輝。私も、一人二役の主役。演じるの難しいけど、頑張れるの、輝の指揮なら。だからその・・・。」

 加奈子は顔を赤くする。


「お願いしてくれるかな?」

 加奈子はそうして、僕の目を食い入るように見つめてくる。


 その言葉に僕の決心は一気に傾いた。


「うん。わかった。僕やってみるよ。」

 僕はそう言って、皆に言う。


「本当、ありがとう。輝。」

 加奈子は嬉しそうに笑っている。

「はい。輝様。よろしくお願いいたします。」

 雅も深々と頭を下げた。


「そうか。そうか。少年、お前ならやってくれると思ったよ。」

 原田先生はうんうんと大きく頷いた。


「よろしく。橋本君。全力でサポートするからね。」

 茂木先生も頷き、笑っていた。


「ヨシッ、それじゃあ、お前が指揮をしてくれると言うので、もう一つのプランを発表しようかね。」

 原田先生は大きく頷き、僕の肩に手を当てる。


「えっ。まだあるんですか?」

 僕は原田先生に聞く。原田先生は大きく頷く。


「ああ。実は、加奈子ちゃんだが、今年のゴールデンウィークのコンクールは出ないことになった。毎報新聞バレエコンクールの日程的なものもあるし、クリスマスコンサートの白鳥と黒鳥の演技にも専念してもらいたいからな。」

 原田先生はうんうんと、頷く。


「だがな。そのコンクールに出ない代わりに、加奈子ちゃんには別のコンクールに出てもらうことになった。そのコンクールは。」

 原田先生の言葉に、僕は息をのむ。何だろうか。重大発表な気がして止まない。


「ローザンヌだっ!!」

 原田先生の言葉に、僕は目を見開く。ローザンヌ、最高峰のバレエコンクールの一つ。


「す、すごい。出られるんですか?」

 僕は原田先生に聞く。原田先生は大きく頷く。


「勿論だ。毎報新聞バレエコンクールの結果も備わっている。なんせ、今の時代は、予選は映像審査だ。日本の国内のバレエコンクールで何かしら大きな結果を残していれば、簡単に応募ができる時代になった。少年、お前にはローザンヌのサポートをしてもらいたい。」

 原田先生の言葉。その言葉の一つ一つを丁寧に聞く僕。

 加奈子がローザンヌに出る。こっちも全力でサポートしたい。そんな気持ちでいっぱいになった。


「勿論です。頑張ります。」

 僕は原田先生に言った。


「そうか。ありがとよ。そしたら、課題曲はピアノで弾いてもらう。規定の楽譜があるので、それを使ってもらって。現地に行くのは加奈子ちゃんと私だけなので、お前は録音で参加してもらうのでよろしく頼む。そして、自由曲は、折角なので、白鳥の湖、白鳥と黒鳥の両方を演じられるところを見せられればと思う。これも、お前の指揮の演奏音源を使うぞ。よろしくな。」

 原田先生はそう言って、僕の背中をポンポンと叩く。


「はい。わかりました。よろしくお願いします。」

 僕は原田先生に頭を下げる。そして、加奈子に笑顔で応える。


「ありがとう。輝。よろしくね。私も、頑張るから。」

 加奈子は僕に向かって、握手を求めてくる。僕もそれに応えて、握手をする。固い、固い握手だった。


「言い忘れていたが、年齢制限もあって、加奈子ちゃんにとっては最初で最後のローザンヌだ。最強の高校生コンビで世界に行くぞ!!よろしくな。少年。」

 原田先生は親指を立てて、大きく笑っていた。


 そうして、改めて、今年のバレエ教室の活動内容が原田先生の口から明かされた。

 大きな責任が伴う仕事だ。でも、とても楽しみな仕事でもある。僕は深呼吸した。


「さてと、それじゃあ、いろいろ決まったところで、楽団の皆さんに自己紹介をしてもらってもいいかな?」

 茂木先生の言葉に、僕は頷く。


「橋本輝です。今まで、ピアニストとして、色々なピアノコンクールで活動していました。去年から、バレエ教室のピアノのスタッフとして、アルバイトみたいなことをしています。今回、皆さんの指揮を担当します。至らない点もありますが、クリスマスコンサートまで、よろしくお願いします。」

 僕は、雲雀川管弦楽団の皆さんに頭を下げた。

 楽団の皆さんは大きな拍手をもって、迎えてくれた。


 そうして、クリスマスコンサートに向けて、そして、加奈子のローザンヌに向けて、本格的な練習が始まったのだった。





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