175.すべてをやり遂げた男~第二部完結~
今回で、第二部完結となります。
本当に、ご覧いただいたすべての皆様に感謝申し上げます。
二月最後の週末の土曜日。僕たちは、早織のお店、森の定食屋に集まっていた。
この場所で、早織の祖父、八木原道三の葬儀が行われた。
普段食事をしている広い場所に、祭壇が置かれ、コックコートに身を包んだ、道三の写真が置いてある。
祭壇には色とりどりの花が添えられていた。
参列しているのは、早織と、早織の母親、美恵子、早織の祖母、真紀子。そして、僕たちを含む、生徒会メンバーと、コーラス部の心音と、風歌。そして、陸上部のマユ。さらには家庭科部員たちの姿もあった。
「お祖父ちゃんの家族や親せき、そして、友達は、既に、亡くなってしまった人。また、御存命でも、高齢で体調が悪く、こちらに来られない人がほとんどです。そういう事なので、本当であれば、私たち、家族三人でこの場所で家族葬をしてお別れする予定でしたが、お祖父ちゃんが退院してから最期を迎える今日この日まで、早織の友達、若い皆さんに出会えたことは本当に幸せだったことでしょう。」
祖母の真紀子は僕たち皆に向けてそう話す。
そして。
「皆が、早織を支えてくれたおかげで、お祖父ちゃんに、最期、早織の成長した姿を見せることができました。ありがとう。感謝します。これからも、早織と、この森の定食屋をどうかよろしくお願いします。」
真紀子はそう僕たちに頭を下げたのだった。
祭壇には、いくつか供花がある。その中の一つに義信の祖父、義治からの物があった。
義治もホテルの仕事が忙しく、今日はここには来られなかったが、義信に沢山の香典を持たせたという。
葬儀は滞りなく進んで行く。
僧侶による読経が終わり、先ほどの真紀子の挨拶があった。
そして、道三の眠る棺の蓋が開けられる。
いよいよ、最期の時。皆で、棺の中に花を手向けて葬儀は終了となる。
僕は棺の中で眠る道三の顔を見た。
何だろうか。不思議と涙が出なかった。
なぜならば道三は、全てをやり遂げた顔で眠っていた。
そう。早織の祖父、八木原道三は、本当にすべてをやり遂げた男だった。
料理という、自分の腕を信じ、若い時は東京、大阪に修業へ出かけ、多くの仲間を得た。
道三が歩んだ人生は、全力で料理を、全ての料理を作り上げていたのだろう。
それは、この場所に戻ってからも同じだった。
このお店で、全力で腕を奮い、家族とともに、料理を作った。
そして、最期、道三は全ての力を振り絞って、今までの自分の持っているもの、全てを早織に教え込んでいった。
早織はこの数か月で見違えたように成長した。
そして、キングオブパスタのステージに立った早織を目に焼き付けて、道三の役目は終えた。
そう。まるで、この世界で与えられたミッションを全て達成したかのように。役目を終え、全てをやり遂げ、棺の中で眠っている道三の姿がそこにあった。
「輝君?どうしたの?」
葉月が聞いてくる。
「ああ。すべてをやり遂げた人だなと思って。最期、早織に継承した、キングオブパスタといい、料理の腕といい。そう考えると、自然と涙が出ないかな。」
僕は葉月の方を見て頷く。
「うん。そうだね。これからは、早織ちゃんが、このお店で、料理を作っていくからね。」
葉月の言葉に僕は頷く。
「皆も頑張らないとね。」
史奈がうんうんと頷く。
「そうだね。私も。夢を叶えるために。全力で。」
加奈子がうんうんと頷く。
そして、僕たちは早織を見た。
早織は深呼吸して、道三の棺の前へ。早織はゆっくりと、沢山の花束を道三の棺に手向けたのだった。
そうして、道三の棺は沢山の花でいっぱいになった。
僕たちはそれを見届け、深呼吸をする。お互いに頷いて、最期の時を迎える。
全員で、手を添えて、棺の蓋を閉じる。
僕と義信、赤城兄妹の双子の、兄、隼人、さらには葬儀社の人、何人かで棺を運び、霊柩車に乗せて、火葬場へ向かう。
早織の母親と祖母のご厚意で、僕たちも全員、火葬場まで、同行することになった。
十五分から二十分ほどだろうか。用意されたマイクロバスに乗って、火葬場へたどり着く。
「ふう。」
と僕はため息。
「どうしたの?輝。」
加奈子が僕の方を見る。
「ものすごく緊張してるんだけど、少し呼吸を整えることができるなって。落ち着けるかなって。以前、僕の祖父母が亡くなったときに来たことがあって、その時は古い建物だったから、どこか、見るだけで涙が出て来てね。」
僕はそう応える。
「確かにそうだね。私も、お祖母ちゃんが亡くなったときは、まだ古い建物だったから。」
葉月が頷く。
どうやら、この火葬場は数年のうちに新しい建物になっていて、落ち着いた雰囲気の佇まいだった。
その佇まいが、最後のお別れの負担を軽減しているようだった。
建物に入り、火葬炉の前にやって来た僕たち。
棺の蓋が開けられる。これが道三との最後のお別れ。
早織はゆっくり、時間をかけて、道三の顔を見た。
「ありがとう。お祖父ちゃん。」
早織は涙を流しながら、道三にそう語り掛けていた。
それでも、時間は刻一刻と流れていく。
早織は、大きく深呼吸して、道三の棺から離れていく。
そうして、僕の隣へ来る早織。
僕はそれを見て、早織の手をギュッと握る。
全員が道三の棺から離れたのを確認して、棺の蓋を閉じる職員たち。
これが本当に、道三との最後のお別れ。
火葬炉に向かう道三の棺。
そう、この世でのミッションを全て成し遂げ、あの世へ凱旋する道三の姿があった。
僕たちは、ゆっくり深呼吸しながら、それを見届けた。
火葬炉の扉が閉まり、火葬が開始される。僕は火葬が開始されるその時まで、早織の手をギュッと握り続けていた。
これで次に道三と対面するのは、道三が荼毘に付され、遺骨の状態での対面となる。
一時間ほど、待合室で待たされ、お骨上げが開始される。
早織は皆の許可をいただき、原田先生、吉岡先生にもらった、入れ物がついたネックレスを持ち、その入れ物の蓋を開け、道三の遺骨の小さな破片部分を入れていく。
そうして、入れ物の蓋を締め、ネックレスを身に付ける早織。
「これで、お祖父ちゃんは生き続けられるんだよね。私が料理をしている限り。」
早織は皆の顔を見回して言う。
「勿論。」
僕は大きく頷く。皆も同じだった。
そうして、道三の遺骨は早織のネックレスと、骨壺に入れられた。
一通りの作業が終了し、火葬場を出る。
「皆、本当に、ありがとうございました。主人も喜んでくれているでしょう。」
真紀子はそう僕たちに頭を下げた。
そして、母親と祖母は早織に挨拶するように促す。
「皆、本当に来てくれて、ありがとうございました。この数か月、沢山皆には迷惑をかけたかもしれませんが、私は、お祖父ちゃんと皆さんの気持ちを忘れないで、これからも大好きな料理と、家庭科部の活動と、生徒会の活動を頑張ります。これからもよろしくお願いします。」
早織は深々と僕たちに頭を下げた。
本当に、以前の彼女とは見違えた、成長した、早織の姿がそこにはあった。
早織の胸元のネックレスもキラキラと輝いていた。
そして、それを見届けるかのように、少し日が伸び始めた、二月の太陽の日差しが、僕たちを照らしていた。
第二部。早織ちゃんを主人公、メインヒロインとした物語、元女子校での大冒険が完結しました。
皆様、第二部をご覧いただき、ありがとうございました。
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さあ。物語は第三部。高校二年生に進級した輝君は個性豊かな後輩たちと出会います。勿論、これまでの生徒会メンバーのそれぞれの進路、それぞれのラブコメも描いて行く予定です。
このまま、第三部に入りたいところですが、申し訳ありません。
年末から三月にかけて、他の仕事や活動の方が忙しくなるため、そちらに専念したく、年内の、小説の投稿はここまで。来年の三月までお休みとさせてください。
来年の、三月の下旬~四月から再び、第三部の執筆活動と投稿をやって行きます。その時には、続編第三部の他にも、新たな、小説(恋愛、ラブコメ)をお届けしたいと考えてます。
また、第三部以降もよろしくお願いいたします。
それでは、少し早いですが、来年も良いお年をお迎えください。
ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました!!




