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172.結果発表、そして真実(黒山のざまぁ、その2)

 

 その後も、春のキングオブパスタのイベントは続き、あっという間に、夕方を迎え、イベントの終了の時間となった。

「皆様、本日はお疲れ様でした。これにてイベントは終了です。この後はお待ちかねの結果発表を行いますので、各出場団体の皆さま、後片付けが終了次第、中央のステージにお越しください。これより、我々イベントスタッフも、集計作業に入ります。」

 司会のその一言で、イベントは終了。後片付けと、集計作業が始まった。


 僕たちは協力して、後片付けを手伝う。

「すごかったね。」

 僕は後片付けをしながら、皆の顔を見回す。


「うんうん。早織ちゃん、頑張ってた。」

 葉月がニコニコ笑う。

「にえへへっ、イベント、楽しかった。」

 風歌もニコニコと笑っている。


「義信も本当にありがとう。生パスタ、大変だったろうに。」

 僕は義信に声をかけるが。


「大丈夫っすよ。まだまだ、俺は元気っすよ、社長にお嬢。」

 義信はうんうんと頷きながら、僕たちを見る。


 そして。

「みんな、ありがとう。」

 早織はニコニコ笑っていた。もう既に、以前の、文化祭前のウジウジしていた早織ではなかった。


 追加メニューでのやり取りで、一気に自信がついた早織。

 そしてここまで至るに、文化祭、クリスマスコンサート、ホテルでの修行。数か月前の早織とは見違えたように、変わっていた。


「うん。早織は本当に変わった。見違えるように。」

 僕は早織にニコニコ笑って言った。


 そうして、そんな会話をしながら、後片付けが終わり、広場中央に特設されたステージへ。


 他の出場団体のメンバーも、続々と集まって来た。


 そして、さらに待つこと、十数分。司会者、審査員たちがぞろぞろとステージに現れた。

 まるで、ピアノコンクールの結果発表を彷彿とさせるような展開。


 いよいよだ。


「それでは、お待たせいたしました。本年度の、春のキングオブパスタ、最終結果の発表を行います。」

 ドキドキと一気に胸の鼓動が速くなる僕。そして、早織も緊張しているようだ。


「まずは、単品部門の順位から、単品部門、第三位、エントリーナンバー十四番、森の定食屋さんの、地元野菜のチーズクリームパスタ。」

 凄い。いきなり、早織のお店がコールされた。

 僕たちはこの結果に、ガッツポーズをして、少しホッとする。


 あとは、接客・技術部門、店舗・団体部門のいずれかで、名前が呼ばれれば、一気に総合優勝は近くなる。


 単品部門第二位と、優勝は地元のイタリアン専門店のパスタがそれぞれ呼ばれた。


「続きまして、接客・技術部門、第三位・・・・。」

 司会は、接客・技術部門のベスト3を読み上げる。そして。


「接客・技術部門優勝、エントリーナンバー十四番、森の定食屋さん!!」

 司会の言葉に驚く僕たち。


「すごい。すごい!!」

 僕は思わず早織の肩を持つ。

 早織も、目に、涙を浮かべながら、興奮状態だった。


 最後に、お店全体の売り上げや売り上げた個数を競う、店舗・団体部門の結果を発表される。

 同じく、ベスト3が発表され。最後に。


「店舗・団体部門優勝、エントリーナンバー十四番、森の定食屋さん!!」

 僕も司会の言葉に涙があふれた。

 生徒会メンバーと、早織と、思わず抱き合う僕。


 そして・・・・・。


「総合優勝は、エントリーナンバー十四番、森の定食屋さんです。」



「「「やったー!!」」」

 僕たちは思いっきり、叫んだ。広場いっぱいに、空いっぱいに叫んだ。


 僕は早織の元へ。

「ありがとう。輝君。みんな。本当にありがとう。」

 早織は大粒の涙を流していた。


「ちょっと待て。なんで、なんで、こんな小娘が優勝なんだ。そして、俺の店は・・・・・。どういう事だ、いつもいつも八木原道三ばっかり。」

 黒山の怒鳴り声がする。


「あ~あ。またやってるよ。あのじいさん。」

 来場者からの声。他の出場団体のメンバーも、黒山の声には、完全に無視をしている。


 黒山の店は、案の定、全部門最下位、そして、文句なしの総合最下位の、いわゆる“逆三冠”を達成したのだった。


「“逆三冠”達成おめでとう。クソジジィ。」

 心音と結花がニコニコ笑って、黒山の方を見る。


「うるせえよ。ガキども、だいだい、追加メニューのお題も、そこのピアノのクソガキと、バレエの小娘が結託して、市長に話して、進めたんだろ。そうして、道三とその小娘をえこひいきしてたじゃねえかよ。」

 黒山のわめきは、一向に収まらない。


「ジジィ、そういう所だけは、頭の回転が早えよな。確かに、ジジィの言うことも一理ある。でもな、追加メニューを頑張って作ったのは誰だよ。そこにいる、お嬢だよな。あんたが、いろいろ言ってたお嬢自信だよ。追加メニューのお題を提案していた、社長と生徒会長がお嬢の料理の作業に手を出していれば、ジジィの言うことは考慮しなけりゃなんねえな。でもな。お嬢が頑張って、追加メニューを作っているとき、社長と、生徒会長はどこにいたよ?ステージで、ピアノ弾いて、バレエで踊ってたじゃねえかよ。」


 義信が黒山の言葉を制するように言う。


「ぐぬぬぅ。」

 何も言い出せない黒山。


「そうさ。つまりは、追加メニューは、お嬢が、八木原早織さんが、頑張って作った、努力の結晶なんだよ。それを、ジジィ、てめぇは、文化祭の時から、お嬢を利用して、レシピを盗作した。挙句の果てに今日出品して来たすべてのメニュー、そうじゃねえか。」

 義信はさらに続け、堂々と黒山に言い切った。


「そうだ!!」

「そうだっ。」

 来場者からの声が僕たちを後押ししてくれる。


「うるせえ。黙れ、黙れ!!」

 黒山はさらに烈火のごとく、地団駄を踏んでいるが。


 ポンッ!!と、黒山の肩を道三が叩く。


「いい加減にしろ!!止めないか。皆のいう通りだ。ここにいる皆の反応、早織の料理の味、全てを加味すれば、どっちが、レシピを盗作したか、丸わかりなんだよ。黒山!!」

 道三が、黒山に声を低く、そして、大きな声でいう。道三の声に、全員が静まり返る。


「へへへへっ。何でいつもお前ばっかり、八木原道三。お前が、そこにいるチャラババァと、京都の料理屋で修業中の身であるにもかかわらず、呑気にイチャイチャしてたから、料理の腕が訛って、料理屋、潰れたんじゃねえのかよ。俺がいた、大阪のホテルにお前がやって来てからもそうだ。お前は俺のポジションを、そこのババァと奪って行きやがって。何でいつもお前ばっかり。お前ばっかり!!」

 黒山がわめく。


「・・・・・・っ。」

 黙り込む道三。


「黒山さん。申し訳ありません。貴方には真実を話しておくべきでした。主人は、貴方の料理の腕なら、既に知っていると思って、この話をしなかったのです。貴方なら、主人の一番の親友の貴方なら、全てを知ってくれる。察してくださると思って。でも、それも、ダメでした。すべてを今、お話します。」

 早織の祖母、真紀子が黒山の元に歩み寄る。


「私は、主人が修業をしていた、京都の料理屋の店長の末の娘でした。そして、主人が修業をしていた、京都の料理屋、つまり、私の料理屋が潰れた原因。それは・・・・・。」

 真紀子が涙ぐむ。その真紀子を全力で支える道三。そして、真紀子は重い口を開いた。


「私以外の家族が全て、強盗殺人と放火によって、亡くなってしまったためです。」

 真紀子の口から、信じられない言葉が語られた。


「えっ!!」

 驚く早織。

 勿論、ここに居る、全員、生徒会メンバーと家庭科部のメンバーが全員、真紀子の言葉に驚いていた。


「昭和という時代は、ある意味で何でもありの時代でした。当時、中京圏、関西圏のスナック、飲食店をターゲットとした、連続強盗殺人犯のニュースがひっきりなしに、新聞やメディアで報道されていたのを覚えていますか?」

 真紀子は黒山に問いかける。


 黒山の足は震えていた。そして、その場に倒れこむように跪いていた。


「私のお店、主人が修業をしていたお店も、十分に警戒していました。だけど・・・・。ヤツは、私たちのお店に現れました。」

 真紀子の唇は震えていた。そして。


「私と主人は、偶然、その日、シフトが休みでした。だから、二人で、出かけていました。でも、その間に、お店は、お店は・・・・・。そして、私の、父も、母も、姉たちも・・・・。」

 真紀子が涙ぐんだ。おそらく、真紀子が忘れたい、過去の記憶が一気に蘇って来たのだろう。

 そして、真紀子は呼吸を整え、黒山に言った。


「主人は、私に気を遣ってくれました。京都の料理屋、私の家族のお店が潰れた理由も、多くを語らなかったのは、そのためです。しかし、あなた以外の、大阪のホテルの従業員たちは、察してくれました。当時、大ニュースになっていましたから。その、数週間後に私たちがこうして、貴方が修業していたホテルに来たのですから・・・・・。親友の貴方ら、従業員の皆と同じように、わかってくれると、ずっと、ずっと、信じていたのです。でも、貴方は、闇の中に行ってしまった。貴方をこんな目に合わせたのは、私にあるのです。申し訳ありません、黒山さん。すべてを話すべきでした。」

 真紀子は涙をこらえながらも頭を下げた。


「だから、私は、悲しい思い出の詰まった、関西を離れて、主人と一緒にここに来ました。その後も、主人はずっと配慮してくれました。本当にごめんなさい。貴方には、私がここに嫁いできたのも、妬ましく思ったことでしょう。ですが、主人は私に、配慮してくれて。どうしても、どうしても、言えなかった、貴方に本当の事が。」

 真紀子は深呼吸して、全てを伝えた。


 道三と真紀子の気持ちを察した僕たち。

 今、早織の祖母は深い悲しみの、パンドラの箱を開けた。黒山のために。黒山をもう一度、光の場所へと導くために、その箱を開けた、悲しみが痛いほどわかった。


「そ、そんな。そんなことって・・・・。」

 黒山の脳内には、当時の新聞が昨日のことのように思い出される。

 大阪のホテルで同僚たちが、京都の料理屋でとんでもないことが起こった、と、ずっと話をしていた。

 黒山の記憶にも、その新聞、料理屋の火事の忌々しい炎が映し出された写真の映像が、鮮明に思い出された。

 まさか、その料理屋が大の親友の修業先であったということ。それを今、この場で知った黒山。


「み、道三さんが、無事で、強盗犯の犠牲にならないで、本当に、良かった・・・・・・。」

 黒山は震える唇でそう言った。


「す、すまなかった、道三さん!!」

 黒山の目には大粒の涙があった。深々と、跪いた体で、その場で土下座をする黒山。

「お、お孫さんにも、娘さんにも、悪いことをした。本当にすまない。」

 黒山はさらに深々と道三に頭を下げる。


「俺も悪かったよ。お前をずっと、苦しませて。」

 道三は黒山にそう言った。


「あの。感動のお取込み中、申し訳ありません。」

 道三と真紀子、そして、黒山とのやり取りが続く中、横から、女性らしき人の声がかかる。


「えっと。ああっ、すみません。結果発表の続き、でしたか?」

 道三は女性らしき人の方を見る。


 僕たちも、道三に声をかけた女性らしき人の方を見る。見ると、その女性の他に、医師らしき人と、警察らしき人が居る。


「いえ。そうではありません。」

 女性は首を横に振る。そして。


「私、市内の保健所の者です。当イベントで、食中毒が起き、既に、五名ほど病院に搬送され、手当てを受けているのですが。ああ、命に別状はなく。」

 女性らしき人はそう説明する。さらに、その女性は続ける。


「搬送された五名の患者に、どのお店のパスタを食べたかをヒアリング調査をしました。そうしましたら、五名全員、黒山様、貴方のお店のパスタを口にしたと証言されてます。保健所のものに、本日の出場団体すべての持参された食材を調査したところ、貴方のお店の食材から、微量ではありますが、食中毒につながる、有害な物質が検出されました。どういう事か、わかりますか?」

 女性らしき人は黒山に説明する。

 黒山は涙ぐみ、口を開く。


「はい。一部、賞味期限、消費期限切れの食品を使っておりました。すべては、そちらの、お孫さんのレシピを、上品に改造した結果、高級な食材を使ったため、コストを削減しようとした、結果です。」

 黒山は、素直に白状した。

 女性は警察の人に向かって頷く。警察の人が黒山に歩み寄る。


「黒山昭二さん、貴方に、食品衛生法違反容疑、および、病院搬送車が出たため、業務上過失傷害の容疑で逮捕状が出ています。話の続きは、署でお伺いします。勿論、皆さんのレシピの盗作の件も。」

 警察の人は、僕たちに向かってウィンクした。そして、黒山の方を向いて。


「署まで、ご同行願えますか?」

 警察の人は、黒山を立ち上がらせ、歩かせる。

 黒山は黙って、頷く。


 そして、早織に向かって、黙って、深々と頭を下げ、警察と保健所の職員、そして、医師らしき人と一緒に、宝楽園の広場から出て行くのだった。


 それを見届ける。道三と真紀子。

 僕たちも、彼を許す気には到底なれなかったが、黒山の後姿を見送っていた。


 そうして、ステージの方を向き直り。


「さあ。いろいろありましたが、気を取り直して、表彰式を行います。それでは、総合優勝の森の定食屋さん、壇上の方へお越しください。」

 司会の言葉に、僕たちは頷き、僕たちは、早織とともにステージの上へ。


 井野市長が賞状を読み上げ、トロフィーをくれた。

 賞状と、トロフィーを受け取る早織。


「ありがとうございますっ!!」

 早織は深々と頭を下げた。


「はい。森の定食屋さんへの、審査結果の講評、一部ですが、それをお読みいたします。『接客という部分では敬語の使い方など、まだまだ、改善がありますが、皆さんはまだまだ、高校生。それを上回るフレッシュさと勢いが、本当によく出ていました。料理の味も大変すばらしく、是非、これからも参加してください。そして、さらに上を目指してください。』ということです。他にも、同じようなコメントがたくさんあります。本当に、おめでとうございます!!」

 司会者はそう言いながら、僕たちを祝福してくれた。


 司会の言葉に思わず、拍手をする僕たち。

「おめでとう。早織!!」

 僕は早織の肩をポンポンと叩く。他の皆も同じだ。早織と抱き合い、早織に祝福のメッセージを全員がそれぞれ伝えた。


「ありがとう。皆。やった。やったよ!!」

 早織はニコニコ笑う。そして。


「せーの!!」

 早織は、皆に声をかけて。


「「やったー!!」」

 早織はトロフィーを高く掲げた。そして、僕たち全員、両手を高く上げて、万歳した。


 その瞬間、ステージ上に仕掛けられた、紙吹雪が一斉に舞い始めた。金色に輝く、大量の紙吹雪だった。


 僕たちの歓喜は、夕暮れの空、そして、宝楽園の梅の花の香りとともに、遠く、高く、響き渡っていた。



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