171.来場者の証言(黒山のざまぁ、その1)
皆様、大変長らくお待たせいたしました。
黒山のざまあ回にになります。
ここから、第二部クライマックスへ向かいます。
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やはり、早織の作ったパスタを見て、黒山は一目散に自分のお店のテントから飛び出してきた。
「おいおい小娘。これは盗作だぞ。盗作。余計なことをしやがって。盗作も立派な盗みだぞ。人のものを盗んではいけないぞっ!!」
そんな罵声を早織に浴びせる。
「いいえ。レシピを盗んでません。」
しかし、早織は毅然とした態度で、その場に立っていた。
僕も早織の言葉に頷く。ここに居る、この森の定食屋のテントにいる全員がそう頷いた。
「それでも言うなら、盗んでいない証拠はどこだ?ああっ!!」
黒山は早織に向かって、さらに低い声で怒鳴る。
来場者たちもざわついている。
「いくら高校生でも、人のをパクるのはねぇ。」
「う~ん。若いというのに、期待していたのになぁ。」
来場者たちの声。
早織と黒山のにらみ合い、そして、来場者たちのざわつきが続くが・・・・・。
その争いに終止符を打った一声が聞こえた。
「あーっ、いけないんだー。おじちゃんも、お姉ちゃんも、いけないんだー。」
子供の声がする。その子供の声はこちらに近づいてきており。
ついには、僕たちの傍で、子供の声がした。
「いけないんだー。おじちゃんの言うように、レシピを盗むなら、お姉ちゃんもだけど、おじちゃんもいけないんだー。」
声の主は、小さな男の子だった。
小さな男の子の方に視線がくぎ付けになる僕たち。そして、来場者たちもその男に釘付けになる。
「ん?おじちゃんも?」
イベントスタッフもその言葉に反応する。
「ねえ、ぼく。一体どういうことか、どうして、このおじちゃんもいけないんだと思うの?」
スタッフは優しく声をかける。
「だってねー、その、納豆のスパゲッティーはね。メイドのお姉ちゃんが作ったものだよ~。」
「「はぁっ!!」」
僕たちは男の子の言葉に顔を見合わせた。そして、早織を見た。
早織は両手で口元を覆っている。目には涙が溢れていた。
「メイドのお姉ちゃん?そのメイドのお姉ちゃんはどこにいるの?」
スタッフは優しく声をかける。
「えっとね~。ママが出た学校のお祭り~。ぼく、そのお祭りで迷子になってね。メイドのお姉ちゃんたちに助けられたんだぁ。そしたら、ママが迎えに来てたんだけど。そのメイドのお姉ちゃんのお店にね、このおじちゃんも来てた。すごく怖い感じだったから、僕泣きそうになっちゃって。メイドのお姉ちゃんが別の場所に連れてってくれたの~。その時に、色々なスパゲッティーを見せてくれたの~。その中に、納豆のスパゲッティーがあったよ~。」
男の子の言葉で僕たちは勝利を確信した。
そう、男の子は、このおじちゃんと発言したとき、黒山を確かに指さした。
「ぼ、ぼくぅ。見間違いじゃないかなぁ~。」
黒山は冷や汗をかきながら、男の子を見る。
だが、男の子の言葉に、頷く来場者もちらほら出てくる。
「そういえば、花園学園の文化祭で。食べたかも。」
「そうだよね。あの子たち、花園学園の家庭科部じゃなかった?毎年メイド喫茶やってる。」
一部の来場者からそんな声が聞こえた。
そんな声が次第に広がり始め、黒山は一気にタジタジになって行く。
そして。
「りくぅ~。りくぅ~。」
来場者の人込みをかき分けるように、男の子の母親らしき人物が登場した。
「もうダメじゃない。勝手に、居なくなって、勝手に変な所に割り込んで。まったく、好奇心だけは旺盛なんだから。また迷子になったらどうするの?【凛久】!!」
母親は男の子を叱る。そして、僕たちのテントを見る。
「えっと、あっ。」
母親は家庭科部員の一人を指さす。
「どうも、文化祭では、迷子になった凛久を、息子を助けていただき、ありがとうございました。」
母親は丁寧にその家庭科部員に頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ。本当に、凛久君元気ですね。お気になさらないでください。私にも弟がいますが、こんな感じでしたから。」
家庭科部員はニコニコと頭を下げた。
「どうしたの?ママ?」
「どうしたの、じゃないでしょ?ママの学校のお祭りの時に、迷子になったときに助けてもらったメイドのお姉ちゃんでしょ?」
男の子の母親が発したその言葉。
その言葉に、来場者全員、そして、ここに居るすべてのスタッフ全員が確信した。
「えっ、じゃあ、その、このスパゲッティー、お姉ちゃんのだよ。いいの?」
男の子の言葉に、家庭科部員は首を縦に振った。
「いいのよ。だって、私は凛久君と一緒に、居たよね。あのスパゲッティーを作ったのは、お祭りの時も、この日も、あそこにいる、白い服着た、お姉ちゃんが作ったものだよ。」
家庭科部員は早織を指さす。
早織は笑って頷いた。
「へえ。お姉ちゃん凄いや!!」
男の子は早織に向かって喜んでいた。
「さあ、凛久、帰るわよ。本当にお騒がせしてしまって、申し訳ありません。」
母親は頭を下げたが。
逆に、大きな拍手喝采となった。
「すごいぞ。」
「本当に、よく覚えてたな、ぼく!!」
そんな声が来場者から飛び交う。
「ありがとう!!」
僕が大きな声で叫ぶ。
「本当に、ありがとう。スパゲッティー食べに来てね。」
早織はニコニコ笑って、男の子に手を振った。
子供の純粋さに助けられた僕たち。
本当に良かった。僕たち森の定食屋のスタッフ一同は、涙であふれそうになった。これで、早織の全ての努力が報われた。
そして、その後、僕たち含め、ここに居るすべての人達は黒山を睨みつけるような目で見た。
「な、なんだよ。その目は。一体。所詮子供の戯言だろ。」
黒山は一気に声を高くして言う。
「そうですか。それではここで、予定を変更して、エントリーナンバー二十六番、洋食屋のKUROYAMAさんの追加メニューのお披露目をします。」
司会のやる気のない言葉に、黒山は司会のスタッフを睨みつけるが。
「な、なんで、そんなやる気がねぇんだよ。」
黒山はそう言って、怒鳴り声をあげるが。
「怒鳴ってないで、出来たものを見せたらどうですか?出来てますよね?追加メニュー。」
司会のスタッフに促される黒山。
「あ、ああっ。もうわかったよ。」
黒山はそう言って、自分の店のテントに移動する。
そうして、司会のスタッフと、カメラのスタッフに、追加メニューのパスタを見せる。
「これだ。【地元野菜のトマトソースのパスタ】だ!!
黒山は大きな声で、コールしたが。
「はあっ。」
「なんだよ。パクッたの、そっちのじいさんじゃねえか。」
「いるよね~。どんな業界にも老害って・・・・。」
来場者たちのほぼ全員はそんな反応だった。
当然僕たちも、黒山が作った追加メニューに落胆した。
そのパスタは、早織が作ったクリームパスタに、おそらく、缶詰のトマトソースを加えたものだった。
「あのジジィ、色変えただけじゃん。マジ笑えるわ。」
結花がくすくすと笑っている。心音もうんうんと頷いている。
「クソジジィ、マジざまぁだ。」
心音はにやにやと笑いながら、皆の顔を見回した。
僕たちもうんうんと頷いていた。
「はい。ありがとうございました~。」
司会はそう言って、黒山の元を去っていく。
カメラのスタッフも同じだった。
「ちょっと。あの、まだ、メニューの紹介が・・・。」
黒山はスタッフたちを呼び止めるが、彼らは無視して行ってしまった。
勿論、来場者達も、黒山のお店のテントには見向きもせず、黒山のお店のテントだけ、孤立した状態になってしまった。
そうして、途中、色々あったが、全ての店舗の追加メニューの紹介を終えて、追加メニューの販売も同時に行っていく。
僕たち森の定食屋のテントには、先ほどの黒山とのやり取りもあり、大行列が並んでいた。
「美味しい。納豆と聞いて、う~んと思ったけど、ニンニクと生姜の味が、絶妙にマッチして、やみつきになるね。」
「いや~、疑って申し訳ない。あのじいさんの店でも同じようなものを食べたが、正直、こっちのほうがうまいや~。」
「もう、この味、ニンニクと生姜のやみつきになる、この味のアクセントで、どっちがオリジナルで、どっちがパクリかわかるね。」
早織のお店に並んで、実際に食べてくれた人の声がいくつか聞こえる。
彼らはそうして、追加メニューの納豆餃子風味のパスタ以外にも、他の三品のパスタも、並んで注文して、食べてくれたのだった。
一方の洋食屋のKUROYAMAのテントは、閑古鳥が鳴いていた。
来場者の誰一人も近寄らず、ただただ、広場で孤独な状態でポツンと黒山のお店のテントが立っていた。
「な、何で、いつも、八木原道三ばっかり。あの小娘ばっかり、良い思いをしやがるんだ。畜生!!畜生めー!!」
黒山は一人テントの中で地団駄を踏んでいた。
その黒山に、来場者はおろか、偶然にも黒山のお店の隣のテントになってしまった。別の店舗のスタッフでさえ目を合わそうとしなかった。
「自業自得。」
「自己責任。」
「いいか。バイト君たち。これから自分の店を持ちたいという夢を持ってる人も居るかもしれないが、ああいう悪い見本になっては絶対ダメだ。そうなったら、俺が許さねえ。」
「「はいっ。」」
黒山の隣の店舗の従業員たちはそんな声をまるで黒山に聞こえるかのように言った。
こうして、イベントは続き、これ以降、黒山の店のテントには誰一人、客が現れなかった。
そして、早織のお店のテントには、多くのお客様がずっと並んでくれていた。




