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169.秘策(春のキングオブパスタ、その2)

 

 キングオブパスタが開幕して、一時間が経過した。

 僕と加奈子は、広場の中央のステージの裏へと向かう。ステージ裏にはテントがあり、このステージで出し物を披露する人のための控室だった。


 そのテントの中の控室に、原田先生が待っていた。

「ヨッ。少年、加奈子ちゃん。イベント大盛況だな。」

 原田先生はニコニコ笑う。

「はい。ありがとうございます。ここまで、御足労いただいて。」

 僕は原田先生に頭を上げる。

「先生、ありがとうございます。」

 加奈子も原田先生にうんうんと、頭を下げた。


「はははっ。良いってことよ。私も見て見たいしね。あの、黒山っていうジジィが、お前たちにぶっ飛ばされる瞬間をな。」

 原田先生はにやにやと笑う。


「さあ、ささっと準備するから待ってな。」

 原田先生はそう言って加奈子の肩をポンポンと叩き、加奈子を着替えができる場所へと、連れて行った。


 僕は加奈子と原田先生に頭を下げ、その場で深呼吸する。

 すると。


「こんにちは。橋本君。コンクールの時、まあ、選挙の時以来かな。」

 声のかかったほうを振り向くと、このイベントの主催者でもある、井野市長、つまり、加奈子の父親が立っていた。


「こんにちは。お久しぶりです。」

 僕の挨拶に、井野市長はうんうんと頷いて笑っていた。


「元気そうで何よりだよ。加奈子は既に着替えの準備中かな?」

「はいっ。」

 市長の言葉に僕は頷く。


「本当に久しぶりだよ。この後、加奈子のバレエを見られるのは。僕が仕事一筋だったから、だんだんと加奈子の発表会に行かなくなってな。それ以来、加奈子とも距離が出来て、発表会やコンクールも別に来なくていいと言われちゃう始末だったから。本当に君のお陰だ。」

 井野市長は感慨深そうに僕にお礼を言った。


「あのっ。本当にありがとうございます。今回は無理を聞いていただいて。」

 僕は井野市長に頭を下げる。


「はははっ。いいよいいよ。君のお陰で、加奈子を、君達の大切な生徒会のお友達のお母様の二の舞にさせずに済んだんだ。お礼だよ。それに、僕も毎年、この企画には少しどうしようか迷うんだよね。僕が考えたルールなのにね。」

 井野市長は笑いながら言った。

 そういえば、加奈子は、夏休みに安久尾とお見合いする予定だったのだ。しかし、僕が加奈子と出会ったおかげで、間一髪、そうならずに済んだ。


 僕と加奈子が出会わなければ、おそらく、加奈子も、早織の母親と同じように、安久尾建設の犠牲者となってしまったのだろう。そして、早織のように、新たな安久尾建設の隠し子が生まれてしまうかもしれない。

 それを考えるとぞっとしてしまう。


 そして、早織も、勇気をもってここまで歩んだ。本当に素晴らしいことだと思う。


 僕は井野市長と同じように、感慨深そうに、深々と頷いた。

 それを見た、井野市長。


「はははっ。こうして、悩んでいた時に娘の話が来たんだ。協力するしかないさ。それに、僕も一度君のお家に行ったけど、素敵な農家さんだったしね。」

 井野市長はうんうんと笑っていた。


 そんな会話をしながら待つこと数分。原田先生がうんうんと笑いながら、控室から大きな丸のサインが出てきた。


「よし。それじゃあ、行こうか。君の伯父さんも待っているよ。」

 そうして、井野市長は僕を連れて、ステージ脇へ、その脇には既に僕の伯父が待機していた。


「よう、輝。準備万端だぜ。ありがとな。俺の株も上げてくれてよ。」

 伯父はそう言いながらニコニコ笑っていた。

 伯父の言葉に僕は頷き、井野市長の方を見る。


「それじゃあ、ここで待っててね。」

 井野市長はニコニコ笑いながら、ステージの壇上へ登る。


 ステージ上には既に司会者が待機していた。そして。


「皆様。お待たせいたしました。これより、毎回恒例となりました、キングオブパスタ、追加メニュー選手権を行います!!各団体の代表の皆様は、一度、中央ステージへお集まりください。」

 司会の言葉に、続々と、各店舗の代表、つまり、各店舗のリーダーはステージの周りに集まってくる。

 その中には、早織、そして、黒山の姿も。


「さて、皆様がお集まりいただいている間に、追加メニュー選手権を簡単に説明します。今から、料理のお題を発表します。そのお題に基づいて、各出場店舗の皆さまには、もう一品、その場でご用意していただきます。まさに、各店舗のリーダーたちの腕が試される、そんなルールになっております。勿論、これは、“接客・技術部門”の得点にも大きくかかわってきます。」

 司会の言葉に頷く、各出場団体のリーダーたち。


 ステージ脇からその様子を見る僕。早織は少し緊張している。それに対して、黒山は自信に満ち溢れた表情をしている。


「さあ。それでは今回のお題を、雲雀川市の井野市長から発表していただきましょう。」

 司会の言葉に井野市長は前に進み出て、深呼吸をする。


「はい。それでは、毎年恒例、追加メニュー選手権のお題を発表します。お題は、“地元、雲雀川市農家の野菜パスタ”です。早速食材をお持ちしましょう。お願いしますっ。」

 市長の言葉に、色とりどりの野菜がスタッフの手によって運ばれてくる。

 野菜は勿論、キノコや、納豆の元である大豆。その他色々な野菜や果物が運ばれて来た。


「皆様には、ここにある食材を必ず使っていただき、追加メニューを一品作っていただきます。制限時間三十分、丁度お昼時ですね。お昼ご飯を求めてやってきてくれた、御来場者のために、皆様の腕を期待しています。」

 井野市長は笑顔で頷いた。


「はいっ。それではさっそく、皆様には食材をご自由に取っていただき、早速調理をしていただきたいところですが、ここで、こちらの野菜を生産した農家さんにご登壇いただきましょう。橋本進さんですどうぞ。」

 司会の言葉に伯父は大きく手を振りながら、ステージの壇上に上がる。


「どうも、橋本です。本当に今日は、私が作った野菜を皆様に調理していただき、本当に光栄です。この、雲雀川市は、名前のごとく、雲雀川をはじめとして、綺麗な川がたくさんあり、北関東の中でも水も本当に豊かで農業にも適している、そんな場所だと自負しています。是非、皆様にはそんな場所で作った、そんな野菜を思う存分、使っていただいて、調理してください。期待しています。」

 伯父はそう言って、出場団体のリーダーたちに挨拶した。


 出場団体のリーダーたちも、そして、来場者たちも伯父の挨拶に拍手をした。

 勿論、ステージ上にいた、井野市長と、司会者も。


 そう。これが、僕と加奈子が用意していた、最後の秘策だった。




 文化祭の後、黒山に文化祭のレシピを盗作されたことを知った、あの日の夜。

 僕と加奈子は、憔悴しきった早織を送り届け、一緒に帰路に就いていた。そして。


「ねえ。輝。」

 加奈子が声をかける。

「ちょっと、私に考えがあるの。しかも二つ。」

 僕と加奈子は自転車を止め、近くの公園に入る。


 公園のベンチに座る、僕と加奈子。そして、加奈子はこう切り出す。少し小さな声で。


「一つは、私のバレエ教室のクリスマスコンサート。打ち上げとお昼のお弁当、早織のお店にお願いするのはどうかな?」

 加奈子の言葉に僕はパッと目を見開く。

「それ、いいかも。」

 僕はうんうんと、頷く。早織にも自信につながるし、もう一度、立ち上がれるチャンスはそれしかないと思った。

 そして、加奈子はさらに続けて、二つ目の提案をする。


「そして、もう一つなんだけど。キングオブパスタには、当日にお題に基づいた追加メニューを用意しなければい、というルールがあって。その追加メニューのお題なんだけど・・・。輝の伯父さんの畑の野菜を使うというお題はどうかな?」

 加奈子の言葉に少し首をかしげる。

 この時、僕は、ピアノコンクールの課題曲の位置づけのような、こういう、追加メニューのお題があることは知っていたが。


「それって、僕たちが決められるの?」

 僕は加奈子に聞いてみるが。加奈子はうんうんと頷いて自信に満ち溢れた表情でこう応える。


「私のパパ。何してる人だった?輝も会ったことあるよね。そして、キングオブパスタの主催はどこの団体がやってる?」

「あっ。」

 加奈子の言葉にハッとする僕。加奈子の父親はこの町の市長さん。そして、キングオブパスタの主催は、雲雀川市。ということは。


「実はパパ。毎年、このお題、結構悩んでいるんだよね。自分で主催しているイベントなんだけど・・・。でも。」

「でも。」

 僕は加奈子に聞く。


「輝のお陰で、パパと仲直り出来た今なら、話せるかもしれない。」

 加奈子はそう応えた。それと同時にハッとさせられる僕。

 そして、同時にニヤニヤと口元が緩む僕たち。


「いいじゃん。それ。」

 僕は、加奈子の言葉に親指を立てて笑う。

 ひょっとしたら、加奈子の提案、二つとも、実現可能かもしれない。そんな希望が湧いたのだった。


「でしょ。」

 加奈子が大きく頷いて、笑っていた。


「私、パパに話してみる。輝も伯父さんに話してみて。」

 加奈子はニコニコと笑っていた。

 僕は大きく頷く。そして。


「「そして、先生にも話そう。」」

 僕と加奈子は笑っていた。

 そんな、文化祭の後の、秋の夜の公園の出来事だった。


 先ず、僕たちは原田先生に話す。勿論、クリスマスコンサートの打ち上げを快く承諾してくれた。

 その結果どうなったか。打ち上げを通して、早織が再び自信を取り戻すことができた。勿論、義信からの提案で、その後のホテルでの修行も。


 そして、追加ルールのお題に関して、僕は伯父に、加奈子は父親に話した。

 伯父はとても嬉しそうに頷き、僕を抱きしめた。


「本当に、お前はすげーよ。最高だぜ、輝。そういう事なら、期待してろよっ。市長さんから連絡来たら、早速取り掛かってやるからよ。」

 伯父はニコニコ笑っていた。


 そして、加奈子も、無事に父親から快諾できたという連絡が来た。


「こっちも、思い切り抱きしめられたよ。『娘から、こんな素敵な提案をしてくれるなんて。ありがとう。毎年悩んでるところだったんだ。』だって。久しぶりだったな。パパに抱きしめられるの。」

 加奈子は照れたように笑っていた。



 こうして、僕と加奈子の秘策で、キングオブパスタの追加メニュー選手権のお題が決定したのだった。


 改めて、ステージ脇から早織の姿を見る。

 僕の伯父が出てきた時、早織は驚いた表情をしていた。そして、目には涙が浮かんでいる。


「さあ。それでは。皆様、ここに並べられている食材を使っていただいて、是非素敵なメニューをよろしくお願いいたします。そして、来場者の皆様には、皆様がメニューを作っている間に、この特設ステージで、様々なアーティストによる、ショータイムをお楽しみください。まず最初の方はこの方。今回、追加メニュー選手権で食材を提供してくださった、橋本さんの甥っ子にあたります。橋本輝さんのピアノ演奏です。どうぞっ!!」

 司会の言葉に呼ばれて、僕はステージに上がる。


 来場者から拍手が沸き起こる。

 そして、ステージの下には、食材を選んでいる、出場団体のリーダーたちの姿。

 その中には早織が居る。

 早織と目が合う僕。僕は早織に向かって頷く。


 ―頑張れ。大丈夫だから。―

 心でつぶやく。早織は涙を思いっきり拭いて、どこか自信に満ち溢れた表情をしていた。


 そうして、用意された電子キーボードに併設された椅子に座る。

 さて。早織に渾身のエールを贈ろう。始めるぞ!!

 僕はいつものコンクールよりも緊張しなかった。そして。最初の音を弾き始める。


 キングオブパスタということで、先ずは、イタリア出身の作曲家から。ヴェルディの『乾杯の歌』。

 ピアノアレンジのヴァージョンを弾き始める。三拍子の一拍目を特にいつも以上に力を込めて。


 楽しそうに、優雅に、堂々と引いて行く僕。

 来場者から拍手喝采の音が聞こえる。


 そして、二曲目。来場者向けにということで、ポピュラー音楽から、最近のアイドルグループの曲のピアノアレンジを弾いて行く。

 一緒に口ずさんでくれる来場者たち。そのお陰もあって、僕のピアノは高揚感に包まれていた。


 そうして、二曲目が弾き終わり、拍手喝采の中、僕のピアノのソロステージは終わる。


「ありがとうございました。素晴らしい演奏でした。橋本さんのピアノ演奏はまだまだ続きますが、ここで、ピアノ演奏に華を添えていただきたく、井野市長の娘さんにも登場していただきましょう。市長の娘さんは先日の毎報新聞バレエコンクールの関東大会で見事優勝ということで、橋本さんのピアノ、市長さんの娘さんのバレエの演技を是非、お楽しみください!!」

 司会の言葉に加奈子が登場。


 来場者も拍手喝采で加奈子を迎える。


 僕と加奈子はお互いに顔を見つめて、頷いた。

 やることはただ一つ、来場者は勿論、この応援を早織に届けること。


 曲目は二曲。毎報新聞バレエコンクールでやったもの、ではなく。


 クリスマスコンサートでやった、『くるみ割り人形』の中から二曲。『トレパーク』と『花のワルツ』のピアノアレンジを披露する。

 『花のワルツ』は導入部分のハープの独奏までをカットして、主題のワルツから弾いて行った。


 お互い息を合わせ、丁寧にリズムを刻みながらピアノを弾く僕。そして、バレエを踊る加奈子。

 僕と加奈子の思いは一つ。


「「頑張れ。早織!!信じてるから!!」」


 そんな思いを背負いながら僕たちは全力でピアノを弾き、全力でバレエを踊った。


 そして、僕たちの演奏が終わると、来場者から盛大な拍手が沸き起こった。

 来場者からの拍手に応え、ステージを降りる僕と加奈子。


「ありがとうございました。橋本さん、井野さんの素晴らしいショータイムでした。それでは続いてのアーティストに参りましょう!!」

 司会の言葉もどこか嬉しそうだった。


「やったね。輝。」

 加奈子はニコニコ笑って、僕とハイタッチする。

「うん。ありがとう。加奈子。絶対、早織は大丈夫!!」

 僕の言葉に加奈子は頷く。


「よくやったぞ。お前たち。さあ。着替えたら、私も、食べに行こうかな。」

 原田先生はニヤニヤ笑いながら、加奈子を着替えるスペースに連れて行った。


 その間に、僕は市長と、伯父にお礼を言う。


「ナイスだったぜ。輝。」

 伯父は親指を立てて笑っていた。そして。


「ありがとうございました。輝君。娘の演技、本当に感動しました。勿論、輝君のピアノも素晴らしかった。」

 井野市長、加奈子の父親は、どこか目頭が熱くなっていた。

 久しぶりに見た加奈子のバレエに感動したのだろう。思わず、僕も嬉しくなった。


 そうして、加奈子が着替えを終えて、戻って来た。

「お待たせ。輝。」

 加奈子がニコニコ笑っている。


「良かったよ、加奈子。感動した。また、あとで話そう。」

 井野市長は加奈子を優しく見つめていた。

「うん。ありがとう。パパ。パパの前で踊るの久しぶりだったね。」

「ああ。」

 加奈子と井野市長はニコニコと笑い合っていた。


 そうして、僕たちは中央のステージをあとにして、再び、森の定食屋のテントに戻って行った。


「ナイス。輝君、加奈子!!」

 葉月が元気よく迎えてくれた。


「ふふふっ、最高の出来よ。」

 史奈がうんうんと頷く。


「ありがとうございます。」

 僕はそう頭を下げて、ニコニコ笑った。他のメンバーもハイタッチで迎えてくれた。


「すごかったよ。ハッシー。おかげでホラ。」

 出迎えてくれた結花はテントの中央の方を指さす。そこには、追加メニューを真剣に作る早織。

「八木原さん、火がついちゃったよ。」

 結花はニコニコ笑う。


「それもこれも社長と生徒会長のお陰っすよ。」

 義信は、生パスタを作りながら、大きな声で、ニコニコ笑っていた。


 皆の出迎えと早織の表情に安心する僕と加奈子だった。


「シフトの休憩時間中、特に何か変わったこととかは?」

 僕は皆に聞くが。


「ああっ。そういえばなんだけど、なんか、し、市役所の人が来てた。材料の食材を、調査したいって言うので、少し、食材を持っていったかな。」

 風歌が緊張したように言う。僕と加奈子は少し戸惑う。


「市役所?」

 僕は風歌に聞くが、一緒に居た心音とマユがうんうんと頷きながらこう説明する。


「なんか、園内のトイレで、三人ほど、嘔吐した人が居るんだって。駐車場に救急車も来てるみたいで。皆さんを疑っているわけではないけど、念を入れて調べたいって。」

 マユが説明する。


「ふーん。救急車かぁ。気付かなかったね。」

 僕は加奈子の方を見る。そして、皆を見回す。


「まあ、ここは広いから。それに、園の駐車場までも距離があるし、それに、救急車のサイレンも、ここに行くまでが大事で、駐車場に入っちゃえば消しちゃうしね。それに、まだ、原因がこのイベントとは確定していないから、イベントは続けて良いってさ。お騒がせして申し訳ありませんと言ってたよ。」

 心音がうんうんと説明する。


 なるほど。市役所の人、嘔吐ということで、少し気になったが、イベント自体は盛り上がっているし、来場者も大勢いるわけだから、大丈夫だろう。


 今は、与えられた仕事をするのみだった。


 その後も、僕たちの森の定食屋のテントには、大勢の来場者が来てくれた。その中には、バレエ教室の子供達や、コーラス部の皆、そして、マユの陸上部の人達も含まれていた。


 さらには、原田先生もここに来てくださり、出品メニュー全てを頼んでいった。

 本当に感謝しかなく、原田先生は全ての出品メニューを美味しそうに食べていた。


 そうして、中央のステージのアーティストたちのショーが一区切りするころ。


「さあ。お待たせしました。制限時間終了ということで、各店舗のテントにカメラを持ったスタッフが回りますので、出来上がった追加メニューをお見せください。」

 司会の言葉に、反応して、頷く早織。

 ほっと一息ついているのだろう。早速、エントリーナンバー一番の店舗から、追加メニューを紹介していく。


 その間に、早織は僕の方へ歩み寄る。そして。


「輝君。加奈子先輩、本当にありがとう。勇気をもらった。」

 早織は目に涙を浮かべながら、僕と加奈子にお礼を言った。


「そんな、早織が頑張ったからだよ。その様子だと、出来たんだね。」

 僕はニコニコ笑う。


「うん。大丈夫。見ててね。」

 早織はニコニコと笑っていた。そして。


 エントリーナンバー十四番。森の定食屋の、追加メニューのお披露目の時となった。


「さあ、エントリーナンバー十四番、森の定食屋さんの追加メニューお披露目です。高校生は一体どのようなパスタを作ったのでしょうか?お願いします。」


 スタッフが僕たちのテントに来て、カメラとマイクを早織に向けられる。

 早織は深呼吸して。


「はい。私の追加メニューはこちらです。」

 そして。


「【もう四十七位とは言わせない。北関東の納豆餃子パスタ】です。」

 早織は元気よく、追加メニューをコールしたのだった。


 僕たちを含め、来場者たちも一瞬驚いた。それは、黒山のお店のメニューとよく似ているから。


 しかし。


「ヨシッ!!」

 驚いたのは一瞬だけで、その後は、心の中でガッツポーズした、僕の姿があった。

 それは、一緒に居た、加奈子も、葉月も、史奈も、結花も、心音も、風歌も、マユも。さらにその場にいた家庭科部員全員も、そして、早織の家族も同じで、みんな全員心の中でガッツポーズをしていた。




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