167.最終チェック
バレンタインデーも過ぎ、いよいよ、その週の金曜日を迎える。
明日、週末の土曜日はいよいよ、【春のキングオブパスタ】当日を迎える。
ということなので、今日の家庭科部の活動は熱気を帯びていた。
家庭科部のメンバーは、レシピを確認し、明日のキングオブパスタに備えて、担当の割り振りをしていた。
「生パスタの担当は、磯部君。本当にすごく上達したね。」
富田部長の言葉に照れたように頷く義信。
「いやいや。それほどでも~。」
義信はニコニコと笑う。しかし、彼の腕は本当に見違えるように上がった。
上川さんとの集中特訓の成果なのだろう。彼の作る生パスタは麺にコシがあり、十分すぎるほど、噛み応えがある。そのため、クリームパスタのアクセントになっていた。
「本当にありがとう。磯部君。」
早織は義信に、深々と頭を下げる。
「いえいえ。お嬢のためですから。明日、絶対、黒山を見返してやりましょう!!」
義信はうんうんと頷いた。
「えっと、磯部君は最初に関しては多めに作ってもらって。後は、少し休憩して、自分のペースで、やってもらえればいいからね。生徒会と被服活動をしている家庭科部のメンバーが磯部君のサポートと、接客をメインに行ってくれます。」
早織は義信に説明する。
「生徒会と、赤城さんたち含めた被服をメインに活動している人たちは、接客をメインに、お客さんの注文を聞いたり、食器を準備してもらっていいかな。」
早織の言葉に頷く、僕たち。
というわけで、被服活動をメインにしている家庭科部のメンバーと、細かなシフトの時間を丁寧に決める僕たち。
といっても、当日の休憩時間は特にやることもなく、早織のサポートをひたすらやることになりそうだ。
そして、今は、それぞれの部活の練習に励んでいるため、不在の心音と風歌とマユも、明日は皆来てくれるというので、安心だ。
彼女たちの接客のシフトも合わせて組んでいく。
「えっと、調理班のメンバーはこっちで担当を割り振っていくよ。」
富田部長の言葉に、調理班のメンバーが頷く。
一品目の、海鮮親子パスタの担当、二品目のペスカトーレの担当、そして、三品目義信を含めたクリームパスタの担当をそれぞれ割り振り、野菜を切ったり、麺を茹でたりなど、担当を割り振っていく。
そうして、今日は実際に割り振られたメンバーで、調理の最終チェックをしていく家庭科部員たち。
その調理の最終チェック、僕たち生徒会メンバーは目を丸くしていた。
なんという効率の良さなのだろうか。正確で素早い動きで、料理を作っていく、花園学園家庭科部、調理班のメンバーたち。
「すごいね。これじゃあ、私、ますます、皆に負けちゃうかも。」
葉月がため息。
「あらあら。落ち込む必要はないわ。すべてはチームワークよ。私たちも、早織ちゃんから沢山レシピを教わったじゃない。」
史奈がうんうんと頷く。
「うん。すべては家庭科部の皆が居るから、成り立つ作業だね。」
加奈子は葉月に向かってうんうんと頷く。
「マジ映えてる。心音パイセンにも写メ撮って送っとこ~。」
結花はスマホを構え、真剣に取り組む家庭科部員たちを写真に収める。
そうして、真剣な表情の中、作業を進める家庭科部員たち。
そして。
おそらく、僕が知る限り、いちばん美味しそうに、そして、いちばん速く、料理が完成した。
これまで何度も、何度も、味わってきた出品予定のパスタ。
しかし、今日は本当に不思議だった。
これらのパスタが、今まで見て来たもの、そして、食べてきたものとはまた違うように見える。
「すごい。最後に一気に進化したみたい。」
結花が思わずため息、そして、自然とスマホを取り出し、写真を撮っていた。
用意されたお皿に丁寧に盛り付けられている、三品のパスタ。
さあ、最後のチェックの時間だ。
「「「いただきますっ!!」」」
僕たち生徒会メンバー、そして、家庭科部のメンバーは声を揃えて、料理を食べ始める。
そして、パスタを口に入れた瞬間。
「すごい。本当にすごい。」
僕は思わず、拍手を贈る。
「本当。結花ちゃんのいう通り、味も、最後に一気に進化した。」
葉月はうんうんと笑っている。
「すごい。」
加奈子は思わずため息。
「うんうん。皆、本当によく頑張ったわね。ありがとうと言いたいわ。」
史奈はうんうんと頷き、感動した表情で、料理を味わった。
「マジで、味も映えてる~。明日、絶対勝てそうだよ~。八木原さん。」
結花はうんうんと笑い、早織に親指を立てて笑っていた。
「だそうですぜ、お嬢。本当に、頑張ったと思います。」
義信が僕たちの言葉をまとめるように、早織に言う。
「本当に、すごいわ。八木原さん。ここまでよく頑張ったね。」
富田部長はニコニコ笑って、早織にこれまでの労をねぎらう。
「み、皆さん。ありがとうございました!!」
早織は立ち上がって、皆に深々と頭を下げる。
思わず、その動作に拍手をする僕たち。
本当にここまで、早織はよく戦ったと思う。ここ数か月の早織の成長ぶりは本当に素晴らしかった。
そうして、僕たちはパスタを食べ終え、片づけを済ませ、諸連絡に入る。
「では、ささやかながらではありますが、早織のご家族の方にヒアリングして、明日の注意事項などをまとめた、しおりを配ります。」
僕は皆にそう言って、明日のしおりを配り、持ち物など、注意事項の確認をした。
「そして、服装ですが、明日に備えて、赤城さんたちが作ってくれたものがあります。」
僕は双子の赤城兄妹の方を見て促し、衣装を用意してもらった。
赤城兄妹が作った、緑色のポロシャツと、エプロンを広げる。
「おおっ。」
「すごい。」
家庭科部員たちは拍手をする。
「えっと、明日は着替える場所もそれほど用意されていないので、皆さんには今お配りします。出来るだけ、自宅から着て来て頂けると助かります。」
僕はそう言って、赤城兄妹が持参してくれた、ポロシャツとエプロンを配る。
明日、参加する家庭科部、生徒会メンバーのユニフォームを赤城兄妹は配ってくれた。
「そして・・・。服装の話題が出たということで、サプライズを。準備が整ったようなので。」
僕は葉月の方を見る。
葉月はうんうんと頷いている。
実は、この、僕からの伝達のタイミングで、早織には着替えをしてもらっていた。
そう。赤城兄妹が用意してくれた、コックコートに。
「それではどうぞっ!!」
僕は入口の扉の方を指さすと、入口から、コックコート、つまり、料理人が着る服に身を包んだ早織が出てきた。
その瞬間、思わず大きな拍手をする家庭科部員たち。
「すごい。」
「流石。」
ワーワーという歓声が早織を包む。
「はい。こちらの、コックコートも赤城さんたちが作ってくれました。そしたら、ここからは早織に任せちゃっていいかな?」
僕は早織の方を見る。早織はうんうんと頷いて、改めて、家庭科部員皆の前に立つ。
「皆さん。本当に、今日までありがとうございました。至らない点もあったかと思いますが、皆さんが本当に協力的で、本当に、本当に、心が温まる。そんな数か月間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。」
早織は深々と頭を下げる。目には涙を浮かべて。
「明日、皆さんで力を合わせて、頑張りましょう!!」
早織の言葉に大きな拍手をする家庭科部員たち。
そうして、自然と円陣を組む流れが出来上がっていた。
家庭科部全員と、生徒会メンバーが円陣を組む。
円陣の真ん中には早織。
家庭科部みんなが、早織に声を出すようにお願いする。
「えっと。それじゃあ。明日の、春のキングオブパスタ。頑張りましょう!!」
「「「おーっ!!」」」
僕たちは人一倍大きな拍手をした。
そうして、春のキングオブパスタ、前日の最終チェックは終わった。
あとは、打倒黒山を祈るのみ。
それぞれ真っ直ぐ自宅へ帰宅し、ベッドで十分すぎるほどの睡眠をとって、本番当日の翌朝を迎えるのだった。




