166.高級チョコレートの宝箱は‥‥。
毎報新聞バレエコンクール関東大会が終わり、いよいよ、二月の中旬に行われる、春のキングオブパスタに向けて、僕と加奈子は本格的に、生徒会と家庭科部の活動に専念できるようになった。
といっても、バレエコンクールの全国大会があるので、活動できるのは限定的だが、それでも充実していた。
「うん。みんなすごく良くなってる。」
早織の分かり易い指導のもと、家庭科部の皆は、この短期間でメキメキと腕を上げて行った。
早織が考えたレシピも暗記できるくらいの腕前になり、食材の調理の仕方など、さらに効率が良くなっている気がする。
「すごいね。早織の努力だね。既にその結晶が出来上がっている気がするよ。」
僕は早織に向かって、うんうんと笑顔で頷く。
「あ、ありがとう。でも、本当に頑張っているのは、皆だから。皆の、実力が本当にすごくて。」
早織は首を横に振りながら、ニコニコと笑っていた。
「私も、頑張らないと、と思って。」
早織は今から緊張しているようだ。
そう、全責任は店長代理の早織にある。出品メニューの三品については、早織からヒアリングして、僕たちでも大方、作業を分担しながらでも作れるようになったし、家庭科部員の中には、作業を分担せず、一人で、全ての工程を暗記して、作れる人も居る。おそらく、富田部長がその一人だろう。
富田部長も、頑張って、早織の考えたレシピを覚え、他のメンバーをサポートする体制に移行していた。
しかし、早織にのしかかるのは出品メニューだけではない。
数年前から追加された、新ルール、地元では三冠ルールというのだが、それに基づいて、追加でその場でもう一つ、料理を作らなければならないのだ。
しかも、料理のお題は当日に発表される。そうなると、ものすごく緊張してくるのも頷ける。
相手は、黒山を含めた、早織よりもはるかに経験の勝る料理人たちだ。
「今から緊張しても仕方ないよ。それまでにお祖父さんから料理を習って、どんなものが来てもいいように備えよう。」
僕は早織にそう告げる。
「う、うん。そうだね。それしかないよね。」
早織はニコニコと笑っていた。その笑顔から察するに少し安心する早織が居た。
その早織とは対照的に、ニコニコと笑っている僕と加奈子。
大丈夫。早織ならやれると、僕と加奈子は密かに思っていた。
「どんなものが来ても、任せてくださいよ。お嬢。大丈夫っすから。」
義信はうんうんと笑っていた。
彼も、上川さんから、生パスタの作り方を必死で覚えたようだ。そして、定期的に週末、祖父母の経営するホテルニューISOBEへ赴き、最近は、蕎麦も一緒に作っているとのこと。
ここ数か月の、義信の働きぶり、義理と人情ぶりには本当に感銘を受けた。
「ありがとう。義信君。」
早織はギラギラした義信の目を見て、さらに緊張が解けていったようだ。
そんな感じで二月の上旬の活動を終え、気付けば二月も中旬を迎え、いよいよ今週末には、春のキングオブパスタが行われるという所まで来たのだった。
その日も生徒会と家庭科部の活動を終え、帰路に就く。そして、向かったのは、伯父の家でも、バレエ教室でもなく。百貨店だった。
百貨店の地下、デパートのお菓子売り場。今日の日付は二月十三日を差している。
今日の百貨店のお菓子売り場には、幅広い年代の女性客が多い。
明日のイベントに備えて皆必死のようだ。
その女性客の中に僕も居た。
本来であれば、明日は生徒会の皆から“もらう”立場で、一か月後のお返しに備えて、お金を貯めないと、と思っていたのだが。
「そういえば、バレンタインが近いね。」
先日の生徒会室で、葉月がニコニコしながら笑っていた。
その言葉に、僕はドキッとする。そして。
「輝君はチョコレート、好きだった?」
葉月がニコニコ笑って聞いてくる。
「えっと・・・・。ビター系とか、苦めなのは苦手かもしれないです。」
そんな話を興味津々に聞いている生徒会メンバー。
「わかった。楽しみにしててね。」
葉月がニコニコ笑いながら頷く。他のメンバーもうんうんと笑っている。
そして、加奈子がある提案をしてきた。
「ああっ。どうせなら、その日、輝もバレエ教室においでよ。」
加奈子がニコニコ笑う。
「えっ?」
僕は加奈子の言葉に反応する。
「実は、先生、バレンタインデー当日が誕生日なの。だから、二月のバレエ教室の誕生日会は少し特別。皆でチョコレートパーティー。」
加奈子はうんうんと笑っている。
なんだかすごそうだ。加奈子の表情もいつもよりも笑顔になり、それが楽しみな感じである。
「へ、へえ。そうなんだ。」
うんうんと、興味津々に頷いたのは早織。
何だろうか、いつにも増して、僕たちの話に興味を持つ。
「珍しいね。八木原さんが、興味津々なの。」
結花がニコニコ笑う。
「どうした?面白いことでもあった?」
結花がさらに続けると。
「えっと。その。あまり言いたくなかったけど。先生と、誕生日が同じだから・・・。つい。」
早織の一言に皆の目の色が変わる。
「へぇ。すごい。そしたら、一緒にお祝いしよう!!バレエ教室に早織も、皆もおいでよ。原田先生と面識あるから。先生も早織のこと高く評価してるし、わけを話せば歓迎してくれると思うよ。」
加奈子がうんうんと頷く。
「というわけで、皆でチョコレートパーティーね。あっ、早織ちゃんが、バレンタイン当日の誕生日ということで、輝君もチョコレートよろしくね。あっ、その分、ホワイトデーのお返しは、やらなくていいから。」
葉月の言葉に、皆がうんうんと頷く。僕もコクっと頷いた。その瞬間、何かの力が抜けたようだった。
というわけで、僕もこのデパートのお菓子売り場にいるのである。
そして、むしろ、いや、少なくとも、このお菓子売り場にたどり着く前は、早織の誕生日も兼ねて、一緒にチョコレートを渡し、同時にお返しをしてしまう方が気が楽だった。
チョコレートは、ビターチョコレートは勿論だが、甘めのチョコレートでもそんなに好きではない方だし、全員からもらわれると全部食べ切れないと思ったからだ。
そして、何よりも、ホワイトデーのお返しのハードルが少し上がってしまう。
それならば、おそらく、僕よりもチョコレートが好きな彼女たちに、同時にお返しをした方が気が楽という面が強かった。
だが、いざ百貨店のお菓子売り場に来たらどうだろうか。
やはり、世間では、女性から男性にプレゼントすることが常識的なようで・・・・。
女性客の中に混じっている僕は単なる異物でしかなかった。
はあ。とんでもない所に来てしまったなあと思う一方で、何だろうか、少し違う意味でドキドキした気持ちにもなる。
そう。以前までの僕からは想像がつかなかった。
以前まではチョコレートをもらったためしがない僕。思い出せる範囲だと、小学生のころ、陸上教室とピアノ教室に一緒に通っていたマユからは一、二回もらったことがあるが、それは小学校低学年だったころ。マユからもらったのは、コンビニの板チョコだ。
そういう特別な日でなくても、毎回買えるものだ。
だが、今年はどうだろう。もらえる当てがある。いや、もらえる当てがありすぎる。
しかも、今は高校生。しかも、コンビニの板チョコではなく、もっとちゃんとしたチョコレートをもらえる。しかも手作りの物だってあり得る。
そう思うと、なんだか嬉しくなる。僕も皆に楽しくプレゼントを贈ろう。
そうして、僕もデパートのお菓子売り場に足を踏み入れ、どれにしようか選ぶ。
しかし、デパートに入っている、お菓子店、どのお店も滞在時間はごくわずか。
店員もなんだか、珍しそうな眼で僕を見ているような気がする。
う~ん。どうしようか・・・・。
と、思ったとき。
「やあ。輝君。」
男性の声がする。その声が僕を呼んでいる。
ふと声の主を探すと、バレエ教室の吉岡先生の姿がある。
「吉岡先生。こんにちは。」
「こんにちは、輝君。ここに居るということは、加奈子ちゃんから、ヒロの誕生日を聞いたのかな?あいつが楽しみにしていたぞ。加奈子ちゃんから連絡があって、明日、高校の皆で、バレエスタジオの二月生まれの誕生日会に来るって。」
吉岡先生がニコニコ笑う。
「はい。それもあるんですが・・・・・。」
「ん?他にもあるのかな?」
吉岡先生にここに居るわけを話す。バレンタインデー当日の誕生日の人物は原田先生だけでないことを。そして、それを聞いた加奈子が、皆を招待したことも。
「なるほどね。早織ちゃんも頑張っているからなあ。だから、加奈子ちゃんが皆を招待したのか。」
吉岡先生がうんうんと頷く。
「よしっ。僕からもプレゼントを選ぼう。」
吉岡先生がニコニコ笑っていた。
そうして、僕は吉岡先生と一緒に、早織のプレゼントと、皆に渡すチョコレートを選ぶことになった。
吉岡先生とともに、デパートにある色々なお菓子店を巡る。
「あの。これだけ女性客がいる中で、先生は恥ずかしくないのですか?」
僕は聞いてみる。
「全然。バレエをやってるからね。女性が多いのは慣れてるよ。輝君も、バレエ教室に来て半年以上経つし、今年から共学の学校に居るから、結構慣れたんじゃない?」
吉岡先生はうんうんと頷いて僕に聞く。
「いや。それとこれとは、話が別で・・・・。日本の習慣というか・・・・。」
僕は首を横に振って、吉岡先生の質問に答える。
「はははっ。まあ、アイツの誕生日だからね。だから、僕にしてみれば、毎年のことだからさ。」
吉岡先生はうんうんと頷いた。
そして、吉岡先生は、僕にこう問いかけて来た。
「ねえ、輝君は、これは聞いたことあるかな?」
僕は吉岡先生の方を見る。吉岡先生が頷き、さらに続けた。
「海外ではね、バレンタインデーは、男性が女性にプレゼントを贈るのが主流なんだよ。しかもチョコレートでなくても良いんだ。さらに、国によっては、それがプロポーズだったり、告白する日だったりするんだ。だから、ヒロも僕も、留学していたじゃない。海外に。だから、アイツ、すごく喜んでたな、誕生日でもらい放題でさ。」
吉岡先生が遠くを見て僕に語り掛ける。
何だろうか、吉岡先生のその言葉に、どこか安心した気持ちになる僕。
「そして、僕はアイツと一緒に留学していたから、毎年プレゼントをたくさん贈ったよ。」
何だろうか。心が温かくなる。そうか。もっと堂々としていていいんだ。そんな気持ちにしてくれる吉岡先生の言葉。
「不思議ですね。国が変わると・・・・。なんか、勇気が湧きます。不思議な感じで。」
僕は吉岡先生にそう返す。そして。
「早織も、今の話をすると、すごく喜ぶかなと思います。出会ったときは、いつも、恥ずかしそうな感じでしたから。」
うまく言えない僕。おそらく、早織も、バレンタインデー当日が誕生日ということで、今まで、何か、思うものがあったのかもしれない。
「そうかもしれないね。」
吉岡先生はうんうんと笑っていた。
そうして、吉岡先生と一緒に、早織のプレゼントと、チョコレートを選んだ僕。プレゼントは料理が好きな早織ということで、お弁当箱を用意した。
そして、チョコレートは早織は勿論のこと、明日、皆が食べられる用に、色々な種類が入ったものを一箱と、皆へのプレゼント用で、それぞれ用意するのだった。
そうして、明日、バレンタインデー当日の放課後を迎え、僕たちはバレエ教室の二月生まれの誕生日会に参加するのだった。
原田先生の誕生日ということもあり、以前参加した、加奈子を含めた九月生まれの誕生日会よりも参加人数が多かった。
おそらく、保護者向け発表会の次に人数が多いのだろう。かなり特別な誕生日会だった。
「さあ、二月生まれの皆、お誕生日おめでとう!!」
原田先生の声に合わせて、二月生まれのバレエ教室の生徒が、担当している先生から紹介される。
そうして、それぞれ、二月生まれの生徒たちは、担当の先生からプレゼントを渡されるのだった。
やがて、プレゼントが全員に渡ったその時。
パーン!!と、クラッカーが鳴った。
そして。
「「原田先生!!お誕生日おめでとうございます!!」」
バレエ教室の生徒たちが声を揃えて、先生の誕生日を祝福した。
「ありがとう!!皆。皆の成長がこれからも楽しみだよ!!」
原田先生は恥ずかしそうに頭を下げた。
そして。
「さあ、私の誕生日を兼ねて、二月生まれ恒例の誕生日会の行事、チョコレート兼、お菓子パーティーを始めようか!!」
原田先生の掛け声に合わせて、机が出され、皆が持ってきたチョコレートやお菓子が所狭しと机に並べられた。
僕たちも皆に合わせて、飲み物を取り、紙コップにその飲み物を入れて、乾杯をして、パーティーに参加したのだった。
そして。
「お誕生日おめでとう。早織。」
僕は早織に声をかけ、プレゼントを贈る。お弁当箱とチョコレートを早織に渡した。
「ありがとう。輝君。そして、加奈子先輩もありがとうございました。その、今までで一番楽しい誕生日です。」
早織は僕、そして、一緒に居た加奈子に頭を下げる。
「そう。楽しんでくれてるみたいで良かった。これは、私からね。」
加奈子はニコニコ笑って、同じく、プレゼントとチョコレートが入った包みを早織に渡す。他のメンバーも同じのようだ。
そして。
「輝にもこれ。」
加奈子は僕に、チョコレートの包みを渡す。
「ありがとう!!加奈子。」
僕は顔を赤くしながらチョコレートをもらった。
「因みに、手作りだよ。」
加奈子はニコニコしながら僕に言った。手作りという言葉にドキッとする僕。本当に嬉しい。
そして。
「ごめん、僕は買ったものだけど、早織の誕生日もあったので、ホワイトデー前倒しで。今日は、誘ってくれてありがとう。」
そう言って加奈子にもチョコレートを手渡す。
「ありがとう。輝。」
加奈子はチョコレートを嬉しそうに受け取った。
どうやら、バレンタインデーには、女子同士でチョコレートを贈り合う、友チョコというものもあるのだそう。
去年まで女子校だった、僕の高校も、その友チョコが流行っていて、今日の昼休みも、クラスメイト達は、誰かからもらったチョコレートを食べ比べていた。
続けて、葉月、早織からもチョコレートを受け取る。二人のチョコレートは当然手作りだ。後で味わって食べないといけないなとも思う。
結花は市販されたものを買ったようだが、高級な包みがラッピングされていた。
「ごめんね、ハッシー、ウチも、葉月先輩や八木原さんみたく、料理できればなぁ。」
結花は照れたように笑っていた。
「ふふふっ、私は、自宅学習期間で時間もあったし、手作りよ。」
史奈はうんうんと笑って、僕にチョコレートを手渡す。
「ありがとう。史奈。」
「いいえ。」
史奈はニコニコ笑っていた。
「にへへっ、風歌も頑張った。手作り。」
そう、この場所には、生徒会メンバーだけでなく、加奈子から早織の誕生日を聞いた、心音と風歌、さらにはマユの姿もあった。
風歌は頑張って手作りのチョコレートを用意したようだが、ぎこちなさそうに渡してくれる。
「すごいじゃん。ありがとう。良く味わって食べるね。」
僕は風歌にお礼を言う。
そうして、一足早いホワイトデーを渡した。
心音と、マユはやはり部活で忙しく、どこかで購入したものだが、こちらも高級な包みのチョコレートが僕に渡された。
チョコレートをくれた皆にお礼を言って、僕も、皆に、一足早いホワイトデーを渡したのだった。
そして。机に並べられたお菓子を食べる僕たち。
本当にお菓子はどれも美味しくて、ずっと食べていたい気分だった。
「おおっ、みんな、お揃いだな。」
僕たちが歓談をしていると、原田先生がやって来る。
「はい。あの、お誕生日おめでとうございます。」
僕は原田先生に頭を下げる。
他のメンバーもそろって、頭を下げる。
「おう。ありがとうな。楽しんでもらって何よりだ。」
原田先生がうんうんと笑う。
そうして、原田先生は早織を見る。
「そして、皆がここに居る理由は加奈子ちゃんから聞いているよ。早織ちゃん、お誕生日おめでとう!!私と一緒で本当に嬉しいよ!!ちょっと待ってね!!」
原田先生はニコニコ笑いながら、早織に声をかける。そして。原田先生はここで待っているように指示を出して。スタッフルームの方へ一瞬席を外す。
数分ほどで、再び僕たちのもとに戻って来る原田先生。先生の手には、見たこともないような、かなり高級溢れる包みが握られていた。
「一緒の誕生日ということで、嬉しくて奮発しちゃった。クリスマスコンサートでお世話になったし、加奈子ちゃんと一緒に楽しませてもらっているお礼を込めて、私からプレゼント。海外から取り寄せたチョコレートだ。」
原田先生はその高級感あふれる包みを早織に手渡す。
「えっ。」
早織は思わず顔を赤くする。
「あの、あ、ありがとうございます。」
早織は原田先生に深々と頭を下げる。
「うん。早織ちゃんは一人じゃないぞ。そして、今週末、いよいよだな。頑張って。大丈夫だから。」
原田先生は早織の肩をポンポンと叩いた。
「はいっ。」
早織は原田先生の言葉、原田先生からのエールに、深呼吸して素直に大きな声で応えた。
「ハハハッ。それだけの元気があれば大丈夫だよ。バレエ教室の皆に可能な限り、宣伝しておくからね。」
原田先生はそう言ってニコニコ笑っていた。
早織は深々と頭を下げて、原田先生に感謝の意を伝えた。
そうして、お菓子パーティーはお開きとなり、それぞれの家に帰路に就く。
「今日は、輝君と二人きりで過ごしていいよ。早織ちゃん。」
葉月の言葉に皆が頷く。
誕生日恒例の二人だけの離屋でのイベントだ。
そうして、早織は皆にお礼を言って、僕とともに、伯父の家の離屋へ。
「今日は、ありがとう。輝君。」
早織は僕に少し涙を浮かべながらお礼を言う。
「ううん。こちらこそだよ。」
僕は首を横に振って、早織に伝える。
「一番楽しい、誕生日だったかも。」
早織はニコニコ笑っていた。
「うん。僕も、皆からチョコレートを沢山もらって、一番嬉しいバレンタインだったかも。」
僕はそう言って、早織に話す。
「ねえ。輝君。えっと。」
早織は机の上の高級な包みを指さす。
それは、原田先生が早織に渡したプレゼント。海外から取り寄せた、特注品のチョコレートだという。
「一緒に食べない?私一人だと食べ切れなさそう。」
早織は恥ずかしそうに僕に言う。
「い、いいの?」
僕は早織に聞くが。
「うん。」
早織はコクっと頷く。
僕も、それに応じて、コクっと頷く。
そうして、早織は恐る恐る、チョコレートの包みを開く。
包みを開くと、さらに高級な箱がある。
その箱はまるで宝箱だ。冒険ファンタジーのゲームに出てくる、高級な宝箱だ。
「すごいね。」
「うん。」
その箱のデザインに息を飲む僕と早織。
宝箱の上には手紙が添えられている。
『大丈夫、一人じゃないぞ。早織ちゃんはもっと頑張れるからね!!皆を信じてこれからも頑張って。お誕生日おめでとう!!原田裕子。』
という手紙が書かれていた。
早織はその手紙一つ一つの文字を噛みしめていた。
そして、深呼吸して、宝箱に手を伸ばす。
「せーのっ、であけよう。緊張しちゃった。」
僕は早織の言葉にコクっと頷き、早織とともに、宝箱に手を伸ばす。
そして。
「「せーのっ!!」」
宝箱を空ける。開けた瞬間、早織は大粒の涙がこぼれ落ちる。
「す、すごい。」
早織は宝箱の中身に感動していた。
僕も思わず息を飲む。
バレンタインデーということもあり、宝箱の中身はチョコレートなのだが。
そのチョコレート一つ一つが、高級感あふれる宝石のように輝いていた。
まるで、早織が宝物であるかのように、そして、早織の周りにいる僕たちも、一人一人が宝物であるかを表しているかのように、そのチョコレートは輝いていた。
そうして、僕と早織はそのチョコレートをゆっくりと口の中へ入れる。
「すごい。美味しい。」
「ぼ、僕も、言葉が出ない。」
早織は涙を浮かべながら、原田先生からもらったチョコレートの味を噛みしめていた。
僕も、本当に、今まで食べたことが無いチョコレートの味を心から楽しんでいた。
そうして、僕と早織はお互いにもらったチョコレートを試食し合った。
どのチョコレートも美味しく、心がこもっていた。
その後は、何があったが言うまでもない。一つ大きくなった、生まれたままの早織の姿がそこにはあった。
高級チョコレートの宝箱を開け、少し自信に満ちた早織の姿がそこにはあった。




