165.毎報新聞バレエコンクール、関東大会
コンクールの本番前日の夜。
ホールでの練習室で、最後の確認をする僕と加奈子。
披露する曲は二曲。ショパンの『レ・シルフィード』から、『マズルカニ長調、Op33-2』と、『英雄ポロネーズ』の二つ。譜めくりは、先ほど中学生部門の発表を終え、全国コンクール出場には至らなかったが、奨励賞をもらった藤代さんが行ってくれる。
「よろしくお願います。」
僕は皆に頭を下げる。
「うん。よろしく。輝。」
加奈子はいつも通りにニコニコ笑っている。
「はい。こちらこそ。よろしくお願いします。」
藤代さんも、丁寧にお辞儀をする。
「おう。よろしくな。大分、リフレッシュできたようだから、しっかりな。」
原田先生はうんうんと笑っていた。
今日は先ほどまで、一緒に来ていた早織と道三と一緒に東京観光をしていた。僕への配慮だった。
なぜならば、このホールは、コーラス部の合唱コンクール、関東大会が行われた場所。
ここで、安久尾と遭遇してしまい、思うように結果が出せなかったのだ。
そのことを思い出せないようにするため、今日一日は、このホールから、離れて行動させてもらったのだった。
原田先生のその配慮で、上手く気持ちを切り替えられた僕。
さあ、気持ちを切り替えたうえでの最終練習の始まりだ。
先ずは、一曲目『マズルカニ長調Op33-2』。この部屋のピアノのレッスン室は、加奈子に対して、僕が背を向けて演奏する構造になっているが、ピアノの周りの黒い光沢の部分が加奈子の動きを反射している。そして、さらに、前方には鏡があるため、加奈子の動きがこちらからも確認できる。
加奈子の動きはいつも通りに、いや、いつも以上に気迫に満ちている。
勝ちたい気持ちが強いのだろう。
僕もそれに応えるように、ピアノを弾いていく。
練習着、レオタード姿の加奈子。彼女の体のラインが強調され、彼女の細身の体を引き立たせている。
冬休み中は、スク水姿も披露してくれ、ドキドキした雰囲気になったのだが、今日のこの日は、そんなことは微塵も想像することができない。
真剣な表情で最終練習をする加奈子。
僕も当然、それに応えなくてはならなかった。
「ヨシッ。いいぞ。いいぞ。」
原田先生は、大きく頷いて、笑っている。
そうして、一気に曲をフィニッシュさせる。
加奈子も僕も、集中力を維持したまま、二曲目、『英雄ポロネーズ』へ。
こちらも、お互い、真剣な表情で、ピアノを弾く僕と、バレエを踊る加奈子の姿がある。
周りから見ると、真剣だからこそ、バチバチにやり合う僕と加奈子の姿が映っているかもしれない。
だが、それがうまく調和しているようで、見る人たちに魅力的な何かを与えているようだった。
僕の隣に居てくれる藤代さんも、一生懸命、僕が奏でる音を聞きながら、最高のタイミングで譜めくりをしてくれる。
そのままの流れで僕と加奈子は曲をフィニッシュする。
原田先生と藤代さんから、思わず拍手が漏れる。
「ヨシッ。良かったぞ。明日、本当に頼むな。少年。」
原田先生は僕の方を見る。
僕は深く頷く。
原田先生はそれを見て、加奈子の方に歩み寄り、少し加奈子の動きの微調整をした。
「ヨシヨシ。ここまで来れば、あとは気合でどうにかできる。二人の気合を信じてるぞ!!」
原田先生はうんうんと頷く。
「はい。すごいピアノでした、橋本さん。勿論、加奈子先輩も。」
藤代さんはうんうんと頷き、目の色をキラキラ輝かせて笑っていた。
「ありがとう。明日、本当によろしくお願いします。」
僕は藤代さんに頭を下げる。
「はい。勿論です。」
藤代さんはニコニコと笑っていた。
そうして、僕たちは今日の練習を終え、早織と道三の待つ、ホテルへと戻る。
僕への配慮だろうか。今日泊まるホテルは、ここの会場とは少し離れたところ、徒歩十分くらいの所にある。
どちらかと言えば、ホールよりも、今日、早織と道三とともに、東京観光へ行くために利用した、電車の駅の方が近い場所だ。
「お疲れ様。輝君。加奈子先輩。」
ホテルへ入ると、早織はロビーで出迎えてくれる。彼女の後ろには道三の姿も。
「おう。ガキンチョ。どうだったか?」
道三はニコニコ笑っている。
「おう。早織ちゃんのお陰で、二人とも気合入っているぞ。明日、楽しみにしていてくれ。」
原田先生はうんうんと笑って頷く。
原田先生の言葉に、少し安心する早織と道三。
「そりゃあ、良かった。楽しみだな。前回クリスマスコンサートの時は、打ち上げの準備があるから、ゆっくり見れなかったから、今回は少し楽しめそうだ。ハハハッ。」
道三は豪快に笑う。
早織も、うんうんと頷く。
「ありがとうございます。頑張ります。」
加奈子は道三に向かって、頭を下げる。
「頑張るから。早織からも、エールをもらっているし。」
そして、加奈子は早織に向かって、大きく頷いた。
僕も加奈子と同じく、早織と道三に向って、大きく頷く。
そうして、各々、夕食を済ませ、それぞれの部屋へ向かい、ベッドに潜って眠るのだった。
そして、夜が明ける。毎報新聞バレエコンクール関東大会、高校生部門当日の朝を迎えた。
皆で朝食を済ませて、コンクール会場へ。
会場のホールのロビーに入れば、一気に緊張感が増して来る。
少しドキドキする僕。勿論、色々な意味で緊張してしまう。
「大丈夫か?少年。」
「・・・・。はい。何とか。」
原田先生に聞かれ、少し深呼吸して応える僕。
「無理しなくて、大丈夫だぞ。受付を済ませたら、加奈子ちゃんと着替えの準備をしに行くが、待ってられるか?」
原田先生の言葉に頷く僕。
だが、不安そうな顔をする僕に原田先生は、黙って頷いて、藤代さんと、早織と道三の方に視線を向けて頷く。
「一緒に待っていてくれ。」
原田先生は藤代さんと、早織と道三に向けてそう言って、頷いた。
「はい。勿論です。」
藤代さんは、そう静かに返事をした。
そうして、受付を済ませて、原田先生と加奈子は、舞台衣装に着替えるために控室へと移動することになった。
「着替えが終わったら、すぐに電話する。大丈夫だからな。」
原田先生は僕の肩をポンポンと叩く。
「本当にごめん、輝。雅ちゃんと、藤代さんと一緒に待ってて。」
加奈子もすまなそうに僕に向かって言うが。
「うん。大丈夫だから。」
僕は加奈子に向かってそう頷いた。
そうして、控室へと向かう、加奈子と原田先生。
「大丈夫だよ。輝君。おそらく、着替えを済ませている間に、応援団が皆、来るから。」
早織がうんうんと頷く。
「おう。そうだぜ。ここで色々あったかもしれないが、今の自分、見せてやれ!!」
道三はバシッと僕の背中を叩く。
「は、はいっ。ありがとうございます。」
その瞬間、一気に正気を取り戻した僕がいた。
「はい。それでこそ、いつもの橋本さんです。」
藤代さんはそれを見て、ニコニコと笑った。
そんなやり取りをしていると、続々と、出場者や観客がホールに集まる。
その中には、史奈、葉月、結花、さらには、心音と風歌の姿も。マユは陸上部の部活で、そして、義信は、祖父母の経営するホテルへ赴き、上川さんと生パスタの修業をマンツーマンでやりたいというので、ここにはいなかったが。
<ひかるんなら大丈夫。>
<頑張って来てくだせえ。社長と、会長なら、大丈夫っすよ。>
というLINEのメッセージが来ていた。
「お疲れ。輝君。」
葉月が声をかける。
「ありがとう。来てくれて。」
僕は来てくれた葉月に向かってお礼を言うと。
「み、皆、心配だった。例の、例の人達と、遭遇した会場だから。」
風歌が勇気を振り絞って、僕に言う。
「だ、大丈夫?輝君。」
風歌は僕の手を優しく持つ。
「うん。今の所はね。」
心配させまいと、僕は風歌の手を握り返す。
「良かった。」
風歌は安心する。だが、それを見ていた心音は少し心配そうに、緊張していた。
いつもなら、逆で、心音が安心して、風歌が少しおっかなびっくりな状態なのだが。
「ご、ごめんね。ここの会場にトラウマを与えてしまった責任は私にあるから。」
コーラス部の部長の心音。責任を感じるのだろう。
「大丈夫だよ。昨日からここに居ますが、昨日は、実は、原田先生と加奈子の配慮で、早織とお祖父さんと一緒に、東京観光の方に行って、一日リフレッシュできたから。」
僕は心音にそう告げる。
「そう。良かった。」
心音は安心した顔で、頷いた。
「原田先生と会長ナイス。珍しくパイセンが緊張してた。」
結花がうんうんと頷く。結花の言葉に、顔を赤くして。
「ちょっと変なこと言わないでよ。」
と緊張した顔で、結花に怒ろうとするが。
「まあ。事実だからいいかぁ。」
心音はうんうんと頷いてため息をついた。
「良かったわ。こんな感じでいつも通りよ。」
史奈が僕にホッとさせるように頷くと。
「うん。良かった。少し安心したかも。」
僕は深呼吸する。少し落ち着いたところで、僕のスマホに着信音が響く。
電話の主は当然、原田先生。
加奈子の着替えが終わったようだ。
「それじゃあ。行きます。」
僕は皆に、頭を下げ、控室へ。
皆はそれぞれ、僕に、頑張ってね、とエールを贈ってくれて、僕と藤代さんを見送ってくれた。
そうして、控室に赴き、加奈子の純白のバレエ衣装を見て、再び、安堵して呼吸を整える僕。
「気分はどうだ?少年。」
原田先生は僕に聞く。
「ええ。大丈夫です。加奈子先輩もいますし、藤代さんも一緒に居てくれるので。少し落ち着きました。その、バレエの衣装の加奈子先輩を見て。ああ。バレエ教室のメンバーと一緒なんだと、皆さんが居てくれるならと。」
僕は恥ずかしそうに答えたが。
「うん。良かった。それじゃあ。よろしく。二人とも自信をもって行って来い!!」
「「はいっ。」」
僕と加奈子は声を揃えて返事をする。
「よろしくね。輝。」
「うん。よろしく。加奈子。」
僕と加奈子は全力でハイタッチをする。
ここまで来れば、あとは気合で乗り切るだけ。
そうして、舞台袖へ移動し、その間に、毎報新聞バレエコンクール関東大会が始まった。
加奈子の出番まで少し時間があるためか。
舞台袖に移動の際に、お手洗いに立ち寄りたい旨を告げる僕。
「そしたら、私も一緒に。入り口で、待ってますので。」
という藤代さんの言葉。その言葉に甘えて、一緒に行く僕。
本当に安心した。この間はトイレで、一人になったときに、安久尾に遭遇したのだから。
「ありがとうね。」
僕は藤代さんにお礼を言うが。
「いえ。私も行きたかったですし、何よりも橋本さんが、このトイレで、遭遇したと。伺っておりましたから。」
藤代さんが深々と頷く。
そうして、トイレに入り、用事を済ませる僕。
今日の中で、一番緊張する瞬間。
だが、服を後ろから掴まれることも、転ばされることも無かった。
少し安心して、本番前、いつもよりも長く、手を洗い、ピアノを弾く準備をする。
その間にも、誰かに合うこともなく、トイレから出る。
同じタイミングで、女子トイレから出てきた藤代さんの顔を見て、ふうっと深呼吸をする僕。
「お待たせしました。橋本さん。」
「ううん。同じタイミングで僕も今出てきたところ。」
そうして、この瞬間、僕は自然とニコニコ笑うことができた。
「あの。橋本さん?」
藤代さんは僕の目を食い入るように見つめるが。
「ううん。ごめんね。もう、悩みは無くなった。全力、出せそうだよ。」
僕は藤代さんに、うんうんと頷いた。
それを見ていた藤代さんもニコニコと笑っていた。
そうして、舞台袖に再び戻り、加奈子と合流する。
刻一刻と、加奈子の出番が近づき。そして。
「続きましては、井野加奈子さんの演技です。」
司会のアナウンスが入り、僕はステージの端に用意されたピアノの椅子に座る。
隣の椅子には譜めくりをしてくれる、藤代さんが座る。
加奈子の気合も十分だ。
「行くぞっ。」
僕は全神経を集中して、一曲目、『マズルカニ長調』の最初の音を弾いた。
よしっ。大丈夫。いつも通り。本当に練習通りに出来ている。いや、それ以上のパフォーマンスが今ならできそうだ。
ステージ上を見れば、加奈子が踊っている。本当に、大きく手を広げ、足を伸ばして、雄大な姿で踊っている。
これなら大丈夫。いつも通り、お互いの気合をぶつけ合って、バチバチにやり合って、良いものを作ろう。
僕はそう思いながら演奏を続ける。
加奈子も生き生きとした表情で、バレエの演技を続けていた。
そして。一曲目をフィニッシュさせ、二曲目、ショパンの『英雄ポロネーズ』に入る。
加奈子の雄大で大胆な動きがさらに加速する。
僕もそれに応えようと、気合を入れ直し、一気にピアノを弾いていく。
大丈夫、恐れるものは何もない。最後まで、最後まで、僕の音色で加奈子の良さを十分に引き立たせる。
そして、ここに居るすべての皆に届ける。
客席からは、ニコニコ笑いながら、うんうんと頷き笑っている、生徒会メンバー。
それに対し、終始、固唾をのんで見守っているコーラス部の二人が居た。
「いつも通りで、良い感じね。」
史奈がうんうんと笑っているが。
心音と風歌は首を振り。
「まだわからないから。」
「うん。まだ演奏は続いているし、少し、心配。」
と、コーラス部のコンクールで安久尾に遭遇した責任を感じているのか、終始表情一つ変えず、緊張した面持ちで、僕のことを見守っていた。
そして・・・・。
僕と加奈子は勢いそのままに、『英雄ポロネーズ』をフィニッシュした。
「「「うわぁ~。」」」
「「「すご~い。」」」
そんな、歓喜の拍手が会場いっぱいに広がる。
「やったー!!」
「良かったぁ!!」
演奏が終わった途端、心音と風歌は思わず立ち上がり、スタンディングオベーションで喜んでいた。
僕はそれを見て、少し泣きそうになる。本当に良かった。
僕と加奈子は、客席に一礼をして、舞台袖に戻る。
「橋本さん。すごいです。」
舞台袖に戻ってすぐに、一緒に譜めくりをした藤代さんが声をかけてくれ、尊敬した眼で僕を見てくる。
「ありがとう。藤代さんも本当にありがとう。譜めくりが居てくれて、助かった。」
僕は藤代さんにお礼を言った。
「ありがとう。輝。」
加奈子がこちらに歩み寄り笑っている。
「こちらこそ、ありがとう。これで本当にすべてを決別できた気がする。」
僕は加奈子に向かってそう言うと。
「うん。すべては輝の頑張りのお陰だよ。」
加奈子はそう言うが。
「ううん。加奈子が、こうして頑張って、一緒に、パフォーマンスをしてくれたからだよ。ありがとう。」
僕は加奈子にお礼を言った。
そうして、お互いにハイタッチをして、加奈子と藤代さんと一緒に控室へ戻る。
「ナイスだったぞ。今までで一番良かったんじゃないか。」
原田先生は大きな拍手で出迎えてくれた。
「本当にありがとう。輝。」
加奈子はそう言って、控室の中へ。
僕も加奈子にお礼を言って、藤代さんと一緒にロビーへ向かう。
ロビーへ向かうと、応援に来てくれた皆から拍手で出迎えてくれた。
「すごい。やったね。輝君。」
葉月がニコニコ笑いながら、僕を見る。
「相変わらずヤバかったね。ハッシー。」
結花がニコニコ笑う。
「やっぱりスゲーな、ガキンチョ。」
道三は親指を立てて豪快に笑っていた。
「うん。私も、輝君と会長に負けない。キングオブパスタ、絶対勝って見せる。」
早織は気合を入れて僕を迎えてくれた。
「ふふふっ。皆、そこらへんにしておきましょう。ああ。私も良かったわよ。でも・・・。」
史奈はニコニコ笑いながら、コーラス部の二人を指さし、そして、コーラス部の二人に僕に声をかけるように促した。
「「輝君!!」」
声を揃えて叫ぶ、心音と風歌。目には涙が浮かんでいる。
「本当に良かった。本当に、ありがとう。本当に、本当に、ごめんね。」
心音が感極まった表情になる。
「良かった。本当に。もう。安心だね。どんなホールでも、輝君のピアノが聞けるね。」
風歌の表情にも涙。
「うん。ありがとう。僕はもう、大丈夫だから。」
そういって、僕は心音と風歌を抱きしめた。
「良かったですね。橋本さん。」
藤代さんは少し声を低くして、その光景を見て、うんうんと頷いた。
「うん。藤代さんもありがとう。本当に、ありがとう。」
僕は改めて藤代さんにお礼を言った。
「いえ。当然のことをしたまでです・・・・。」
藤代さんは顔を赤くして、僕に頷いていた。
そうして、毎報新聞バレエコンクールの関東大会は無事に最後の演技者が終わり、審査結果が発表されることになった。
結果発表は、一番下の順位の入賞者から発表される仕組みのようだ。
ここでは名前を呼ばれないように祈る僕と加奈子。
下位の入賞だと、全国コンクールに出場できないためだ。
「まだだぞ。まだだぞ。・・・・・。」
そう思いながら発表を見ていると。
「それではお待たせしました。五位入賞者の発表です。ここから発表する方には、来月の全国コンクールの出場権を獲得します。それでは発表します!!」
司会のアナウンスがある。
加奈子の名前はまだ呼ばれない。
司会のアナウンスに安心する僕と加奈子。そして、原田先生と藤代さん。
ここからだ。名前を呼ばれてほしいのは・・・・・。
五位、四位、銅賞三位、銀賞二位。加奈子の名前は呼ばれていない。
残るは金賞一位の発表のみ。
ここまで来てしまうと、加奈子は入賞できなかったのだろうかと思ってしまう。
「それでは、お待たせしました。金賞一位、即ち、本年度の毎報新聞バレエコンクール関東大会、高校生部門の優勝者を発表します。」
司会のアナウンスが終わり、ドキドキする僕。
「本年度の優勝は、“井野加奈子”さんに決定しました。おめでとうございます!!」
司会の言葉に、ワーッと拍手が沸き起こる会場。
呼ばれた。加奈子の名前が呼ばれた。しかも、優勝で。
夢じゃないよね。本当に夢じゃないよね。
そう思う僕がいたが、応援に来てくれていた、生徒会メンバー、そして、コーラス部の二人が感極まって拍手をする。
「ヨッシャ―。やったぞ、ガキンチョ!!」
道三も思わず叫んでいる。
その言葉にガッツポーズをして立ち上がる僕。そして、一緒に立ち上がる加奈子の姿。
原田先生もニコニコ笑いながら、大きな拍手をする。
「ありがとう。輝。」
「うん。本当におめでとう!!」
僕と加奈子はガッツリ握手をして、加奈子を舞台上に送り出し、賞状とトロフィーを受け取る、加奈子の姿を目に焼き付けた。
再び客席に戻って来た加奈子をハイタッチで迎える僕たち。
そうして、盛り上がった中で、毎報新聞バレエコンクール関東大会は終了した。
「よくやったぞ。本当にすごい。全国大会は楽しんでくれよ。」
原田先生は僕と加奈子に向かって、うんうんとニコニコ笑って頷いた。
「はい。ありがとうございました。」
僕は原田先生に頭を下げる。
「ありがとうございました。先生。」
加奈子も原田先生に頭を下げた。
「おめでとうございます。橋本さん。加奈子先輩。」
藤代さんも心から祝福してくれていた。
そうして、応援に来てくれていた皆とも喜びを分かち合って、来てくれたお礼を言って、皆と別れて、往路で一緒に来たメンバーと一緒に原田先生の車へ向かう。
「よくやったぞ。ガキンチョ。そして、生徒会長さん。良いものを見せてもらった、ありがとう!!」
道三は大きな声で喜んだあと、僕たちに深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。貴重な経験をしていただき。」
早織は僕たちに深々と頭を下げてくれた。
「いえいえ。こちらも喜んでいただいて本当に良かったです。」
原田先生はうんうんと頷いて、僕たちに車に乗るように促す。
そうして、原田先生は車を発進して、僕たちは帰路に就いた。
帰路に就いたのだが。
先ほどまでの道三の豪快な喜びはどこへ行ったのだろう。
車が発進した直後、道三は大きないびきをかいて爆睡していた。
「ご、ごめんね。」
早織は頭を下げるが。
「まあ、無理もないさ。お前の祖父さんは疲れたのだろう。昨日も、懐かしい場所を巡って疲れていただろうし、今日は一日中、こっちの予定に合わせてもらったしな。」
原田先生はうんうんと頷きながら、ハンドルを握り、高速道路を飛ばしていた。
僕と加奈子、そして、藤代さんもうんうんと頷く。
そう。道三にとってはとても楽しくて充実した二日間だったのだろう。
いびきをかいて眠っている道三の表情からそれが伺えた。
そうして、地元、雲雀川市のバレエ教室に到着する。
「いや~。ゆっくり寝ちまって、すみません。」
道三は原田先生に深々と頭を下げるが。
「いえいえ。気にしないでください。楽しんで頂けで何よりですよ。」
原田先生はうんうんと頷いて笑っていた。
「本当にありがとうございました。おかげで、懐かしい場所を楽しく回れました。」
道三は嬉しそうに頷いていた。
「あの。本当に、ありがとうございました。」
早織も道三と一緒に深々と頭を下げていた。
そうして、お互いに帰る姿を見送り、それぞれの家に向かう僕たち。
優勝して、全国大会への期待、そして、安久尾に植え付けられた、最後のトラウマを乗り切った僕。
帰路に就いた僕の足取りは軽かった。
さあ。全国大会の間に、キングオブパスタがある。それも全力で頑張ろうと思う僕が居たのだった。




