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164.道三の休日

 

 一月は目まぐるしく過ぎていき、あっという間に、二月の最初の週末を迎えた。


 この週末は毎報新聞バレエコンクールの関東大会が行われる。

 大会会場は、東京から三十キロ圏内の南関東の地域にあるホール。コーラス部の合唱コンクールの関東大会が行われた同じ場所であり、安久尾達と遭遇したところでもある。


 僕にとってのトラウマになっているホールで、心配だったが、意外と出発する朝の時間帯は、リラックスした状態だった。

 加奈子のバレエのピアノ伴奏で入る僕。その譜めくりには藤代さんが居てくれるし、そして、何よりも。


「すみません。ありがとうございます。」

 早織の祖父、道三が原田先生に頭を下げていた。

「本当にありがとうございます。先生。」

 一緒に早織も頭を下げる。


「いえいえ。何を言っているのですか?加奈子ちゃんも私も、そして、このバレエ教室全員、ものすごくお世話になってますし、この間のクリスマスコンサートも本当に、お世話になりましたので、そのお礼です。」

 原田先生は道三に頭を上げるように言う。


「はい。本当にクリスマスコンサートのお弁当も、打ち上げの料理も、美味しかったです。」

 藤代さんも、首を横に振りながら道三と早織に頭を上げるように言う。


「いや。そう言われましても、それとこれとは話は別でして。本当に、本当にありがとうございます。」

 道三は頭を上げても何度も、原田先生と藤代さんにお礼を言っていた。


 そう、毎報新聞バレエコンクールのため、会場へ向かうこの日。集合場所のバレエ教室には、僕と加奈子、原田先生と藤代さんの他に、早織と道三の姿があった。


 

 さて、三品目の出品メニューが出来上がり、この日に至るまでの流れを振りかえると。


 先ずは家庭科部に、三品目の出品メニュー、【地元野菜のクリームパスタ】のメニューを共有し、家庭科部員たちは順調に、早織のレシピを見ながら、自分達でも作れるようになった。

 そうして、一品目から、三品目までのメニューをもう一度一通り、復習し、早織とともに、当日の流れ、スケジュールを確認しつつ、担当を割り振って行った。


 その間に、義信の生パスタを手打ちするスキルもどんどん伸びて行った。

 しかも、定期的に上川さんも来てくれて、義信や皆に生パスタの作り方をその都度レクチャーしてくれたので、本当にありがたかった。


 それをやりつつ、僕と加奈子は、毎報新聞バレエコンクールの練習に精を出していた。

 原田先生からも藤代さんからも、僕と加奈子の、バレエの完成度はかなり高い評価をもらい、あっという間に一月が過ぎて行ったのだ。


 そして、二月に入り、忘れてはいけないのが、高校三年がこの月から、自宅学習期間ということになり、卒業式まで、来ないということ。

「ふふふっ。お見送りありがとうね。輝君。皆。」

 一月末の生徒会室、史奈が笑いながら手を振っていた。

 少し寂しさを覚えるのは僕を含めた一年生の生徒会メンバーたちだけで、葉月と加奈子はうんうんと笑っているだけだった。


 そう。史奈は自宅学習期間でもここに来る気満々だし、何なら、自分は大学への進路が決定していて、しかも、進学先が地元の大学ということで。


「早織ちゃんの様子を時々見に行こうかしら。そして、お店でアルバイトもしてみようかしら。」

 とまで言う。


「まあ、アルバイトをするのは、少し先ね。まずは、自宅学習期間と春休みを利用して、やりたいことが沢山あるから。後で、皆をびっくりさせてあげるわね。」

 史奈がそう言ってニコニコ笑っていた。


 そうして、史奈を送り出した一月の末日。

 だが、案の定、史奈は自宅学習期間開始初日の二月一日から、放課後、生徒会室に顔を出しては、家庭科部の様子を聞き、そして、早織のお店まで顔を出しながら、大学から入学前に課された課題に取り組んでいるようだった。


「ふふふっ。やっぱり、誰もいない生徒会室が大学の課題に集中できるのよね。ああ。早織ちゃんのお店でも、お昼を食べながら、課題に取り組ませてもらっているわ。」

 史奈がニコニコと笑っていた。

 というわけで、結局、二月も変わらぬメンバーのまま、生徒会活動が続き、数日が過ぎた。


 

 そうして、今日、二月最初の週末を迎え、毎報新聞バレエコンクール、関東大会の本番ということで、加奈子から思わぬ提案があった。


「折角だし、頑張ってる早織を応援に呼ぼうかなと。良いかな?私たちも全力出すから、早織も頑張ってという意味で。」

 加奈子がそういうので、僕は二つ返事で頷く。

 勿論だ。僕たちが頑張ている姿を早織に見せて、僕たちから、僕たちなりのエールを早織に贈りたいと思っていた。


 ということで、早織にコンクールの日程を伝え、是非行きたいということになり、早織は毎報新聞バレエコンクールの日は、一緒にお出かけすることになるということを、祖父の道三に話すと。


「早織、俺も行っていいか?なーに。たまには修業の時だって休みは必要だ。」

 という返答が道三があった。


「えっ?」

 早織はポカーンとしていると。


「すまないな。早織、俺は東京でも働いていてな。余った時間があったら何だろうか。懐かしい場所を見て見たいと言うのが本音なんだ。そのコンクールの会場は、東京から近いだろう?」

 道三はどこか遠くを見るように言っていたという。そして、母と祖母が。


「ごめんね。早織。申し訳ないんだけど、お祖父ちゃんも連れて行ってもらえないかしら。」

 と祖母の真紀子がいい、母親の美恵子も、申し訳なさそうに、祖母のその言葉に頷いていた。


 そして、そういう事ならばということで、早織は加奈子に伝え、加奈子も原田先生に伝えると。


「おう。そういう事なら、一緒に車でホール迄行こうか。」

 ということになり、今日に至るのだった。


 因みに、自宅学習期間中の史奈も、誘おうと思ったのだが。

「今日は都合があって、パスね。加奈子ちゃんの本番は二日目の日曜日よね。明日の日曜日は応援に行くわね。」

 とのことだった。


 毎報新聞バレエコンクールの日程は、この土曜日に中学生部門で、藤代さんの本番、明日日曜日に高校生部門が開催され、加奈子の本番ということになっていた。

 つまり、加奈子の本番前日の土曜日は、東京の色々な場所を巡ってみたいという道三の希望を叶えるため、早織と道三は、僕たちと一緒に同行することになったというわけである。


 

「さあ。どうぞ、車に乗ってください。ざっと、一時間半くらいでしょうか。」

 原田先生は道三を、先生のワンボックスカーに乗り込むように案内する。


「どうもありがとうございます。」

 道三は深々と頭を下げ、車に乗り込む。


「あ、車高が高いので、足元にお気をつけて。」

 原田先生は道三を支える。

 それを見た早織も、一緒に来て、道三の背中を支えて車に乗り込むのを手伝うのだった。


 ワンボックスカーは確かに地上が高いから、老人一人が乗りむのは少し苦労するようだ。

 それでも、道三は申し訳なさそうに頷きながら、車に乗り込むことが出来た。


 僕たちも車に乗り込む。

 そうして、原田先生の運転で、二月最初の週末の土曜日の早朝、僕たちは毎報新聞バレエコンクールの会場に向けて出発した。


 

 原田先生の運転で、車は高速道路を走り、隣県に入り、一時間半ほどで、会場となるホールに到着する。


 会場に到着すると、少し身構えてしまう僕。

 やはり、コーラス部の関東大会と同じ場所ということもあって、安久尾達に妨害を受けた記憶が蘇ってしまう。


「大丈夫か?少年。」

 原田先生の言葉に僕は頷く。


「・・・はい。何とか。」

 僕は深呼吸して、頷く。


 

「やはり顔色が悪そうだな。大丈夫だ。少年、お前は、早織ちゃんと、お爺さんと一緒に、今日は東京観光でもしてこい。どのみち今日は一日雅ちゃんの中学生部門だ。加奈子ちゃんも雅ちゃんの付き添いを手伝ってもらうし、雅ちゃんの譜めくりも必要なわけだし、そうなると、加奈子ちゃんの最終練習は、少なくとも中学生部門が終わった後、夕方とか夜だから。」

 原田先生は僕に向かって頷き。僕の両肩をポンと叩く。


「なっ。大丈夫だから。」

 原田先生は僕の目を見て頷いた。


「は、はい。ありがとうございます。」

 僕は原田先生に頭を下げる。


「うん。そうだよ。一件落着となったけど、思い出しちゃう会場だからね。出演とか、都合が無い時はあまり近づかない方が良いよ。雅ちゃんは大丈夫だから。」

 加奈子はうんうんと頷く。

「はい。事情は皆さんから聞いています。お気をつけて。」

 藤代さんは僕に向かって、ニコニコと笑い、深々と頭を下げた。


「ありがとう。二人とも。」

 僕は加奈子と藤代さんにも頭を下げ、早織と道三と一緒にホールの近くの駅に向かうのだった。


「悪いなガキンチョ。俺につき合わせてしまって。」

 道三はすまなそうに頷くが。


「いえいえ。大丈夫です。僕の場合、あの会場は前にも行ったことがあって、その時に色々とありましたから。どのみち、少し心が落ち着きました。」

 僕は道三に向って、首を横に振り、うんうんと頷いた。


「そうだね。輝君は色々あったからね。今日一日は私と、お祖父ちゃんと一緒に居て、正解かも。それでも、ごめんね。輝君。お祖父ちゃんにつき合わせちゃって。」

 早織も僕に謝るが。

「ううん。気にしないで。」

 僕は早織にそう応えた。


 そうして、駅の改札を抜けて、東京方面へ向かう電車に乗り込む僕たち。

 乗り込んだ電車は、池袋行、と電車には表記されているので、そのまま、池袋へ。


「池袋なので、先ずは色々見渡せる【サンシャイン】へ行こう。他にも【スカイツリー】とかあるけど、一番近いところで。東京の景色を見渡せる場所となると。サンシャインかなと。」

 僕の提案に頷く早織と道三。


 そうして、池袋へたどり着き、サンシャインへ。

 展望台へと向かうエレベーターに乗り込む僕たち。


「ここのエレベーターが、良いんだよな。確か。暗くなって、照明がついて。」

 道三がニコニコ笑う。道三の言葉に僕は頷く。

 実は僕も来たことがあって、覚えている。どうやら、道三もここには来たことがあるようだ。


 エレベーターの扉が閉まり、その瞬間照明が暗くなり、幻想的な青い照明に変わる。


「うん。こんな感じでな。だが昔と大分変ってしまったな。それでも、綺麗だな。」

 道三は周りを見回して頷く。


「綺麗。なんかドキドキする。」

 早織はエレベーターの照明を見て、目の色をキラキラさせている。

 僕は、少し深呼吸して、気持ちを落ち着かせていた。


 そうして、エレベーターを降り、サンシャインの展望台へ。


「懐かしいな。二十年ぶりくらいだろうか。早織の母さんが小さい時によく一緒に来た。そして、東京に来たときも良く昇った。かつての仕事仲間に誘われてな。東京にこういうのが出来たからと。」

 道三は笑っている。そして、遠くを見ている。


 道三を連れ、展望台に入る僕たち。


「すごく様変わりしたな。俺達が最初に来たときは、床と望遠鏡だけだった。」

 道三は展望台へ一歩ずつ足を踏み入れる。


 最近リニューアルしたという展望台は、都内の、屋内癒しスポットと化していた。

 芝生が敷かれ、まるで天空の公園だった。


「これじゃまるで、空の公園だな。」

 道三は笑っている。

 道三の言葉に僕と早織は頷く。


「そして、様変わりしたのは展望台だけじゃないな。景色も変わった。ホレ。」

 道三は展望台の窓から見えるスカイツリーを指さす。


「はい。スカイツリーですね。」

「うん。」

 僕と早織は当たり前のように頷くが。


「俺が、最後に来たときは、スカイツリーなんてものは無かった。そして、ホラ。【東京タワー】がついに建物の影に隠れてしまった。」

 道三はどこか遠くを見ている。確かにそうだ、道三が東京で働いていた時代は、まだまだ、東京タワーが一番高い建物だった時。


 先ほどの会話からするに、道三は、東京を離れて、大阪、そして、地元に戻って来たときも、東京を訪れていたようだが、その時でも、東京タワーはまだ、一番高い建物として、健在だったのだろう。

 おそらく、このサンシャインが出来上がった時も、東京タワーは目立つ存在だったようだ。


「そして、あそこのビル群はなんだ?」

 道三は東京タワーのすぐ近くのビル群を指さす。


「えっと。汐留の地域ですね。」

 僕は道三に説明する。


「そうか。そしたら、少し想像してみてくれ。ガキンチョも、そういうのイメージするの好きそうだし。早織も北関東の人間ならわかるだろうから。」

 道三はそう言って、僕と早織に目を閉じるように指示する。

 汐留方面の景色をお互い、目に焼き付け、道三の指示通り、目を閉じる僕と早織。


「いいか。昔は、汐留のビル群はなかった。そのビル群が無かったから、その奥、東京湾が見えた。そして、まだ、開通したばかりのレインボーブリッジが見えた。レインボーブリッジの建設の過程も良く見えていたよ。もやがかかった時は本当に幻想的だった。」

 道三の言葉通りに、想像する僕。

 東京湾、つまり海。そして、レインボーブリッジ。何だろうか。ものすごくドキドキワクワクする。


「何だろう。すごくワクワクします。レインボーブリッジ、つまり、あの橋の方まで行きたいという気持ちが高ぶります。」

 僕は道三に向って言う。

「すごいね。海が見えたんだ。」

 早織は道三に向って、興奮したように頷く。


「ああっ。だから、東京へ来て、仕事仲間に会いに行った時は、いつも必ず、東京タワー、そして、これができてからは、欠かさずサンシャインに昇って、遠くを見渡して、東京湾の風景を見ていたよ。」

 道三は笑っていた。何かを懐かしむように。


 そうして、道三は目を遠くから、近くの方へ、目線をずらす。

「うん。この近くはよく見えるな。あそこらへんが、赤坂と言われる場所だな。祖父ちゃんは、オリンピックまで、赤坂のホテルで働いていた。そして、オリンピックが終わったら、万博ということで、大阪で修業をしていた。当時の仕事仲間はみんなそうだった。オリンピックが終わると同時に、大阪へ皆で一緒に向かった。」

 道三はうんうんと頷きながら僕たちに話す。


「ああっ。今の東京オリンピックと、大阪万博じゃないぞ。昔の、昭和のな。そして、万博が終わって、俺を含め、仕事仲間、修業仲間も、皆自分の店を持つようになった。そこから、二十年くらい、俺を含めて、仲間の店を一日、二日と手伝うこともあって、東京や色々な所に行ったよ。」

 道三は笑いながら話す。僕と早織もうんうんと頷きながら道三の話を聞く。

 この話を想像すると、本当に道三は楽しい料理人生活をしていたようだ。僕も、そして、早織も胸を躍らせながら話を聞いていた。


「でもな。皆、年取ってしまって、今じゃ、その仕事仲間、修業仲間もどこで、何をしているかわからねえや。だから、すごく久しぶりだよ。ここに来たのが。そうして、周りの景色も変わっちまったからな。」

 道三は一気に表情を落とす。

 表情を落とした道三を見て、僕は一緒に寂しそうに頷く。


「うん。わかるよ。お祖父ちゃん。」

 早織は道三を慰めるかのように、道三の目を覗き込む。


「まあ。そういってもしょうがねえな。今を全力で楽しまないと。なんたって、孫と一緒にここに居るのだからな。」

 道三はすぐに気持ちを切り替え、豪快に笑うようになった。


 僕と早織は道三の言葉に頷く。


 そうして、再びリニューアルした展望台を歩いてみる僕たち。


 その展望台にはなんと、カップルスポットという場所もあり。二人で座れるブランコがある。


「どうだ。二人で座って、写真撮ってみるか?」

 道三は僕と早織を見て、カップルが座るブランコを指さす。


 少し顔を赤くする僕と早織。だが、お互いに頷いて、ブランコに座る僕と早織。

 僕のスマホをカメラモードに切り替え、道三に渡し、道三はニコニコしながら、慣れないスマホを操作して、写真を撮る。


 お互いピースして、笑顔で写真に写る僕と早織。そして。


「お、お祖父ちゃんも一緒にいい?」

 早織は道三に呼びかける。


「お、俺か?」

 道三は顔を赤くする。


「うん。輝君、写真撮ってもらっていい?」

 僕は早織に向かって頷く。そして、僕も道三に手招きをして、早織の隣に座るように促す。

 恥ずかしがりながらも、顔を赤くしながら、早織の隣に座る道三。


 孫と祖父。本当にいい関係だ。


 僕はうんうんと、頷きながら、スマホの写真撮影のボタンを押していた。

 写真に写った、孫と祖父は、本当に懐かしいような感じがした。


 そうして、展望台を一周して、サンシャインから出ると次は道三が勤務していたという赤坂の方へ向かった。


「うん。街の様子は変わってしまったが、道の形は変わってないな。こんな場所だった。」

 道三はうんうんと笑いながら、赤坂の街を歩く。

 しかしそれでも。


「おおっ、この建物は、昔からあるぞ。懐かしいな。」

 いかにも古い建物の前で立ち止まる道三。

 その様子を見届け、僕と早織も少し感慨深くなる。


 道三は、働いていた時、つまり、オリンピックの当時の時代を見ているようだ。

 当時は色々なものがあったのだろう。古い建物、そして、路面電車も走っていたのだろうか。


「うん。街はやっぱり変わってしまったが、いくつかの建物は懐かしいものがあって、本当に良かった。」

 最後は、少しほっと安心したような、赤坂の街の散策だった。


 その後は、そのまま、地下鉄に乗って、浅草とスカイツリーへ。

 それと同時に浅草で少し遅めの昼食を済ませ、浅草方面の東京下町の観光をする。


 やはり、浅草とスカイツリーの周辺が一番滞在時間が長かった。


「おおっ、流石浅草。ここは昔と変わってないな。祖父ちゃんも少し辛いときはここによく来た。」

 道三はニコニコ笑っていた。


「うん。昔ながらの物がたくさんありそうだね。」

 早織は道三に向って、うんうんと頷いている。


「そうだろう。そうだろう。」

 道三はニコニコと笑っていた。


 そうして、道三の案内のもと、【浅草寺】、そして、【雷門】の周辺を散策したのだった。


 道三の案内は本当にパワフルで、当時を懐かしみながら案内していた。


「ふうっ。なんか、いちばんまともに案内出来たぞ。出店も、浅草寺も雷門も、ここら辺は昔と変わってないからなぁ。」

 道三はニコニコ笑っていた。


「良かった。お祖父ちゃんが元気になって。」

 早織は少し安心する。

「はい。楽しそうで、何よりです。」

 僕も道三に向って、笑顔で頷く。


「おう。ありがとな。ガキンチョ。俺たちに付いてきてくれてよ。」

 道三はニコニコと笑っていた。


 浅草の出店で少し買い物をして、そのまま歩いてスカイツリーへ。

 その間に【隅田川】を渡っていく。


「おおっ、ここも変わってないな。春になれば、隅田川の桜も咲くだろう。」

 道三はうんうんと頷いていた。

 彼の目の奥には隅田川の桜並木が映っているのだろう。川の下流へと続く、隅田川の桜並木。どこまでも、どこまでも、美しい色を、彼は見ているのだろう。


 そうして、最後に訪れたのは、スカイツリーの展望台だった。


「おおっ、このくらいの高さまで登らないと、東京全体は見渡せなくなってしまったか。いま、東京タワーよりも高い所にいるのか。」

 道三はうんうんと頷いている。

 そして、スカイツリーの展望台の異次元の高さに驚いているような素振りは一つもない。


「やっと、東京全部が見渡せたな。ホラ、レインボーブリッジもあるし、東京湾も見渡せる。」

 道三は海の方を指さす。

 東京湾とレインボーブリッジが綺麗に映っていた。


 そして、二月の冬の景色だからだろう。うっすらと富士山も見ることができる。本当に綺麗だ。


「昔はどんな場所でも東京から富士山が見えたのだが。そうか。そうか。やっと見ることができたな。」

 道三はうんうんと頷きながら、スカイツリーから見える、東京全体の景色を見渡していた。


「うん。本当に綺麗。海も見えて、好き。」

 早織はニコニコ笑っていた。

 そのニコニコ笑っている早織と道三を見て、僕も頷く。


「ふうっ。確かに東京や大阪で、修業仲間に出会った。その後も、仲間のお店を手伝いに何度も東京とか、その他色々な所へ行った。今はどこで、何しているかわからない仲間もほとんどだ。そして、黒山みたいに変わっちまった奴らもいた。」

 道三はうんうんと寂しそうに頷くが。


「だがな。早織がこうして、生まれてきてくれた。早織のお陰で、ガキンチョや、早織の仲間に出会えた。今まで、料理をやって来て良かったと思っているよ。今を大事に、頑張らんと。」

 道三はそうして、僕たちを見る。

 僕と早織は、大きく頷く。


「うん。そうだね。私、頑張るね。キングオブパスタ。」

 早織は笑っている。

「はい。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。」

 僕は道三にお礼を言うが。


「何を言ってる、礼を言うのはこっちだ。俺の我がままに付き合ってくれてありがとよ。ガキンチョ。明日、生徒会長さんと一緒に頑張れよ!!」

 道三は僕の肩をポンポンと叩いて、笑っていた。


「はいっ。」

 僕は気合を入れて、大きな声で返事をした。


 そうして、夕方になり、電車に乗り、毎報新聞バレエコンクールが行われている会場に戻る僕たち。


 会場の入り口で、原田先生と藤代さん、そして、加奈子が出迎えてくれた。

 今日行われた中学生部門は丁度終わったところだった。


「どうだ?少年。良いリフレッシュになったか?」

 原田先生はニコニコと笑っている。

「はい。本当にありがとうございました。」

 僕は原田先生に頭を下げる。


「ええ。本当に良かったです。明日、加奈子先輩と一緒に、いい結果出せそうですね。私も全力でサポートします。」

 藤代さんが頷く。


「ごめんね。藤代さん、応援できなくて。」

 僕は藤代さんに謝るが。

「いえいえ。大丈夫です。結果としては、残念でしたが、内容は悪くなかったですし、次に、高校のバレエにつながる内容でしたから。」

 藤代さんはニコニコ笑っている。


「雅ちゃんは結果としては、全国コンクールに進めなかったが、審査員の奨励賞をもらったよ。お前たちも続けよ。」

 原田先生がうんうんと笑う。雅ちゃんの手には奨励賞の賞状だろうか、それが握られていた。


「はいっ。頑張ります。」

 僕はうんうんと頷く。


「おう。頼むぞ!!」

 原田先生はニコニコ笑っている。


「輝。よろしくね。絶対、雅ちゃんに負けない。負けたくない!!」

 加奈子はいつも通り、気合を入れた表情になり、まさに、このバレエ教室のプリンシパルという表情になっていた。


「ヨシッ。早速だが、最終練習を行うぞ。このホールの練習室を予約しているから、ヨロシクな。」

 原田先生の言葉に僕は頷き、早速、原田先生、加奈子、藤代さんと一緒に、予約している練習室に向かうのだった。


 最後に、ここまで一緒に居た、早織と道三に、先にホテルに戻っているように言う。

「うん。輝君、本当に今日はありがとう。頑張ってね。」

 早織がニコニコ笑いながら手を振る。

「おう。ガキンチョ。ありがとな。大丈夫。お前ならやれるさ。」

 道三もそういって、僕に手を振ってくれた。


 そうして、練習室に向かい、本番前の最後の練習に取り掛かるのだった。




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