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161.早織の相談

 

 成人の日の三連休が終わり、僕たち生徒会は再び家庭科部と一緒に放課後の活動をしていた。


 この週の活動は、出品メニューの二品目、【海の幸のペスカトーレ】を調理して、レシピを家庭科部の皆に共有することであった。

 家庭科部員たちは富田部長を含め、やはり普段から料理しているのもあってか、覚えるのが早かった。


 そして。

「えっと、先週、私は少し忙しくて、全部の調理台にいる班を回り切れなかったので、事前に生徒会の皆さんにメニューを共有していますので、わからないことがあったら、生徒会の皆さんにも聞いていただけると嬉しいです。」

 早織の言葉に家庭科部の皆は、返事をして頷き。

 僕も、そして、生徒会メンバーも早織とともに、家庭科部の全ての調理台、つまり、全ての班を回ることになった。


「えっと、すみませ~ん」

 早速いくつかの調理台から、声がかかったが、僕たち生徒会メンバーが対応すると早かった。

 確かに僕でもわからないところがあるが、僕から早織に聞きに行けばいいので。調理するどの班も調理にかかるスピードが上がって行った。


 魚介類を茹でたり、トマトソースで煮込んだりするのはかなりの時間を要するのだが、僕たち生徒会メンバーが早織の良いブレーンになったのだろう。

 一品目より手間取る時間は短くなった。

 早織も僕たち生徒会メンバーからの質問を優先すれば、他の班も回らなくて済むことがわかったのだろう。

 上手く全体を統括して、スムーズに活動を終えることができ、そして、家庭科部や生徒かメンバー全員のレシピの理解が早かったように思う。


「うん。思ったより早く覚えられそうね。円滑に部活の活動が出来ているみたいだし、これも、事前に生徒会の皆さんに、レシピを共有してくれていたおかげね。」

 家庭科部の富田部長は、うんうんと頷いている。

 他の部員たちも笑っている。


 そうして、二品目のレシピを共有することができ、全ての班が二品目のメニューを作り終えることができた。

 所要時間は前回より短い。その要因は、僕たち生徒会メンバーに共有していたおかげで、家庭科部員たちは円滑に行えたためだ。

 僕は最初、事前に共有するのが、家庭科部員ではなく、僕たちでよかったのかと自問自答していたが、それでよかったみたいだ。

 部員たちは、僕たちの言葉に、色々と掘り下げて質問して来たし、その結果もあってか、すぐにレシピや調理のやり方を覚えられたみたいだ。


 そうして、皆で試食タイム。二品目のメニュー、ペスカトーレは、ものすごく大好評だった。

「美味しい。」

 富田部長はニコニコ笑いながら食べている。


「すごく美味しいです。」

「すごいです。八木原さん。」

 このメニューは被服をメインに活動しているメンバーにも配られ、その中の二人。双子の赤城兄妹はものすごく美味しそうに、パスタを食べていた。


「良かったわ。上手くいって。」

 史奈はホッとした顔で試食している。

「そうだね。私も、事前に共有されていたレシピを、皆に教えるの、緊張しちゃった。」

 葉月はうんうんと頷く。

「でも良かったっす。俺も、理解が深まったし。まあ、俺はずっと、わかんなくて、お嬢に聞きっぱなしでしたが。」

 義信が笑っている。

「まあ、義信はもうちょっと考える力があってもいいかもね。矢継ぎ早に早織に聞きに行くんじゃなくて。」

 加奈子はうんうんと、頷く。

「まあ、努力します。会長。」

 義信は照れたように笑った。

「まあ、頑張ったし、いいっしょ。」

 結花は楽しそうにそんな会話を見つめていた。


 そんな感じで、生徒会メンバーも少し緊張が解けた表情だった。


「ねえ、八木原さん。」

 富田部長が早織に言う。


「はいっ。」

 早織は緊張したかのように、返事をするが。


「リラックスして。良かったわよ。それで、提案なんだけど。メニューの名前、【海の幸のペスカトーレ】を、【日替わり海の幸のペスカトーレ】というのに変えてみたらどうかしら?その都度、仕入れた具材で提供できるし、仕入れ値も安く抑えられそうよ。具材は、日替わりで変わりますという注意書きをメニューに入れて、本日の具材をかいていく感じで。なんかごめんね。いろいろ言っちゃった。」

 富田部長の意見に耳を傾ける早織と僕たち。


「ごめんなさい。【ペスカトーレ】って、元々、海の幸のパスタのことを指すからね。このメニューの名前だと、同じ意味になっちゃったりしてね。良く思わない人も居るかなって。」

 富田部長は少し考えながら遠慮がちな表情をしているが。


「いえいえ。ありがとうございます。むしろ、そうしたいです。」

 早織はうんうんと頷く。

 確かに富田部長の案は一理あるし、むしろ、大賛成の僕たちが居た。

 これならば、具材にこだわることもなく、仕入れの費用も抑えられる。それ故に、お客様に提供する価格も抑えられる。


 そうして、富田部長の提案に乗り、色々な、海の幸の具材の候補を挙げていき、リスト化していく僕たちの姿があった。


 リスト化が終わり、予算も大体このくらいかなという見当がついたところで、最後に皆で、後片付けをすることになった。


「二品目も大好評だったね。早織。」

 後片付けをしながら、僕は早織に笑顔で語り掛ける。

「うん・・・・。」

 早織は少し不安な表情をする。


「どうした?大丈夫?」

 僕は早織を見るが。

「ありがとう。あのね。二品はすぐに思いついたんだけど、残りの一品のメニューがなかなか思いつかなくて。」

 早織は僕に素直に、今の悩みを伝える。

 僕はそれを聞いて、うんうんと頷く。


「なるほど。それは、悩むよね。皆にも、聞いてみる?一緒に行こうか?」

 僕は早織の前に手を差し出す。

 早織はコクっと頷き、僕に付いて来るようになった。


 そして、葉月と加奈子が近くに居たので、同じように話してみる。


「ああっ。悩むよね。」

 加奈子はすぐに同情する。

「うんうん。でも、早織ちゃん頑張ってるよ。」

 葉月も同じく同情し、うんうんと頷いて笑っていた。


「一つ、ピンと来ているのは、女性や子供受けする物が欲しいなぁって。海の幸はどちらかというと男性向けのイメージかな。会長。瀬戸会長も魚より肉の人だからね。まあ。あの人は結構肉をガッツリ食べる人だけど。」

 葉月はうんうんと、頷いている。

 確かにそうだ。ここまでの二品のメニューの構成を見ると、三品目は女性受けや子供受けするものが良いのかもしれない。


「そうなってくると、私も考えてみるけど、ピンとくるものがなかなかないなぁ。」

 加奈子が腕を組んで考える。

「料理とかは確かに作れるけど、私は、そういう事も考えたことなく、ある材料で簡単に済ませちゃうから。」

 加奈子がうんうんと頷く。


「そうだね。大体、女性受けに人気なのはチーズとかかな。ありきたりなのはカルボナーラとか、ミートソースとか。でも、それだと、競争率が激しそうだね。」

 葉月も腕を組みながら、色々候補を出す。


「何だろう。私たちは勿論だけど、もうちょっと、大人の女性とか、小学生のお子さんとかの意見も聞きたいよね。」

 加奈子がうんうんと頷くと、早織はピンと来たようで。


「あの。輝君、会長さん。」


「どうした?」

 僕は早織に応える。

 加奈子も早織の言葉に反応し。

「どうしたの?」

 と答える。


「えっと、この後、二人はバレエ教室に行くよね。一緒に行ってもいいかな。練習一回、見学したくて。その、先生と雅ちゃんにも会っていきたいし。」

 早織の言葉に僕と加奈子、そして、葉月は。


「「「ああっ」」」

 と頷く。

 そして、僕と加奈子は二つ返事で、頷くのだった。


 確かに、原田先生やバレエ教室の小学生の面々であれば何か知ってそうである。

 原田先生含め、バレエ教室の面々は、ほとんどが、女性で、しかもヘルシーな食材を好む人達だ。


 そうして、後片付けを終え、今日の部活の活動を終えると、僕は、加奈子と早織とともにバレエ教室へと向かった。


 バレエ教室に着くと、いつものように原田先生が出迎えを受ける。

「こんにちは!!」

「「「こんにちは!!!」

 原田先生の元気なあいさつに、僕たちも元気よく応える。


「ヨッ。加奈子ちゃん、少年。今日はお客様も一緒か。」

 原田先生は早織を見る。


「はい。あの、少し、見学させていただきたくて。色々と、お世話になってるから、お礼もしたくて。」

 早織は緊張しながらも、原田先生に、見学したいことを伝える。


「ハハハッ。そういう事ならお安い御用だ。というより、君ならいつでも大歓迎だよ。クリスマスコンサートのお弁当や打ち上げが、あまりにも評判良くてね。次のクリスマスコンサートも頼もうかなあ。と思ってたんだよ。」

 原田先生は早織の肩をポンポンと叩く。


「はいっ。ありがとうございます。」

 早織は頭を下げる。


「まあ、それだけ、お前の料理が良かったということだな。」

 原田先生はうんうんと頷く、まるで、早織に自信持ちなよと頷くように。


「あの、それでなんですけど、特にこの料理が皆のお気に入りだったとか、ありますか?」

 早織は原田先生に聞く。丁度、原田先生から、クリスマスコンサートの打ち上げの話を切り出してくれた。まさに、ベストタイミングだった。


「ああ。そうだな。唐揚げとか、ああっ、ケチャップのかかった、オムレツとか。ホラ、トマト嫌いなことか、ケチャップとかミートソースだと意外と食べれるよね。そういう意味では、野菜も美味しく味がついてたと好評だったなぁ。チーズとかと一緒に食べたりして。まあ、でも一番人気なのは、お子様ランチによく出てくるメニューだったかな。」

 原田先生はうんうんと頷きながら、早織に語り掛ける。


「まあ。でも、どれも美味かったよ。自信持てって。何でそんなことを聞いてきたんだ?どれも美味しかったからいいじゃないか。」

 原田先生はニコニコ笑いながら早織に話しかける。

 そして、ありがたいことに、早織の悩みも、今、原田先生がこの瞬間に、先生から切り出してくれたことに安心する、僕と加奈子。


 早織はあと一品出品するメニューを考えていることに苦労していることを話した。そして、一品目、二品目はすぐにアイディアが出てきたのだが、なかなか三品目が思いつかないことを話す。

 そして、一品目、二品目のレシピの概要も話した。

 そこから、僕と加奈子も、フォローして、三品目は女性受けを狙いたいことも話した。だから、バレエ教室に、早織が来てみたということも。


「ハハハッ。なるほど。そういう事か。それなら、良いのがあるな。」

 原田先生はニコニコ笑いながら、スマホをポケットから取り出す。そして、スマホに少し検索をかける。

「これならどうだ?【生パスタ】というものなんだけど。そこに、クリームチーズと山の幸を乗せてさ。」

 原田先生はうんうんと頷きながら、早織に見せる。


 先生のスマホの写真には少し太めで、もちもちしたスパゲッティーの麵がある。


「お前さんのお店は、パスタ以外にも、定食だったり、洋食のパンとかそう言うのをメインとしているから、パスタであれば、乾麺を使うのがメインだろう。でも、本場イタリアン専門のお店だと、生パスタを使う店が多い。どうだ?そこに、チーズやキノコをのっけて。」

 原田先生はうんうんと笑いながら早織に問いかける。


「ああっ、いいかも。」

 早織は頷く。

「因みに、生パスタは、実際に小麦粉をこねて作る。そばとかうどんを手打ちで作る感じの、手打ちのパスタだね。後は、業務用のパスタマシンとかがあれば、普通に麺の大きさにカットできるぞ。」

 原田先生はさらにスマホを動かし。

「こんな感じの、これがパスタマシンなんだが、業務用とかで、お前のレストランに無いかな?」

 原田先生はニコニコ笑いながら早織にスマホの写真を見せる。


 早織は少し思い出して。


「ああっ。パスタマシンならあるかもしれません。あまり使っていないのですが。確か、あったかも。やっぱり、先生のいう通り、私のお店はパスタ以外のメニューもやっているので、生パスタとなると、結婚式とか、それこそ、打ち上げとか、そう言う日くらいしか使ってなかったです。」

 早織は目を見開いて原田先生に言う。


「おおっ。そうか。それは良かった。それじゃあ、生パスタで、実際に小麦を練って、パスタマシンでカットして作ってみなよ。絶対美味しいよ。」

 原田先生はニコニコ笑って、早織の肩をポンポンと叩いた。


「はい。ありがとうございます。」

 早織は原田先生に深々と頭を下げる。

 どこか希望に満ちた表情だった。


「おう。頑張れよ。そして、次のクリスマスコンサートの打ち上げも頼むな!!」

 原田先生はニコニコ笑う。

「はいっ!!」

 早織は大きく深呼吸して、原田先生と同じく、お腹の底から大きな声で返事をした。

 どこか、悩みが吹っ切れたような表情をする早織に、安心する僕と加奈子だった。


 その後、僕と加奈子のバレエの練習を見学していく早織。

 演技が終わるたびに、拍手をする早織の姿があり、僕は楽しんでピアノを弾き、そして、加奈子は楽しんで踊っていた。


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