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160.出品メニュー、2品目

 

 一月の成人の日を含めた三連休の日曜日はバレエスタジオに行き、毎報新聞バレエコンクールの練習をし、家に帰れば、原田先生から頂いた、『白鳥の湖』のピアノアレンジの楽譜で練習をしていた。

 そうして、翌月曜日の成人の日。

 この日は、皆で【森の定食屋】に赴いた。


 森の定食屋、つまり早織のお店に赴いたのは他でもない。早織が、二品目の出品メニューを作ってくれるというのだ。そして、その際に厨房に案内してもらい、作る工程を見せてくれるという。

 つまり、早織から招かれたというわけだ。


 僕は朝の農作業と、ピアノの練習、さらには学校の予習も済ませて、自転車に乗って、早織のお店へ向かう。

 お店の前で皆と合流する。どうやら、一番最後に来たのは僕だった。


「おはよう。」

「「「おはよう。」」」

 皆が声を揃えて挨拶をしてくれる。


「ごめんね。遅くなっちゃって。」

 僕は皆に頭を下げるが、皆は首を横に振る。


「ふふふっ。皆、ほとんど同時に今来たところよ。」

 史奈がニコニコ笑っている。

「うんうん。すごいね。楽しみだね。ひかるん。お腹ペコペコ。」

 マユが大きく頷いている。

 マユの雰囲気から察するに、午前中は陸上部の練習だったようだ。


 そんなメンバーとともに、僕たちはお店の中へ入っていった。


「いらっしゃい。待ってたぞ。」

 中に入ると道三から出迎えを受ける。

「おはよう。皆。」

 道三の隣にいた早織も元気よく僕たちを出迎えてくれた。


 そうして、僕たちを厨房に案内してくれる。


 厨房は、お昼時で忙しそうだったが、早織の母親と、祖母が、少しスペースを空けてくれたようだ。


 そうして、厨房の一角。小さな作業台の前に立つ僕たち。

「えっと、また家庭科部の活動の時にも説明するけど、皆には予習という意味と、私と一緒に家庭科部の全体を統括する感じで、サポートしてもらいたくて。この間、一品目の料理の時は、全部の調理台を回ったりと、かなり忙しかったから・・・・。」

 早織は申し訳なさそうに説明する。


 確かにそうだ。ここの所、家庭科部での活動で、早織は目まぐるしく忙しい。

 そうなってくると、誰かに、一足早くレシピを共有し、もう一人、二人と、早織と一緒に動ける人物が必要になって来る。


 だけれども。


「大丈夫なの?僕たちで。家庭科部で結構やれる人の方が、そう言う役目を担った方が・・・。」

 僕は早織に言うが。


「大丈夫。むしろ皆がいい。それに、心音先輩や、風歌先輩、マユちゃんとか、家庭科部の活動の時に居ない人も居るから。皆に共有するためにも。」

 早織は恥ずかしそうになりながらも、静かにそういった。


 確かにそうだ。心音や風歌はコーラス部の活動がある。マユは勿論陸上部の活動もあるし、他校に通っている人物だ。

「おおっ、ありがと。さおりん。私は、料理そんな出来ないから、接客メインで大丈夫だよ。」

 マユはそう言うが。早織は首を横に振り。


「それでも、見て欲しい。」

 早織はマユに向かってそう言うので。


「おおっ、ありがとう。信頼してくれて。」

 マユはうんうんと頷き、早織の肩をポンポンと叩いた。

「ありがとね。八木原さん。」

「うん。なんか、ごめん。」

 心音と風歌もニコニコと笑っている。


「うん。そういうわけで、家庭科部の時に居なかった、心音先輩や風歌先輩、そして、マユちゃんにも見てもらうために、一品目の料理も作るね。」

 早織はニコニコ笑って言った。

 早織の言葉に僕たちは頷く。


 早速、早織は復習も兼ねて、一品目のパスタ。【サーモンといくらの海鮮親子パスタ】を作っていく。和風ベースに、塩味を足したパスタだ。


「すごい。おいしそう。」

 マユがニコニコ笑っている。

「うん。うん。すごい。」

 風歌も興味津々だ。


「すごく成長したね。八木原さん。」

 心音がニコニコ笑っている。

 心音のいう通り、確かに、早織の実力は、ここ数日で目まぐるしく上がっている。

 義治のもとで一人残って、修業したからだろうか。本当に、以前にもまして、真剣な表情で料理を作っていく。


 そうして、完成した、サーモンといくらの海鮮親子パスタを心音と風歌、マユ、そして、早織の指示で、僕たち生徒会メンバーも試食する。


 相変わらず、和風だしと、大葉がアクセントになって、本当に美味しかった。


「こういう味。覚えてもらっていい?」

 早織の言葉に頷く、僕たち。


「うんうん。ばっちり覚えた。」

 マユはピースサインを早織にする。

 心音と風歌も頷く。


「ふふふっ、大丈夫そうね。生徒会メンバーもOKかしら?」

 史奈の言葉に自信を持って頷く。

 僕たちは、家庭科部の活動に早織と一緒にかかわっていたので、覚えている。


 そうして、早織はこう切り出す。

「じゃあ、この味を踏まえてもらって、二品目。二品目も海鮮系のパスタを作ります。内陸にあるこの場所は、海に憧れる人が結構多くて、その影響で、海産物が好きな人が結構多いんだよね。」

 早織の言葉にうんうんと頷く。

 確かに、夏の茂木の別荘では、海産物でバーベキューをして、僕を含め、皆、それを貪るように食べていた。


「ということで、少し味を変えたパスタを作ります。【ペスカトーレ】というパスタは知ってる?」

 早織は皆に問いかける。


「名前だけは、聞いたことあるかな?」

 僕はそう言う。皆も同じようにうんうんと頷く。

 たしか、イタリアンレストランで注文すると、大体、沢山の魚介類が盛り付けられて登場するパスタだ。

 ただ、具材は色々なお店で、様々な魚介類が使われている。


 そのことをさおりにざっくりと伝える。


「そうそう。そんな感じ。簡単に言えば、魚介類をトマトソースで味付けしたパスタ。魚介類という具材の縛りをクリアできていれば、どんな具材を使っても良いんだよね。」

 早織はそう僕たちに説明する。

 道三もうんうんと頷く。


「というわけで、こんな感じで用意してみたんだけど。」

 早織は調理台に用意された様々な魚介類を指さす。

 エビやイカ、タコ、そして、アサリやムール貝などの貝類が用意されていた。


 今、この状態でも美味しそうではあるが。

「まずは、これを、塩で茹でて、その茹でている間にトマトソースを作ります。最後にトマトソースと一緒に魚介類を煮込んでパスタに合わせれば完成です。」

 早織が流れを説明する。

 うんうんと頷く僕たち。


 早速、魚介類を塩で茹で始める。

 そして、早織はトマトを刻み、別の鍋でトマトを茹でる。こうすることによって、トマトソースが作られていく。

「トマトソースは特に味付けはしないかな。魚介類と一緒にしたとき、塩、胡椒を加えて、魚介類から出た出汁と一緒に煮込んでいくよ。」

 早織は説明しながらも、手際よく手を動かしていく。


 そうして、しばらくすると、魚介類の、磯の香りがしてきた。


「うんうん。魚介類のいいにおいがするね。」

 葉月がニコニコと笑う。

「本当、結構好き。」

 加奈子はその匂いを確認して、今この段階でも、美味しそうだということがわかったようだ。


「私は、魚より、肉の人だから、このトマトソースの方が好きかなぁ。色鮮やかでいいわね。」

 史奈がうんうんと頷いている。


 史奈の言う通り、トマトソースも出来上がっていて、色鮮やかなトマトソースが出来上がっていた。


 出来上がったトマトソースを早速、魚介類の鍋に移し、塩、胡椒を加えて、さらに煮込んでいく。

 その間に、パスタの麺を茹でていく。


 そうして、ゆであがった、パスタに、トマトソースで煮込んだ魚介類を盛り付け、バジル粉をまぶして完成した。


「お好みで、タバスコをかけて食べる感じかな。一品目が和風の感じだったので、二品目はトマトソース系で少し辛味のあるパスタにしました。」

 早織の言葉にうんうんと頷く僕たち。

 なるほど。同じ魚介類のパスタでも、少し味を変えて、多くのお客さんを獲得したいという考えだ。


 その作戦は十分に妥当だし、完成したパスタを見ても、良い所まで行きそうな感じがする。

 僕たちは、完成したパスタを見て、拍手を贈る。


「すごい。すごいよ。早織。」

 僕はニコニコ笑って早織に言う。

「ありがとう。輝君。」

 早織は笑っていた。


 そうして、早織は、盛り付けの作業を繰り返し、一人分ずつ、完成したペスカトーレを盛り付けて、厨房からテーブルに運んだ。

 僕たちも、それを見て、厨房から、テーブルに移動する。


 テーブルに着く僕たち。それと同時に、早織は、盛り付けたパスタと、タバスコをテーブルに置く。


 こうしてみると改めて、美味しそうな魚介類のパスタだった。


「おいしそう。でも、辛いの苦手かも。このまま、トマトの味で、食べようかな。」

 風歌がうんうんと頷いている。


「わ、私はちょっとだけ。タバスコ入れようかな。」

 加奈子は完成したパスタを見て、うんうんと頷きながら、どのくらい辛さを調節しようか迷っている感じだった。

 おそらく、過去にそういう調味料を入れ過ぎて、大失敗した経緯があるのだろう。

 そして、葉月も同じような表情で加奈子の動作を見て、少しだけ、タバスコを入れた。


「ぼ、僕も、少しだけ。ほんの一滴。前に入れ過ぎて失敗したことあるから。」

 僕はそう言いながら、葉月からタバスコの瓶を受け取った。


「あっ、輝君もあるんだ。私もなんだよね。加奈子の動きを見ていて、どのくらい入れようか迷ってたんだよね。」

「良かった。輝も、そんな経験があって。」

 葉月はニコニコ笑いながら、そして、加奈子はホッとした表情で僕を見ていた。


「辛いの入れちゃえぇぇ~。」

 そう言いながら、マユはどんどんタバスコを入れていく。

 それを見ていた、結花と心音、そして、義信も負けじとタバスコを入れた。


「さすがお嬢っすよ。辛いの好きっすから。」

 義信はニコニコ笑っていた。


「最後に私も、少しだけ、アクセント。」

 史奈がうんうんと笑いながら、タバスコを沢山かけていた義信たちから、一番最後にタバスコの瓶を受け取り、ほんの少しだけ、タバスコを入れた。


「「「いただきます。」」」

 僕たちは声を揃えて、食事を開始する。


 料理を口に入れれば、魚介類の香りと、トマトの香りが絶妙で、魚介類の出し汁が、程よくトマトソースとマッチしていた。


「すごい。すごいよ。早織。美味しいし、一品目の料理との差異化が出来そう。」

 僕は素直に言う。


「本当だね。こっちは、辛い味とか、トマト味が好きな人に人気かな。」

 葉月もうんうんと感想を素直に言った。


「いや~。辛いけどウマい!!」

 義信は水を飲みながら、モグモグと口の中に、一気に料理を入れていく。

 そして、義信と同様、タバスコを一気に入れたメンバーはそろって、辛さを楽しみながら、食欲が一気に進んでいた。

「いや~。辛いけど、この辛さは食欲をそそるよね。」

 マユはうんうんと頷く。


「マジマジ。マユの言ってることわかるわ~。」

「結花も良い食べっぷりね。」

 結花と心音は最初こそ、写真を撮って、味わっていたが、同じように辛さが口の中に広がってからは、食欲がどんどん進み、一気に貪るように食べていた。


 それとは対照的に、少量のタバスコを入れた加奈子と史奈、そして、辛いのが苦手でタバスコを入れなかった風歌は、僕と同じで、魚介類の磯の香りとトマトの風味を楽しみながら食べていた。


 そうして、満場一致で美味しいというリアクションがあり、無事に、【トマトと海の幸のペスカトーレ】を春のキングオブパスタ、二品目の出品メニューとすることを決定したのだった。


「ありがとう。皆。明日からの家庭科部の活動、よろしくね。」

 パスタを食べ終え、定食屋を出る僕たちを早織が見送ってくれる。

「うん。早織と一緒に見て回って、教えられるように、頑張るね。」

 僕はそう言って、早織、そして、道三に手を振って、挨拶をして、自転車に乗って、帰路に就いたのだった。


 その後は、伯父の家で少し休んでから、加奈子のバレエ教室に向かい、ピアノスタッフとして、コンクールと、コンサートの練習を手伝い、一月の三連休を終えたのだった。


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