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156.早織の帰還

第7章に入りました。

いよいよ、早織VS黒山の直接対決の章です。

少しでも面白い、続きが気になるという方は下の☆マークから、高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。

 冬休みの最終日。僕は自転車に乗って、【森の定食屋】に向かった。

 ざっと、元旦から今日までの流れを振りかえっておくと、元旦は義信の祖父母が経営するホテルから帰って来て、伯父たちと、夕食を共にした。伯父と伯母はお年玉を僕に沢山くれた。本当に感謝だった。


 そして、二日と三日は、僕の両親がやって来て、元気でやっている僕を見て、安心して帰って行った。

 勿論、僕の両親からも、お年玉を沢山もらった。


 そうして、そこからは冬休みの課題に取り組みつつ、毎夜毎夜、誰かが、僕が暮らしている、伯父の家の離屋にやって来た。

 その誰かを説明すると、要は、スイートルームのじゃんけん大会で、惜しくも負けてしまったメンバーだった。ホテル滞在の一日目から四日目までの間の中で、誰とともに一夜を過ごすか、じゃんけんで決める提案があり、それが行われた。

 当然だが、そのイベントに負けてしまったメンバーが居た。その時は悔しそうな表情を浮かべていたが、気持ちを切り替え、ホテルの代わりに、ここの離屋にやって来たのだった。


 離屋で、一体何が起きたのかは、言うまでもない。

 だが、ホテル滞在の夜から、この正月以降の離屋の夜で、誰かと二人きりで過ごしたため、今までよりも、メンバーのことを深く知った気がして、本当に良かった。

 毎夜毎夜本当に、色々あったが、驚いたのは、やはり加奈子のスク水姿と、元ヤンキーによる心音と結花のドS覚醒モードだろう。うん。


 そうして、正月以降、そんな感じで、ゆっくり過ごすことができた冬休みも、いよいよ今日で最終日だ。


 冬休み最後の日の今日は、早織の家族が経営するお店、【森の定食屋】で皆と待ち合わせをしている。


 先ずは、道三に新年のあいさつをして、ホテルの追加分費用を大方工面してくれたお礼を言うため。

 そして、もう一つ、早織を出迎えるため。


 早織は、正月以降の冬休みの後半も、義信の祖父母の経営する、【ホテルニューISOBE】に残り、義信の祖父、義治とともに修業をしていた。


 冬休み最終日の今日、修業が明けて、この町に帰って来る。

 ということで、道三に挨拶をし、皆で出迎えようということになった。


 そうして、自転車を進ませ、僕は【森の定食屋】の前にたどり着く。

 自転車を置いて、スマホを取り出す。


 <先に中に入って待ってるね。>

 という葉月からのLINEが来たので、僕はお店の中に入る。


「いらっしゃいませ。」

 と早織の母親、美恵子の声。

「あけましておめでとうございます。」

 僕は美恵子に挨拶をする。


「あら、こんにちは、橋本君、あけまして、おめでとうございます。皆の所に案内しますね。」

 美恵子は僕を席に案内する。


「おはよう、輝君。」

「ふふふっ、輝君も時間より早めの到着ね。」

 葉月と史奈が座って待っている。

「おはよう。」

 僕は二人に声をかけ、席に座る。


 その後も、心音と結花、マユ、そして、風歌と加奈子という順番にお店に到着する。

 それぞれ、おはようと、挨拶をして、席に座る。


 全員が揃ったところで、昼食をそれぞれ注文し、早織の母と祖母が料理を運んできてくれた。

「いつ来ても、美味しいわね。」

 史奈がうんうんと、頷く。

「本当だね。」

 葉月がニコニコと笑う。


「おいしい。そして、早織ちゃんも、戻って来る。楽しみ。」

 風歌がにへへと笑う。


「すごい。料理も美味しいし、いつ来てもいいお店。」

 加奈子がうんうんと頷く。


 結花と心音も、この店に来るたびに写真を撮っている。

 そして、体育会系のマユは、もぐもぐと、無我夢中で料理を食べていた。


 そうして、全員の昼食を食べ終え、支払いを済ませ、全員揃って厨房へ。

 厨房にいる道三に挨拶をする。


 道三は、僕たちの呼びかけに応え、ひょうひょうとしながら、厨房から出てくる。


「おう。お前たち、冬休みは楽しかったか?」

 道三は僕たちに聞いてくる。

「はい。あけましておめでとうございます。本当に、ホテルの費用の件、ありがとうございました。」

「「「「ありがとうございました。」」」」

 僕たちは声を揃えて、道三にお礼した。


「はい。おめっとさん。」

 道三はひょうひょうと応える。その応答に、ニコニコと少し顔が緩む僕たち。


「おめっとさん。って、一回やってみたかった。どの世代も知ってる、お笑い芸人さんの、某殿様の受け答えでな。お前たちは、その殿様しか知らないと思うが、儂が若いころは、メンバーと一緒に、いろ~んな、番組に出てたんだぞ。」

 道三がうんうんと笑っている。まるで遠くを見つめながら、僕たちに説明する。どこか、懐かしいのだろう。当時を思い出しながら、うんうんと笑っていた。


「さてと、義治のホテルで、楽しんでもらえたみたいで良かった。義治とは仲が良くてな、な~に、義治と、その孫の坊主のご厚意で、金は格安で済んだぞ。気にすんな、気にすんな。若い奴がいろ~んな経験をしないと、ダメだからな。」

 道三は大きく頷いた。


 僕たちはもう一度、道三にお礼を言って、頭を下げた。



「あなた。早織から連絡がありましたよ。もうすぐそこに来ているみたいです。」

 厨房の奥から、早織の祖母、真紀子の声。


「皆も一緒に、外に出て待ちましょう。早織を出迎えましょう。」

 真紀子はうんうんと頷きながら、僕たちをお店の外へ出るように促す。


 一月のひんやりした空気。まだまだ、正月の雰囲気は残っているが、だんだんと、日常に戻って来る、そんな空気が漂う日常のひと時だった。


 そうして、数分が経過する。

 早織のお店の前の道、その道の遠くから、一台のワゴン車が現れる。ワンボックスカーだろうか。


 その車が、こちらに向かって来ており、だんだんと車の姿が大きくなる。


 そうして、その車は、ウィンカーを出し、森の定食屋の駐車場に入ってきた。

 車の車体には『ホテルニューISOBE』と書かれており、住所と電話番号が記されている。


 車からは、早織と義信、そして、運転していた義治が降りて来た。


「皆さん、あけましておめでとうございます!!ああっ、そう言えば元旦に会ってましたね。それじゃあ、ただいま戻りました。」

 義信がニコニコ笑って豪快に手を振る。


 そして。早織がこちらに歩み寄り。

「あのっ、お母さん、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ただいま。皆も、本当に、ありがとう。」


「おかえり。」

「お帰り、早織。」

 母と祖母はニコニコと笑って声をかける。


「お帰り、頑張ったな。」

 祖父の道三は、早織の頭を撫で、大きく頷いた。


「社長、皆さん、お嬢は本当によく頑張ってましたよ!!」

 義信は親指を立ててニコニコ笑っている。

 確かに、顔つきも以前に増して、凛々しく、そして、たくましくなった気がする。


「ふうっ。本当に良かった。皆がこうして迎えてくれて、早織ちゃんは本当に幸せだな。」

 義治がニコニコと笑っていた。


「はい。本当に、ありがとうございました。」

 早織は義治に頭を下げた。

「うん、本当によく頑張っていたよ。厳しいこともいろいろ言ったかもしれないが、すぐにでもウチで働いてほしいくらいだよ。でも、今はまだ、高校生して、勉強して、そして、勿論、料理も沢山経験して、うちにおいで。」

 義治は早織に向かって、うんうんと頷いた。

 早織は深々と頭を下げた。


 そして、義治は道三のもとに歩み寄る。


「お久しぶりですね。道三さん。近況をお伺いしていましたが、落ち着いているようで、本当に良かった。」

 義治は道三に話しかける。

「ああっ・・・・。」

 道三は義治の言葉を聞いて、少し目に涙を浮かべている。

「義治、本当にありがとう。おかげで、たくましくなって、早織が返って来た。」

 道三は義治にお礼を言って、深々と頭を下げた。


「本当に、頑張っていましたよ。あなたに似て。燃える炎を心に灯して。どうでしょう。私のもとに早織ちゃんがいる間、ゆっくりできましたか?」

 義治は遠くを見つめながら、道三に話す。そして、義治も目に少し涙を浮かべている。


「ああっ、おかげで少し休めた。もう大丈夫。キングオブパスタまでの、最後の追い込み。後は俺が早織を鍛える!!」

 道三は気合を入れて頷く。

「ええ。期待してますよ。そして、頑張ってもらわないと困りますよ。私は貴方に、最後にして、最大の恩返しをしたつもりでいますから。」

 義治は道三の目を見て、真剣な表情で言う。


「ああ。勿論だ。本当に、本当にありがとう!!」

「ええ。私こそ、貴方にはお世話になりっぱなしでした。」

 道三と義治は、男同士の固い握手をする。


 そうして、一息入れた義治は僕の方を見る。

「さて、ここに来た理由は、もう一つあってね。橋本君。君のお家の畑を案内してくれないだろうか。ああっ、皆、自転車だよね。そしたら、先に行っていてくれ。さっき連絡をもらったけど、皆は先に昼食を済ませているようだから。私も久しぶりに、道三さんのお店に来たんだ。昼食を食べて、あとから車で向かうとしようかな。車のナビに住所を入れるから、畑の住所を教えてくれないか?」

 義治の言葉に僕は頷き、伯父の家の住所を教える。


「おう、お前も、ガキンチョの畑を。」

 僕から住所を聞いて、ナビを入力している義治に、道三が声をかける。

「ええ。噂では聞いていましたから。」

 義治がうんうんと頷く。

「あそこは良いぞ。」

 道三が義治の肩をポンポンと叩きながら言った。

「そうですか。それは楽しみですね。」

 義治がそう言いながら、住所の入力を済ませ、ナビに僕の家の地図が表示されたのを確認する。


「ありがとう。そしたら、橋本君と、皆も先に行って待っていてくれ。さあ、久しぶりの、道三さんの料理だ。楽しみだな。」

 そうして、義治はお店の中へ。道三も笑顔で義治を案内する。


「どうぞ、どうぞ、磯部さん。お茶も用意しています。ああっ、簡単なものでよろしければ、今すぐデザートも早織に作らせますので。」

 早織の祖母も義治を中に案内する。


「私も後から行くね。」

「俺も、あとから爺ちゃんの車で向かいます。」

 早織と義信はそう言って、お店の中へ入っていった。



 そうして、僕たちは先に、伯父の家へ向かう。

 伯父の家に、帰って来て、小一時間ほど経過したところで、ホテルニューISOBEの車がやって来た。

 そして、その後、十分ほど遅れて、早織も自転車に乗って、合流した。


「おおっ、これは圧巻だな。使えそうな食材も沢山ありそうだし、何より、同じ北関東の県内で、地元というのもありがたい。」

 義治は車から降りた瞬間、目を丸くして、伯父の家の畑を全貌を見ていた。


「すごいっしょ、爺ちゃん。」

 義信が、ニコニコと笑って、得意げに言う。

「ああ。流石に驚いたよ。そしたら、橋本君のお家の人に挨拶させてほしい。」

 義治がそう言うので、僕は母屋に案内し、伯父に義治を紹介した。


「生徒会のお友達のお爺さん。」

 僕は伯父にそう言うと。伯父と、伯母はそろって出迎え深々と頭を下げる。


「どうも、私、伊那市温泉でホテルの支配人兼料理長をやっている、磯部義治と申します。」

 義治は伯父と伯母に名刺を差し出す。名刺の肩書を見て、さらに驚く伯父。

「なんと、ホテルニューISOBEの。高級ホテルの料理長さんが、ウチの畑の野菜に興味を示して頂き。本当に光栄です。」

 伯父は義治にそう頭を下げた。


 そうして、伯父とともに、畑を案内する僕たち。

 一通り、義治に案内して。


「ありがとうございます。そしたら、冬ということで、沢庵の漬物に使う、大根と、鍋に使う白菜をいただきましょう。漬物ということで、大量に漬け起きが必要な大根は二箱ほど、白菜はとりあえず、鍋に使うだけで良いので、一箱ほどいただきましょう。後は、そうですね。使い勝手を見て、今後もお願いしようかなと。」

 義治は伯父に説明する。

 伯父は深々と頭を下げて、伯母や僕たちと一緒に、畑の土から、大根を掘り出し、白菜を収穫するのだった。


 そうして、大根と白菜を車に積み。車に乗り込む義信と義治。


「いや~。ありがとう。すごいものを見させてもらった。野菜に関しては、使い勝手が良ければ、今後もこちらの畑といくつかお取引をさせてもらいますね。」

「それじゃあ、社長、また明日学校で。」

 そうして、義治は車を発進させ、僕の家をあとにした。


 深々と頭を上げる、僕と伯父、そして、早織。


「ふうっ。」

 と一息入れる伯父。僕もそんな伯父を見て、緊張が解けたのか、安心する。

「いや~。すごい人が来ちゃったよ。輝。お前、いい友達を持ったな。」

 伯父はそう言って、僕の頭をかき撫でた。


「さてと、俺は母屋に戻るから、皆も、ごゆっくり。」

「「「はいっ。」」」

 皆は声を揃えて、伯父の言葉に返事をして、僕が暮らしている離屋に行く。


 改めて、早織にお帰りの挨拶を言って、葉月の手作りクッキーで、たくましく成長した早織を笑顔で迎えた。


 そして。

「それじゃあ、私は帰るけど、早織ちゃんはここの離屋で輝君とゆっくりしてていいわよ。」

 史奈がニコニコ笑った。

「うんうん。早織ちゃん、冬休み中、勇気ある決断をして、頑張ったから、今日はそのご褒美で、輝君と二人でこの離屋で過ごしなよ。」

 葉月が史奈の言葉に続けて頷く。

 他のメンバーもともに頷く。


「皆さん。ありがとうございます。」

 早織は皆に頭を下げ、皆が返るのを見送る僕と早織。


 そうして、僕と早織の二人きりの離屋になる。


「本当によく頑張ったね。早織。」

「うん。ありがとう、輝君。」

 僕たちはお互いを見つめて、抱き合い、唇を重ねた。


 その後どうなったかは、言うまでもない。

 早織と書かれた箱から、例の袋を取り出していた。


 心も体も、成長した早織の姿が、そこにはあった。



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