150.スイートルームの夜、結花編
「「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」」
「よっしゃー!ハッシーゲット。」
勝ち誇るようにガッツポーズをする結花。今日の勝者は結花だった。
「良かったじゃない。楽しみなさいよ。」
心音が結花に向かって、笑って頷く。
「勿論ですよ。パイセン、負けないくらい楽しんじゃいます。」
結花がうんうんと頷く。
そうして、僕と結花以外の面々は部屋を出て行くのだが。
「ハッシー、アタシたちも部屋を出よう。」
結花に連れられて、僕も部屋を出る。
そうして、皆とともに、エレベーターに乗り込む。
結花以外のメンバーは一つ下の階で降りる。そこに皆が止まっている部屋があるためだ。
「それじゃあ、ハッシーは私と一緒に一階まで一緒に行くよ。みなさん、おやすみなさいー。」
結花は勝ち誇った顔で、エレベーターを降りていく面々を見送り、僕と結花は二人で、エレベーターに乗り続け、一階まで下りるのだった。
「二人しかいないから・・・・。」
結花は僕の頬に唇を当てる。
「ごめんね。ハッシー、折角だから、夜の温泉街、一緒に回りたかった。」
結花はニコニコと笑いながら、頷く。
「うん。大丈夫。きっとそうなんだろうなと思った。」
「へへへっ、ありがとう。」
結花はうんうんと頷く。
そうして、僕たちはエレベーターで一階まで行き、ホテルの玄関を出た。
夜の温泉街は幻想的な風景が広がっていた。
比較的、ホテルの照明は幻想的な色、昔ながらの照明の色が多い。だから、和風の幻想的な照明の色になりやすい。
温泉街にある色々なホテルや旅館から、幻想的な灯りが僕たちを照らす。
さらには、温泉街の外の風景も色々とライトアップされていて、さらに幻想的な風景を演出している。
そして、その幻想的な演出に花を添えるのは湯煙だった。これには僕も驚いた。温泉街の明かりに照らされた、温泉の湯けむりが見える。
「すごい。本当に温泉街だね。」
結花は興奮状態になる。
「ああっ、そうだね。」
僕は頷く。
「はあ。なんだか、やる気なくなっちゃったなぁ。いつもと違う場所に来ていると実感しちゃって。かといって、さらに暗い場所に行くと・・・・。」
少し落ち着く結花。確かにここはいつもと違う場所だ。何か期待外れなことが起きたのだろうか。
それなら、結花の言うように、場所を移動して、暗い場所に行く、ということも選択肢なのだが、すぐにその選択肢を外した。
「ハハハッ、暗い場所に行くと、夏の茂木先生の別荘みたいになるから・・・・。」
「そう。そんな感じ。」
夏休み、茂木の別荘で、肝試し大会ということで、一緒に回った結花。その時結花は、肝試しという名目を聞いただけで、緊張してしまっていた。夜の暗いトンネルに入った時もそうだ。
お化けが苦手。という結花。夏が懐かしい。
「でも、お化けが怖いってだけで、別に夜は平気。こういう明るい場所なら。」
結花は少し小躍りしながら笑っている。
「で、ハッシーと一緒に、あの夏が忘れられなくて、こうして、二人で外に出て見たかったんだ。それに・・・・。」
結花は少し遠くを見る。
「昔もこうして、心音パイセンと一緒に、夜の街で、夜遅くまで、仲間とつるんでた。ハッシーと一緒に、あの時と同じような、そんな体験もしてみたくて。」
なるほど。そういう事か。だから、地元とは違う温泉街ということもあり、緊張してしまったということか。
「そうなんだね。僕でよければ。そして、こういう温泉街でよければ、付き合うさ。」
僕はそう言って、結花に親指を立てる。
「ありがとう。優しいね。ハッシー。」
結花はうんうんと笑って、僕の手を握る。
そうして、しばらく歩くと。『遊技場』と書かれた看板を見つける。
「ここなんか一緒に行ってたんじゃない、心音先輩と。まあ、雲雀川市の物よりは、小さくて、古いかもだけど。」
僕は結花に、その、『遊技場』の看板を見せる。
「ゆーぎじょー?」
結花は少し首をかしげる。
「まあ、ゲーセンのこと。」
ゲーセンという言葉に、結花は、ガッツポーズをする。
「ヨッシャ―。楽しもう。こういう所も心音パイセンと一緒に行ってた。」
結花はニコニコ笑う。
この表情からするに、かなり夜遅くまでこういう所で遊んでいたのだろう。
少しばかりではある、遊技場に入って、遊んだ。
とは言ったものの、やはり、ここら辺にあるものは少し古いものが多かった。
しかしそれでも。
「射的じゃん。こういう場所じゃないと無いよね~。」
というので、何度も射的に挑戦する。そして。
ポンッ!!という音を立てて、お菓子の包みが倒れる。
「やり~。」
結花はガッツポーズをする。それを見た僕は思わず拍手をする。
「すごいね、お嬢ちゃん。」
そういって、お店の店員は、景品のお菓子の包みを渡してくれた。
因みにゲットした商品は、これが初めてではなく、五回ほど挑戦し、これが三つ目だった。
最初の二回は練習も兼ねていたので外れ、三回目から、三回連続で景品をゲットしていた。
「ふうっ、良い感じ。」
結花はそう言って、もらったお菓子を持っていく。
続いては、クレーンゲームにも挑戦する。少し古い機材だが、難易度はどこのゲームセンターも同じみたいで。
「ああっ。やっぱり失敗が多いよね。昔は、成功するまでやって、パイセン含めて、全員もれなく金欠だったけど。」
結花はため息をつきながら、数回ほどクレーンゲームを挑戦したが、景品をゲットすることはなかった。
その他も、遊技場で色々なゲームに挑戦したが、ゲットできた景品は射的で当てたお菓子だけだった。
「ああっ、やっぱり下手になったな。」
そんな言葉が結花の口から洩れる。だが、心音とともにヤンキーから足を洗ったのだろう。
景品がゲットできなくても、躍起になって続けようとはしなかった。
「ハハハッ。僕なんか全然だよ。でも・・・。」
「でも?」
結花は僕に聞いてくる。
「途中で辞められたことも、成長じゃない?さっきの会話からするに、昔はきっと、心音先輩と一緒に、景品出るまで、躍起になってたでしょ?」
僕の言葉に結花は頷く。
「そうだね。ありがと。ハッシー。ちょっと、昔を思い出したくて、ハッシーにも見て欲しくて、今日はこうしてみたんだ。」
結花は僕の隣へ行く。
「こんな、アタシだけど、これからもよろしくね。今日は、ありがとね。」
結花はそう言って、僕にココアの缶を差し出して来る。暖かいココアだった。
「ありがとう。結花。」
「へへへっ。」
僕のお礼に結花は照れたように答えていた。
そうして、遊技場の前で、ココアを飲みながら、射的でゲットした、お菓子を食べる僕と結花。
ココアとお菓子はとてもおいしかった。
ということで、昔のヤンキー時代の思い出を満喫した結花を連れてホテルに戻る。
僕と結花しかいない広々としたスイートルームに戻って来た。
「ちょっとトイレ行きたいかな。ああっ、見ないでね。」
部屋に戻って来た結花は僕にそう声をかける。そして、結花の大きな荷物が入った鞄をもってトイレに行く結花。
少し長めに結花はトイレに入り、そうして出てきた。
僕もトイレに入って寝る支度をする。しかし、寝る前に、勿論、イベントがある。そのイベントを持ち掛けてきたのは、結花だった。
「ねえ。ハッシー。アタシ、もう一つやってみたいことがあるんだ。」
結花はうんうんと笑う。
「やってみたいこと・・・・。」
僕は結花に聞く。
「うん。心音パイセンほどではないけど、アタシも覚醒していいかな?元ヤンキーとして・・・。」
「えっと、まあ、何だかわかんないけど、別に、いいと思うけど。二人しかいないわけだし・・・。」
僕はそう頷いた。
「へへへっ、ありがと。じゃあ、浴衣、脱がして。」
結花の浴衣に手をかける僕。
そうして、浴衣を脱がして驚いた。
「えっ?こ、これって。」
浴衣の下には、黒のタイツにボンテージ姿の結花。しかも、色々と露出が激しいものでもあり。
胸の鼓動が治まらない僕がいる。僕がいる。
もしかして、さっきトイレに長く入ってたのって、これに着替えるため・・・・・。
色々と想像してしまうが、結花の次の言葉で一気に現実に引き戻された感覚になる。
「おい。何見てんだよ、この変態!!」
「は、はいっ!!」
迫力のあるドスの効いた声。
「正座!!」
「は、はいっ!!」
結花の言葉に従う僕。
「折角、こうして、アタシがやってやってんだ。感謝の言葉はねぇんかよ。」
「あ、ありがとう。結花。」
僕は迫力のある声に負けてしまう。
「あっ。結花、様だろ。結花様。」
結花は僕に顔を近づけて、鼻を高くし、にやりと笑う。
「あ、ありがとうございます。結花様。」
ここですべてを察した僕。
結花がやってみたかったもう一つのこと。うん。いわゆる、ドSの女王様を演じたかった、ということだろう。
ということで、元ヤンキーでもあり、クラスの一軍女子、結花のドS覚醒モードに手も足も出なかった僕。
どうなってしまったかは言うまでもない・・・・。
しかし、いつもと違う結花の覚醒に、少しドキドキしてしまう、僕がいるのだった。




