15.選挙の準備
そこから数週間が過ぎた。
今日が過ぎれば、ゴールデンウィークに突入し、五連休となる、四月末。
バレエ教室と、生徒会の二つの活動のおかげで、四月がかなり長く感じた。
加奈子先輩のバレエの方は、予選で披露する課題曲二曲が完全に仕上がる形で持っていくことができた。
そう、加奈子先輩のバレエのコンクール準備もいよいよ大詰め。
明後日の、五連休の初日と二日目に予選が開催される。
先輩の出演日である、高校生部門は二日目の午前だ。
加奈子先輩も生徒会の立候補を含め、かなり忙しくしているが、同時に充実している雰囲気が出ている。
僕だって、そうだ。
四月がかなり長く感じる、ということは四月がそれだけ充実していたということだ。
新しい高校に入って、感謝しかない。
そして、生徒会の方は、連休明けに始まる会長選挙に向けて、大忙しだった。
この四月は生徒会メンバーで、立候補に関する資料を作成したり、準備したりしていた。
「あらあら、資料作成上手ね。」
瀬戸会長はニコニコしながら、僕のPCの手元と画面を見る。
「まあ、PCがあれば。手書きだと字が下手なので。」
そうして、僕が作ったPCでプリントアウトした資料を基に、絵や、イラストなど丁寧に縁どってくれる女性の先輩たち。
やはりこれには頭が上がらない。
「むしろ、その丁寧さを学びたいです。」
僕は言うと。
「そうね。でも、判りやすく土台をつくる能力も、必要よ。」
瀬戸会長はニコニコ笑っていた。
そうして、生徒会活動も、今日、連休の前日、ゴールデンウィーク前最後の生徒会活動の日を迎えた。
僕は瀬戸会長と二人で作業をしている。
今日は会長選挙に関する資料の最終確認と諸々の準備だ。
届け出に使う資料は問題ないか。立候補の想定人数分、届け出の用紙は存在するか、などの確認をしている。
数の確認ももちろんだが、必要事項の漏れも確認する。
名前、生徒会長になったらやりたいことなど。いろいろな項目が用意されている。
「よし。こんな所かな。後は、選挙活動が開始されてから業務を始めましょう。」
瀬戸会長はそう言って、今日の作業を終わらす。
「本当にありがとう。橋本君。」
瀬戸会長は笑いながら頷く。
そして、確認作業を終え、準備作業に移る。
引き続き、瀬戸会長と、二人で作業をしているのだが、これが大変だった。
「よいしょ。よいしょ。」
瀬戸会長は少し苦しそうな表情になる。
そう、立候補に必要な、掲示板用のボードと衝立を運ぶ。
これがかなり重く。校内の数か所に設置しなければならない。
さらに、ボードを、風で倒れないように衝立で固定する。
このボードと衝立に、生徒会長の立候補者のポスターを掲示するのだった。
既に、この運搬作業だけで、校内を何往復もしている、僕と瀬戸会長。
僕も、瀬戸会長も、かなり大変だった。
「大丈夫?重くない?」
瀬戸会長は僕の方を心配しているが。
「いえ、大丈夫です。むしろ、会長の方が。」
「ふふふっ、私は大丈夫よ。確かに重いけれど。心は元気。そして、一応、運動部よ。」
瀬戸会長は僕が声をかけるとニコニコ笑って、さらに頑張るのだった。
そうして、掲示板用のボードと衝立を一通り設置した。
設置した後、生徒会長の立候補募集のポスターを張り付けて、作業完了となる。
ポスターは、昨日までに校内に張り付けたものが数枚あるのだが、今日も改めて、先ほどまで運んで、設置した掲示板に張り付けたのだった。
そうして、準備作業は終了。
後は、連休明け、候補者が出そろってからの作業だった。
「ふう。やっと終わったわね。橋本君、本当にお疲れ様。生徒会室でゆっくり休もっか。」
瀬戸会長はハアハアといいながら、生徒会室に戻っていく。
やはり、運動部に在籍している女子生徒でも、この運搬作業を実施するのは大変だったようだ。
本当に共学化される前は誰がやっていたのだろうと思う。
僕は男子ではあるが、運動部に所属していたことがないため、おそらく、瀬戸会長と同等かそれ以上に、ハアハアと息遣いが出そうだった。
生徒会室に戻って、僕たちは椅子に座る。
葉月先輩が待機していたが、すでに帰り支度をしている。
「会長、輝君。お疲れ様。大変だったでしょう。」
葉月先輩は労ってくれる。
「お疲れ様、葉月ちゃん。そうね。大変だったけど、誰かがやらないとだもの。」
瀬戸会長は、そういいながら、葉月先輩の言葉に応える。
「本当、女性の方でしたら、もっと時間がかかりますよね。」
僕は瀬戸会長や葉月先輩に同情するように言った。
「本当に、橋本君が入学してくれて助かったわ。」
瀬戸会長が頷く。
「葉月ちゃんもありがとね。戸締りしておくから、先に帰って大丈夫よ。加奈子ちゃんは、コンクールに備えて、仕事が終わったら、先に帰ったかな?」
瀬戸会長が葉月先輩に聞く。
「はい。そうですね。私も仕事が終わったので、今、帰るところです。加奈子は会長の言う通り、コンクールに備えて、仕事が終わったら、すぐに先に帰りました。」
葉月先輩の言葉に会長は頷く。
加奈子先輩が先に帰ったということで、僕も、バレエのピアノの手伝いがあるので、急いで席を立とうとするが。
「ああっ、輝君。加奈子からの伝言で。」
葉月先輩は、メモ用紙を取り出す。
「『輝、衝立とボード運びお疲れ様。輝は少し休んでから、バレエスタジオに来てください。少し遅くなっても構いませんし、むしろその方が今日はありがたいです。会長と、少し休憩してから来てください。』とのことです。それじゃ、お疲れ様でした!!」
葉月先輩はそう言って、メッセージを読み上げたメモを僕に渡して、笑顔で生徒会室を出て行った。
やはり明日から連休だからだろうか。飛び切りの笑顔で、生徒会室を出て行く葉月先輩。
「お疲れ様。」
「お疲れ様でした!!」
会長と僕は葉月に挨拶をする。
ふうっ。と、僕は改めて、深呼吸をして、休憩を取る。
その瞬間、僕の頬に、冷たい感触があって。
「はい。橋本君。四月の活動。お疲れ様。高校に慣れない中で、ここまで手伝ってくれて本当にありがとう。」
そういいながら、瀬戸会長は、ペットボトルのリンゴジュースを渡してくれた。
さっきの冷たい感触はこれだった。
「すみません。ありがとうございます。」
僕はリンゴジュースを受け取り、ペットボトルを開ける。
「本当に、橋本君に入ってもらってよかった。」
瀬戸会長は、嬉しそうだが、どこか寂しい目をしている。
その目の理由をすぐに察する。
「あの、会長。生徒会の選挙が終わったら‥‥。」
僕は申し訳なさそうに、この言葉を言い終わった後すぐに下を向いていた。
「そうね。新しい会長にバトンタッチで、私は引退‥‥。」
瀬戸会長は少し下を向いたが。
「あ、あの‥‥。」
僕は瀬戸会長に声をかけようとしたが。
「なーんてね。別に新しい会長になってもここに私は遊びに行くわ。というより、元生徒会長として、生徒会役員をサポートして、秋の文化祭も、体育祭も、その他いろんな行事も、お手伝いしちゃうよ。なんたって、生徒会役員は何年生でもなれるのだから~。」
瀬戸会長は、いつもの、テヘペロ~。という表情を僕に見せる。
「はい。よかったです。僕も、そうしてくれるとありがたいです。あ、でも受験とかで忙しくなるのであれば‥‥。」
僕は慌てて付け加える。
「ふふふ。大丈夫よ。橋本君にこう言ってもらえて、すごくうれしい。毎日行こうかな。」
瀬戸会長はニヤニヤと笑う。
僕も笑い返す。
本当に笑顔が絶えない人だ。そして、お茶目でもあるが、三年生だからか、大人の色気もある。素敵な人だ。
そう思いながら、僕は瀬戸会長からもらったリンゴジュースを口に入れる。喉がかなり渇いていた。
「美味しいです。これ。ありがとうございます。」
会長が差し出してくれたリンゴジュースを飲む。
「ふふふ。これは自販機で買ったものよ。頑張ってくれた、ささやかな奢り。気に入ってくれてよかった。」
確かに、高校の玄関に設置されている自販機の物だが、それはそれで、一仕事した後の味は特別だった。
僕は笑いながら、会長と話をする。その後も他愛のない会話で盛り上がっていった。
「さて、そろそろ時間かな?私は、バレーボール部がまだやっているなら覗いていくけど、橋本君は加奈子ちゃんを待たせるのも申し訳ないわね。」
瀬戸会長は残念そうに言った。
「そうですね。そろそろ、いくら何でも行かないと。」
そういって、僕たちは会話を切り上げて、生徒会室を出て行く。
「それじゃあ、橋本君、お疲れ様。連休はゆっくり休んでね。といっても、加奈子ちゃんのコンクール迄は気が抜けないと思うけど。私も、葉月ちゃんも見に行くからね。」
「はい。ありがとうございます。」
僕は会長に頭を下げる。
会長もとびきりの笑顔で笑っている。
「それじゃあ、またね。」
「はい。お疲れさまでした!!」
会長は手を振って見送ってくれる。
「ああ。楽しかったな、頑張ろう!!橋本君‥‥。輝君からまた元気をもらっちゃった。」
瀬戸会長はそう言いながら、バレーボール部へと向かって行った。
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