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147.早織の決意

 元旦の朝、太陽は少し昇ってしまったが、ギリギリセーフで初日の出を眺める僕たちが居た。


 おそらく、このホテルに来て、いちばん遅い時間に起床する僕たち。

 昨日までは朝食の準備を手伝っていたため、当然だが、これよりも早い時間帯に起きていた。


 今日は義治から、朝食の準備は手伝わなくていいという連絡をもらっていたので、この時間に起きたのだった。


 僕たちは身支度を済ませて、朝食をとるためダイニングルームへ向かう。


 ダイニングルームの前で、義信がニコニコと出迎えてくれた。

「皆さん、あけましておめでとうございます。どうでしたか、花火は。」

 義信がそう聞いてくるので。


「あけましておめでとうございます。花火、最高でした。」

 僕はそう答えた。


「うん。最高だった。いろいろありがとね。磯部君。」

 葉月がうんうんと頷き、ニコニコ笑っている。


「楽しんで頂けて良かったっす。皆さん今年もよろしくお願いします。」

 義信が頭を下げる。


「「「よろしくお願いします。」」」

 僕たちは義信に声を揃えて挨拶をして、深々と頭を下げたのだった。


 義信は、僕たちを席に案内する。

 そして、案内された席の隣に義信が座った。


「すみません、皆さん、今日の朝食は私もご一緒します。」

 義信がそう言って頷いた。

 僕たちもそれに頷いた。そして。


 義信の祖父母、義治と靖子がやって来た。


「皆さん、あけましておめでとうございます。この数日間、厨房で本当に頑張っていましたね。そして、昨年は義信が大変お世話になりました。」

 靖子は深々と頭を下げた。そして。


「本当に、この数日間、短い間だったけどお疲れ様。そして、今年も義信のことをよろしく頼みます。ということで、これまでの感謝を込めて、僕から、皆に正月限定のおせち料理をプレゼントします。」

 義治が挨拶して、僕たちのもとに、立派な重箱が置かれ、美味しそうなおせち料理がところ狭しと並べられていた。


 

「すごい。ありがとうございます。」

 僕は義治に頭を下げる。それだけ、義治のおせち料理が豪華だった。


「感激です。」

「す、すごい。」

「ありがとうございます。」

 他のメンバーも声を揃えて、豪華なお節料理に驚いている。


 そして、心音と結花は、目を丸くしながら、スマホを取り出し、写真を撮っていく。


「ありがとうございます。」

「「「「ありがとうございます!!」」」

 僕たちは声を揃えて、義治にお礼を言った。


 そして、乾杯を済ませて、おせち料理を食べた。

 一つ一つの料理の味を噛みしめるかのようにおせち料理を食べた。


 蓮根と里芋の煮物、数の子、大海老の焼き物、だし巻き卵、かまぼこにお雑煮、さらには漬物。その他にも、沢山のおせち料理が並べられ、今までの正月の中で、一番美味しいものを食べていた。


「すごく美味しいわ。本当に感動。」

 史奈がニコニコと笑っている。


「美味しい。幸せ。」

 加奈子は僕と同じように一つ一つの味を噛みしめていた。


 心音と結花は写真を撮っては食べ、写真を撮っては食べを繰り返している。


「すごい。」

 早織は、何かを学ぶかのように、一つ一つの味を確かめ、早織の脳内に記憶しているようだ。本当に、流石だ。


「にへへっ、風歌、幸せ。」

 風歌はほっぺたが落ちそうな表情をして、笑っていた。


「美味しいね。頑張ってよかったね。」

「うん。ひかるんも、さおりんも最高だったよ。」

 葉月とマユは僕たちを見て、ニコニコと笑っていた。


 そうして、豪華なおせち料理を食べ終え、改めて、義治と靖子にお礼を言った。


 

 そうして、僕たちは部屋に戻り、洗面を済ませ、荷造りを始める。

 長かった、ホテルニューISOBEの滞在期間も、今日でチェックアウトだ。


「忘れ物はない?」

 葉月に聞かれ、僕は頷く。

 他のメンバーも忘れ物がないか確かめていた。


 そうして、大きな荷物を持って、スイートルームを出た。


 フロントに鍵を返却し、改めて、義信と義治、そして、靖子にお礼を言う。


「本当にありがとうございました。楽しかったです。」

「「「「ありがとうございました。」」」」

 僕たちは声を揃えて、義治と靖子、そして、義信に頭を下げた。


 

「うん。気を付けて帰ってね。皆のご家族も、きっと帰りを待っているから、新年のあいさつをちゃんとしてね。」

 義治がニコニコ笑っていた。

「本当に、お気をつけてお帰りください。皆さんは義信のお友達ですから、またお越しいただけることを楽しみにしています。」

 靖子が深々と頭を下げた。


 僕たちは大きく頷く。そして、ホテルを出ようとするが・・・・。


 早織はその場から一歩も動かなかった。


「早織・・・。」

 僕は早織に声をかける。


「あのっ、お願いがあります。」

 早織は深呼吸して、大きな声で言った。


 早織の言葉に僕たちは反応する。それは義治と靖子も同じだった。


「あのっ、私、ここに残りたいです。一月も、残りの冬休みの期間も、ここで料理を学ばせて頂けませんか。よろしくお願いします。」

 早織は義治と靖子に深々と頭を下げた。


 早織の決意に僕たちは驚いた。

 だが、その驚きも一瞬だった。早織だったら、そう言うだろうなと思う僕もいた。


 大丈夫だろうか。早織のことは勿論だが、何といってもこのホテルの都合はどうだろうか。だが、そんな心配も杞憂に終わる。


 義治が早織の前に歩み寄り、ポンと早織の肩を叩く。

「流石は道三さんの孫だ。早織ちゃんならそう言うと思っていたよ。」

 義治が大きく頷いた。


「勿論だよ。従業員用の部屋がいくつか空いているから、そこに案内するよ。そこを使うと良い。幸いにも義信も残りの冬休み期間、ここに残って、バイトをしているからね。だけど・・・・。」

 義治が深呼吸する。


「今までは、お客様用の部屋に泊まっていたこともあって、半分、早織ちゃんのことをお客様と思って、接したけど、早織ちゃんがそう決意したからには、僕も君のことを従業員の一人として、ここからは接していくよ。どういうことかわかるよね。」

 義治は声を低くし、真剣な表情を早織に向ける。

 そう、簡単に言えば、これからは厳しく行くよ。ということだ。


「はい。覚悟は出来てます。よろしくお願いします。」

 早織は義治に深々と頭を下げた。


「よし。それじゃあ決まりだ。頑張ろう。そして、ビシバシ鍛えていくよ。」

 義治は早織の決意に頷いた。


 早織は僕たちの方を向いた。

「ごめん、皆。そういう事だから、先に帰って、雲雀川市に戻ってて。絶対、成長して帰ってくるから。」

 早織は大きな声で、僕たちに言う。


 この言葉が出てくるのも心のどこかで想定していた僕。だから、自然と頷くし、頼もしく見える。

 だけど、念を押すように聞く。


「本当に大丈夫なの?」

 僕は早織に聞く。


「うん。大丈夫、磯部君も居るから。」

 早織は大きく頷く。


「ふふふっ、すごいわね。早織ちゃん。輝君。大丈夫よ。早織ちゃんなら、頑張ってね。」

 史奈がニコニコ笑う。


「そういう事なら仕方ないか。さおりん、ファイト!!」

 マユが僕の隣に来て、早織を残してホテルを出るように促す。


「わかった。頑張れ。早織。」

 僕はそう言って、大きく頷いた。


「社長、そして、お嬢。素晴らしい決断をされましたな。大丈夫っすよ。社長。お嬢は私が責任もってお預かりします!!」

 義信が拳で胸を叩き、うんうんと頷く。


「よろしく。本当にありがとう。」

 僕は義信にお礼を言った。


 そうして、僕たちは早織の決意を尊重して、改めて、義治と靖子にお礼を言って、ホテルを出た。


 バス停まで、早織と義信が見送りに同行してくれた。


 そうして、帰りのバスがやって来た。

 バスに乗り込む僕たち。


 だが、僕は立ち止まる。そして、早織を見る。


「もう一回聞くけど、本当に大丈夫?」

 少し心配になる僕。


「全然平気。私も頑張りたいと思ったから。本当にありがとう。輝君。」

 早織の目には少し涙が光る。それを黙って、見届ける僕。


「ほら。乗って。輝君の農家で、伯父さんと伯母さんが待ってるよ。」

 早織はニコニコ笑って、バスに促す。


「うん。わかった。早織。本当にすごいよ。頑張ってね。」

 僕はそれしか言えなかった。


 早織は笑顔で大きく頷く。


 バスに乗り込む僕。そして、バスの扉が閉まり、バスは走り出す。


 早織と義信は大きく手を振っていた。

 僕たちも大きく手を振った。


 

 山道を下り、伊那市駅へと向かう。バス。


「大丈夫かな・・・・。」

 僕はつぶやく。


「大丈夫よ。早織ちゃんなら。」

 史奈がうんうんと笑っていた。


「う、うん。早織ちゃんの目、勇気に満ちていた。きっと、大丈夫。」

 風歌がニコニコと笑う。


「そうだよ。その表情は、輝君と風歌がピアノやってるとき、加奈子がバレエやってる時と同じだったよ。」

 葉月は僕の肩に手を添える。


「輝。大丈夫。私たちは、私たちに出来ることで、早織を支えて行こう。」

 加奈子はうんうんと頷き、僕の隣に寄って来た。


「そうだね。」


 他のメンバーも大きく頷く。


 そうして、バスは、伊那市駅に到着する。


 もう一度、温泉街がある山の方を振り返る僕。


「大丈夫。早織ならきっとやれる。きっと、大丈夫だから・・・・。」

 僕はそう呟く。そして。


 ー頑張れ。早織。ー

 僕は大きく頷いて、駅へ向かい、改札を抜ける。


 元旦の新春の陽光の中、帰りの電車がやって来た。


 僕は大きく深呼吸して、仲間とともに、帰りの電車に乗り込んだのだった。

第6章:冬休み編はここまでです。

第6章もご覧いただき、ありがとうございました。


少しでも続きが気になる、面白いと思った方は、下の☆マークから、高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。


この後は、番外編として、スイートルームでの各々の新婚旅行体験の後、第7章:春のキングオブパスタ編で、黒山と直接対決、そして、第2部のクライマックスとなります。


楽しみにお待ちいただければ幸いです。

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