146.スイートルームの夜、初夢編
ホテルで上質な年越しそばを食べ終える僕たち。
「皆さん、本当にありがとうございました。」
義信がニコニコと笑う。
「いや、お礼を言うのはこっちの方だよ。本当にありがとう。」
僕は義信に頭を下げる。
他のメンバーも声を揃えて、義信にお礼を言う。
「いえいえ、社長にお嬢、当然のことをしたまでですよ。そしてですが、なんで、大晦日から元旦の夜まで、このホテルに滞在していただくように手配したか、わかりますか?」
義信の質問に僕たちは首をかしげる。
確かにそうだ。年末年始の忙しい中、わざわざ、この日まで滞在する必要はなさそうに見える。
特に年越しは、どのホテルも忙しそうだ。
「それはですね。皆さんに、牧場のカウントダウンイベントを見せたかったからっすよ。といっても、実際に牧場に行くのではなくて。牧場から花火が上がります。本当に毎年、大量に花火が上がるんで、是非見て欲しかったからです。」
義信はニコニコと笑いながら説明をする。そして。
「で、その花火なんですが、お泊り頂いている、スイートルームから見れますので、是非、皆さんで見て欲しいです。」
義信の言葉に、僕たちはたちまち興奮する。
「すごい!!」
僕は思わず両手を叩いて拍手をして喜ぶ。
「うわぁ!!」
早織も目の色をキラキラさせながら喜んでいる。
「嬉しいわ。素敵ね。」
史奈がうっとりしながら笑っている。
「うんうん。花火最高。」
マユもニコニコ笑いながら、はしゃいでいる。
「絶対写真の準備をしましょうね。パイセン。」
結花は親指を立てて、心音に合図をする。心音も大きく頷く。
「すごい、感動しそう。」
加奈子は頬を赤くし、目の色をキラキラして、笑っていた。
「にへへっ、皆で花火、嬉しい。」
風歌も笑っている。
「最高じゃん、磯部君、ありがとう。」
葉月は義信にお礼を言った。
「はい。ということで、皆さん、スイートルームで、花火、是非楽しんでください。よいお年を。」
義信はニコニコ笑って、アルバイトの業務へ戻って行った。
義信の言葉に僕たちは笑顔で、良いお年をの挨拶を交わし、スイートルームに戻る。
「さあ。今日は全員でこの部屋に泊まりましょう。そして、花火も楽しみましょう。」
史奈の言葉に、皆は頷く。
「「「やったー。」」」
全員で、一緒に叫ぶ僕たち。本当に、この年、皆と出会えてよかったと感じる。
ということで、トランプで、ゲームをやりつつ、テレビを見て花火大会まで過ごすことになった。
見たい番組となってくると、色々あるのだが、女性陣と、文科系男子の僕ということで、見たい番組は大きく二つに分かれた。
某バラエティ番組と、某歌番組だった。
ということで、某バラエティ番組と、某歌番組を三十分交代で交互に見ることになった。
某バラエティ番組は、笑いをこらえている出演タレントさん達には、申し訳なかったが、沢山笑わせてもらった。
そして、三十分経過したところで、某歌番組に切り替えたのだが、そこからはずっと某歌番組を自然と見ることになった。
なぜならば、ここには、ピアニストで色々知っている僕を含め、コーラス部の心音と風歌、さらには最新の曲を知っていそうな結花、バレエの出身ではあるが、ダンスを知っていて、即興で色々踊れそうな加奈子、とそうそうたる面々がここに居た。
そう。この某歌番組は、基本的には今年活躍した歌手が今年流行った歌を歌う。
出演歌手が歌っている歌は、誰か一人は必ず知っているという現象が起き、その歌手と一緒に歌うのだった。
さながら、小さなカラオケ大会となった。
歌手と一緒に歌うので、歌に自信がない人も自然と声が出ていた。
加奈子は即興でダンスを交えながら、僕と心音と風歌は全力で歌唱力を披露する。
「すごい。すごい。皆、歌手より上手いんじゃない。」
葉月はニコニコ笑いながら、それを見て手拍子をしていた。
「本当ね。今度皆でカラオケも一緒に行きましょうね。」
史奈がニコニコ笑いながら呼びかける。
「「「はいっ。」」」
と声をそろえる僕たち。
そうして、アニソンから演歌まで、僕たちは出演歌手の歌に合わせて、一緒に歌っていた。
その中で一番意外だったのは、早織だった。
気合を入れて、演歌を歌っていく。
「すごいね。演歌美味いじゃん。」
僕は早織に言うと。
「まあ。お祖父ちゃんが好きだったからね。いろいろ教えてもらった。」
と早織。
「「「「ああっ。」」」」
と声を揃えて頷く僕たち。
早織の祖父母、道三と真紀子の顔が思い浮かんだ。
豪快な人物の道三。きっと、彼も今頃、この歌番組を見て、演歌を聞いているのだろう。
早織は、道三にお土産をたくさん買っていたようだ。
今回のホテルも追加料金はほとんど、道三が出してくれた、僕たちもお礼を言いに行こうと思った。
そうして、その歌番組の大トリの出演者の出番となった。
大トリを飾るのは、人気の男性アイドルグループ。メンバー全員、音楽活動は勿論のこと、司会やドラマと引っ張りだこだ。
そして、そのグループが歌う曲もほとんど知っている。というより、ここに居るメンバー全員知っている。
ということで、最後は皆で、ソファーに座り、肩を組んで、一緒に歌った。声を揃えて、ニコニコと笑顔で一緒に歌った。
そして、いよいよ、この歌番組が終了し、新年へのカウントダウンが始まろうとしている。
胸の高鳴りを押さえられない。
僕たちは、ドキドキしながら、部屋の窓際までやって来た。
そして、手元の時計では、二十三時五十九分を指している。
テレビの音、そして、時計の秒針をしっかり見て。
「せーのっ。」
「「「十、九、八、七、六、五、四、三、ニ、一・・・・・。」」」
「「「ハッピーニューイヤーッ!!」」」
声を揃えて叫んだ。そして。
ピュー。ドーン!!
ピュー。ドーン!!
夜空に大輪の花がいくつもいくつも咲き誇る。
牧場からの花火が上がった。
赤、青、黄色、緑、と色とりどりの花火が冬の夜空を彩る。
「輝君。」
葉月の言葉に僕は振り向く。
「今年もよろしくね。」
葉月はニコニコ笑って頷く。
「うん。よろしく。皆も、よろしく。」
僕はニコニコ笑ってみんなの方を向く。
「ええ。楽しい一年にしましょう。」
史奈がうんうんと頷く。
「輝、今年もバレエとかいろいろ手伝ってもらっちゃうけど、よろしくね。楽しい、思い出、たくさん作ろう。」
加奈子がニコニコと笑っている。
「ハッシー、楽しんで行こうぜ!!」
結花はイェーイと騒ぎながら僕の元へ。それに合わせて、結花とハイタッチを交わす。
「よろしく、輝君。コーラス部も楽しんで行こう!!」
心音はうんうんと頷き、笑っていた。
「うん、楽しい一年、楽しみ。」
風歌は、にへへっと笑って、頷いていた。
「ひかるん。今年は絶対、ひかるんにいいところを見せるぞ。」
マユは気合を入れていた。
そして。
「輝君。」
早織が僕の元へ駆け寄る。
「昨年は本当にありがとう、今年、まだまだ、輝君と皆に迷惑をかけるかもだけど、よろしくお願いします。」
早織は深々と頭を下げた。
全員の挨拶が終わる。そして。
「ねえ。輝。どうして、この日は皆でこの部屋に泊まろうとしたと思う?」
加奈子が僕に聞いてくる。
「そうだね。もう、一月一日なんだよね。だからかな。・・・・。」
僕はそう答える。僕はもう答えは分っている。この後、何がしたいかもわかっている。
皆は僕の言う事を待っている。僕は少し深呼吸する。
「皆で、一緒に泊まって、同じ初夢を見て見たい。」
僕は恥ずかしそうにそう告げた。
皆は大きく頷く。
「一緒に・・・。」
僕は皆に聞こえるようにつぶやき、手招きをする。
大きな花火を見ながら、順番に唇を重ねる。
そして、一人一人と手を繋ぎ、全ての花火が打ち上げ終わるのを見届けた。
それと同時に部屋の電気を少し消して、常夜灯のみにする。
皆揃って、大きく頷き、呼吸を合わせる。
そうして、僕は順番に皆の着ていた浴衣を脱がし始めた。
それからどうなったかは言うまでもない。
同じ初夢を見られただろうか。皆で、これからも共に歩んでいく、そんな初夢を・・・・。
僕は見ることができた、皆見ることができた、そう信じてやまない僕が居た。




