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142.温泉街散策


 ホテルの部屋に戻り、外出の準備をする僕たち。

 

 その外出の準備を終えると、すぐに義信が迎えに来た。インターフォンが鳴り、扉をノックする義信。

 

 「社長、皆さん、準備できましたか?あっ、そうそう、温水プール用の水着も用意してくださいよ。」

 義信がそういうので、僕たちは、部屋干ししていた、水着を鞄の中に入れる。

 

 そうして、部屋の扉を開け、義信の元へ。

 

 「皆さんお揃いのようで。何よりっす。今日はここの温泉街を案内しますね。」

 義信の言葉に、頷く僕たち。

 

 「「「「よろしくお願いします!!!」」」」

 と、声をそろえる。

 

 ここに来て義信が頼もしく見える。そして、勿論、早織もメキメキと成長して行っている。

 本当にすごいと思う。

 

 「さてと、持ち物の確認として、先言った水着に加えて、初日に婆ちゃんから説明があった、お土産半額券と、公衆浴場の無料券。持ちましたか?」

 義信の言葉に、僕は頷く。

 温泉街散策ということで、いくつか無料券があったはずだ。それを鞄にしまっている僕。

 

 「ああっ。」

 風歌は目の色を変え、すぐに部屋に取りに行く。

 「ありがとう。忘れてたわ。」

 史奈も風歌と一緒に取りに行った。

 

 他のメンバーも改めて自分の鞄の中を確認し、公衆浴場の無料券と、お土産半額券が入っていることを確認する。

 

 そうして、確認して、取りに行くメンバーもいたので、少し待つ。

 

 その間に僕も念のため、最終確認をする。

 うん、確かに、公衆浴場の無料券と、お土産半額券が、鞄に入っていた。といっても、鞄だと、紛失してしまうかもしれないので、財布に移動させ、その財布をポケットにしまったのだった。

 

 そうして、鞄や財布に入れ忘れたメンバーが戻ってきて、全員揃うのを待って、僕たちは部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。

 

 エレベーターの中で、改めて、この伊那市温泉の説明をする義信。

 

 「言い忘れてましたが、公衆浴場の無料券と、お土産半額券は、この温泉街のホテルに宿泊されている方のみに配られるものです。皆さんのお持ちのチケットは、基本的にどのお店で何回でも使えるフリーパスになってますので、失くさないでくださいよ。」

 義信が大きく頷き、持って居るチケットについて、説明する。

 

 「で、この温泉は山の中腹、山の斜面を切り拓いて建てられています。山から見える、景色を堪能してください。」

 義信はニコニコと笑い、エレベーターに備え付けられている、地図で、温泉街全体を説明するのだった。

 

 地図を見ているとどの場所も楽しそうで、今日一日思う存分楽しめそうな、そんな予感がした。

 

 エレベータを降り、ホテルの玄関を出て、いざ、温泉街へ。

 

 石段を下りて、温泉街へ向かうのだが、本当に色々なお店が目立つ。

 そして、遥か向こうを見渡せば、牧場や、町が広がっていた。

 

 「いつ見ても奇麗。」

 加奈子はその景色に見とれている。

 

 「良いよな。ここの場所は。」

 「うん。とても素敵。」

 僕は加奈子の反応を見て、そう言うと、加奈子は僕に向かって、うっとりした感じで、話しかけてくる。

 

 

 「さあ、色々食べまくっちゃうわよ~。」

 元気よく声を出すのは史奈。

 史奈の掛け声で、僕たちはどことなく、気合が入る。

 

 そうして、少し広そうな、お土産屋さんを見つけたので、そこに入る。

 

 「いらっしゃい。温泉饅頭はいかがかな?よかったら、試食して。」

 お店の店員が声をかけて、蒸し器から、温泉饅頭を差し出してくれる。

 

 「ありがとうございます。」

 僕たちは店員の声に誘われ、温泉饅頭を受け取るのだが。

 

 「熱いっ。」

 

 店員は紙に包んで渡してくれたが、それでも、紙を通して、温泉饅頭の熱さが伝わってくる。

 

 「ああっ、熱いから気を付けて。温泉の蒸気でしっかり蒸してるからね。」

 店員は笑っていた。

 

 「はいっ。ありがとうございます。」

 僕は、フーフーと息を吹きかけ、温泉饅頭を冷ます。

 

 「ふふふっ、輝君びっくりしちゃってる。」

 史奈がニコニコ笑っている。

 

 「これもいい感じ。」

 結花が僕の写真をスマホに収める。

 

 「ああ。ごめんね。こういう所の温泉饅頭は蒸したてで熱いのがほとんどだから。」

 葉月はニコニコ笑っている。

 

 「申し訳なかったっす。社長。社長は、ここが地元じゃなかったっすね。」

 義信がすまなそうに謝る。

 

 どうやら地元出身の彼女たちにとっては、一度、どこかの温泉にでも行ったことがあるのだろうか。

 そして、義信は勿論、ここの温泉街が地元なのだから、蒸したてで、出来立ての温泉饅頭のことを当然知っていた。

 

 「ここら辺の温泉饅頭の、試食とか、すぐに食べられる用に販売されているものは、蒸したての出来立てがほとんどなんすよ。だから結構、熱いまま渡される場合がほとんどなんです。」

 義信はニコニコ笑って、僕に言う。

 

 「だから、こんな感じで、包み紙のギリギリをもって、慣れて来て、饅頭の底の部分を触って行きます。」

 義信はそう言って、僕と同じようにまんじゅうを受け取るが、包み紙のギリギリをもって、少し冷まして、ようやく、掌に饅頭の底の部分を乗せていったのだった。

 

 なるほど、と見つめる僕。

 

 「皆もひょっとして知ってた?」

 僕は皆を見回す。その言葉に皆は頷く。

 

 「うん。うっすら記憶にある。小さいころ、行って、渡されて、そうなって、泣いちゃった。」

 いかにも風歌らしい。

 「あっ、私も。実はそうなんだ。」

 加奈子も風歌に頷く。

 

 「アタシは、行ったことないけど、友達からね。」

 結花と心音はうんうんと頷いている。

 

 そして。

 「まあ、まあ、大丈夫っしょ。」

 僕と同じで、ここの地域が地元ではないマユは少し余裕そう。

 

 義信と同じような感じで、最初は包み紙のギリギリを持っていたが、出来立ての饅頭の温度に慣れるタイミングを間違ったようで。

 

 「熱いっ。想像以上だね。油断してた。」

 と、僕と同じようにフーフーと息を吹きながら、温泉饅頭を冷ましていた。

 

 それをニコニコと笑いながら見る僕たち。

 

 そんな会話をしていたら、温泉饅頭の温度はすぐに適温に冷め、饅頭を試食したのだった。

 その饅頭は、ふっくらしていて、とても甘く、中に入っている餡子の味も絶品だった。

 

 「すごく美味しい。」

 僕は嬉しそうに言う。さっきの火傷しそうな熱さを忘れさせるくらいだった。

 

 「本当。流石は、温泉の定番スイーツね。」

 史奈がニコニコ笑う。

 「輝君、買ってみたら?」

 葉月がニコニコ笑うので。

 

 「そうだね。お土産用と、すぐ食べるように、一つ、買ってみようかな。」

 僕は早速お土産全品半額券を店員に渡し、伯父伯母のお土産として、放送されているものを一つと、すぐ食べる用として、串刺しにしてくれたものを一つ買った。

 ホテルから渡された、チケットの効果で、ものすごく安く購入できた。

 

 「まあ、スイートルームの宿泊者なんで、フリーパスっすよ。他は、ホテルとか、部屋のランクに応じで、変わってしまいますが、皆さんは特別にフリーパスでご用意いたしました。」

 義信がニコニコ笑いながら説明した。この言葉にも感謝である。本当に、文化祭の景品を用意してくれた義信、そして、追加で費用を払ってくれた、道三や伯父伯母にも感謝だった。

 

 ということなので、早織も道三と、母と祖母のために、お土産を購入した。

 食べ物は日持ちを確認して購入し、あとは、この温泉の記念の置物を購入したようだった。

 

 他の皆も、いくつかのお店を回り、いろいろ購入し、温泉饅頭やお茶菓子を食べ歩きながら、温泉街を回った。

 

 「そうしましたら、次はいくつか公衆浴場を巡りましょうかね。」

 義信のこの言葉に、僕たちは頷き、公衆浴場を巡る。

 

 そうして、義信に案内されたのは古い建物。

 

 「この温泉街の中で一番古い浴場です。檜を変えながら、ずっと運営してきました。」

 義信の言葉に僕たちは頷く。

 

 「歴史があっていいわね。」

 史奈がうんうんと笑っている。

 「ホントだ、うちらの地元じゃ見ないよネ。ひかるん。」

 マユが僕に同乗するよう求めるが、当然、僕も頷く。

 

 確かに、前住んでいた、反町市ではこういうのはまず見ない。古い建物は、安久尾建設がバンバン取り壊しては、立て直してきたから・・・・。

 

 そして、伯父の家の農家の母屋もここまで古くはない。

 

 そういう意味では、久しぶりに、古い建物を見るのだが、こういう古い建物も趣があっていいと思った。

 

 そうして、公衆浴場の建物に入り、男湯と女湯に分かれて入る。

 

 僕と義信は当然、男湯へ。

 義信の案内のもと、浴場へ。

 

 古い檜風呂と大理石が僕たちを迎えてくれる。一応、こじんまりした、サウナも併設されている。

 

 「御湯加減は、いかがっすか?社長。」

 義信はそう言うので。

 

 「最高だよ。」

 と答える。

 

 「そりゃあ良かったっす。」

 義信がニコニコと笑った。

 

 古い浴場といっても、全国から観光客がやって来る、天然の温泉だ。温泉の湯加減は本当に最高だった。

 

 このほかにも、義信は様々な公衆浴場を案内し、岩風呂やジャグジー、さらにはサウナまで案内してくれた。

 

 そして、お昼時。

 温泉街を散策しつつ、色々食べ歩いていた僕たちだったので、少量の昼食で十分かなと感じていた。というわけで、昼食も、古い建物の中にある甘味処に入った。

 

 「ここのおすすめメニューはくずきりっすね。きな粉と黒蜜をかけると美味いっすよ。」

 という義信の言葉だったので、全員、くずきりと各々飲み物を注文した。

 

 運ばれて来たくずきりは本当に美味しく、つるっと、そして、もちもちした食感がたまらなかった。

 黒蜜ときな粉の甘さも絶品だった。

 

 「美味しいわね。」

 史奈がうんうんと、頷く。

 「私も真似したい。」

 葉月はニコニコと笑いながら味わっている。

 

 「う、うん、もちもちして、美味しい。でも、早織ちゃんのデザートも、美味しい。」

 風歌がにへへっと笑う。

 

 「あ、ありがとう。」

 早織は照れたように笑う。

 

 「あ~。それ、私も言いたかった。ごめんね。」

 結花はニコニコと笑う。

 僕も、そう言いたかったので。

 

 「うん。早織のくずきりも食べてみたい。」

 僕は早織にそう言うと。

 

 「あ、ありがとう。今度、頑張って作ってみる。」

 早織はニコニコ笑って、昼食を共にするのだった。

 

 そうして、甘味処をあとにし、一通り、見終わったところで。

 

 「そしたら、最後に、ここの温泉で、一番大きなお風呂に案内しましょう。あっ、混浴なので、水着着用で。だから、水着をお持ちするようお願いしたんですが。」

 義信の言葉に、僕たち、とくに僕以外の女性陣が瞬時に反応した。

 

 「やった。」

 風歌が笑う。

 「うんうん。ひかるんも一緒にお風呂、楽しめるしラッキー。」

 マユがニコニコ笑う。

 

 「待ってました。」

 「そうっすね。パイセン。」

 心音と結花がさらに続ける。

 

 「こ、混浴。ドキドキするけど、嬉しい。」

 加奈子は緊張しながらも、嬉しそうな表情をする。

 「ラッキー。いいじゃん。」

 葉月も、嬉しそうだ。

 

 「あらあら、最後に素敵なサプライズをしてくれるじゃない。磯部君。」

 史奈がニコニコ笑う。

 

 「あ、ありがとう。やっぱり、最後は、皆で温泉楽しみたいな。」

 早織はうんうんと頷いていた。

 

 皆の言葉に僕は頷く。

 

 「そうっすね。最後は皆さんで、楽しみましょう。今までは、確かに、男湯と女湯で分かれてて、皆さんと一緒に分かち合うこともできませんでしたからね。」

 義信はそう言いまとめて、早速、この温泉街で、一番大きなお風呂に案内した。

 

 そこは、未だかつて見たことが無い、大きな露天風呂だった。

 温泉街の近くに川が流れているのだが、その川の、河川敷一面沿って、露天風呂が設置されていた。

 

 男女それぞれの脱衣所で、水着に着替え、合流する。

 

 この場所は、混浴ということもあり、係の人に、水着を持参しているかチェックされ、脱衣所でも何人か見張りの職員さんがいたのだが。

 

 僕たちは無事に、その見張りを突破できたようだ。というより、水着を持っているので、当然ではあるのだが。

 こう何人も、職員さんに見張られてしまうと、緊張してしまう。

 

 「まあ、大丈夫っすよ社長。別に俺たちは違法行為はしてないんですから。」

 義信の言葉に僕たちは頷く。

 

 「ですが、ここは、温泉、しかも混浴なので、よからぬ輩の犯罪を防止するために、見張っているのですが。実は温泉で一番多いのは、覗きとか痴漢とか、女湯の盗撮とかそういう系の犯罪ではなくて、窃盗なんすよね。脱衣所で、他人の脱いだ服を荒らして、脱いだ服のポケットから、財布取り出してっていう。」

 義信は僕にそう教えてくれる。

 

 「ああ、確かにね。」

 僕は義信の言葉に頷く。確かにそうだ。服を脱いで、財布とかの貴重品は浴場に持っていけない場合がほとんどだ。

 

 「ということで社長、ロッカーに入れてくださいよ。ここも鍵付きですからね。ウチのホテルの更衣室でも、鍵付きのロッカーがありますから、よろしくお願いしますね。」

 という義信の言葉に頷いて、僕は脱衣所のロッカーに鍵をかけて、露天風呂に向かった。

 

 そうして、女性陣と合流する。

 当然ではあるが、女性陣も、見張りの職員に対処できたようだ。そして、女性陣もその露天風呂の広さを見て、驚きを隠せなかった。

 

 「すごく広い・・・・・。」

 加奈子はそう言って、景色に見とれている。

 「本当。最高ね。」

 史奈がニコニコと笑う。

 

 「きれい・・・。プールみたい。」

 風歌はそう言葉を行って、終始黙ってしまった。

 早織も景色に見とれたままで、黙っている。しかし、早織の瞳はキラキラと輝いていて、楽しそうな表情をしていた。

 

 「これだと泳ぎたくなっちゃうね。ひかるん。」

 マユはニコニコ笑う。

 「あ~、それウチも思った。」

 「ホントよね。ああっ、昔みたいにはっちゃけていたら泳いでるよ。」

 結花と心音はマユの言葉に同情する。

 

 「うんうん。広くて、すごい。」

 葉月はニコニコ笑いながら、この広い露天風呂の景色を見ていた。

 

 僕たちは露天風呂に入る。

 本当に気持ちいいお湯加減だ。冬場ということもあり、雪が積もっている河原を見るとさらに風情が漂う。

 

 「気持ちいわね。」

 「ほんとですね。」

 史奈と葉月が深呼吸してくつろいでいる。

 

 「ふう・・・。」

 「はあ・・・。」

 「にへへへっ。」

 加奈子と早織、そして風歌も、終始無言で、気持ちよさそうにくつろいだままだ。

 

 「ここら辺、誰もいないよネ。プールみたいだから・・・・。」

 マユは僕たち以外誰も居なさそうなことを確認して、少し平泳ぎをしてみる。

 

 「おおっ、いいね。ちょっとだけ。」

 「良いっすよ。パイセン。」

 心音と結花も少しだけ、平泳ぎをする。

 さすがに水しぶきが飛びそうな、クロールやバタフライなど、他の泳法で泳いでみることはしなかったが、心からこの露天風呂を楽しんでいるようだった。

 

 僕と義信も皆で、大きな露天風呂をこうして楽しんだ。

 

 大きな露天風呂を思う存分楽しんだその後は、再びいくつかのお土産屋さんを訪問し、まだお土産や記念品を購入していないメンバーはこの機会に色々と購入していた。

 皆、各々、好きなものをお土産全品半額券を使って、購入していたようで、そのチケットのお陰で、普通より多くお土産を購入出来て大満足した表情だった。

 

 そうして、この日の外出の最後は、足湯に立ち寄り、この温泉街で歩き回った足の疲れを癒して、ホテルへと戻って行った。

 

 ホテルへ戻ると、丁度夕食の準備の時間となるので、厨房へ向かう。

 その厨房には、初日、そして、昨日よりも着実に進歩した、早織の姿があった。

 

 その姿に、僕たちも、そして、義治もとても感心して笑っていた。

 

 そして、今日の夕食もとても美味しく、あっという間に、今日一日が終わった。

 

 一日の終わりということで、恒例のじゃんけん大会を迎える。

 

 「「「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」」」

 やはり威勢がありすぎる女性陣の声に驚く僕。

 

 そうして、じゃんけん大会三日目の勝者と、ホテルのスイートルームで、新婚旅行気分を味わうこととなった。




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