139.牧場でもふもふ
牧場に併設されていた、工場見学を終え、いよいよ、工場よりも何倍も広い敷地。牧場へ。
牧場のメインゲートをくぐる僕たち。
「すごい。」
思わず、広大な開けた土地に感動する僕。
「ひろーい。」
早織は思わず、息を飲む。
「行くぞー。」
マユは思わず、走り出す。
といっても、牧場のいわゆる牧草地は雪があるので、雪の牧草部分は避け、アスファルトで舗装された、道を走り出すマユ。
「おおっ、流石陸上部っすね。道の部分も凍ってる場所あるので気を付けてください。そして、牧草地の場所の雪は、除雪はしてあると思うんですが、雪深い所がありますので、くれぐれも入らないで。」
義信が走っていくマユに向かって、大きな声を出して声をかける。
「はーい。」
マユは返事をしながらも、どんどん先を行く。
そして、マユは僕たちの姿が、小さくなったところで、マユは立ち止まり、こちらに向かって手を振っていた。
僕たちも、姿が小さくなったマユに向かって手を振る。
僕たちも少し、足を速めてマユの元へ。
本当に広大な敷地だ。思わずリフレッシュしたくなる。
「ここは、観光の牧場としても人気です。冬はこうやって雪があるのですが、それはそれで人気っすよ。」
義信がこの牧場のことを説明する。
確かにそうだ。辺りを見回せば、冬でも観光客がちらほら。
「まあ、夏だったらもっと混みますね。」
義信がうんうんと頷き、ニコニコと笑っている。
そうして僕たちは会話をしながら、先に思いっきり走って行った、マユの元へと追いつく。
「さすがマユ。やっぱり速いね。」
僕はマユに向かって、ニコニコと笑って頷く。
「まあね。やっぱりこういう景色を見ると冬でも運動したくなっちゃうな。」
マユは得意げになりながら、笑っている。
そんなことをしていると、牧場の最初のスポット、『こども牧場』という場所にたどり着く。
『こども牧場』といっても、大人も楽しめる場所で、小動物を触ったりできる場所だった。
「うわぁ。見て見て。うさぎさんに、モルモットさんだ。」
再び、マユが元気に動物がいるところに駆け出していく。
僕たちも、うさぎと、モルモットがいる場所へ。
何だろうか。僕も動物を久しぶりに見た気がする。
「かわいい。」
加奈子がニコニコ笑う。そして。
係りの人と目を合わせて。
「どうぞ。」
と係の人が声をかける。
加奈子はうさぎを抱きかかえる。
「おおっ、加奈子ちゃん、良いなぁ。」
マユがニコニコ笑って、羨ましそうに、こちらを見る。
「あらあら、加奈子ちゃん、こういうの好きなんだね。」
史奈がニコニコ笑っている。
「べ、別にいいじゃないですか。それを言うなら、会長もでしょ。」
加奈子は顔を赤くしながら言う。
「そうね。可愛いわね。」
史奈がうんうんと頷いている。
「輝君も、うさぎさん可愛いよね。」
葉月が僕に問いかける。
僕は首を縦に振って、それに応える。
「うん。可愛い。というより、結構癒されるから、ずっと見ていたい。」
僕は加奈子に抱きかかえられるうさぎを見つめ、そのまま撫でる。
ふさふさとした茶色い毛がさらに可愛さを感じられる。
「おっ、加奈子ちゃん、いいなぁ。」
マユは羨ましそうに、加奈子の元に駆け寄る。
「加奈子ちゃん、私にもいい?」
「えっ、う、うん。別にいいけど。」
マユは、加奈子ちゃんから、うさぎを受け取り、抱きかかえ、うさぎの愛くるしい目を見つめている。
「可愛い。ありがとね。」
マユはニコニコ笑いながら、うさぎと話しているようだ。
こういう所は昔と変わらない気がする。一緒に帰っていたころは、犬を撫でては話していたよな。
そして、他のメンバーも、やはり女の子だからか。動物たちの可愛さに癒されているようだ。
僕もニコニコ笑いながら、それを見ていると。
ツンツンと肩をつつかれる。
「ねえ、ねえ、輝君。私、モルモットさんの方を見たい。」
風歌がこちらに向かって話しかけてくる。
「わかった。行ってみようか。」
僕は風歌を連れて、モルモットたちの方へ。
「あっ、風歌、抜け駆けしようとしてるでしょ。私もモルモットさんの方に行くよ。」
心音がニコニコ笑って、僕と風歌の元へ。
「あ、心音ちゃんに見つかっちゃった。」
風歌は何かがお預けになった表情をする。
「甘いわね。そう、今は、私も貴方のライバルだからね。」
心音が風歌を見る。
「ら、ライバル・・・。でも負けない。」
風歌は大きく息を吸って、心音に向かって言う。
「おーっ、パイセンが行くなら私も行きます。」
結花もこちらに近づいて来る。
「あっ、そう。好きにするといいわ。」
自信満々な心音。
「が、ガーン。」
再びがっかりした表情をする風歌。
そうして、僕は心音と風歌、そして、結花を引き連れて、モルモット達の方へ。
色々な種類の毛色をしている、モルモット達が何匹も展示されていた。
「触ってみますか?」
モルモットの係りの人が、ニコニコと笑いながら、僕たちに話しかけてくる。
その言葉に甘えて、僕たちは係りの人から、促されて、差し出されたモルモットに手を触れる。
モルモットの毛もふさふさで、癒される。可能であれば、ずっと触っていたいと思った。
「かわいい。うさぎもかわいいけど、やっぱり、モルモットの方が好き。」
同じくモルモットに触れて、ニコニコと笑う、風歌。
「へえ。どんなところが。」
僕は風歌に聞いてみる。
先ほどの会話からして、風歌はモルモットの方が好きらしい。
「えっと、ほら、あんな感じで。」
風歌は一部のモルモット達を指さす。
指さした方向を見ると、僕も癒される。
モルモット達が列を作って、前のモルモットについて行っている光景がうかがえる。
「結構、皆でついて行くところ、可愛い。」
風歌はニコニコ笑って、その光景を見ていた。
「モルモットの習性なんですよ。相手のお尻の匂いを嗅いでついて行きます。そのため、もともと群れで暮らす動物です。」
係りの人はそう説明する。
「それでね。キュキュとか言って鳴くんだよ。」
風歌はうんうんと説明していた。
「モルモットさんたちは、誰の鳴き声かもわかりますよ。ちなみにですが、餌をあげる時に鳴くモルモットさんが多いですね。試しに、餌、あげてみますか?」
係りの人の言葉に、ぱあっと明るくなる風歌。
「お、お願いします。」
風歌はニコニコ笑いながら、係の人から餌を受け取る。
するとどうだろうか。
モルモットは、”プイプイ”、”キュキュ”と鳴きながら餌を食べていた。
「嬉しくて興奮状態にある鳴き方ですね。」
係りの人は優しく説明していた。
「にへへっ、モルモットさん、可愛い。」
風歌はニコニコ笑っている。
「本当ね。可愛いね。」
心音はうんうんと頷きながら、その様子を見ていた。
「風歌先輩が夢中になっている間に、それっ。」
結花は僕の手を繋ぐ。
「あっ、結花もずるい。でも。風歌はまだまだ、夢中ね。」
心音は何事もなかったかのように、僕のもう片方の手を繋ぐ。
モルモットに餌をあげ終わり、振りかえって、こちらに気付く風歌。
「あっ、ず、ずるい。」
「ご、ごめん、風歌。」
僕は風歌に謝る。
「べ、別に、いいよ。輝君とモルモットさん見れて嬉しい。」
風歌がニコニコ笑っている。
「あらあら。皆さんお揃いで、何しているのかなぁ。」
史奈がニヤニヤと笑いながら、こちらに近づいてきている。
「えっと、輝君と一緒にモルモットさん見てた。」
風歌がにへへっ、と笑いながら、こちらに合流してきた史奈たちに向かって言った。
「へえ。そうなんだ。」
葉月はどこか不満そう。
「ふーん。」
加奈子も不満そうな顔をしているが。
「も、モルモットもかわいい。」
加奈子はモルモットを見て、少し顔を赤くし、不満そうな表情がすぐに消えていた。
「モルモットも可愛いよね。」
それを見ていた葉月も、うんうんと笑っていた。
一緒に居た早織も、うんうんと笑って、動物たちの出会いに、癒されていたようだ。
マユもうさぎは勿論だが、モルモットの方も好きなようで、ニコニコと笑いながら、展示しているモルモットを見ていた。
そうして、『こども牧場』を後にし、次に義信に案内されたのは、『シープドックショー』の会場だった。
「まあ、羊の群れと牧羊犬のショーですね。犬が羊を誘導するショーです。丁度開始時刻なので、お連れしました。」
義信はニコニコ笑いながら、僕たちに説明する。
そうして、ショーが始まった。
牧羊犬、おそらく、ボーダーコリーだろうか。羊の巨大な群れを誘導している。
「すごい。」
僕は思わず、見とれてしまう。
小さく書かれた狭い円に羊を誘導したり、柵の中へと羊を集めたり。
「本当、賢いわね。」
史奈がニコニコと笑いながら、同じように牧羊犬に見とれていた。
「うん、うん。すごい。」
加奈子も同じく笑っている。
そうして、ショーは終了し、そのまま、羊と触れ合うことになった。
「まあ、梅雨の時期とかであれば、この後毛刈りショーも行われるんですが。この時期は羊の毛は刈らない場合がほとんどですからね。」
義信は僕たちにそう説明する。
なるほど、羊の毛刈りも時期があるらしい。
僕たちは羊たちの元へ。
「ひ、羊もかわいい。」
加奈子がニコニコ笑っている。
「へへへっ、羊さん。こんにちは。」
風歌が頭を下げて挨拶をする。
メェメェ~。と答える羊。
「にへへっ、ヨロシクね。」
風歌がニコニコ笑っている。
「うんうん。さっき映えてたね。」
結花がニコニコ笑っている。心音も一緒に頷く。
そうして、僕たちは羊たちに挨拶を終えて、次は、乳しぼりの会場へ。
牛の体調を考慮して、乳しぼり体験は、先着順らしいのだが。
どうやら全員、体験ができるようだ。
「まあ、この時期は雪もありますんで、既定の人数に届かない場合がほとんどっすね。どうしても、冬場は観光客が少し少なくなってしまいますので。」
義信はそう説明する。
そうして、体験する人達の列が進み、僕たちの番になる。
白と黒の毛色をした牛が僕たちを待っていた。
「どうぞ。」
係りの人が声をかけてくれ、おっかなびっくりで乳しぼりをする僕。
なるほど。こうして、牛乳の素が採れるわけだ。
「・・・っ」
一瞬、出てくる乳、掴んでいるものを見て、ドキッとしてしまう僕。
いけない。いけいない。と思い、急いで乳しぼりを終え、次の人と交代する。
牛はビックリしていないだろうか・・・・。
そう思いながら体験を終えた。
他のメンバーも、おっかなびっくりだが、無事に体験を終えると安心した顔になる。
「牛さん、びっくりしたら、どうしようかと思った。」
風歌は緊張気味にそう僕に話し、安心した顔で、僕の元に戻って来た。
葉月と史奈は笑顔で、マユは堂々とした顔で、加奈子は緊張した面持ちで、そして、心音と結花は写真を撮りながら、それぞれ乳しぼりを体験していた。
せっかくなので、そのまま、牛が放牧されている場所を巡ることにした。
乳しぼりの体験場所は、当然だが、牛が放牧されている場所ととても近い。
何頭もの牛が放牧されている。そして。
「これっすね。丁度、柵の傍まで来てくれたっすね。」
義信がニコニコ笑いながら、僕たちにこちらに来るように促す。
義信の傍に居たのは、牛。だが、ほとんどの牛は、白と黒の毛色に対し、この牛は、茶色い毛をしている。
「これが、さっき工場で話していた、ジャージーと呼ばれる牛っすね。」
義信はニコニコ笑いながら説明する。
「ほんとだ、茶色い。」
風歌がうんうんと、頷いている。
「ジャージーさん、こんにちは。」
風歌がニコニコ笑いながら、ジャージーの牛に近づき、ポンポンと触っていく。
モー、モーと牛も鳴いていた。
「ふふふっ、風歌ちゃん、歓迎されてるね。」
史奈がニコニコ笑う。
「本当だ。動画を取ってればよかった。さっきのモルモットと言い、羊と言い、風歌が触ると、嬉しそうに鳴いてくれるね。」
心音がうんうんと笑っていた。
そうして、牛と触れ合った後、丁度お昼時の時間となり、義信に案内され、牧場のロッジへ向かう。
そのロッジのテラス席で、バーベキューをすることになった。
色とりどりの肉や野菜が、綺麗に並べられ、それを次々焼いていく僕たち。
冬場であっても、野外でバーべーキューして食べる肉は美味しかった。
「ホント、美味しいわね。いつの時期であっても、牧場来たら、こうじゃないとね。」
史奈がニコニコ笑っている。
「美味しい。」
加奈子は、頷きながら野菜を多めに食べていく。
僕も、家が農家ということで、肉よりも野菜が多めだ。
「ふう。来てよかった。」
早織は嬉しそうに、昼食を食べていく。その顔は安心した表情をしていた。
「へへへ。早織ちゃんも良いリフレッシュができてよかった。」
葉月がうんうんと笑っている。
本当に早織は良いリフレッシュができたようだ。
他のメンバーもバーベキューを一緒に楽しみ、笑っていた。
昼食を食べた後は、思いっきり牧場で身体を動かした。
先ずは、まだやっていない体験があるということで、義信の案内のもと、牧場のある場所へ。
そこは、乗馬を体験できる場所だった。
早速係の人の指示に従い、落下防止用のヘルメットをかぶり、馬に乗る僕。
「フフフッ。輝君、王子様ね。」
「わ~い。王子様が迎えに来てくれた。」
史奈と葉月がニコニコと笑っている。
「えっと、輝・・・。」
加奈子が顔を赤くしている。
確かに、バレエの作品だと、色々な王子様が登場するよな。
「ふ、深い意味、ないからね。」
加奈子は少し強がっている。僕も、そのことを察して。
「大丈夫。バレエの作品には、色々な王子様がいるよね。」
僕は加奈子に向かってそう応えると、加奈子は安心してくれたようだ。
風歌と早織はここまでのやり取りを黙ってみていたが、顔が赤くなっていた。
マユも大きく頷き。親指を立てて笑っている。
心音と結花はいつも通り、写真を撮っている。
このやり取りで想像してしまった、白馬の王子という存在。
僕はこの子たちにとって、そう言う存在になれたのだろうか。
しかしながら、すぐに気持ちを切り替え、冬の冷たい風を気持ちよく感じながら、乗馬を体験した。
うん、馬の毛色が、黒色だったことが幸いだった。
その後、他のメンバーも思い思いに乗馬を楽しんでいた。
一通り乗馬体験を終えた後は、雪が積もっている場所で思いっきり雪合戦などをして、牧場の広大な敷地を思いっきり楽しんだ。
本当に身体を動かしている皆を見ると、とても眩しかったし、僕もそれに負けないように、思いっきり体を動かしたのだった。
やがて、帰りの時間となり、僕たちは再び、先ほど、牧場と併設されている、工場に立ちより、注文した牛乳を受け取って、再びバスに乗り込み、ホテルへと戻り、義治とともに夕食の手伝いをするのだった。




