138.牛乳工場見学
朝食を済ませ、ホテルの部屋に戻り、身支度を整えている。
といっても、朝食づくりの作業があったため、全員着替えており、歯を磨くなどの洗面を済ますくらいだった。
そうして、しばらくすると、義信がやってきて、部屋のインターフォンを鳴らしたのだった。
「社長、皆さん、準備良いっすか?」
義信が部屋の外から声をかける。
扉を開けて、外出の準備が出来ていることを伝える僕。
それは、皆も同じだった。
因みに朝食後は、みんな全員、僕が泊っている、このスイートルームに戻ってきており、この部屋で外出の仕度を整えていた。
僕たち全員が部屋から出て来て、義信の元へ集まる。
「おおっ、準備ができてますね。それじゃ。行きますか。伊那市市をご案内します。」
義信がニコニコ笑って、僕たちを誘導していく。
エレベーターに乗り、一階に降りていく間に、エレベータの中で、今日行く場所を義信が伝える。
「お嬢のデザートの腕が、ここでも通用することがわかったんで、今日はデザートの食材を調達しに行きます。」
義信がニコニコ笑いながら、説明を続ける。
「ミルクプリンや、アイス、そう言った料理に欠かせない食材、牛乳とヨーグルト、チーズを集めに、近くの観光牧場へ行きましょう!!そこは、そう言う食材を作る工場も兼ねているんで、お嬢と、そして皆さんには、工場にも入ってもらって、食材が出来る工程を見学してもらいましょう!!あっ、勿論、動物とも触れ合える時間もありますよ!!」
義信がニコニコ笑って、説明する。
「おおっ。」
僕は思わず、目を見開く。
「やったー!!」
「すごく楽しみ!!」
葉月と加奈子は笑っている。
「う、うん、動物さん達、みんな、可愛い。」
風歌がニコニコ笑っている。
「あらあら、素敵ね。」
史奈がニコニコ笑っている。
「映えますね。パイセン!!」
「そうだね。マジで最高じゃん。」
心音と結花は携帯の充電量を確認しつつ、写真を撮る準備をしている。
「あ、あの。ありがとう。」
早織は義信にお礼を言う。
「気にすることはねえですよ。お嬢。折角来たんですから、楽しみましょう!!」
義信の言葉に早織は頷く。
そうして、エレベータを降りて、義治たちに、外出する旨を伝えるべく、一度厨房へ向かう義信。
「爺ちゃん、牧場へ皆を連れて行くよ!!」
「おお、気を付けてな。ちょっと待っててくれ。」
義信の言葉に義治が応え、すぐに、義治が厨房から出てくる。
「皆も気を付けて行っておいで。義信が案内してくれると思うから。早織ちゃんも気分転換がてら、僕たちが使っている食材がどこから来ているか見てきてもらえると嬉しいな。これも、料理するうえで、重要な勉強だからさ。」
義治が僕たちと、そして、早織に向かってニコニコ笑って微笑みかける。
「はい。ありがとうございます。行ってきます!!」
早織は笑顔で、義治に応えた。
「うん。それじゃあ、義信、皆をお願いね。夕食の支度の時間までには戻って来るんだぞ。」
義治は義信に、念を押すように言う。
「おう。わかってるよ。爺ちゃん。」
義信は、ニコニコ笑いながら、義治に手を振り、僕たちについて来るように促したのだった。
牧場へは、バスで数分の距離。
ホテルから、石段を下り、温泉街の入り口のバス停へ向かう。
義信が既にバスの時刻を調べてくれていたのだろうか、すぐにバスに乗ることができ、牧場へと向かうことができた。
そうして、牧場の入り口にたどり着く僕たち。
先ずは、併設されている工場を見学することになった。
どうやら、この牧場と工場見学の入場券がセットであるらしい。
義信はその入場券を買って、僕たちに渡してくれた。
「まあ、牛乳とチーズ工場っすね。見に行きましょう。」
義信に促され、その工場へ入る。
すると。
「おう。義信。いつものやつの注文か?」
工場の従業員が声をかけてくる。
「おう、そうっすね。おっちゃん。発注をお願いします。それと、工場の見学で、うちにバイトに来ている子たちを案内しに来ました。製造の過程を見せていただけると。」
義信はその従業員に向けて手を広げ、僕たちの方に指先を向ける。
僕たちは深々と礼をする。
「おっ、いい子たちだな。そして、お前は働き者だな。待ってろ、注文書持ってきてやるからな。」
従業員は一旦、事務所のような場所に下がり、紙を持ってくる。
「それじゃ、必要事項を書いてくれ。」
従業員は義信に紙を渡す。
義信は頷き、手招きをする。僕たちは、義信の手招きに応じ、義信とその従業員の元へ。
「こちらの方は、俺が小さいころから、ここに勤めてる人です。」
義信が簡単に従業員の方を紹介する。
「「「「よろしくお願いします!!!」」」」
僕たちは挨拶をした。
「おっ、元気があって良いな。」
従業員の方は笑っていた。
義信はそのやり取りに頷きながら、僕たちに、先ほど従業員の方から渡された紙の内容を説明する。
「えっと、チーズとか、牛乳とかの注文書っすね。こんな感じで個数を書いて。」
義信は慣れた手つきで、チーズや牛乳、ヨーグルトなどの注文の内容を書いていく。具体的には、注文する個数を書いていくようだ。
「まあ、俺は慣れた手つきで、買うものが決まっているので、商品の内容も見ないでやってますが、あっちに色々な商品が展示してたり、販売してたりしますので、最後、ホテルに戻るときに見に行きましょう。どっちみち、帰りにもう一度、ここに寄って、皆さんにも牛乳のボトルを運ぶの手伝ってもらいますんで。」
義信はここで作られている、牛乳やチーズの展示販売コーナーを指さす。
こちらから見ても、広々とした空間に色とりどりの商品が置かれていることがわかる。
「ここの受付は、工場見学と、ウチのホテルやここの温泉街のお土産屋とか言った、法人向けの客の受付になってますね~。」
義信の言葉に僕たちは頷く。
そうして、義信は注文書の記入を終え、従業員に手渡す。
従業員は内容を確認する。
「オッケー、大丈夫そうだね。えっと、すぐに用意しようか?」
「そうっすね。アイスとチーズはいつもの通り、ウチのホテルに届けてもらって、牛乳のボトルは直接持って帰るんですが、皆に、工場見学と牧場を案内するので、帰る時間に用意してもらっていいっすか。」
義信はホテルに戻る時間を従業員に告げる。
工場の従業員はニコニコ笑いながら頷いた。
「もちろんだよ。そしたら、お友達を是非案内して、楽しませてあげてな。どうぞゆっくりしてってください。」
従業員は僕たちに頭を下げる。
僕たちもお礼を言って、頭を下げる。
「さあ、こっちっすよ。」
義信は工場見学の順路の方へ僕たちを案内した。
法人客向けの受付の隣、見学者用の入り口で、先ほどの義信からもらった入場券を見せて、いざ、工場見学へ。
僕たちは、順路に従い、階段を上がり、工場の二階部分へ。
この工場は、一階が、工場のスペースで、二階部分が、見学スペースとなっている。前面、ガラス張りの窓から、一階部分の作業を覗けるというわけだ。
義信の案内のもと、それぞれの製造の工程を見学していく。
「ここは、最初の作業をするところですかね。採れた牛乳を検査して、冷却して、殺菌する場所です。ここに、このフロアにおかれている機械の説明があるので、見て見てください。」
義信はそう言って、案内のボードの元へ、僕たちを立たせる。
ボードには、様々な機械の説明がなされていた。
「本当、分かり易いわ。」
史奈がニコニコ笑って、ボードを見ている。
「へえ。牛乳って、こうやってできるんだ。確かに、牛から採った乳を殺菌しないと販売できないよね。」
マユがうんうんと頷いている。
「えっと、ここで冷却して、ここでごみを取り除いて、ここで殺菌して。」
風歌は指を追って、それぞれの工程を行う機械の順番を追っている。真剣そのものの表情だ。
「そして、同じような機械が二つあるのは、ジャージー牛乳も扱っていて、ジャージー牛乳用だから・・・・。ジャージー?」
風歌は案内板を見て固まってしまう。
「えっと、白と黒の牛以外に、茶色い牛が居るんだけど・・・・。それのことかな。」
僕が風歌に説明する。
加奈子もうんうんと頷く。
「そうっすね。この後牧場に皆で行くんで、その時に会えますよ。まあ、白と黒以外に、茶色い牛が居るという事っすね。」
義信が風歌に、説明する。
風歌はうんうんと頷いていた。
「そうなんだ。すごく、楽しみ。動物さん。いっぱい。」
そういって、風歌の心は少し踊っていた。
風歌の隣で真剣な表情で見ていたのは早織だった。
「すごい。こうやってできるんだ。初めてかも、こういう材料が出来る場所に行くの。普段、何気なく、私のお店も仕入れているから。」
早織は目を丸くしながら、牛乳が出来る工程を見ていた。
「あれっ、早織ちゃん。材料が出来る場所なら、他にも行ったことあるんじゃない?」
葉月がニコニコ笑いながら早織に話しかける。早織を含め、他の皆は葉月の言葉の意味がわからない様子だ。葉月はニコニコ笑って、そして、僕を指さす。
「ねっ、輝君。」
「「「ああ~」」」
「確かに~。」
皆が声をそろえて言う。
僕も納得だ。
伯父の家。確かにあそこは、野菜という食材が出来上がる場所だ。
「そうだね。輝君の所もそうだね。」
早織は笑っていた。
「そうっすね。社長の家も、農家っすよね。まっ、ここの工場だったり、社長の家だったり、そう言う場所から材料が届くっすよ。」
義信は得意げになって説明する。
続いてやって来た場所は、牛乳の詰め込み作業をしている場所だった。
牛乳が一つ一つボトルに詰め込まれているのがわかる。
「こうやって、出荷して行きますね。ウチのホテルもそのボトルの牛乳を使ってますよ。」
義信は、詰込みの作業を見ながらそう説明した。
皆も、それに頷く。
確かに、牛乳が詰め込まれていく。
「ふふふっ。このパッケージは見たことあるわね。」
史奈がうんうんと頷く。
「あっ、そうだそうだ。懐かしい。」
史奈の言葉に葉月も頷く。
「そうなんですね。僕は地元の工場で作られている牛乳だから、あんまり見たこと無いですけど。」
僕は皆にそう言うと。
「あっ、アタシもアタシも。」
とマユはニコニコ笑う。
確かに、この地域の出身ではない、僕とマユ。
詰め込まれているパッケージに見覚えが無いのは確かだろう。
「まあ。そうっすね。お二人は、見たことないと思いますね。見たことあると言った人たちは、きっと小学校の給食で見たことあるんじゃないっすか?」
義信がさらに続ける。
「この地域の半分くらいの学校の給食で出されてますからね。ここの牛乳って。」
義信がニコニコと笑って、そう説明した。
なるほど。この地域の学校の給食の牛乳か。それなら皆、見覚えあるのかな。
「へへへっ、そういう事なんで、実は私は、小学校の遠足で、ここに来てたりしてます。社会科見学と、牧場の遠足って、定番なんだよね。」
葉月がニコニコと笑う。
「そうそう。ウチも。」
「そうっすね。」
心音と結花がうんうんと頷いている。
「私も来たことあるけど、小学校一年生の時ね。だから、何があったか忘れちゃったから。今、すごくいい勉強になってる。」
と、ニコニコと笑う加奈子。
「私も、加奈子ちゃんと同じ、小学校の低学年の時に来て、ここの場所に来るのはそれ以来。だから結構、いろいろ見てて、楽しい。」
風歌がうんうんと、頷いている。
「そうなんですね。私の小学校は無かったから。羨ましいです。もうちょっと早く来れば、勉強できたかなぁと。」
どうやら、早織の小学校では、ここに遠足に来なかったらしい。それは、史奈も同じのようだ。
「まあ。学校によって違いますからね。それでも、お嬢がここに来るのは、今がベストタイミングじゃないっすか。」
義信はニコニコ笑って、早織に言う。
確かにそうかもしれない。小学校一年生となると、将来、料理人や食物にかかわる仕事がしたい。もっと言えば、この工場や牧場で働きたい。と思っている人でなければ、この場所の詳細なことは覚えていないのがほとんどだろう。
今、早織は、料理の道を極めようと頑張っている。
そう頑張っているからこそ、食材が作られているこの場所の詳細なことも、覚えて行くことが出来るのだろう。
僕だってそうだ。伯父の農家と関連しながら、この場所の詳細を、覚えて勉強していった。
良質で、実りある社会科見学だった。
次に義信が案内してくれたのは、チーズとヨーグルトを作っている場所だった。
場所が広く取られているというのが一番の印象だろうか。
「まあ、発酵して、寝かす必要があるんで、そのスペースっすかね。」
義信は僕たちに説明する。
なるほど、確かに、チーズやヨーグルトは発酵させる必要があり、さらにチーズになれば、ある程度の期間、熟成させ、寝かす必要がるよな。
その説明であれば、僕たちも頷ける。
そうして、僕たちも、ヨーグルトとチーズが作られていく工程を目で追っていた。
「えっと、ああして。ああして・・・。」
風歌が、案内板を見ながら指でなぞる。僕たちも、一緒にそれを追って行く。
「まあ、チーズもこうして作られているっていう事です。こっちにチーズの種類のボードがありますんで、見てってください。」
義信が、チーズの種類の説明の案内板、そして、そこに一緒に置かれている、サンプル品を指さす。
様々なチーズの種類や、作り方、熟成の仕方がたくさん書いてあった。
「すごいわね。本当にたくさんの種類がある。」
史奈が感心しながら、チーズの展示を見る。
「全部覚えないと、頑張れるかな・・・・。」
早織は緊張しながらも、食い入るように展示を見つめている。
これから料理をしていくということになれば、ここら辺の知識は必須だ。
洋食を提供するとなると、様々なチーズの知識が要る。スイーツとしては勿論そうだが、大人になれば、ワインのつまみとして好む人もいるようだ。
そういう人、そう言う料理に対応するためにも、知識として覚えないといけない。
現に、道三や義治も、覚えて行ったのだろう。義治は勿論だが、道三も、一流のホテルで修業していた経緯がある。
早織は少し、自信を無くしそうだが。
パシャっと、携帯の撮影音が聞こえる。
「大丈夫だよ。八木原さん。今は、ねっ。」
結花がウィンクして、早織にスマホを見せる。
心音もうんうんと笑っている。
「あ、ありがとうございます。」
早織は少し落ち着いたようだ。
心音と、結花のスマホの撮影で記録が残ったことで、少しは早織に自信が戻って来たようだった。
「大丈夫そうっすね。そしたら、次、順路で言う、最後の場所に行きますよ。」
義信がニコニコ笑いながら、次の場所へ案内する。
最後の場所も、二階にあり、ガラス張りの窓から、一階部分の工場の作業を覗ける場所なのだが。
「ここは、そうっすね。窓ガラスに触ってもらった方が分かり易いっすかね。どうぞ。」
一階部分の作業を覗ける窓ガラスに触れるように指示されるので。触れてみる。
すると。
「・・・・っ。」
思わず手を放してしまう僕。
窓ガラスがかなり冷たい。
その冷たさで、何を作っているのか察しがついた。
「あっ、冷たい。」
風歌も僕と同じように反応して、すぐに手を放す。
「本当ね。冷たいわ。でも、何を作っているのか、すぐわかるわね。」
史奈もニコニコ笑っている。
「そうっすね。アイスクリームを作っていますよ。こうして、冷やす必要がありますね。ウチの料理で作るアイスクリームは、ホテルで手作りで、実際に牛乳から冷やして作りますが、ホテルの売店で売ってるアイスは、ここで作られているアイスを仕入れてます。」
義信は僕たちに説明する。
アイスクリームを作る工程も設置された案内板に詳しく記載されていた。
その案内板の写真も記録として残す、心音と結花。
早織に向かって親指を立て、ニコニコと笑っていた。
「さてと。この工場はこんなとこっすかね。どうでしたか。社長に、お嬢!!」
義信が僕と早織を見る。
「うん。とっても最高だった。」
「あ、ありがとう、磯部君。」
早織は義信にお礼を言った。
「良かったっす。そしたら、こっからは、牧場で思いっきり、楽しみましょう。」
義信の掛け声に、大きく声を上げる僕たち。
そうして、工場を出て、僕たちは、広大な敷地へ駆けて行くかのように、牧場のゲートをくぐり、先ほど見ていた工場よりも何倍も広い、大きな牧場へと向かって行った。




