136.露天風呂、そして‥‥。
その後も、僕たちは温水プールで、思いっきり遊びつくした。
ウォータースライダーを何回か滑り降り、数回こなしたところで、早織と風歌も慣れてきていた。
これならば、夏、もう少し大きなウォータースライダーに挑戦できるだろう。
スライダーの後は、二十五メートルプールでひたすら泳いだ。
「個人メドレーで勝負ね。」
マユがニコニコ笑って、得意げに、四種目の泳法を披露する。バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、そして、自由形。
僕も、そして、皆も、マユに必死に追いつこうとしたのだが、流石は体育会系。
マユが一番だった。
「へへへっ。泳ぐのは私の勝ち。」
得意げに笑っているマユ。
「はあ。やっぱりマユにはかなわないなぁ。」
少し遅れて、僕もゴールする。
「ひかるんもナイス。」
マユがニコニコ笑う。
その後に、史奈、加奈子、心音、結花、葉月と続く。
みんな大健闘だった。
「加奈子ちゃんは、流石バレリーナだね。泳ぎ方も奇麗。」
マユがニコニコ笑っている。
「本当ね。」
史奈がうんうんと頷く。
「ま、まあ。バレエの時もこういうトレーニングはしてたから。」
加奈子は少し照れていた。
そして、早織と風歌は、やはり苦手なのだろう。早々にリタイアして、バタ足の練習をしていた。
「み、みんな、すごい。見とれちゃった。」
風歌は顔を赤くしながら、ニコニコ笑っている。
早織も同じく、笑っている。
「風歌はここに居る間、毎日輝君に教えてもらったら、まあ。さっき、私も宣戦布告したので、風歌のために、輝君の時間取れるかわからないけどね。」
心音が提案するが、最後は得意げに、アピールをする。
「そ、そんなことないもん、輝君は絶対、教えてくれるもん!!夏の海の時みたいに。」
風歌は、急いで、僕の元へ。
「ひ、輝君、また、教えてくれる?」
「勿論!!」
僕は大きく頷く。
「やったぁ!!」
風歌は嬉しそうに微笑んだ。
「待って、待って、私もプールに居るときは体動かしたいから、教えて。」
それを見ていた早織もニコニコと笑って、駆け寄る。
僕は同じように頷く。
そうして、残りの時間は風歌と早織の泳ぐ練習を皆でサポートして、温水プールの時間を楽しんだのだった。
僕たちは再び、水着から浴衣に着替え、部屋に戻り、次はこのホテルニューISOBEご自慢の露天風呂がある、最上階の大浴場へと向かった。
大浴場の隣に、コインランドリーが併設されており、全員分の水着を乾燥機に入れる。
満場一致で、明日もプールに入りたかった。
というわけで、水着をその乾燥機で乾かしている間に、僕たちは大浴場を楽しむことにした。
「あ~あ。残念。流石に、大浴場は、輝君と楽しめないわね。」
史奈が残念そうに言う。
他の皆も少し落胆する。
当たり前だが、大浴場は流石に、男湯と、女湯が別れている。
「ま、まあ、そうですね。僕も、少し残念、です。」
僕は少し照れながら言う。
「サッと入って、サッと、出ましょう。この後のお楽しみもあるしね。」
史奈が皆の顔を見回して、ニコニコ笑う。
皆も大きく頷く。
「と、いう事で、輝君は男湯で、ごゆっくりね。三十分くらいしたら、戻ってきてね。」
葉月の言葉に僕は頷く。
そうして、男湯と、女湯に別れて行く僕たち。
当然だが、男湯は、僕一人。
しかしなぜだろうか。プールの時よりは安心して過ごすことができた。
温水プールの時は、いつ準備万端な状態になるか、ハラハラしていた。
最上階の大浴場は、広々としていて、様々なお風呂があった。
室内の大きな檜風呂はほんのり木の香りがした。
そして、先ほどまで、プールに入ったからだろうか、それとも、夕食を作るときに、早織のサポートをずっとしていて疲れていたからだろうか。もしかすると、その両方なのだろう。
ジャグジー風呂と呼ばれる風呂が一番気持ち良かった。
ジャグジー風呂、いわゆるジェットバスとも呼ばれる風呂で、泡が勢いよく飛び出す。
その飛び出した温かい泡が、僕の身体を包み込むようにマッサージをしてくれる。
その気持ちよさに、思わずため息が出る僕。
「壁の向こう、女湯の方で、早織は疲れを取っているだろうか・・・・。ちゃんと温まっているだろうか・・・。」
僕は少しつぶやく。
そうして、ふと耳を澄ますと、楽しそうな声が、壁の向こうから聞こえる。
この声の主は、他ならぬ、花園学園メンバーの声。
「輝君はどうしてるかなぁ~。」
「さおりんはゆっくり入って、疲れを癒してね~。」
葉月とマユの声だろうか。すごく聞き取れる。
そうして、しばらくその声を聞いていたが、その声が途端に小さくなる。おそらく窓の方に移動していると感じ取れたので、僕も窓の方へ移動する。
そう、窓の向こうには、このホテルご自慢の露天風呂があった。
露天風呂につながる外の入り口を開け、いざ、そこへ向かう。
やはり冬場だからか、肌寒い。
肌寒いが、遠くに、僅かばかりではあるが、伊那市市、そして、遥かかなたではあるが、雲雀川市、そして、関東平野の夜景が見渡せる。
きっと、昼間はすごく景色が良くて、綺麗なのだろう。
時期によっても、紅葉の山肌が見えるかもしれないなと思う。
そして、露天風呂も大きく、湯加減も気持ちよかった。
「輝君も見てるかなぁ。」
再び葉月の声。
男湯の露天風呂に僕以外誰もいないことを確認して。
「見てるよ。夜景ももちろん綺麗だけど、昼間はもっときれいなんだろうね。」
僕は壁の向こうに居るであろう、皆に向かって応える。
「おーっ、ひかるんだぁぁ~。」
「わーい。輝君と一緒だ。」
マユと葉月の声。
「輝、湯加減はどう?」
加奈子が叫ぶ。
「良い感じだよー。そっちは。」
「こっちも気持ちいよ。」
加奈子の生き生きした声が聞こえた。
そうして、壁越しに、露天風呂での会話を楽しむ僕たち。
あっという間に時間が経過して、風呂から上がり、浴衣を着る僕。
そして、部屋に戻るついでに、乾燥機から水着を回収する。
「うんうん。明日も温水プールで楽しめそう。」
十分に水着が乾いていることを確認して、ニコニコ笑う葉月。
そして、僕を含め、他のメンバーの水着も乾いていて、明日も温水プールで十分楽しめそうな予感がしていた。
そうして、スイートルームに戻る僕たち。
だが、広々とした部屋で待っていたのは・・・・。
「はーい。それじゃあ、お楽しみは、ここまで。」
史奈が手を挙げて、皆を見回す。
皆の表情は真剣なものに変わる。そうして、お互いの顔を見合せ、大きく頷く。
皆が真剣な表情になり、戸惑う僕。
「どうしたの?」
僕が思わず聞く。
「へへへっ。プールの更衣室、つまりは、輝君が居ないときに、皆で話してたんだよね。」
葉月がうんうんと頷いて笑う。皆も頷く。
「というわけで、輝君争奪戦のじゃんけん大会をします!!」
葉月が高らかに宣言する。みんな全員、拍手をして、大きく頷き、真剣な表情をする。
「えっと、輝君が居るので、改めて、ルールを説明するね。私たちがじゃんけんをして、勝った人が、輝君と二人っきりで、この部屋で一晩過ごすことができます。」
葉月の言葉にドキッとする僕。二人きっきり・・・・。
「折角来たんだし、さながら、新婚旅行体験をしてみたい、という感じで、そうしちゃいました。」
葉月はさらに続ける。
葉月の言葉に、夢と希望が満ち溢れる表情をしながら頷く女性陣。
「えっと、今日が十二月の二十七日。で、私たちは、元旦まで居る予定だから。」
葉月は日付を数える。間違えないように正確に。
「三十日までの四日間は、じゃんけん大会をします。で、最後の夜は、この部屋で皆で年越ししたいから、皆で泊まろうと思います。あっ、因みに一回勝った人は、次の日以降は参加できないということで、オッケーかな?」
葉月はそのルールを確認するかのように、全員の顔を見回す。
僕以外のメンバーは大きく頷いた。どうやらこのルールに納得しているようだ。
だけれども、僕は少し戸惑う。そして。
「ちょっと待って、ちょっと待って、皆、本当にそれでいいの?この部屋広いし。他に、泊れる人がいれば、泊っていいのに。それに、僕が、ずっとこのスイートルームに泊まるのも、なんだか申し訳ないし、何なら二人きりなら、部屋、交換したって・・・。」
僕は皆に首を横に振りながら、皆に伝える。
確かにみんなの気持ちはわかるが、僕にとっては、僕だけがずっとこのスイートルームに泊まり続ける事の方が問題だった。
「ふふふっ。何言ってるの。私たち皆、輝君と、新婚旅行したいの。それに。文化祭の景品で、この部屋の宿泊券を当てたのは、輝君よ。だから、輝君はずっとこの部屋に泊っていいのよ。」
史奈がうんうんと、頷きながら笑っている。
「ほ、本当に、それでいいの?」
僕は皆に確認を取る。
皆は大きく首を縦に振った。
「わかった。皆がそうなら、それでいいよ。なんか、本当にごめん。」
僕は皆に申し訳なさそうな表情をするが。
「大丈夫よ。私たちがそう決めたから。」
と史奈はにっこり笑った。他のメンバーも同じだった。
「はいっ。ということで、輝君も了承してくれたということなので、時間がもったいないので、早速、初日、一日目のじゃんけん大会をやりますっ。準備は良い?」
葉月の言葉に、再び、皆が真剣な表情をして頷く。
「言い忘れてたけど、誰が勝っても恨みっこなしね。」
葉月が念を押すように言う。
「もちろんよ、わかっているわ。」
余裕の表情をする史奈。
「絶対負けないから。」
加奈子が頷く。
「わ、私だって、負けないもん!!」
風歌も真剣な表情で思いを告げる。
「へへへっ、ひかるんは絶対、私と一緒の方が良いのよ。」
マユがニヤニヤと笑いながら、皆を見る。
「負けませんからね。パイセン、それに皆も。」
「それはこっちの台詞よ。結花。」
結花と心音は、元ヤンキーのオーラを出しつつ、真剣そのものの表情をする。
「負けない。輝君と一緒に、二人で、過ごしてみたい。」
早織は瞳の奥をキラキラと輝かせていた。
葉月は深呼吸して。
「せーのっ!」
「「「最初はグー、ジャンケンポンッ!!」」」
そうして、一日目から、四日目の夜は、それぞれの勝者と、このスイートルームで、新婚旅行気分の一夜を過ごすのだった。
誰が何日目に勝って、誰とどう過ごしたかは、また別の機会に話したい。
だが、いずれも、生まれたままの姿を見て、持ってきた荷物から、例の袋を開封していた。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
さて、果たして、輝君は誰と一緒に、一日目から四日目までを過ごしたのでしょうか?
ここに関しては、この章の番外編で、全員分、書き下ろし形式のような感じで書きたいと思います。
自分で言うのもあれですが、この小説のキャラクターは、周りの大人たち含め、私は皆好きですし、実際にいるなら、皆とお会いしてみたい。
そう思っているので、全員分、書いてみたいと、自然と思うようになりました。
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