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131.打ち上げ(クリスマスコンサート、その4)

 クリスマスコンサートが終了し、舞台袖へ下がる僕たち。


「お疲れさんだったな。少年!!」

「はい。素敵な花束、ありがとうございました。」


 原田先生からの声掛けに、僕は元気よく、そして、先生に敬意を表しながら、応えるのであった。


「おう。それは、私からというより、バレエ教室の保護者からだな。まあ、保護者の方も満場一致で、お前に花束を贈ることを決めていたらしいからな。もらっときな。私だって、毎年もらっているんだ。」

 原田先生はニコニコ笑っていた。


「さてと。私たちは着替えがあるので、少年には、少し待ってもらうと思うが、色々片付けが出来たら、ロビーで加奈子ちゃんと雅ちゃんを待っていてくれ、三人そろったら、タクシーを手配してあるから、それに乗って早織ちゃんのお店に行ってくれ。タクシーのお金は加奈子ちゃんに持たせてあるから。」

 原田先生は僕にそう指示する。

「はい。ありがとうございました。」

「おう。また来年も、頼むな。」

 原田先生はそう笑いながら、楽屋の方へと向かって行った。


 そうして、僕も自分自身の控室に戻る。

 今着ている舞台用の衣装は、ワイシャツとネクタイの組み合わせなので、外を歩いても問題はない。

 さすがに十二月で外は寒いので、ジャケットと、コートを羽織って退出の準備は完了となる。


 ということなので、控室に残っている、自分の荷物を片付け、設置されていた椅子と机を元の位置に戻し、備え付けられたピアノも、元の状態に戻しておく。

 この部屋の鍵、および楽屋の鍵は原田先生が所持しており、一括で管理しているそうなので、後は原田先生が確認に来るだろう。

 先生の負担を少しでもかけさせないようにと、片づけを済ませ、控室を出る僕。

 そうして、ロビーへ移動し、加奈子たちを待つことにした。


 やはり、バレリーナたちは、着替えるのに時間がかかっているようで、なかなかロビーへ出て来なかった。

 自販機でペットボトルを購入しつつ、スマホに目を通す僕。


 <お疲れ様。すごく良かったよ。♪早織ちゃんの手伝いがあるから、皆で、先にお店に行ってるよ~。>

 葉月から、LINEのメッセージが入っていた。

 今頃、早織は打ち上げの準備をしてくれているのだろう。大丈夫だろうか。と心配になる。

 ここ数日、僕と加奈子は、このコンサートで手いっぱいだったため、早織を気にかける余裕が無かったから。


 しかし、激しく首を横に振る僕がいる。

 その不安は、すぐに消えた。理由は勿論、お昼のお弁当だ。このお弁当が、早織の力を証明していた。


 きっと大丈夫。早織は今頃、食事の用意をして、皆を待っている。

 僕はそう思いながら、スマホを操作し、画面を切り替え、今日のネットのニュースの記事を見て回った。

 そうして、小一時間ほどが経過していると、バレエ教室の生徒たちが着替えを終えて出てくる。


 バレエ教室の生徒たちは、各々用意された、タクシーや保護者の車などで、打ち上げの会場である、早織のお店へと向かって行く。


 そして。

「お待たせ。輝。待った?」

 加奈子が僕を見て手を振って声をかける。


「ううん。大丈夫、ネットのニュースとか見て、ゆっくりしてた。着替えとか大変だったでしょ。」

 僕は加奈子の呼び声にそう応えた。


「ありがとう。輝。そうなの、結構、着替えるの大変でね。」

「はい。お待たせして、申し訳ありません。」

 加奈子と藤代さんは、きっと僕を待たせてはいけないと急いできたのだろう。


「ううん。なんかごめん、急がせちゃった?」

 僕の言葉に加奈子と藤代さんは、首を横に振る。


「大丈夫。平気だよ。」

「はい。いつも発表会の時は、こんな感じですから。」

 笑顔で答える加奈子と藤代さんに、僕は頷き、ホールの外へ出る。

 雲雀川の森公園の駐車場には、既に何台かタクシーが止まっており、その一台に乗り込む僕たち。

 おそらく、この停車しているタクシーすべてが、原田先生が手配していたものなのだろう。


 助手席に藤代さん、後部座席に僕と加奈子の二人で乗り込む。

 僕が助手席でも良かったが。加奈子が、僕に、いちばん最初に、奥から乗り込むように言ってきたので、その言葉通り、一番奥に乗り込む僕。

 その隣に、加奈子が乗り込むのだが、加奈子の顔が一瞬笑顔になる。


 ―やった。輝の隣。ゲット。ー

 そう思える加奈子の表情。


 だが、加奈子の表情はその一瞬だけで、運転手に目的地を告げ、車が発進すると、少し不安そうになる。


「早織のこと?」

「そう。大丈夫かなって。」

 その言葉を聞いて、加奈子の方に手を乗せる僕。


「大丈夫だよ。早織なら、僕も一瞬、皆を待っている間に、そう思ったけど、お昼のお弁当があったし。」

 僕のその言葉を聞いて、不安の表情が一気に緩んでいく加奈子。

「そうだね。きっと、早織ならできるよね。」

 加奈子はいつも通りの表情に戻る。


「はい。きっと。私も楽しみです。」

 僕と加奈子の言葉。その言葉を助手席から聞いていたであろう、藤代さん。藤代さんもニコニコ笑っていた。


 僕たちを乗せたタクシーは、丁度、花園学園の前を通り、雲雀川の北側の橋を渡る。

 コンサートが行われたホールから、早織のお店に行くには、こちらのルートの方が近い。


 そうして、加奈子と藤代さんと、少し会話をして、早織のお店。【森の定食屋】に到着。

 加奈子が封筒からお金を取り出し、タクシー代を払い、タクシーを降りる僕たち。


 そうして、早織のお店の扉を開ける。


「おーっ。輝君、お疲れ様!!」

 葉月がニコニコ笑って出迎えてくれる。

「ふふふっ。知っている顔のご到着ね。加奈子ちゃんも、藤代さんもお疲れ様。」

 同じように史奈がこちらに歩み寄りながら出迎えてくれた。


 さらには結花もこちらに気付いて。

「おっ、ハッシーお疲れ様。見て。見て。八木原さん、すごく頑張ったよ!!」

 結花に手招きをされ、お店の中へ案内される僕。

 葉月と史奈にお礼を言って、結花に連れられ、お店の中、打ち上げの会場へ。


 今夜の早織のお店は、バレエ教室の打上げのために、貸し切り状態だった。

 いくつかテーブルがセットされ、そこには、色々な料理がバイキング形式でセットされている。


 唐揚げ、サラダ、クリスマスということでローストチキン、お魚系でカルパッチョやマリネ、色とりどりのサラダ、温かそうな野菜スープ。

 勿論、和食系のものもあり、昼食の時にも出ただし巻き卵をはじめ、カツオのたたきをはじめとする、お刺身類、漬物、焼き魚、サトイモの煮物、そして、温かい鶏肉と魚の鍋。勿論、もともと、早織が得意だった、特製のデザートも沢山。

 勿論、野菜はほとんど、僕の家の畑のものを使ってくれている。早織は、見た目からわかるように、完璧に料理を仕上げてくれていた。

 まるでどこかのビュッフェにいるような、そんな料理がたくさん並んでいた。


「お疲れ様。ひかるん。さおりん、すごく頑張ってたよ。」

 僕が料理を見回していると、横からマユが声をかけてくる。


「うん。ごめん、先に味見して、食べちゃったけど。その、すごかった。」

「そうよね。流石、八木原さん。あのクソジジィに負けてたまるかって勢いだったよ。」

 さらには、風歌と心音も僕に気付いて、声をかけて来た。

 彼女たちは、どうやら、早織の料理を味見担当として、先にいくつか食べてしまったらしい。

 そのことについて、少し恥ずかしそうに、謝りながらも、早織の腕を称えていた。


「八木原さんも、まだまだ、料理は沢山作ってるから、味見して良いって、ついね。」

 心音が、みんなの気持ちを代弁するかのように、笑っていた。


「はははっ。大丈夫ですよ。すごく沢山あって、美味しそうです。」

 僕は笑いながら頷く。

 勿論僕だって、みんなの気持ちはよくわかる。だって、こんなにも美味しい料理が並べば絶対食べたくなるに決まっている。

「そうだよね。」

 心音が応える。風歌もマユも同情してくれたようで、安心した表情に戻る。


「ふふふっ。橋本君、本当にお疲れ様。」

 お皿を並べている、家庭科部の富田部長の姿。お皿をテーブルに置いて、僕に気付いたのか、声をかける。

「素敵よね。早織ちゃん、頑張ってたよ。私たちも、思いっきり頑張っちゃった。」

 富田部長が改めて、お店の中を見回すように合図する。


「はい。富田部長も、皆さんも、今日一日ありがとうございました。」

 僕は富田部長に頭を下げる。


「お礼を言うなら皆に言ってよ。私はほんの少しだけね。生徒会の皆も、コーラス部の心音ちゃんと、風歌ちゃんも凄く頑張ってたよ。もちろん、マユちゃんもね。」

 富田部長はウィンクしながら言った。


「ああ。勿論、橋本君も今日凄かったわ。流石、最優秀伴奏者賞の本領発揮ね。」

 富田部長はさらに続けて頷く。


「ありがとうございます。」

 僕は富田部長にお礼を言うと。


「そうね。もっとお礼を言うべき人が出て来たわね。」

 富田部長は厨房の方向を指さす。

 そこには、忙しくしていたが、会話を終え、ふうっと一息ついている早織の姿。


 そして、早織は、こちらに気付いたのか、目の色を輝かせながら、僕に向かって笑っている。

 僕は早織に掌を見せ、少し待ってもらうように、合図し、辺りを見回す。

 加奈子と藤代さんの姿を見て、二人を呼んでくる僕。


「早織が居たから、挨拶しよう。」


「ええ。」

「はい。そうですね。」

 僕が声をかけると加奈子と藤代さんとともに、厨房の前にいる早織の元へ。


 小さく手を振って合図をすると。

 早織も小さく手を振る。早織の目の色は笑っている。


「お疲れ様。本当にありがとう。早織。」

 僕はニコニコ笑いながら、早織に言う。

 早織は首を横に振る。

「ううん。お礼を言うのはこっちの方。皆のお陰で、もう一回、自信がついた。ありがとう!!」

 早織の瞳は涙で潤っていた。


「本当に、すごいよ。早織。」

「はい。頼んで正解でした。」

 加奈子と藤代さんは、目の色をキラキラさせながら笑っている。

 そして勿論、加奈子と藤代さんも、ありがとう。とお礼を言って、早織と握手をした。


 早織は、さらに、涙が増していたが。

「泣くのはまだだぞ、早織。打ち上げはまだ始まっていないからな。早織も、接客、頑張ってみろ。」

 僕たちに気付いたのか、道三が厨房から出てきた。


「う、うん。」

 早織は道三の言葉に大きく頷き。

「じゃあ、後でね。」

 早織は僕たちに小さく手を振り、厨房の奥へ向かった。


「ありがとよ。ガキンチョ。そして、バレエ教室のお嬢さん達。儂も、早織も、救われた。本当に、目の色をキラキラさせながら、早織は料理を作っていたよ。」

 道三は、うんうんと、二回首を縦に振った。


「はい。本当に良かったです。」

 僕は道三にそう告げる。

 加奈子と藤代さんも同じだった。


「本当に、すごいピアノとすごいバレエだった、この後は楽しんで行ってくれ。」

 道三はそう言って、厨房の奥へと向かった。


「お疲れっす。社長。」

 早織と道三が厨房の奥へ向かったのを見届けるのを待って、義信が声をかけていた。


「ああっ、義信もありがとう。」

「いえいえ。気にしねえでくだせえ。何よりも、お嬢が物凄く頑張りましたから。」

 義信は親指を立てて頷いた。

 早織は、この後、冬休みに、義信の祖父母の元で修業することになっていた。そのことにも義信に感謝しなければならない。

「まずは、第一関門通過っすね。ホテルでさらに進化したお嬢に会えるの、楽しみっすよ。」

「ああ。そうだね。ありがとう!!」

「ええ。お疲れっした。社長も、この後、楽しんでくだせえ。」

 義信は豪快に笑いながら、早織の手伝いに向かって行った。


 その後も、僕たちは、挨拶と会話を済ませつつ、打ち上げの開始時間まで待っていた。

 その間にも、続々と集まってくるバレエ教室の生徒や先生、そして、保護者達。

 集まって来た生徒たちは、目の色をキラキラさせながら、テーブルの上に並んだ、早織の作ったご馳走を眺めていた。


「すご~い。」

「おいしそうぉ~。」

 幼稚園や小学生の女子生徒たちが、まるで男の子たちのように、よだれを垂らしながら見ている。


「はーい。わかるけれど、頂きますを皆でしてから食べましょうね。あと十分くらいだから我慢できるかな~?」

 先生の言葉に、生徒たちは元気よく返事をして、テーブルから遠ざかって行った。


 僕はそれを笑いながら見ていると。


「やあ。橋本君。お疲れ様でした。ピアノ、すごく良かったよ。」

 声を掛けられ、その声の方向を見る。そこには、グレーのスーツで白髪交じりの男性、茂木の姿があった。

「こ、こんにちは。こんばんは。」

 僕は頭を下げる。

 久しぶりに見かける茂木の姿に、少し緊張する僕。だが、以前よりかは、緊張していないようだ。

 前は茂木と会うと緊張していたし、どこか信用できない部分があったのだが、安久尾建設の連中が逮捕され、僕に協力的だとわかると、少し落ち着いて接することが出来ていた。


「随分と久しぶりな感じがするね。でも、元気そうで良かったよ。」

「はい。相変わらず、元気でやってます。先生はどうしてこちらに?」

 僕が茂木に質問してみる。


「ああ。『くるみ割り人形』の演奏の指揮をしたからね。録音でわからなかったと思うかもしれないが、あれは私が指揮したんだよ。ここへは、原田君にそのお礼として、誘われてね。本当は欠席しようかと思ったんだけど、まあ、どうしてもと、原田君が言うからね。」

 茂木の答えに、僕は頷く。予想はしていたが、改めて、茂木の指揮の音源は素晴らしかったと振り返る僕。


「ああ。そうだったんですね。『くるみ割り人形』、舞台袖で見てましたが、すごく良かったです。」


「そうかそうか。そう言ってくれて、嬉しいよ。それに・・・・。」

「それに?」

 茂木は笑っていた。そして。


「今日は来てよかった。お料理はどれも美味しそうで。このお店は、君のお友達のお店なんだろう。確か、君のコンクールで、僕もお会いしたことがある子だよね。すごいね。こんな才能があるなんてね。原田君はきっとこのために私を呼んだんだろうね。雲雀川の楽団の皆にも、このお店を紹介しておくね。」

 茂木はニコニコ笑って親指を立てていた。

「はい。ありがとうございます。」

 僕は茂木に頭を下げると、茂木は、うんうんと頷いて、僕の元から去っていった。


 そうして、数分が経過したころ、原田先生と吉岡先生がお店にやって来た。

 原田先生と吉岡先生は、辺りを見回し、皆がそろっているか確認を始めた。


 二人の表情からして、全員が揃っているようだった。そして、そのまま、厨房の方へ向かい、道三や早織の母と祖母と会話をする原田先生と吉岡先生。

 その会話が終わり、原田先生は頷いて、お店の中央へと向かった。


 そして。パンパンと手を叩く。さらには、マイクを早織の母親に用意してもらい。

「はい。皆さん。お待たせして、すみません。みんな揃ったということなので、これから、クリスマスコンサートの打ち上げを始めます!!」

 原田先生の言葉に、大きな拍手をする僕たち。


「はい。コンサート本当にお疲れ様でした。本当に大盛況でしたね。そして、今日は疲れたでしょう。もう、皆、食べたそうにしているけれど。これから乾杯して、おいしそうな料理、皆で食べて打ち上げとしましょう!!」

 さらに拍手をする僕たちの姿。


「それじゃあ、皆、飲み物を受け取ってください。」

 原田先生の指示で、飲み物を受け取る生徒たち。勿論、早織や、家庭科部員たちが手伝いをしている。


 そこには、赤城兄妹の姿もあり。

「お疲れ様でした、橋本さん。」

「はい。私たちも、ピアノ聞いてました、すごかったです。」

 双子の赤城兄妹から運ばれて来た、飲み物を受け取る僕。


「ありがとう。」

 といって、会釈をすると。

「はい。八木原さんも頑張ってましたので。」

 双子の兄、隼人がニコニコ笑う。妹の未来も頷いている。


 僕はその言葉に頷く。それを見ながら、赤城兄妹は他の人達にも、飲み物を配っていった。


 赤城兄妹を含め、飲み物を配っている家庭科部員たちから、全員分の飲み物を受け取ったことを確認する原田先生。


「はい。飲み物もらっていない人、居ますか?」

 原田先生は最後の確認をする。そして、もらっていない人の手が上がっていないのを確認して。


「それじゃあ、お待たせしました。この後は、皆、思いっきり楽しんでくれ!!行くぞーっ。クリスマスコンサートの成功を祝って。乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」

 僕たちは笑顔で乾杯して、大きな拍手を贈った。


 その後は、立食バイキング形式で、各々テーブルから料理を盛り付けていく。

 僕も、折角なので、和食、洋食関係なく、早織が丹精込めて作った料理を、全種類食べられるように、少しずつ盛り付けていくことにした。


 早織の料理は美味しいを通り越して、全て心に染みた。

 本当に胸の奥まで、味が染みてくる。


 ゆずの香りとポン酢の効いたカツオのたたき、肉厚でジューシーな唐揚げ、生野菜のサラダも早織の手作りドレッシングが上手く野菜の味を引き立てている。

 温かく、バジルの香り漂うグリルチキン、出汁の味が心に染みただし巻き卵。そして、みそ汁と、野菜スープ。どれもとっても美味しかった。


「やっぱりすごいね。早織。」

 一緒に居た加奈子が笑っている。

「そうだね。僕、全種類を少しずつ取っちゃった。」

「うん。本当そうだよね。私も、早織の料理、沢山食べようと思って。」

 加奈子もニコニコ笑っている。加奈子の方は和食が中心だが、それでも、沢山お皿に盛りつけ、美味しそうに食べていく。


「はい。早織さんは素敵です。」

 藤代さんも、ニコニコと笑っている。

 藤代さんも、加奈子と同じく、和食を中心に料理をお皿に盛り付けていく。


「おおっ。お前たち、お疲れさんだったな。」

 原田先生がニコニコとやって来た。


「はい。今日は、ありがとうございました。」

 僕は原田先生に頭を下げると。


「良いってことさ。そして、めちゃくちゃ美味いな。ここの料理は。」

 原田先生が親指を立てる。

 そして、先生も、料理をたくさん盛り付けては一気に食べていく。


「カルパッチョには白ワインが、そして、カツオのたたきには、日本酒が欲しいな。ハハハッ。」

 原田先生は大きく頷いていた。その言葉に戸惑いながらも、頷く僕、加奈子、そして、藤代さんの三人。


「ハハハッ。二十歳を越えれば、お前たちにもわかるさ。」

 原田先生は僕たちの肩をポンポンと叩きながら笑っていた。


「来年も頼むぞ!!」

 原田先生は豪快に笑いながら、大きく手を振って、僕たちの元から去っていき、他の生徒の挨拶に回っていた。


 どうやら、この打上げは大成功に終わった。

 原田先生も喜んでくれていたし、何よりも、バレエ教室の生徒や保護者達がニコニコ笑いながら、料理を食べていく。


 そして、最後に早織のお家芸でもある、デザートを食べる。クリスマスシーズンということもあり、ケーキが多めに並んでいるのだが、どのケーキも本当に美味しかった。


 その後も、僕たちは食べたり飲んだりしていた。

 そして、原田先生が用意したというレクリエーションを楽しみつつ、打ち上げを楽しみ、あっという間に終了の時間が来てしまった。


 最後に、原田先生が挨拶する。

「さてと、あっという間に、時間が過ぎてしまいました。皆、本当にお疲れ様。来年も頑張ろう!!」

「「「おーっ!!!」」」

 原田先生の気合を入れた言葉に、バレエ教室の生徒たちは全力で応える。


「と、本来はここで終わるはずなのだが、最後に、このお店の人から挨拶をお願いします。お昼のお弁当、そして、この打上げと、本当に美味しい料理を作ってくださったので、感謝の拍手で迎えましょう。」

 原田先生の言葉に、生徒や保護者全員が、大きな拍手で、早織の家族を迎える。

 祖父の道三、祖母の真紀子、母親の美恵子、そして、早織が勢ぞろいした。


「どうも、八木原道三です。このお店を利用してくれて、ありがとうございます。精一杯やらせていただきました、また来ていただけると嬉しいです。ありがとうございました。」

 普段は豪快な性格をしている道三も、この時ばかりは、謙虚に挨拶をする。


「そして、私たちも料理を作りましたが、実は、ここにある料理の大半、そして、お昼のお弁当は全部、私の孫の早織が、リーダーとなって作ったものです。私ではなく、早織にマイクを回して一言、しゃべってもらいましょう。」

 道三の言葉に驚く、バレエ教室の面々。それもそのはず、早織は僕たちと同世代。高校生が頑張って料理したとなると、驚くのも当然だ。


「あ、あの。皆さん、今日は本当に、ありがとうございました。美味しく食べてくれて、嬉しいです。」

 早織の言葉に、大きな拍手をする僕たち。

「えっと、私は、普段、そこにいる橋本輝君と、井野加奈子さんと一緒に、花園学園で生徒会メンバーとして、活動しているのですが、今回、二人の紹介で、お店の予約をしていただき、私も、その、二人が頑張っているから、私も頑張ろうと思って、頑張って料理を作りました。本当に、皆さん、笑顔で食べてくれて、嬉しいです。ありがとうございました。」

 早織は深々とお辞儀をした。

 今日いちばんの拍手が鳴り渡った。


「はい。本当にありがとうございました。それでは、また来年も、皆のバレエが輝きますように、元気一本締めで打ち上げを終わりましょう。」

 原田先生は、ニコニコ笑いながら、一本締めの音頭を取って、元気よく手を叩く僕たち。

 その後、自然と拍手が鳴り渡った。


 そうして、お店を出る僕たち。

 お店を出る際に、早織が玄関で皆を見送ってくれていたのだが。それを見て、安心する僕が居た。


 その姿を見て、思わず僕の肩に手を乗せる義信。


「社長。お嬢は無事にやり遂げました!!」

「ああっ。そうだな。」


 早織の前には人だかりが出来ていた。

「本当にすごいですね。美味しかったです。また来ます。」

 保護者の人達が、早織に向かってお褒めの言葉を言っている。


「おねーちゃんすごーい。また、食べに行きたい!!」

 小学生の生徒たちが声を揃えて、早織の元へ。


 早織はその言葉一つ一つに、丁寧に応えていた。

 それを見ていた僕。そして、その僕の横にいた加奈子。


 お互いに顔を見合わせ、いちばん最後にお店を出ることにした。


 そのやり取りを十分、いや、二十分ほど見ていて、ついに、僕と加奈子が店を出る順番になった。


「輝君!!」

 早織は僕の元に駆け寄り、彼女の両手が僕の背中に回る。

 僕も両手を彼女の背中に回す。


「本当にありがとう。今日、輝君のお陰で、頑張れた。もう一回、キングオブパスタに向けて、頑張ろうと思えた。本当に、ありがとう。」

 早織の言葉に、僕は首を横に振る。

「ううん。こちらこそだよ。そして、一番頑張ったのは早織だよ。本当によく頑張ったね。」

 僕は優しく早織に声をかけた。


「ありがとう。輝君。」

 早織は今日いちばんの大粒の涙をこぼした。

 そして。

「加奈子先輩もありがとうございました。」

 早織は、僕から手を放し、大粒の涙をこぼしながらも、加奈子に頭を下げたのだった。

 加奈子も同じように首を横に振り。

「ううん。私も、言いたいことは輝と同じ。本当にありがとう。早織。」

 加奈子はニコニコと笑っていた。


「ありがとな、ガキンチョ!!」

 それを見ていた道三は手を差し出し、握手を求めて来た。

 僕はそれに応え、道三と固い握手を交わした。


 そうして、皆に見送られながら、森の定食屋を後にした。


 今日一日、早織も、加奈子も本当に頑張っていた。

 素晴らしいクリスマスコンサートの一日だった。


 僕が疲れを覚えたのは、伯父の家に帰ってからだった。

 それくらい、早織と加奈子の活躍が眩しかった。


 僕は、すぐに離屋のベッドにもぐりこみ、素晴らしい一日を終えたのだった。





今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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