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13.葉月の家(理事長の家)で食事

 

 加奈子先輩のバレエのコンクールと並行して、生徒会選挙も忘れてはならない。

 先輩の推薦人という名目で、生徒会の選挙活動を行わないと。


 加奈子先輩のバレエを見てから、僕は本当にすらすらと推薦の演説の内容を書くことができた。

 演説の原稿を瀬戸会長に見せる僕。


「橋本君。すごく良くなったよ。やっぱり加奈子ちゃん、バレエを彼に披露させた方が良かったでしょ。」

 瀬戸会長はにこやかにウィンクしている。


「はい。」

 加奈子先輩は瀬戸会長の言葉に頷く


「さてと、私たちも考えなきゃね。私たちは、生徒会で活動しているから、そっちをメインに演説のスピーチを言わないとだね。」

 瀬戸会長は葉月と目を合わせる。


「はい。そうですね。バレエのアピールは輝君に任せちゃおう!!私も言おうと思ったのだけど。」葉月先輩はそう言いながら、僕の肩を叩く。


「加奈子の伴奏も、演説も頼んだよ~。まあ、輝君なら、大丈夫だけど。」

 葉月先輩はそう言って。少しため息をついた表情を見せながら、生徒会の仕事を続ける。


 加奈子先輩のバレエ教室に通うことになったここ数日は、学校、生徒会、バレエ教室のルーティーンだ。


 この日もそうだった。

 バレエ教室で、加奈子先輩の課題曲、『レ・シルフィード』の練習をした。


 だが、この日はいつもと違うことが起きた。

 練習が終わろうとするタイミングで、僕のスマホがなる。


 流石にピアノを弾いている、加奈子先輩の練習の時間はスマホをいじれないので、練習が終了した後に確認する。


<加奈子のレッスン終わったかな?よかったらこの後、ご飯、一緒に食べない?パパが話をしたいといっているので、加奈子を誘わず、一人で来てほしいんだけど‥‥。>

 葉月先輩からのLineだった。


 なるほど、そういうことか。

 そういうことなら、OKですということで、返事を書いて送信した。


 バレエスタジオからの帰り道。

 今日も加奈子先輩と帰宅することになったのだが、途中の百貨店の信号前にたどり着き。


「すみません。理事長が、家で、僕に話があるということなので。これで。」

「ああ。そうなの。それじゃ。今日もありがとう。理事長の家だから‥‥。葉月の家は、行ったことあるし、わかるよね?」

 加奈子先輩はそう言って、僕に気を遣ってくれる。


「そうですね。わかります。」

「そう、それならよかった。じゃ、また明日ね。」

 そういって、加奈子先輩は先に家の方に帰っていった。


 僕の方は伯父と伯母に、<今日は遅くなる、理事長先生の家で食べてくる>とLineをしておく。

<了解。誘ってもらって、よかったね。理事長先生によろしくね。>との伯母からのLineがすぐに帰ってきた。


 城址公園を抜け、葉月先輩の家へと向かう。

 雲雀川市の高級住宅街の一角にたどり着き。

 葉月先輩の家、つまり理事長の家のチャイムを鳴らすと、理事長の慎一と葉月先輩が温かく迎えてくれた。そして、家には、理事長の妻、つまり先輩の母親の姿もあった。


「どうも、挨拶が遅くなってしまいまして、申し訳ありませんでした。この度は何とお礼を言っていいのだか。」

 葉月先輩の母親は深々と僕に頭を下げるが。


「そんな、頭をあげてください。当然のことをしたまでですから。」

 とこちらも丁寧に対応する。

 さすがに、丁寧な態度には、丁寧な態度でこちらも接しないと気まずい。


「お礼といっては何ですが、お食事を用意しましたので、食べて行ってください。」

 母親が丁寧に案内して、理事長、葉月先輩、と食卓を囲んだ。

 当然、家には、葉月の姉の弥生さんの姿。そして、隣には、赤ちゃんもおり。


「そういえば、まだお話しておりませんでしたね。」

 葉月の母親はにこにこと笑う。


「何がですが。」

 と僕は聞く。


「この子の名前です。」

 と、葉月の母親は笑顔になり、さらに続けた。


「この子は、光輝と名付けました。あなたの、輝君の名前を取って。輝君みたいな優しい人になって欲しいと。光り輝く。という意味で。」

 光輝はキャッキャと笑っている。

 弥生さんもその隣で頷き、さらに葉月先輩もニヤニヤと笑っている。


「いやいや。少し恥ずかしいです。」

 僕は顔を赤くする。


「そんなことはないぞ、輝君。自信をもっていい。堂々と君にはしてほしいんだ。」

 理事長は言った。


「そうですか。本当にありがとうございます。」

 僕は頭を下げる。


「さあさあ。どんどん食べてください。」

 食卓には本当に豪華な料理が並んでいた。


「どうですか?輝君。慣れましたか?」

 理事長は改めて、僕に質問する。


「はい。最初は元女子校でやっていけるのか不安でしたが。葉月先輩たちが居てくれたおかげで。本当に、ありがとうございます。」

 僕は緊張していたが、同時に安心していた。


「そうか、それはよかった。今年から共学ということで、来年には男子生徒をもう少し増やしたいと思って、男子の誰かを生徒会にと思ったとき、すぐにピンときました。君しかいない。君しかいませんと。」

 理事長は頷く。


「本当にありがとうね。輝君。パパもママも、お姉ちゃんも、私も本当に感謝してるんだよ。」

 葉月先輩が言った。


 光輝もそれに応じて、キャッキャッと笑っている。

 ありがとうと言っているように、一番澄んだ綺麗な目をして、笑っていた。


 その表情を見て、目頭が熱くなる。


「どうしたの?」

 それを見た葉月が聞いてきたが。すんなり、答える。


「いえ。赤ちゃんってかわいいなと。この表情を見たら、当然のことをしたまでと思いましたが、本当にやってよかったと思います。」


 皆がそうだよ!!と答える。


「これからも、困ったことがあったら、相談してくださいね。全力でサポートしますから。」

 理事長はそう言って、僕と握手を交わした。


 食事を終えての帰り道。

 心配だからといって、葉月先輩が途中まで送ってくれることになった。


「本当にすみません。葉月先輩の方が、夜は危険なのに。」

 外はすっかり真っ暗。やはり女性である葉月先輩の方が心配だ。一人で外に出るなんて。


「大丈夫だよ。途中、本当にすぐ近くまでだから。」

 葉月先輩はそう言いながら、夜の道を僕と二人で歩く。

 それでも心配そうな表情をする僕ではあったが。


「大丈夫。ここは、雲雀川の中でも高級住宅街。不審者と出くわす可能性は極めて低いよ。」

 葉月先輩がエッヘン、と胸の前に拳を握る。


 とはいえ、ここは閑静な住宅街だ。街灯は確かに存在するが、お店とかの明かり、つまり、目立つ明かりもない。

 こういうところを見ると以前、僕が住んでいた町の方が東京近くに会ってより明るく見える。


「輝君。どう?加奈子とは。」

 葉月先輩が質問してくる。


「そうですね。上手くやれてます。いろいろと推薦人のスピーチが出来そうでよかったです。」

 僕は葉月先輩の質問に答える。


「あっ、そう言う意味じゃなくて。加奈子とは仲良くなれたというか。その‥‥。」

 葉月先輩の質問を理解する僕。


「ああ、それも大丈夫です。確かに最初は、一番、大人しくて真面目で、とっつきにくい感じがありましたが、バレエ、音楽が、その壁を壊してくれて、とても仲良くやってます。」

 僕はにこにこと笑いながら葉月先輩に応える。


「そう。あの子、やっぱり、凄いよね。興味のあるところはとことんストイックにやっていく子だもの。」葉月先輩は少し遠くを見ながら言った。


「先輩も、いいところはたくさんありますよ。元気なところとか、こう、優しいところとか。生徒会に勧誘するときだって、教室まで来てくれて、一番初めに声をかけてくれたじゃないですか。クッキーもおいしかったです。」

 僕は言った。そう。葉月先輩にもいいところがたくさんある。

 確かに、ここ数日は加奈子先輩の魅力に気づかされてばかりだが、すぐにポンポンといいところが浮かんでくるのは葉月先輩の方だ。

 優しくしてくれる方がとてもありがたい。


 そして、それだけ優しくて活動的な人なのだろうと僕は思っている。


「ありがとう。輝君は優しいね。」

 葉月先輩は少し微笑む。


 僕と葉月の視線の先には、城址公園がある。

 桜は散って、葉桜にはまだ早いという段階だ。


「実は私も、あのバレエ教室に通っていたんだ。それ以外にもいろんな習い事をしていたのだけど。みんなすぐに辞めちゃって。」

 葉月先輩はそう言いながら、少し寂しそうだった。


「まるで、あの桜の花びら見たいに、咲いてはすぐ散るように。入ってはすぐ辞めてを繰り返したかな。」

 葉月先輩は深くため息をついて言った。


「だから、続けられる、加奈子や、輝君がうらやましい。バレエやピアノ、ずっと続けて、とてもうまくなって。」

 葉月先輩は僕のことをうらやましそうに見ていた。


「ははは。そうなんですね。僕は応援してくれる人が居るから続けられているのかなと。加奈子先輩みたいに、必要としてくれる人が居たから。ほら、小学校のときなんか、クラスの合唱とかでピアノ伴奏とか、指揮とか。正直、この町に引っ越してきてからは、伯父のおかげで、農業の方が好きになって、これからピアノは趣味程度であまり弾かなくなるのかなと思ってました。」


 僕は思ったことを言ってみた。

 確かに、安久尾たちの手によって、退学させられた時は本当にピアノをやめたいと思ったし、全部をやめてしまいたいと思った。だけれども、今は、伯父や、葉月先輩、加奈子先輩、瀬戸会長、みんなのおかげで、もう少し、頑張ってみようと思っている自分がいる。


「先輩も、加奈子先輩のために全力でサポートしようとすることろ、素晴らしいと思います。裏方で、声掛けするところ本当に重要かなと。」

 僕は、本当にそれが答えかわからなかったので、一息で早口のように言った。



「‥‥。やっぱり優しいね。」

 葉月は小さくつぶやく。



「ん?」

 何か言ったのだろうか。僕は葉月先輩に体を向けるが。


「ううん。何でもない。ありがとう!!よ~し。明日からまた、がんばるぞ~。輝君のおかげで元気が出た!!」

 どうやらいつもの葉月先輩に戻り、少し安心する僕が居た。


 やがて、城址公園を抜けて、百貨店前の交差点に出る。

「ここまでで、大丈夫かな?」

 葉月先輩はそう言った。


「はい。大丈夫です。今日はありがとうございました。」

 僕は葉月先輩に頭を下げる。


「うん。また明日ね。」

 葉月先輩はそう言って、僕を、自転車に乗ってみるみるスピードを上げていく僕を見送っていた。




 葉月は、僕、輝のその姿を見えなくなるまで手を振り続けていた。

「ありがとう‥‥。そして、ごめんね。輝君。本当は、もう少し二人きりで、一緒に居たくて、送って行ったの‥‥。」

 葉月はそう呟く。


「最近、加奈子と一緒に居る時間が多かったから、少し‥‥。」

 葉月は深呼吸して家に戻って行った。




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