129.リハーサル、そして‥‥。(クリスマスコンサート、その2)
今回もご覧いただき、ありがとうございます。
※クリスマスコンサートのステージ構成を変更しています。
・第一ステージ、各クラスの発表
・第二ステージ、コンクール報告のステージ
変更前は第一ステージと第二ステージが逆。夏合宿で、ステージ構成を話していた場面もそのように変更しています。
十二月の第三日曜日、そう、加奈子の通うバレエ教室、クリスマスコンサート当日の日。
朝早く僕は目覚め、伯父とともにトラックに乗り込む。
行き先は、【森の定食屋】。そう、早織のお店だった。
クリスマスコンサートが行われる前、昼食のお弁当と打ち上げに使う食材を、早織のお店に届けるのだった。
先日のこと。
原田先生から、早織への招待状を渡すように指示される。
そうして、僕は、同じクラスということもあり、早織に招待状を渡した。
「ありがとう。輝君。私だけでなく、お祖父ちゃんの分まで。本当にいいの?」
早織はニコニコ笑って受け取る。
「うん。原田先生が言うんだし、良いんだと思う。そして、その・・・。打ち上げの支度とかで、忙しくなければ、無理しなくて大丈夫だから・・・。」
僕は早織にそう言って、招待状を渡したのだが。
「ううん。絶対行く!!打ち上げの準備も実は大半が、お弁当を準備する段階で終わっちゃうから大丈夫。コンサートの終了時刻と、打ち上げの開始時間には、皆、着替える時間もあるから、かなり間隔があいているから、当日、最後まで見れそう。」
早織がワクワクしながら頷く。
確かにそうだ。クリスマスコンサートの終了時刻から、打ち上げの開始時刻まで、かなり時間がある。
音楽関係のコンサートとかであれば、終了時刻から、打ち上げの開始時刻まで、そんなに時間は要さないが、バレエの発表会となると、確かに出演者の着替えの時間に時間を要するためか、時間が多めに確保されているようだった。
そういう意味でも、お弁当を作る時間に打ち上げの料理も作ってしまうのだろう。
バレエ教室の皆が、着替えている間に、早織はすぐにお店に戻り、昼に作った料理を温めたり、生魚など、生ものを使った料理、例えばカルパッチョとか、刺身とかの準備をすればいいのだろう。
確かにそれは頷ける話だった。
「ありがとう。楽しみにしてる。加奈子先輩と原田先生、それに、雅ちゃんにもよろしく伝えといて。私も、頑張るから。」
早織は、気合を入れ、自信に満ち溢れた表情で僕に言った。
「うん。伝えておく。」
僕はそう言って、早織を見ていた。
早織の気迫はこっちまで伝わってくる。
文化祭の時と同じく、早織が眩しく見えた。それは、早織が料理をしていなくてもわかる。学校にいる時も、授業中の時も、早織は真剣そのものの表情をしていた。
だから、伯父のトラックに乗って思う。最高の料理を、早織は僕たちに届けてくれると。
伯父のトラックは順調に進み、あっという間に【森の定食屋】の前に到着。
早織と道三。そして、富田部長が出迎えてくれた。
「おはよう。早織。」
「おはよう。輝君。忙しい時に、朝早くからごめんね。」
早織は、僕にすまなそうな表情をしながら、僕と伯父の元へ。
「ううん。大丈夫。早織のために張り切っちゃった。ああっ。勿論、今日は加奈子のためでもあるけど。」
早織のためにというワードで、早織が一瞬困惑した表情になってしまったのを見て、とっさに、付け加える僕。
「ほ、本当にごめんね。勿論、今日は、本当に今日は、加奈子先輩と一緒で大丈夫だからね。」
早織は大きく首を横に振りながら、笑っていた。
「ご、ごめん。早織。」
「ううん。気にしてない、輝君が頑張ってくれているの、わかってるから。」
早織は大きく頷いて、僕に微笑む。
「ありがとう。早織。」
僕も頷く。
「さあ。橋本君。頑張ってね。八木原さんのことは私たちに任せて!!ここには私しか今いないけど、家庭科部の皆も後から来る予定だから。」
富田部長がウィンクして、得意げな顔をしている。
「はい。よろしくお願いします。」
僕は富田部長に頭を下げる。
富田部長は、まるで、史奈と同じような顔で、任された!!という顔をしていた。
そうして、伯父とともに野菜をトラックから運び出す。
早織、富田部長、さらには道三もこの作業を手伝い、森の定食屋の厨房に運び入れたのだった。
「ガキンチョ。本当にありがとな!!」
道三は僕に向かって真剣な顔で頭を下げる。
「はい。早織さんのこと、よろしくお願いします。」
「もちろんだぜ。ガキンチョ!!ああっ、招待状もありがとな。」
道三はニコニコと大胆に笑っていた。
「はいっ。」
僕は頷き、伯父とともにトラックに乗り、早織のお店をあとにする。
早織、富田部長、道三の三人が手を振って見送ってくれた。
あの調子なら大丈夫だろう。と思う僕。当然、早織のことなので、少し心配な部分もあるが、こうして周りの人がサポートしてくれている。
きっと大丈夫。優しい早織なら。
伯父のトラックは、僕の家には戻らず、クリスマスコンサートの会場、【雲雀川オペラシティ】へと向かった。ホールに併設されてる【雲雀川の森公園】の駐車場にトラックを停車させる伯父。
伯父に送迎のお礼を伝え、トラックを降り、公園を抜け、ホールへと向かった。
ホールに入ると原田先生からの出迎えを受ける僕。
「おはよう少年。よく眠れたか?」
原田先生は大きく頷いて声をかける。
「はい。ばっちりです。」
僕は得意げになって、応える。
「そうか。本当に良かった。あの子はどうだ?先ほど、野菜を届けたんだろう。」
原田先生は僕に聞いてくる。
「はい。大丈夫だと思います。家庭科部の皆さんもサポートしてくれるそうなので。」
「そうか。それならよかった。」
原田先生は安心したように言う。
そうして、原田先生は僕を控室に案内してくれる。
『レッスンルーム1』と書かれた部屋に通される。
中はピアノがあり、既に、椅子と机を設置してくれていたようだった。
「ここを使ってくれ。着替えることも、食べたり飲んだりすることもできるそうだ。すまないなぁ。本当はステージ近くの場所だったり、楽屋とかの方がいいのだろうけど、そういう部屋とか、楽屋は全部、ウチのバレエ教室の生徒たちに使わせてくれ。」
原田先生はすまなそうに言ったが。
「いえいえ。ありがとうございます。むしろ、楽屋とか、ステージに近い部屋とかは、バレエ教室の皆さんが使ってください。」
僕は首を横に振って頭を下げる。原田先生の言うことは至極当然である。加奈子先輩や藤代さん、その他バレエ教室の生徒さんの方が、衣装に着替えたり、化粧をしたりと大変なのだから。
「おう。ありがとよ。」
原田先生はそう言って、集合時間を僕に伝えて、去っていった。
伯父の家を出る際に、靴は履き替えてきたが、お弁当の材料を届けたり、そのための野菜の収穫作業をしていた時の服装のため、僕も持ってきた舞台衣装に着替える必要があった。
しかし、それも本番の直前で良いだろう。
男性のピアニストの衣装は、バレエに出演するメンバーと比べて、簡単に着替えられる。
それでも、綺麗に手を洗っておこうと思い、トイレの流し台に向かい、手を入念に洗って戻って来た。
言い忘れていたが、ピアニストは勿論、音楽関係の仕事をしている人は、手や指がとても大事。
本番前にしていることは何ですか?と聞かれれば、僕は“手を洗う”と答えるだろう。しかも、医者が手術をする前の時みたいに入念にと。
この間のコンクールも、バレエコンクールの時も、コーラス部の伴奏の時も、そうしてきた。
そうして、レッスン室に戻り、ピアノを弾いて、最後の調整をしていると、あっという間に集合の時間になったので、ステージへと向かう。
ステージへ行くと、加奈子が迎えてくれた。
「おはよう。輝。大丈夫。よく眠れた。」
これからリハーサルの時間ということもあり、レオタード姿の加奈子が優しく声をかけてくれた。
「大丈夫。よく眠れたよ。」
「今更だけど、伴奏、本当にありがとう。ここの所、忙しくて、私も、バレエの時、輝の伴奏が当たり前のように思えたけれど。やっぱり、その・・・。こうして、感謝の気持ちを伝えられず、本当にごめん。」
加奈子が一生懸命、思いを告げる。その言葉を聞いて、首を横に振る僕。
「ううん。僕も、最近、これが当たり前だと思っていた。でも、加奈子がこうして、声をかけてくれなかったと思うと。」
そう。加奈子と、このバレエ教室の存在が無かったと思うと、僕は未だに、安久尾建設の影響で、闇の中を彷徨っていただろう。
そうなると・・・・。そう想像するだけで、とても怖い自分が居ることも確かだった。
「頑張ろう。今日は。」
一呼吸おいて、気持ちを切り替える僕。そう、僕はもう、一人じゃない。
「うん。そうだね。私も輝にいいとこ見せちゃう!!」
加奈子も、大きく深呼吸して、ニコニコ笑っていた。
本当であれば、ここで思わず、加奈子を抱きしめたかったが、バレエ教室のみんなの前なので、お互いの顔を見つめて、深呼吸するだけに留めておいた。
ステージの舞台の傍まで、加奈子に連れられ、移動していく僕。
「そういえば、早織はどう?伯父さんと一緒に、材料届けてくれたんだよね。」
「そうだね。いつも通りだった。家庭科部の皆もフォローしてくれるって。」
僕の言葉を聞いて安心する加奈子。
「そう。本当に良かった。安心だね。ああ。葉月からも連絡があって、葉月たちも早織のお店に寄ってから、コンサートに行くって。」
加奈子の言葉に僕も安心する。
葉月たち生徒会メンバーも一緒に居るなら心強い。
「おはようございます。橋本さん。」
藤代さんも僕に気付いたのか、近寄ってきて声をかけてくれる。
「おはようございます。藤代さん。」
僕は藤代さんにも挨拶をする。
「どうでしたか。早織ちゃんの様子は。」
藤代さんも早織のことを心配しているようだ。
「大丈夫。きっと元気よく、お弁当を届けてくれるはずだよ。」
僕は親指を立てて、得意げに合図を送る。加奈子も大きく頷いている。
「良かったです。私も、いえ。このバレエ教室の皆も、お弁当と打ち上げ、楽しみだったりしていますから。その。頑張りましょう。橋本さん。」
藤代さんからそう声を掛けられ、僕は大きく頷いた。
そうして、ステージの観客席に座る僕たち。
僕たちが座ったこと、そして、他に集合していない生徒がいるか確認して、原田先生がステージの舞台に上り、挨拶と諸連絡をするのであった。
そして、協力してくれるスタッフにも挨拶をすることになった。当然僕もそのスタッフの一人のため。
「「「よろしくお願いします!!」」」
と元気よく、生徒たちから挨拶をされて、僕も、ニコニコ笑って会釈したのだった。
そうして早速、僕のピアノに合わせて、柔軟運動とウォーミングアップの基礎運動が始まった。
ステージの舞台上、観客席の床一杯に広がって、準備運動をしていく生徒たち。
広い観客席やステージといっても、階段になっている場所もあるため、全員分の場所が取れず、何回かに分けて、準備運動が行われた。
続いて、リハーサルに移る。
先ずは第一ステージ。各クラス毎の発表。僕は全部のクラスではないが、いくつかのクラスのピアノ伴奏を担当することになっているので、担当するクラスのリハーサルがあるとすぐにピアノに向かう。
「よろしくな。少年。全部【スタンウェイ】のピアノで問題ないか?必要なら【ヤマハ】のピアノも用意するが。」
原田先生の言葉に僕は首を横に振る。
「全部【スタンウェイ】で問題ないですよ。」
僕はそう頷いて、ピアノを弾き始めるのだった。
一生懸命、幼稚園や、小学生の子供たちが場所を確認していく。
「もう少し広く取って大丈夫だからね。大きく、動こう。」
担当の先生からもそうアドバイスされる。
そうして、第一ステージのリハーサルが終わる。
続いて第二ステージ。コンクールの報告会のステージだ。
曲目はショパンの『レ・シルフィード』。ピアノ伴奏が必須。
このステージは大半が僕のピアノ伴奏となる。
僕のピアノに応えるかのように、加奈子と藤代さん含め、今年のコンクールに出場した選抜メンバーが踊って行く。
このリハーサルは大体、ステージ上での場所の確認がメインとなってくるのだが、流石はコンクールの選抜メンバーだけあって、その作業もスムーズに終わり、密度の濃いリハーサルとなった。
『レ・シルフィード』の全曲を踊った後に、コンクールの成績優秀者たちが、加奈子の前に二名ほどソロで踊ることになり、最後に加奈子のソロステージとなった。
ソロステージのリハーサルは、バレエ教室に通う生徒ほぼ全員が観客席にて、僕の演奏と、加奈子の演技を見ていた。
最後、フィニッシュしたときは、バレエ教室の子供たちが大きな拍手を贈っていて、僕と加奈子はそれに応えるのだった。
「ヨシッ。本番も頼むな。少年!!」
原田先生の一言で、僕の出番は終了。最後のメインステージ、『くるみ割り人形』のリハーサルへと移った。
このステージは、オーケストラ、おそらく茂木の指揮の録音音源をすべて使うため、僕の出番はないステージとなる。
客席から原田先生とともに、皆のバレエを見る。
本当に、今日のために一生懸命練習していたのだろう。それが伺えるリハーサルとなった。
その中でも、加奈子のクララと、藤代さんの金平糖の精の演技は圧巻だった。
原田先生は終始、ワイヤレスマイクを持ち、皆の立ち位置は勿論のこと、アナウンスをするスタッフに指示を出している。
第一、第二ステージの時間や、演奏時間等の関係上、『くるみ割り人形』の全部の曲を扱えず、披露するのは、全体の六、七割ほどの内容である。途中カットした残りの三割程の内容をアナウンスで補っていくため、どこでどのようにアナウンスするかも確認している。
そうして、全ての確認を終え、リハーサルが終了した。
加奈子や藤代さんの演技も、そして、司会のアナウンスのタイミングもばっちりのようだ。
「ヨシッ。お疲れさん。これでリハーサルは終了だ。では、お待ちかねのお昼休憩と行こう。少年、どうだ?」
原田先生は、僕にスマホを確認するように指示する。
そこには、早織からのLINE。
<ホールに着いたよ。お弁当もみんなの分を持ってきました。ロビーで待機しています。>
と記されている。
「はい。準備が出来ているようです。」
僕の言葉に原田先生は頷く。
「ヨシッ。お弁当がロビーに届いているようなので、一人一つ、受け取るように。ああ。お弁当を作ってくれた人が配ってくれるようだから、お礼をちゃんと言うこと。そして。昼食は、楽屋かロビーでお願いします!!」
原田先生は皆に次の集合時間と場所を伝えて、解散させた。
一目散に、ホールの外へ、駆けていく、幼稚園児や小学生の子供達。
それを見ながら、僕、加奈子、藤代さん、原田先生、そして、吉岡先生は一番最後にステージの外、ロビーへと向かった。
「やあ、輝君。リハーサルと言い、完璧だったよ。」
吉岡先生が親指を立てて笑っている。
「はいっ。ありがとうございます。」
僕は吉岡先生に頭を下げる。吉岡先生は首を横に振る。そして。
「お礼を言うのはこっちだよ。君は協力スタッフの一人だ。それに・・・。」
吉岡先生は一呼吸おいて。
「輝君や加奈子ちゃんが色々大変な思いを背負っていたことも聞いているよ。この時期、僕は、色々なバレエ団でヘルプのダンサーとして入っているから、時間が無くてね。力になれず申し訳ない。【春のキングオブパスタ】は時間が取れそうだから見に行くね。」
吉岡先生が僕に謝る。
「いえいえ。気にしないでください。やっと、元気になりましたから。むしろ、早織はバレエ教室の生徒でもないのに、気にかけてくださって、ありがとうございます。」
「いえいえ。まあ、夏の海で仲良くなったしね。気にするさ。さあ。楽しみだな。お弁当!!」
吉岡先生が、ノリノリの表情で笑っていた。
そうして僕たちは、ホールを出て、ロビーへたどり着く。
「ありがとう!!」
「ありがとうございます。」
そこにはすでに、お弁当を笑顔で受け取り、ニコニコとお礼を言って去っていく、バレエ教室の生徒たちの姿があった。
それを見て、かなり上出来のお弁当が出来たことを確信する僕たち。
そうして、一番最後に、僕と加奈子、藤代さん、原田先生、そして、吉岡先生がお弁当を受け取った。
「お疲れ様。輝君。早織ちゃん、とっても頑張っていたわよ。」
史奈がニコニコ声をかける。
お弁当を一緒に配っていたのは、早織と道三だけでなく、生徒会メンバーに家庭科部員たち、さらには心音と風歌、そして、マユも一緒に来て手伝っていた。
「へへへっ。実は私も手伝っちゃったり。」
史奈の隣にいた、葉月がニコニコ笑いながら言う。
「さあ。八木原さん。ハッシーや先生たちに、声かけてあげて。」
結花が優しく声をかける。
「あ、あの、輝君。加奈子先輩。それに、雅ちゃんに、先生方・・・・。」
早織は僕たちを見て、彼女の瞳が潤っていく。
「あの、本当に、ありがとうございます。予約してくれて。」
早織は深々と頭を下げ、お礼を言った。
「ううん。早織、お礼を言うのはこっちの方だし。本当に、早織が元気になってくれて良かった。」
僕はニコニコ笑う。
「ああっ。少年と同じだ。本当にありがとう!!さっきまでお弁当を受け取っていた、ウチの教室のみんなの表情を見て分かるよ。お前の作ったお弁当、絶対美味しいってさ。」
原田先生は親指を立てて、早織に向かって、大きく頷いていた。
「あ、ありがとうございます。」
早織の瞳の色は確かに涙があったが、口元は笑顔で、微笑んでいた。
「そういうことっすよ。お嬢。」
「うんうん。そうだよ。まあ、私は、味見担当だったけど、すっごく美味しかったしね。」
義信とマユが早織の肩をポンポンと叩いて、笑っていた。
「良かったじゃねえか。早織。だけど、泣くのは早いぞ。打ち上げの料理の作業がまだ残ってるからな!!」
道三は早織をそう励ます。
「うん。わかってるよ。お祖父ちゃん。」
早織は頷き、僕たちにお弁当を渡してくれた。
ロビーの空いているソファーへと移動し、僕たちは弁当を食べることにした。
そして、折角なので、早織と道三にも、その場所に来てもらって、一緒にお弁当を食べることになった。
改めて、お弁当の蓋を開ける。
透明の蓋であったので、何が入っているか、既にわかっているのだが、蓋を開けるとさらに具材の色がより鮮明に映った。
「すごい。どれも美味しそうだよ!!」
僕は早織に向かって声をかける。
「ああ。本当だ。やっぱり、お前さんに頼んで正解だった。」
原田先生もニコニコと笑っている。
全員で、頂きますといって、お弁当を食べ始めた。
お弁当の具材は、温かいご飯に、鮭、卵焼き、ポテトサラダと、アスパラといんげんのベーコン巻きときんぴらごぼうだった。
「すみません。少し、量が多めですが、リハーサルをやっての本番前なので、すこしヘルシーに作りました。唐揚げとかは、打ち上げの時に用意しますので。」
早織が丁寧に説明する。
「ああっ。十分、十分、やっぱり流石だよ。早織ちゃん。」
吉岡先生は早織の方を向いて、ニコニコと笑っている。
「ほんとうに、すごい。そして、美味しい。ありがとうございます。早織ちゃん。」
藤代さんも笑っていた。
「ありがとう。雅ちゃん。」
早織も笑顔になる。夏の海で仲良くなった二人、その親友からそう声をかけられると、早織も少しウルッと来きていた。
早織のお弁当はどれも美味しかった。
鮭もしっかり焼けている、卵焼きにはしっかりとした、砂糖の甘さが残っており、きんぴらごぼうにも、ごま油のいい香りがする。
ポテトサラダと、アスパラといんげんのベーコン巻きも本当に美味しかった。
「すごく美味しいよ。早織、早織も、食べてみてよ。」
僕の声に早織は頷く。
早織も自分の分の弁当を持ってきていたのでそれを食べる。
一口、一口、ゆっくり食べる早織。
「うん。美味しい。」
そういって、ふうっと、ため息をつき、胸をなでおろす早織の姿があった。
「よし。よし。」
それを見ている道三は大きく頷いていた。頷いていたのだが。
道三は自分の弁当を持っていなかった。
「道三さんは食べないのですか?お孫さんの作ったお弁当。」
僕は道三に聞く。
その言葉を聞いて。
「ああっ。」
「確かに。美味しいですよ。」
一緒に居た加奈子たちが反応する。
「ああ。心配してくれて、ありがとな。ガキンチョ。儂は後で良い。後でちゃんと、食べるさ。ちゃんと後で食べれるように、用意しているから。」
道三はニコニコ笑っていた。
「うん。お祖父ちゃんは最近そんな感じなの。心配してくれてありがとね。」
早織は笑っていた。
「そうか。それなら大丈夫かな。」
僕は頷く。それと同時に、加奈子と藤代さんも安心したかのように頷いた。
「ああ。そう言うことなら、是非、お孫さんの作ったお弁当、お爺様も、後で沢山食べてくださいね。」
「ええ。本当に、お弁当、ありがとうございました。」
原田先生と吉岡先生は、道三に向って会釈していた。
だが、二人の口元は笑っていても、目はどこか遠くを見る感じで、会釈をした。
そして、暗雲の呼吸で、お互いの顔を見て、頷いていた。
そうして、お弁当を食べ終える僕たち。
早織に空いた容器を渡して、それぞれお礼を言って、控室の方へ向かった。
「本当に美味しかったね。輝。」
「うん。ありがとう。加奈子。この提案を思いついてくれて。」
加奈子は僕に向かって笑っていた。
「お礼を言うなら、先生に言ってよ。」
加奈子の言葉に、原田先生の方へ向いたお礼を言った。
「原田先生、ありがとうございました。僕たちの頼みを聞いてくださって。」
僕は原田先生にお礼を言ったが。
「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。あの子に頼んで正解だった。ありがとなっ。少年!!」
原田先生は、ニコニコ笑って、親指を立てた。
「さあ。クリスマスコンサート、頑張ろう。集合時刻に、遅れないように来てくれよ!!」
原田先生は僕に向かって頷いた。
「はいっ。」
僕も元気よくそれに応えて、用意してくれた控室へ戻り、本番に向けて準備するのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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