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128.保護者向け発表会(クリスマスコンサート、その1)


 一生懸命、ピアノを弾く僕。

 そして、それに応えて、踊っていく加奈子。

 曲目は加奈子のソロステージ、『英雄ポロネーズ』。


 「さすが、加奈子ちゃん。」

 「すごい。すごい!!」

 一緒に見ているバレエ教室の子供達も、加奈子の演技に興味津々。


 「おおっ。これがやっぱり、このバレエ教室の最高峰にして、ウチの娘の目標だな。」

 子供たちの後ろで見ている保護者達もニコニコと笑っている。


 駅伝大会からのマユの応援から、さらに数週間、気付けば、師走に入り、今日は、加奈子の通うバレエ教室恒例の、クリスマスコンサート保護者向け発表会と、ゲネプロを兼ねていた。


 ゲネプロ。総通しのリハーサルと言っていいだろう。

 本番と同じプログラムで、全て通す形だ。


 本来は使うホールでやる場合がほとんどなのだが、予算の関係上、このバレエ教室の一番広い教室で行われていた。


 そうして、開催された、保護者向け発表会。

 保護者やバレエ教室に通う全生徒の中で見せる中で、緊張している生徒もいれば、真剣に取り組む生徒もいる。


 勿論、そんな雰囲気においても、加奈子は、堂々と真剣に演技をしていく人物だった。客席は加奈子の演技に魅了されていった。

 僕もそれに応えようと、必死でピアノ伴奏をしていく。


 そして。最高の演技の中、大きな拍手をもって、加奈子のソロステージの保護者向け発表会は終了した。


 「ヨシッ。少年、お疲れ。後は楽しんでな。」

 原田先生はピアノを弾き終えた僕をニコニコハイタッチ出迎えた。


 本番のプログラムの流れに沿うと、加奈子のソロステージの後は、メインステージの『くるみ割り人形』だった。


 『くるみ割り人形』はクリスマスコンサートの最後のステージにあたる。

 オーケストラの音源を使用するので、僕のピアノ伴奏は、ここまでとなる。


 というわけで、残りの時間は、保護者と一緒に、『くるみ割り人形』のステージを楽しんだ。


 加奈子のクララも、お見事。

 そして、王子様役の吉岡先生の演技も魅力的だった。


 『くるみ割り人形』には、僕の馴染みのある曲がとても多い。


 『行進曲』では、クリスマスの喜びを表すように、軽やかに踊っていく、加奈子と、その他、子供達。

 『アラビアの踊』、『中国の踊』と続き、何といっても、僕が一番よく知っている曲。『花のワルツ』では、全員綺麗にそろった動きを見せる。


 当然、僕も、練習で何度もこの動きを見ているが、やはり、実際に衣装を着て、この光景を目にすると、華やかな光景が広がっていった。


 「どうだ?少年。」

 楽しそうな僕の表情を見て、原田先生が聞いてくる。

 「ええ。楽しいです。とても。練習の時から見てましたが。実際に衣装を着ると綺麗だなと。それに。」

 「それに?」

 原田先生の言葉に素直になる僕。


 「はい。バレエの振付をすると、こんなふうに綺麗なんだなぁと。今まで、音楽、オーケストラの演奏しか、知りませんでしたから。」

 確かにそうだ。加奈子と出会わなければ、僕は、このまま、オーケストラの演奏しか知らなかっただろう。

 この組曲に、バレエの振付が実はある。という程度の理解で終わっていたかもしれない。


 「だろうな。これがバレエだ。楽しんでくれて良かったよ。」

 原田先生はニコニコ笑っていた。


 そして。

 『くるみ割り人形』の中でも、一番、肝心の部分。『金平糖の踊』に入った。

 踊り手は、勿論、藤代さん。


 「さすがだな。」

 原田先生は藤代さんのバレエに大きく頷いている。

 「はい。すごいです。何度見ても。」

 原田先生の隣に座っている僕。藤代さんのバレエも、加奈子のバレエとほぼ同じくらい、安定感があり、安心して見ていられた。


 そして。

 『金平糖の踊』をフィニッシュすると、会場から大きな拍手が沸き起こる。

 『くるみ割り人形』のステージの途中のため、藤代さんは、観客の拍手に大きく応えようとはせず、小さく会釈して、演技を終えた。

 そして、藤代さんは、僕の方を見て、小さく笑っていた。


 親指を立てて、合図する僕。

 隣に座る原田先生も、うんうんと、頷いている。


 それを見たのだろうか、藤代さんの顔が少し緩んでいた。


 言われてみれば、彼女はまだ中学生。しっかりしている大和撫子ではあるが、こういう面が少し垣間見れて、何だかホッとしている僕が居た。


 それ以降の曲目も、問題なく進み、保護者向け発表会兼、クリスマスコンサートのゲネプロは、無事に終了した。

 どれも大きな拍手が沸き起こっており、最高の盛り上がりを見せていた。


 教室の照明を明るくし、皆を集める原田先生。


 「ヨシッ。お前たち、お疲れ様だったな。すごく良くできているから、本番までに引き続き、気を抜かず、精度を上げて行こう!!」

 原田先生はバレエ教室の皆を集め、そう告げた。


 そして、原田先生は、さらに続ける。

 「それでは、全員集まっていますので、当日の流れの説明を行います。当日、お手伝いいただける、保護者の方、申し訳ありませんが、この後、生徒と一緒にお残り頂けますでしょうか。」

 原田先生は、普段の口調を変え、保護者の人達に頭をさげた。


 「それじゃあ、今から、当日のしおりを、周りの先生たちに配っていくから、受け取ってくれ、全部で、五枚ある。下にページが書かれているから、同じものを取らないように注意して、受け取ってくれ。えっと、お手伝いいただける、保護者の皆様も、これからお配りするしおりをお受け取りください。」

 原田先生は、周りの先生に指示し、しおりを配るように促した。


 しおりの紙を配っている間に原田先生は、僕と加奈子を手招きし、一度、先ほどまで発表会が行われていたこの部屋を出るように促す。

 僕と加奈子、そして原田先生は、その部屋をでて、玄関のロビーで立ち話をする。


 「呼び出してすまないな。お前たち。まずはこれ。」

 原田先生から、僕と加奈子に、当日のしおりを渡される。そのしおりは、ホッチキスで綺麗に製本されていた。


 「しおりを配布している間に、最終確認したいことがあって、お前たちの分は先に私が用意しておいた。特に、少年の場合は、協力してくれるスタッフでもあるから、そうさせてくれ。」

 「ありがとうございます。」

 僕は頭を下げる。

 「すみません。ありがとうございます。先生。」

 加奈子も原田先生に向かって、頭を下げていた。


 「さてと。最終確認したいことは、他でもない。あの子、早織ちゃんのことについてだが・・・・。この後、正式に、お弁当と打ち上げの連絡をしていいだろうか。」

 原田先生が僕と加奈子を見つめる。


 僕と加奈子はお互いを見つめ合って、頷く。

 「「はい。勿論です!!」」


 声をそろえて言ったことに、原田先生は驚きを隠せなかった。


 「おおっ。大した自信だな!!それだけ大丈夫ということか?」

 原田先生の言葉に僕と加奈子はそろえて頷く。


 「根拠なら、あります。」

 加奈子が原田先生に言う。


 僕たちは、その根拠を原田先生に話すことにした。



 先日のこと。

 早織はしばらく、家庭科部ではなく、生徒会活動に専念していた。


 そうして、みるみるうちに、自信を取り戻し、お弁当作りも、以前の腕とは比べ物にならないくらいレベルが上がったところで、再び、家庭科部へと早織は足を運んだ。


 家庭科部の活動は、富田部長が上手くまとめてくれていたようで、黒山のSNSの一件以降、家庭科部内で大きな混乱もなく、安心だった。

 そういう意味では、富田部長に感謝しかない。


 そして、思ったよりも長い期間、早織は、家庭科部を休部している形になっていた。


 その日は、勇気を出して、家庭科部に一歩踏み出して、謝罪と説明をすることになった。

 といっても、心配だったので、僕たち、生徒会メンバーもついて行くことにした。


 「ありがとう。輝君。皆さん。」

 早織の言葉に、僕は首を横に振る。


 「大丈夫。早織は悪くないから。頑張ってるの、皆、知っているから。」

 僕は頷く。

 「そうだよ。堂々としていいんだよ。八木原さん。」

 結花もニコニコ笑った。

 早織はその言葉に励まされるかのように、大きく頷く。


 「おう。それでこそお嬢ですぜ。顔つき、変わりましたな。」

 義信がうんうんと、豪快に、大胆に頷いている。


 葉月、加奈子、そして、史奈も大きく頷いて笑っていた。


 そうして、家庭科室の扉を開け、富田部長に迎えられる僕たち。

 さらには、富田部長の後には、赤城兄妹を含む、大勢の家庭科部員たちが、出迎えてくれた。

 その出迎えを受け、早織の心配事は杞憂に終わった。


 「早織ちゃん、お帰り!!」

 「待ってたよ!!」

 そんな声が飛び交う。


 「はいはい。みんな!!」

 富田部長はそのテンションを一度沈めて。


 「さてと。私からは、説明しておいたけど、八木原さんの方からも説明できる?」

 そうして、改めて富田部長から、早織に説明するように。促される。


 「はい。その、皆さん。本当にごめんなさい。SNSでお騒がせしてしまって。」

 早織は、頭を下げる。

 「SNSの投稿主は、私の祖父の古い知人の方です。その人は、祖父の料理の才能を妬んでは、かなり昔から、嫌がらせをしてきていました。それで・・・・。」

 早織は勇気を振り絞って、家庭科部の仲間たちに説明する。


 当然だが、僕たちもフォローする。

 そのことがきっかけで、僕と結花が、文化祭を手伝った経緯。キングオブパスタに出場する経緯も話した。

 さらには、心配している皆を安心させるため、今、加奈子のバレエ教室のクリスマスコンサートの差し入れや、打ち上げの準備を行っていることも話した。


 話を聞いていた家庭科部員たちは、そのことを富田部長から説明されていたのか、大方知っているようだった。

 すべてを話し終えた後、待っていたのは、拍手の嵐だった。


 「よく戻って来たね。早織ちゃん。」

 「本当にすごいよ!!」

 そんな声が家庭科部内から聞こえた。


 「あの。これからも一緒に、活動してくれますか?」

 早織は、家庭科部内の皆にこう問いかける。


 「「もちろん!!」」

 家庭科部の皆が声をそろえて言う。


 「当然よ。貴方は、立派な家庭科部の一員よ。」

 富田部長がニコニコと笑う。


 そして。

 「私たちも、春のキングオブパスタに協力するわ。ああっ、そうだわ。井野さんのクリスマスコンサートも協力しようかしら。」

 富田部長はニコニコ笑う。


 「本当ですか。ありがとうございます。」

 早織は富田部長と家庭科部員たちに、大きな声でお礼を言い、頭を下げていた。

 そこからは、部員たちの温かい拍手がいつまでも鳴りやまなかった。


 こうして、クリスマスコンサートのお弁当と打ち上げに家庭科部も協力してくれることになった。


 そのことを原田先生に話す僕と加奈子。


 「ヨシッ。やっぱりすごいよ。お前たちは!!」

 原田先生は親指を立てて、大きく頷き、再び、バレエスタジオの生徒たちと保護者の前に戻って行った。

 それを見て、僕と加奈子も、その輪の中に加わる。


 「さて、しおりは皆もらったかな?保護者の皆様も受け取っていただけましたでしょうか?もらっていない人は手を挙げて・・・・。」

 原田先生は全てを確認し終える。


 「それじゃあ。当日の流れについて、説明していくぞ。しおりを開いてくれ。」

 原田先生は、当日の集合時間、リハーサルの時間、ホールの設備や経路について説明していく。

 保護者の人には、当日の係りの割り振りを説明していった。

 

 皆、原田先生の説明に頷きながら説明していく。


 「以上だが、質問はありますか?」

 原田先生が皆に質疑応答の時間を設け、いくつかの質問に答えていく。


 そして。

 「それでは、以上で、当日の流れの説明を終わるが、何と。皆にビッグニュースがあります!!」

 原田先生はニコニコと笑いながら言った。


 バレエ教室の生徒たちはドキドキした表情で原田先生を見ている。


 「なんと、当日は、昼食のお弁当が出ます。そして、打ち上げのお店も、かつて、この町出身の、総理大臣をやったことがある人が来たというお店で行います!!お昼のお弁当もそのお店の人が作ってくれます。結構オシャレなお店なので楽しみに待っててね。」


 「うわぁ~。」

 「すごい!!」

 生徒たちの瞳の色がますます輝いた。

 これには彼らの後ろにいた保護者もびっくりしていた。


 「実は、そのお店の人は、加奈子ちゃんと橋本君の同じ学校の友達のお爺様ということであり、そのお友達も、お爺様と一緒に、お弁当作りと、打ち上げのお料理作りに協力してくれるんだよね。」

 原田先生は、僕と加奈子の方を見る。


 僕と加奈子は頷く。

 「はい。その子も、すごく張り切って、頑張ってますので、是非、楽しみにしていてください。」

 僕は簡潔に挨拶をした。

 加奈子も頷いて笑っている。


 「すごく楽しみにしているので、先ずは、クリスマスコンサート、一緒に頑張りましょうね!!」

 加奈子は、僕の説明にそうつけ足した。


 「「「はーいっ!!」」」

 生徒たちは、一斉に手を挙げて笑っていた。


 やはり、食事は僕たち皆の楽しみなのだろう。そんなことが凄く伝わって来た。


 「それじゃあ、最後は、いつものように円陣で、気合を入れていくぞ!!」

 原田先生の言葉に促され、僕たちは円陣を組んだ。


 「それじゃあ。クリスマスコンサート。頑張っていくぞ!!」

 「「「おーっ!!!」」」

 原田先生の言葉に、気合を入れて応える。


 そうして、今日の保護者向け発表会は終了して、帰路に就く。


 「あーっ。少年、帰る前に。これを。あの子に渡してくれ。」

 原田先生は封筒を渡した。


 封筒には、『八木原早織様、八木原道三様』と書いてある。

 

 「クリスマスコンサートの特別招待状だ。同じクラスと聞いているからな。」

 原田先生は笑っていた。


 「ありがとうございます。早織も、喜ぶと思います。」

 僕は頷く。


 「ああっ。くれぐれも、早織ちゃんをよろしく頼むよ。」

 「はいっ。」

 原田先生の言葉に、頷く僕。


 そのやり取りを見ていた藤代さんが、僕たちに近づく。

 「橋本さん。私からも。是非、早織さんをよろしくお願いします。」

 「わかった。任せておいて。」

 藤代さんが丁寧に頭を下げる。

 その言葉に頷き、親指を立てて笑う僕。


 「ありがとうございます。橋本さん。」

 藤代さんは、顔を赤くしながら、満面の笑みで僕を見る。


 「そう言うことだ。よろしく。そして、気を付けてな。」

 原田先生は僕の肩をポンポンと叩いて、藤代さんと一緒に、帰路に就く僕を見送ってくれた。


 さあ、クリスマスコンサート、僕も頑張ろう。

 僕は、原田先生からもらった、早織宛の招待状を鞄にしまい、帰路に就いたのだった。

 


 


今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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