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127.マユの応援

 

 十一月の最後の週末を迎え、山肌の紅葉の色も深まったころ。

 僕たち生徒会メンバーは、その紅葉した山肌の麓に来ていた。


 山の紅葉は、確かに綺麗だが、次第に落ち始めている。

 十一月の下旬。冬の訪れだ。


「さあ。ひかるんも、さおりんも、頑張ったし、私も頑張らなきゃね。」

 マユはウィンクしながら、今日この場所に来て欲しいことを伝えていた。


 十一月の最後の週末は雲雀川の駅伝大会が開かれる。

 小学生の部、中学生の部、大学・社会人チームの部と続き、最後に、高校生の部が行われる。

 何故に、高校生の部が最後かと言うと。


「高校生の部がメインだからね。なんてったって、ここで優勝すれば、年末の高校駅伝のこの県の代表として、出場できるんだから。」

 葉月がニコニコ笑いながら言った。


「そういう意味で言うと、例年は、十一月の最初の週末にやってて、今年は、色々と工事の関係で、一か月くらい遅い開催なんだけど、皆がこうして応援に来るには丁度いい時期で逆に良かったかもね。」

 地元出身の葉月が説明する。

 なるほど、確かに、例年通りの開催だと、僕たちは文化祭の対応に追われているよな。と思いながら、葉月の言葉に頷く。


「そうね。でも、マユちゃんにとっても、今年のこの時期の開催はプラスに働いたと思うわ。」

 史奈がニコニコ笑いながら言う。


 そう。駅伝大会ということで、幼馴染のマユこと、熊谷真由子がこの大会に出場するのだった。


 マユからこのことが伝えられたのは、つい先週のこと。

 なんと、この大会のメンバーに選ばれたのだという。


 日程が後ろ倒しになったということが、マユの場合は功を奏したようだ。


「真由子ちゃんも輝君と早織ちゃんと一緒で、例の一件を乗り切って、気持ちが働いたんだね。」

 葉月は僕と早織に向かってウィンクする。


「そうだね。マユからのLINEで、『監督曰く、例年通りだったら、メンバー外だったかもって、言ってた。ひかるんとさおりんのお陰です。』だってさ。」

 僕はマユからのLINEを見せながら頷くが、まさにその通りだった。


 安久尾と反町の一件で、犠牲になっていたマユ。マユは地元の高校に進学させてもらえず、この地域の高校に進学した。


 当然だが、メンタルを相当やられ、一年次はあまり目立った活躍ができなかった。


 だけど、同じ安久尾建設の犠牲者である僕との再会、そして、黒山の暴露により、同じ犠牲者となってしまった、早織の文化祭での活躍、そして、文化祭の後のもう一歩踏み出す姿勢を見て、奮起したのだろう。

 学校は違ったので、わからなかったが、マユもかなり頑張っていた。


 僕との再会、安久尾建設の逮捕の一件で、気持ちを切り替え調子が上がったのだろう。

 そのお陰で、今日のメンバーに選ばれた。しかも、それでも補欠の予定だったが、今日の当日変更で、走るメンバーに選ばれたのだった。


「本当にすごいわね。マユちゃん。」

 史奈がニコニコ笑っている。

「はあ。でも、大丈夫かな・・・・。」

 と、加奈子のため息。


「大丈夫だよ。マユなら。」

 僕は加奈子に声をかける。


「まあ。明るいあの子なら、そう言う意味では大丈夫だけど。このコースがね。」

 加奈子は頷く、同じ意味で、加奈子のその言葉の意味を理解している、葉月、史奈、結花、早織、さらには義信までも頷いている。

 そして、加奈子の指さした方向を見て、僕も頷かざるを得なかった。

 加奈子の指さした方向には、紅葉した、小高い山へ続く坂道が続いている。


「この地域は、陸上競技が結構強いんだ。毎年この地域、甲子園とか、サッカーはすぐに負けちゃって、数年間、初戦突破できてないんだけど。高校駅伝は毎年結構上の順位に来てるかな。」

 葉月がニコニコ笑いながら説明する。

 陸上競技が強い理由として、一つは正月に開催している、実業団の全国駅伝があること。そして、もう一つ。これが一番大きな理由なのだが、予選で使われるこのコースにあることだった。


 小学生の部は陸上競技場のトラックで、そして、中学生と、大学、社会人の部は、その陸上競技場プラス、併設されている、緑地公園内と、雲雀川の河川敷がコースになる。

 因みに、陸上競技場の場所は、黒山に、早織の秘密を暴露された、あの雨の日、早織を追いかけて、自転車で通って来た、緑地公園の中にある。

 つまり、中学生と大学、社会人は、その緑地公園のコースが舞台である。


 そして、メインイベントの高校生は、陸上競技場と緑地公園を飛び出し、公道での舞台となる。


 問題は、その公道のコースなのだが。


 まず、高校女子は全部で五区間。全部の距離はハーフマラソンの二十一キロ強となり、一区が最長の六キロ。二区が四キロちょっと。三区、四区が三キロ。五区が五キロ。これは高校駅伝の全国大会と同じになるように設定されている。

 これに関しては、ほかの県も、全国大会も、特に変わらない。


 だけど、問題はそのコースの内容だ。

「三区と四区は短いと思うけど、侮るなかれ。この地域の、三区は上り、四区は下りの区間になります。あの観音像、見えるかな?」

 史奈がその観音像を指さす。

 確かに岩でできた、大きな観音像が目に留まる。僕はうんうんと頷く。


「うん。あの観音像は山の上に立ってて、まあ、山の上がそれも兼ねたお寺なんだけど、この道は、その観音像まで続いていて、その観音像の所が、女子の三区と四区の中継所。で、そこから折り返して、下り、というコースです。」

 史奈が説明する。


「ちょっと~。そこは私が説明するところでしたよ。」

 葉月が史奈の方を見る。


「はいはい。ごめんね。葉月ちゃん。」

 史奈が目は笑ってないが、口元はすまなそうな口調で葉月に続きを振る。


「ちなみに、男子の方はちょっと長い距離になるので、別のコースを使うんだけど、男子の五区、六区も同じこの坂道を使います。さながら高校生版、箱根駅伝みたいだね。」

 葉月がニコニコ笑いながら付け足す。

 葉月の説明は頷ける。確かにそうだ。そんなコースを走るとなると、さすがにキツイい。本番でも上位に上がってくることがよくわかる。


 大きな観音像がある山は、標高は三百メートルにも満たないが、その道を走るとなるとかなりきついだろう。


 そして、マユの走る区間というのが、その上り坂メインの三区だった。

 一番短い距離ではあるが、上り坂。相当の力が無いと登れないだろう。


 だからこうして、大きな観音像のある山の麓の道に集まったのだった。


 いざ、走る区間を聞いて、そのコースに立ち、少し心配する僕。


 しかし、こうして、マユが陸上というもので頑張っている所を見るのが、久しぶりだと思う。

 前は合宿の練習中だったし、やはり、違う高校だから、部活をやっている所も見られない。


 そうなってくると、普段、どんな練習をしているか、わからないことになる。

 にもかかわらず、僕たちと一緒に時間を取ってくれることに感謝するのだった。


 そう思ってくると、自然と応援したくなる僕だった。


「かなりキツそう。大丈夫かな・・・・。」

 ここで初めて早織が口を開く。

「大丈夫だよ。マユなら、頑張っている所を見て欲しいって、言ってただろ。特に早織に。」

「うん。」

 早織は頷く。


「私も、聞いていたし、コースも知っているから、わかるんだけど。実際に歩いてみると、キツそう。」

 早織は少し不安そうな顔になる。


「そうだね。でも、こうして、ここを頑張って走れるマユって、すごいと思う。しかも親元を離れて、一人暮らしをしてさ・・・・。」

 僕は早織に言う。最後の方は言葉を濁すように言うしかなかったが、それでも早織に伝わるように言う。


「そうだよね。」

 早織は、僕の言葉を理解したのか、深く頷く。


「さてとっ。」

 ポンポンと叩きながら加奈子がまとめる。


「マユのことは大事だし、もちろん私も、応援したいんだけど。折角生徒会メンバーが皆いるので、花園学園の応援も忘れないでね。一応、頑張っている生徒を見て、応援するのが生徒会の役目なんだから・・・。」

 加奈子が僕たちに向かって言う。


「うん。そうだね。」

 僕は頷く。


「はーい。」

「オッケー。」

 葉月、結花が得意げに言う。


「勿論っすよ。会長。」

 義信が親指を立てて笑う。


 早織は黙ってうなずく。


「ふふふっ。そうよね。こうやって定期的に試合に応援に行くのは大事よ~。ああ。私の方にも来てくれて、嬉しかったわ。」

 史奈がニコニコ笑う。


 そう。これは、マユの応援だけでなく、生徒会メンバーとして、自分の学校も応援することも兼ねている。

 生徒会メンバーは、定期的に運動部の試合だったり、文化部のコンクールに応援に行くことになる。

 運動部であれば、六月にあった、史奈のバレーボールの試合がそれだし、文化部で言えば、心音と風歌のコーラス部のコンクールがそれだ。

 ということで、今回は、マユの応援も兼ねて、陸上部の、高校駅伝の予選を見に行くことになった。


「ということなので、一箇所に固まるのではなくて、分散しましょう。加奈子はここで待機ね。山の麓丁度、上り坂の入り口だね。すぐそばに、三区の選手のスタート地点があるからね。」

 葉月の言葉に加奈子は頷く。


「オッケー。それじゃあ、輝たちをよろしくね。」

 加奈子は頷く。


「それじゃあ、他の皆は私に付いてきて。」

 葉月の言葉に僕たちは頷き、レースが始まる一足先に、山の麓の道を登っていくことになった。


 紅葉が色づく山道。公道として舗装されているとはいえ、確かに上り坂で、歩くのもキツい。

 ここを走るのは流石にキツいと、僕は思う。


「やっぱり登るね。」

 僕は言う。

「そうでしょ。車とかだと、あんまり感じないと思うけど歩いたり走ったりするとね。」

 葉月は笑っている。

 確かに表情はキツそうだが、地元の人間で、ゴールがわかっているのだろうか。その意味で余裕がある。


 そういう意味でも、マユは大丈夫だろうか。と不安になる。


 そうして山の中腹に差し掛かる。

「さてと。私と輝君と早織ちゃんはここで待機しよっか。丁度中間地点だからね。」

 葉月が笑っている。

 その言葉に僕と早織は頷く。


「上の方は、三人で行けそうかな?」

 葉月は史奈、結花、そして義信に声をかける。


「オッケー。私もここは有名な場所で来たことあるから。」

「任せてくだせえ。爺ちゃんたちに何度連れて来られたことか。」

「了解よ。去年も応援に行ったし、わかるから。」

 結花、義信、そして、史奈はニコニコと笑いながら頷いた。


「うん。ほとんど一本道だし、大丈夫か。よろしくね!」

 葉月の言葉に頷く三人。

「あ、会長もいらっしゃいますので、よろしくお願いします!」

 葉月は改めて、史奈に頭を下げる。


「ふふふっ。よくできました。葉月ちゃん。それじゃあ、上の方は、私たちで行きましょう。」

 史奈は結花と義信を連れて、上がって行った。

 流石は運動部経験者で、体力のある三人。ある気ではあるが、元気よく坂道を登って行った。


 そうして待つこと三十分。

 その間に、沿道には駅伝大会を応援しようと人が集まって来た。


「山道なのによく集まるね。」

 僕は葉月に声をかけると。


「まあ、ここは男女共通のコースの道だからね。」

 葉月はニコニコ笑う。

 確かにそうだ。女子の後に、男子のスタートがある。そう考えるとその流れも自然なことだった。


 ここで僕たちは時計を見る。

 どうやら、スタートの時刻は過ぎているようだ。

 当然だが、号砲は聞こえないが、もう始まっていることが、にわかに感じる。

 沿道の熱気からそれが伝わる。


 沿道の応援している人々の中に、各校の旗を準備している人たちがいる。


 どうやら、駅伝の襷は、山の麓に確実に向かって来ているようだ。


 時間の経過とともに、緊張していく僕。

 そして。


 交通規制開始のパトカーが通る。

 そして。数分の後、新聞記者が乗ったバイクと、白バイとともに、先頭を走るチームがやって来た。


「頑張れ!!」

 必死になって、叫ぶ僕たち。

 本当にここが上り坂なのだろうか。それを思わせるくらい迫力のある走りで坂を駆け上がっていく。


「やっぱり一位の学校は流石だね。」

 葉月が感心している。

「と言いますと。」

 僕が葉月に聞く。

「一位の学校は六年連続で全国出場、つまり、六年連続一位の学校だよ。勿論、全国でも優勝経験があります。」

 葉月はニコニコ笑いながら説明する。


 なるほど、超がつくくらいの強豪校だな。

 現に、一位のチームとの差、つまり、トップとの差がかなり開いている。


 そうして、四十秒ほど後ろに二位のチーム。

 二位のチームも最近強くなったというチームで、一年生、二年生を中心としたメンバー構成をしているらしい。かなり健闘している。


 さらにそこから、三十秒ほど後ろに、三位争いの集団。三人の集団で形成しており、その中に、マユの姿が。


「マユ!!頑張れ!!」

 僕は咄嗟に声が出る。


 だが、しかし。

「マユちゃん、頑張って!!」

 早織は僕よりも大声で叫ぶ。


「頑張れ!!」

 葉月も早織の声に反応したのか、早織に負けないようにと、声を出す。


 マユはそれに反応したのか、ニコニコと笑って余裕を持ちながら、こちらに視線を合わせる。

 そして。


「うん。応援に応えてくれたみたいだね。」

 葉月の指さす方向に、小さくなっていくマユの姿。


 だが、マユは、三位集団の先頭に立ち、その集団を引っ張っていく形になった。

 一気にペースが上がった気がしたのだった。


 勿論、僕たちは、その次にやって来た花園学園の選手も全力で応援した。


 そして、あっという間に、女子の最後の選手が通り過ぎ、一時、通行止めは解除となった。


 この日、何よりも驚いたのは早織の大声だった。

 早織を見ると、瞳の色をキラキラ輝かせている。


「すごいね、早織、まさかあんなに大きな声が出せるなんて。」

 僕は早織に声をかける。


「私も驚いちゃった。」

 葉月も驚き、早織を見る。


「う、うん。みんな、すごく頑張っているから。」

 早織は恥ずかしそうに言う。


「早織だって同じだよ。キングオブパスタに向けて、頑張ってるよ。」

 僕は早織に向かって言う。


「あ、ありがとう。輝君。」

 早織は頷く。


 そうして、僕と葉月と早織は、観音像の方へ再び山を登って行った。


 おそらく、先ほどの陸上競技選手よりも何倍もの時間がかかり、僕たちは観音像の下、山の上のお寺へとたどり着いた。

 見ると、レースを走り終わった女子の選手が丁度引き上げてくるところだった。


 それに紛れるように、結花と義信、さらには史奈の姿。


「お疲れっす。社長。マユさんすごかったっすね。」

 義信が親指を立てて笑っている。

「ああっ、勿論、ウチの高校も健闘しましたね。」

 義信は大きく頷いて笑った。


「ふふふっ。やっぱり輝君の応援は違うわね。集団を引っ張って、最後は、一気にスパートした状態で、駆け抜けて行ったわよ。きっと、集団を引っ張るような走りをしたのは、輝君のお陰よね。」

 史奈がニヤニヤと笑っている。その表情はどこか羨ましそうだ。


 僕と早織はそろって頷く。


「やっぱり、会長には見抜かれてましたね。でも、今回のMVPは早織ちゃんかもね。輝君よりも大きな声出してた。」

 葉月はニコニコ笑いながら早織を見る。


「そう。早織ちゃんが元気になってくれて本当に良かったわ。」

 史奈がニコニコ頷く。


「八木原さん、ナイスファイト!!」

 結花が早織の肩をポンと叩く。


「あ、ありがとうございます。」

 早織は恥ずかしそうに、頭を下げる。


 すると、そこに。

「おーい。ひかるん。さおりん。」


 今日の主役。マユこと熊谷真由子が大きく手を振ってこちらに向かってくる。


「お疲れ様!!」

 僕はマユに向かって手を振る。


「ひかるん。皆、ありがとう!!」

 マユはニコニコ笑っている。その表情は、どこか吹っ切れたような表情だった。


「いや~。すごかったです。しかし、惜しかったっすね。五秒差の区間二位っすか。」

 義信の言葉にマユは照れながら言う。


「いや~。皆さんが、分散して、沿道に立ってくれたおかげですよ~。ありがとうございます!!」

 義信の言葉にマユが親指を立てて笑う。


 義信とマユは、僕のピアノコンクールで知り合ってからの仲だ。

 その後、早織の一件や、文化祭でも言葉を交わしている。


 お山の大将の義信に、マユはノリノリで応えている。

 マユは義信のことを、お笑いの師匠と見ているかのようだった。


 そして、義信の言葉に僕は驚く。

 なんと、区間二位まで、しかも、区間賞とは五秒差とは。


 駅伝の順位は実は二つある。全体の順位は、六年連続で全国に出場している強豪校なのだが。

 個人の順位として、区間の個人成績がある。その区間で一番タイムが早かった人、つまり、区間の個人順位が一位の人に、区間賞というものが贈られる。


 マユはそれに次ぐ、区間二位。しかも一位と五秒差。

 悔しい思いの方が強いかもしれないが、安久尾建設の連中が逮捕されて、調子を取り戻しつつあった短い期間で、よくぞスランプを乗り越え、調整してきたと僕は思う。


「す、すごいよ。マユ。」

 僕は素直に言った。


「ふふふっ。本当に頑張りました。来年はエース区間かもね。」

 史奈はニコニコ笑う。


「ありがとう。そして、来年はもっと調子が出るかも。頑張らなきゃ。」

 マユは笑っていた。


 そして。マユは早織の方を向く。

「さおりん。今日は来てくれてありがとう。楽しんでくれたみたいで良かった。ひかるんより、頑張って応援してたね。」

 マユはニコニコ笑っていた。


「あ、あのっ。その、すごかったから。マ、マユちゃんが。」

 早織は照れながら笑っていた。


「ふふふっ。早織ちゃんも頑張っているよ。だからここに呼んだんだ。」

 マユはウィンクする。

「道は違うかもしれないけれど、同じように頑張っている人からの応援が、やっぱり力になるかな。」

 マユは早織に向かって、ニコニコ笑っていた。


「あ、ありがとう。マユちゃん!!」

 早織は瞳の色をさらに輝かせてマユにお礼を言う。


「ふふふっ。良かった。それじゃあ、今日はありがとうね。」

 マユはそう言いながら、選手専用のバスに乗って、陸上競技場の方へ引き上げていった。


 僕たちも、それを見届けて、男子のレースが始まる前に、一時的に運行を再開している路線バスに乗り、山を下りた。

 さすがに、この山を往復するのは、体力も削られるし、時間の無駄でもあった。

 陸上競技部は本当にすごいと思う。


 そして、山の麓のバス停から、加奈子も乗ってきて、今日の出来事を分かち合った。


 バスを降りて、陸上競技場の方へ向かうと、高校女子のレースは終わっており、男子のレースがスタートした直後だった。

 結果は、一位を走っていた強豪校が今年も優勝して、七年連続で全国出場を決めていた。


 しかし、マユは本当に大健闘した。


「すごかったね。マユちゃん。」

 史奈がニコニコ笑う。

「はい。私も頑張らないと。」

 早織が大きく頷いて、気合を入れ直す。その目にはもう、迷いはない。そんな表情をしていた。


 僕も久しぶりに陸上に打ち込むマユの姿を見て、嬉しかったし、何といっても、早織がマユの走りを見て感動していたのがとても印象に残った。


 マユも、早織も、次の一歩が踏み出せそうな。そんな一日だった。






今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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