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125.“お店の予約”と“修業の約束”

 

「さてと。行くとするかな。」

 原田先生は親指を立てて、僕と加奈子、そして、藤代さんに車に乗り込むように指示する。


 加奈子の通うバレエ教室の責任者でもある原田先生。

 その原田先生のバレエ教室でのクリスマスコンサートの練習もいよいよ大詰めの時期に差し掛かる。

 メインステージの『くるみ割り人形』。加奈子は、主役の少女、クララの役を完璧に演じていたし。

 中学生の絶対的エース、藤代さんも、金平糖の精の役を安定した演技でこなしていた。


 そして、僕もピアノスタッフとして、このバレエ教室を手伝っていた。


 ちなみに僕も、ピアノ演奏者として、このクリスマスコンサートのステージにオンステする予定だった。


 そんなクリスマスコンサートの練習の直前の後、原田先生の車に乗せられ、ある場所へ向かっていた。

 ある場所へ向かう途中、花園学園に立ち寄り、校門の前で車を停車させる原田先生。


 そこには、家庭科部の富田部長と義信、結花、さらにはコーラス部の心音が立っていた。

 バレエ教室から四人、ここから四人を乗せたことで、八人乗りの原田先生のワンボックスカーがいっぱいになった。


「「こんにちは!!」」

「お願いしやーす!!」

 原田先生にニコニコ笑って挨拶をする、心音と結花と義信。

 彼ら三人は原田先生とも面識があり、ニコニコ笑いながら車に乗った。


 戸惑いながらも、車に乗り込む、家庭科部の富田部長。

「あ、あの、初めまして。」

 富田部長は頭を下げながら乗り込む。


「ああ。緊張しないで、こっちは、私のバレエの先生をしている、原田先生と、同じく、そのバレエ教室の後輩の藤代さん。」

「おう。よろしくな。文化祭のメイド喫茶で、部長さんとは話さなかったからな。」

 原田先生はニコニコ笑う。

 そして。


「よろしくお願いします。」

 藤代さんが頭を下げ、富田部長も。


「よろしくお願いします。」

 と、頭を下げて、車に乗り込んだ。


 そうして、僕たちは、目的地の場所まで向かった。

 目的地周辺。原田先生は、【霧峯神社】の参拝客用の駐車場に、車を止めた。


 僕たちは、別に神社に参拝に来たのではなく。神社からしばらく歩くと、例の看板が見えてきた。


 例の看板が見えた瞬間に深呼吸する、僕と加奈子、そして、富田部長。


 その看板には、『洋食屋のKUROYAMA』という文字。


「緊張しなくていいよ。だから私たちも一緒に、来たんだから。」

 心音がウィンクする。

 同じ感じで結花もウィンク、義信は拳で胸を叩く。


 元不良ボスヤンキーの心音。その子分だった結花。さらには元ラグビー部でお山の大将の義信。

 確かに大丈夫だ。


「まあまあ。落ち着けよ。お前たちを止めるために、私が車を出して来たんだからな。まあ、話を聞いて、殴りに行きたいと思った感情は、私も変わらないけどな。」

 原田先生が、ほぼ興奮状態の、三人をなだめる。

 その言葉を聞いて、落ち着く、心音と結花と義信。


「あ、ありがとうございます。」

 僕は原田先生に頭を下げる。


「良いってことさ。それに、私も見たかったんだよ。今度の“敵”はどんなヤツかなと。」

 原田先生はウィンクした。

「はい。私も許せません。」

 藤代さんも大きく頷いている。そして、その目には力がある。


「雅ちゃんもやる気だな。まあ、夏、一緒に砂のお城作ったり、朝ごはん作ったりしたら、仲良くなるか。」

 原田先生は、大きく頷いている。


「はい。またお話してみたいと思いましたから。」

 藤代さんも頷いている。


 僕たちはお互いの顔を見合わせて一歩を踏み出す。

 そして、【洋食屋のKUROYAMA】の扉を開けた。


「いらっしゃいませ。どうぞこちらに。八名様ですね。通路を挟んで、四人、四人のテーブルでしたらすぐご案内できます。」

 僕たちは出迎えた店員の言葉に頷き、案内されたテーブルに着く。


 すると、僕たちに気付いたのか。

「ほお。ピアノのクソガキと、その他大勢さんじゃねぇか。」

 黒山が厨房から出てくる。


「このクソジジィ。アタイがなんで来たかわーってるよなぁ。」

 心音がイキナリ声のトーンを低くするが。

「落ち着け。大丈夫だ。」

 原田先生の声で、心音が我に返る。


「おっと、こわいこわい。でもなあ。不良のギャルさんよう。ここは俺の店だぜぇ。暴れたらどうなるか、わかってるよな?」

 黒山がニヤニヤ笑う。


「チッ。」

 心音が舌打ちをする。

「そう言うことだ。今は、黙っていた方がいい。」

 原田先生の言葉に心音は頷く。

 今は、確かに原田先生の言葉の方が正しい。ここは黒山のお店の中。心音が暴れたりして、トラブルが起きれば、黒山の思うつぼだ。黒山から裁判沙汰になってもおかしくない。


「皆様のお目当ては、新メニューですかな。すぐにご用意いたしましょう。個数は・・・・。」

 黒山がニヤニヤ笑いながら、僕たちの顔を見回す。そして、僕たちの様子を察したのだろう。


「個数は適当にご用意いたしますかね。そうそう。そうですよ。おとなしく座ってくれれば、皆様も大切なお客様ですから。ガハハハハハッ。」

 僕たちが落ち着いて、座るのを見て、急に丁寧に接する黒山。だが、相変わらず、奴の口元はにやけたままだ。


 黒山が去っていった後、僕たちは富田部長の方を見る。


「間違いないわ。あの人よ。文化祭で、パスタのことを、しつこく聞いてきた人は。」

 富田部長が確信した顔で頷く。

 僕たちはその言葉に、互いに目を合わせて、頷いた。

 これは、間違いないと。


 黒山は、本当に早織のレシピを盗作したと。

 それを確信した僕たち。


 そうして、十五分ほど経過し、黒山が新作のパスタを運んでくる。


「どうぞ、お待たせしました。あそこの小娘のパスタより。断然美味しいでしょう。」

 黒山の口元がニヤニヤ笑っている。


 バーン。と机を叩く義信。


「てめぇ。」

 と義信は叫ぶ。


「ハハハッ。無駄だぜ、ここは俺の店さ。問題を起こせば、俺が警察に通報できるんだよ。デブ野郎。」

 黒山は笑うが。そのマウントを取ったような笑みに、表情が険しくなる僕たち。


「おいおい、落ち着けって。お前たちもアホだな。というより、俺に感謝するべきなんじゃないか。」

 黒山の口元はさらに緩み。


「何がって、お前たちの大好きな、犯罪者の娘の、誰でもできる、簡単なレシピを、ちょーっと、手を加えて、俺が紹介してやってんだからさぁ。なっ。」

 黒山は大きく頷いている。


 この瞬間、僕たちの推理は一気に確信に変わる。

 この言葉で、黒山は早織のレシピを盗作した、しかもキングオブパスタに出品する、大事なレシピを盗作したことがわかった。


「このクソジジィっ!!」

 心音が立ちあがるが。


「だからバカは嫌いなんだよ。ここは俺の店。俺の。俺がてめぇを訴えて良いんだぜ。フッ。」

 黒山は鼻を高くしながら、その鼻で笑っている。

 原田先生の手が心音を止める。心音は促されるように座っていく。


「そうだよ。そうだよ。おりこうさんだね。もっと感謝するんだな。感謝が足りないよ。犯罪者の娘の捨てられそうなレシピをこうして紹介してやったんだし。今回の一件も、俺は、警察にも通報しないでやるからな。」

 黒山がニヤニヤ笑って、僕たちの行動が治まったのを確認して、その場を去っていった。


「お前たち。黙って、ぱっぱと食って、とっとと、帰るぞ!!」

 原田先生の言葉に僕たちは頷き。

 黒山から出されたパスタを大急ぎで、終始無言で、口に頬張る僕たち。


 そうして、会計を済ませ、一目散に店を出た。


「じゃあな。もう二度と来るんじゃねえぞ。ピアノのクソガキ。ああ。あの、犯罪者の娘と、貧乏レストランの馬鹿どもによろしくな。」

 黒山がニヤニヤと笑いながら手を振っていた。


 僕たちは【洋食屋のKUROYAMA】を後にし、霧峯神社の駐車場に止めていた原田先生の車に乗り込む。

 そして、原田先生は車を一気に急発進させた。


「はあ。」

 原田先生は大きくため息。

「私がついて来てよかったよ。私が止めなければ今頃、お前たちは手が出ていて、それこそ、警察沙汰になっていただろうな。」


 原田先生はミラー越しに、心音、結花、義信の顔を見る。


「す、すみません。」

「ごめんなさい。」

「そうっすね。浅はかでした。」

 心音と結花と義信は、大きく頷いていた。


「まあ。いいさ。それがお前たちの良さだし、仲間を守るという気持ちが全力で伝わったしな。それに。」

 原田先生は一呼吸する。


「私も、あのクソジジィは、想像以上のクズだよ。マジで。」

 原田先生は今日いちばんの大声で叫ぶ。

 その叫びに圧倒されながらも、僕たちは頷く。


「となると、あの子に元気と自信を取り戻すには、加奈子ちゃんと少年の、意見に賛成するしかないな。」

 原田先生は再び落ち着いた声で、ミラー越しに、僕と加奈子を見た。


「はい。」

 加奈子は頷く。


「すみません。ありがとうございます。」

 僕は原田先生に頭を下げる。


「良いってことさ。あのクソジジィをぶっ飛ばすことに、私も協力するさ。」

 原田先生は大きく頷いて、アクセルをさらに踏んで、車を加速させる。

「はい。私も、今日の言動を見て本当に許せないと思いました。」

 藤代さんも大きく頷いていた。


「そうと決まれば、行くか!!」

 原田先生はハンドルを思い切り握って、次の目的地へと車を発進させた。


 次の目的地。そう。早織のお店。【森の定食屋】だった。



 一方の森の定食屋。

 僕たちが黒山の店に偵察に行っているころ。


「畜生。黒山の馬鹿野郎。やりやがったな。」

 早織の祖父、道三は怒りの拳を握りしめている。

「落ち着いて、あなた。」

 早織の祖母、真紀子は道三をなだめる。

 早織の母親の美恵子も、一緒に道三をなだめようとするが。


「あの馬鹿野郎に一発パンチを食らわせねえと、落ち着いてられるか!!」

 道三の怒りは頂点に達していた。


 それを必死に抑えようとする、真紀子と美恵子。


「お祖父ちゃん。お祖母ちゃん。お母さんまで。」

 早織は祖父母の顔を見るが。


「大丈夫よ。早織ちゃん。」

「うん。一緒に待ってよう。」

 史奈と葉月が早織に落ち着くように促していた。

 ポンポンと肩を叩くマユ、黙って、にっこり笑う風歌の姿もそこにはあった。



 そうしている所に、黒山のお店の偵察を終えた、僕たちが合流した。


「お待たせしました。」

 僕たちは早織のお店の扉をくぐる。


「おう。ガキンチョ。すまなかったな。辛い役目を担ってくれてよう。」

 道三がこちらに駆け寄る。


「輝君。ごめんね。」

 葉月も道三とともに駆け寄る。


「ひ、輝君・・・・。」

 祈るような目で、僕たちの目を覗き込む早織。

 その早織の目を見て、富田部長が口を開いた。


「思った通りよ。やっぱりあの黒山っていう人、文化祭に来て、八木原さんのレシピを盗作してたわ。」

 富田部長が早織に伝える。


「ああ。アイツが高らかに、鼻を鳴らしながら言っていた。犯罪者の娘のレシピを、俺が広めてやったんだから、ありがたいと思えって。」

 富田部長の言葉に心音が続ける。


「そんなっ・・・・。」

 早織は大粒の涙を流す。


「畜生!!あの大馬鹿野郎!!」

 道三は歯を食いしばりながら、地団駄を踏んでいる。

 そうして、美恵子と真紀子が道三をなだめ、道三が落ち着く。


「はあ。」

 道三がため息をつきながら椅子に座る。


「こうなっちまった以上。もう一度、出品用の新しいレシピを作らなきゃダメだ。だけど。」

 道三が再びため息。


「早織の腕は、ここ数日で、一気に衰えてしまった。原因は分ってるさ。お前たちも想像つくだろう。早織の腕が衰えた原因は。」

 道三は僕たちに再び頭を下げる。


「すまねえ。ガキンチョ。俺がついていながら、早織の心のケアが出来ていなかった。すまねえ。」

 道三は床に手をついて謝る。


「頭を上げてください。大丈夫です。大丈夫ですから。」

 僕は道三をなだめるが。


「大丈夫なわけねえだろ。早織の心は再びズタボロだ。文化祭で自信をとりもどした、だけど、黒山のせいで、また振り出しだ。この先、【春のキングオブパスタ】までに、文化祭みたいなイベントがあるか?早織の自信をもう一回取り戻すイベントがあるかよ。言ってみろ。ガキンチョ!!このままだと、キングオブパスタで黒山に負けるぞ!!それだったら無理させないで、棄権する方がいい。早織の親として、そんな姿は見たくないのさ。」


 道三の必死の言葉。必死の表情は痛いほど伝わってくる。

 早織も、道三も、そして、美恵子も、真紀子も、皆、全力で頑張ろうと思って、ようやく軌道に乗った、その直後に、今回の黒山によるレシピの盗作の一件があった。


 これは、本当に悔しい。

 文化祭まで、頑張って来た、早織の努力の結晶を一瞬にして踏みにじられたのだ。


 一体どうすればいいかわからないだろう。

 だけど。


 今の僕は違う。もう一度立ち上がっても、踏み倒された経験はある。

 心音と風歌と一緒に出た、合唱コンクールがそれだ。


 ここでも、安久尾の妨害に遭った。この時、二度と立ち上がれないと思った。

 でも、その時に、加奈子の譜めくり、風歌とともに、連弾部門に出場して、もう一度立ち上がる勇気を作った。


 そう。もう一度立ち上がる場所。それが無いなら作ってしまえばいい。


 だから、僕は道三に対して首を振った。


「大丈夫です。文化祭のような、早織に、もう一度自信を取り戻すイベントならあります。」


「「「「えっ?」」」

 僕の言葉に驚く八木原家、森の定食屋の面々。


「僕のアイディアではなくて、そこにいる、加奈子先輩のアイディアです。僕に話してくれて。」

 僕は加奈子の方を見る。

 加奈子は頬を赤らめながらも、うん、うん、と頷く。


 そして、僕は原田先生と、藤代さんをみた。


「素晴らしいお店だよ。本当に気に入った。早織ちゃんはすごいな。こんな素敵なお店でバイトしてるなんて。そりゃぁ、料理の腕がピカイチなわけだ。雅ちゃんはどう思う?」

「はい。素敵です。素敵なお店で感激しました。バレエ教室の皆も喜ぶと思います。」

 原田先生と藤代さんは先ほどから、お店の中を細かく見回して、お店の奥の様子も覗いていた。


 森の定食屋の素敵な雰囲気を気に入ったのだろう。

 そして。


「決定だな。」

「はいっ。」

 原田先生と藤代さんは大きく頷いた。


 そして。

「早織ちゃん。そして、皆さん。お弁当の予約と、お店の予約をしたいんだけどいいかな?」

「「えっ?」」

 原田先生の言葉に、驚く、早織。そして、道三。


「だから、予約だよ。予約。十二月の第三日曜日。昼食の弁当百五十人前と、夕食のお店の貸し切りの予約。つまり、ウチのバレエ教室のクリスマスコンサートの昼食の弁当と、打ち上げのお店の予約だ!!」

 原田先生はニコッと笑って拳を握りながら言う。


「そ、それって。」

 早織は驚いたように目を開ける。


「まさか。そんなっ。」

 道三は早織、そして、美恵子と、真紀子を見る。早織の母親と祖母は大きく頷いている。


「弁当と、打ち上げの料理は。早織ちゃん。君が作って欲しい。」

 原田先生は大きく頷いて、早織の方に歩み寄り、両手で早織の肩を持つ。


「わ、私で良いんですか?」

 早織は瞳の色を輝かせて、原田先生の方を向く。


「もちろんだ!!」

 原田先生は大きく頷いた。


「はい。私も、許せませんから、その黒山さんという人を。夏休み、とても仲良くなって、橋本さんのコンクールでも沢山お話しできて、楽しかったですし。早織さんはとてもいい人だって、わかってますから。」

 藤代さんは、早織に向かって、ニコニコ笑った。


「あ、ありがとう。雅ちゃん。」

 早織は大粒の涙を流す。


 涙のわけは先ほどとは違うようだ。


「あ、ありがとうございます。ありがとうございます。」

 早織は、涙が止まらなかった。


 どうやら、早織が再び一歩を踏み出そうとしていた。


 そして。これは僕も想定外のことが起こった。

「素晴らしいっすよ、生徒会長に、社長!!」

 義信がニコニコ笑った。


「そしたら、私からも提案させてくだせえ。社長、文化祭の福引で当てたウチのホテルの宿泊券持ってますか?」

 義信の言葉に僕は頷く。


「クリスマスコンサートが終わって、冬休み、お嬢と泊りに来てくだせえ。ああ、皆さんの分の部屋も空けときますからよかったら是非!!そこで、俺の爺ちゃんと一緒に、お嬢の料理の修業をしましょう!!きっと、爺ちゃん、喜んで、現場を見せてくれまっせ!!」


「あっ。」

 僕は目を見開く。


「い、いいの?そして、皆も良いんですか?」

 早織は義信を見る、そして、皆を見回す。ある意味で、早織が皆を見回した意味は、別の所にあるようだが。


「そう言うことなら仕方ないか。スイートルームの宿泊券は、早織ちゃんと、輝君で行ってきなよ。」

 葉月がニコニコ笑いながら頷く。


「そうね。いいんじゃないかしら。流石は磯部君ね。それに私たちの部屋も用意してくれるって言うし。」

 史奈が頷く。


「さすがだよ。義信。今回は、八木原さんに負けてあげる。」

 結花がうんうんと頷いていた。


「私も賛成と。さおりん、頑張って。」

 マユが親指を立てて笑っている。


 加奈子と、風歌は黙って頷いている。


「み、皆さん。ありがとうございます。」

 早織は涙を流しながら頭を下げる。


 その言葉に驚く道三。

「坊主。ホテルって。ホテルの名前は?」

 道三は義信に聞く。


「ああ。【ホテルニューISOBE】っすよ。料理長と女将の孫の、磯部義信っす。」

 道三はさらに驚く。


「な、なんと、お前さん、【義治(よしはる)】の孫だったか。」

 道三の今日いちばんの驚きだった。


「知ってるんすか?爺ちゃんを。」

「当たり前だよ。専門学校の、儂の後輩だ。つまりは黒山の後輩でもあるんだが・・・・。そうか。そうか。」


「そうっすか。そんなら話が早いっすね。」

 義信は大きく、頷く。


「皆。本当にありがとう!!早織のことをここまで大切に思ってくれて、本当に、本当に、ありがとう!!」

 道三は早織以上の涙を流して、頭を下げる。


「ありがとうございます。」

「ありがとう。皆さん。」

 早織の母と祖母、美恵子と真紀子も僕たちに向かって、頭を下げた。



「早織。本当に、良かったな。皆の優しさ。無駄にしないためにも、出来るか?早織。」

 道三は、早織の方を向く。


「うん。勿論だよ。お祖父ちゃん。」

 早織は両手で涙を拭く。そして。


「私、頑張る!!」

 早織は大きく頷いた。


 こうして、冬休み。

 クリスマスコンサートの“お店の予約”と、義信のホテルでの“修業の約束”が成立した。


 早織が再び、一歩を踏み出していた。

 その表情には、再び、力がもどっていた。



今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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