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124.文化祭の打上げ、そして‥‥。

第六章、開幕です。

少しでも面白い、続きが気になるという方は、下の☆マークから高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。

 

 「文化祭。お疲れ様でした!!」

 「「「お疲れ様でした!!」」」

 十一月の半ばの花園学園、生徒会室。


 僕たち生徒会メンバーは文化祭の反省会をしていた。

 といっても、文化祭は大盛況に終わり、良かった点、来年度以降に改善すべき点を簡単にまとめて、残りの時間は生徒会室で、お茶会となった。


 葉月の手作りクッキーと紅茶。そして、早織の手作りデザートがテーブルにどっさり並べられている。


「いやぁ~。上手いっすね。流石は、お嬢。」

 義信は、早織のことをお嬢と呼ぶようになった。

 そして、食いしん坊の義信。一人むしゃむしゃと食べている。


「ちょっと、磯部君。他の人も居るんだから、私たちの分も残してよ~。」

 葉月の頬が膨れ、それを見て。

「ああ、すいません。すいません。」

 義信は食べるスピードを緩める。


「なーんてね。そんなことも想定して、いっぱい作って来たから、皆、遠慮しないで。」

 葉月はニコニコ笑いながら皆を見る。

 それを聞いた義信は再び食べるスピードを元に戻すが。


「ああっ。でも磯部君はゆっくり食べて欲しいかも。」

 葉月はうんうんと、頷いた。


 その言葉に、ギクッとして、クッキーをのどに詰まらせ、すかさず水を口に一気に入れる義信。


「す、す、すみません。」

 義信は少し息を切らし、ゲホゲホとせき込みながら、右手を上げて、首を上下に振っていた。


「ふふふっ。元気ね。」

 史奈が笑う。

「さあ、輝君も今のうちに、いっぱい食べてね。」

 葉月がニコニコ笑っていた。

 その言葉に皆が頷く。


 葉月のクッキーはバターの香りがしっかりしている。

 そして、何といっても早織のデザート。こちらは、先月作ったものと、今ここにあるものとでは、明らかに差があった。

 味も、香りも、見た目も、ものすごく進化している。


「すごく美味しい。」

 加奈子が目の色をキラキラさせながら、デザートを食べる。

「ホント。より映えてるじゃん。」

 結花が大きく頷いて、ニコニコ笑う。

「本当。どんどん、私を突き放していくね。まあ、今回ばかりは、別にいいけどね。」

 葉月はため息をつきながら、笑っていた。


「ひ、輝君はどうかな?」

 早織は緊張しながら僕に言ってくる。

「うん。とても美味しいよ。流石だね。」

 僕は早織の目を見て笑う。


「ありがとう。」

 皆の反応を聞いて、早織の口元が緩む。


「さて。この後の活動については、生徒会は目立った活動は特にないけれど、来年の予算の承認とか、広報とかの編集とか、目立たない仕事が多くなるけど、よろしくね。」

 加奈子がニコニコと笑いながら、文化祭後の生徒会の仕事について説明していた。


 僕たちは加奈子の説明に頷きながら、話を聞いていると。


 タッタッタッタッ。という、ものすごい足音がこちらに近づいてくる。

 そして。

 ドンドンドン。


 いきなり強い力で、生徒会室の扉がノックされた。


「えっ?」

「何々。」

 その力強さに驚く、僕たち。


「・・・・。は~い。どうぞ~。」

 驚きながらも、大きな声で、入るように促す葉月。


 バーッ。

 勢いよく扉が開く。


「ハアハアハアハア・・・・・・。」

 扉のノックの主は、血相を変えながら呼吸が乱れ、急いでこちらに来たことが、ものすごく伝わって来た。


 その人には、見覚えがあった。

 家庭科部の富田奈津季さん。家庭科部の部長だった。


「ぶ、部長?」

 早織が富田部長の方を見る。

「どうしたのですか?」

 文化祭で一緒に活動した僕、早織とともに反応する。


「大変。大変よ!!」

 富田部長が血相を変えて、早織を見る。


「何が?」

 早織は、血相を変えた富田部長を見て、驚く。


「これ、見て。」

 富田部長から差し出されたのはスマホだった。

 差し出されたスマホの画面を確認する僕たち。


「うそっ。」

 加奈子がその画面を見て凍り付く。


「こ、これはっ・・・・。」

「マジッ?」

 僕と結花は息を飲む。


「おいおい、マジかよ。」

 義信はどこか怒りの表情を浮かべて、少し考える。


 スマホの画面に映し出された物、それは・・・。

 それは、SNSの画面で、パスタの画像だった。


 『来週からの新作パスタメニュー、五つです。このうち、評判が良かった上位三つを、春のキングオブパスタに出品予定。ご来店お待ちしています。』

 と、SNSには書かれており、添付された画像には、五つの新メニューのパスタの画像が載せられているのだが。

 そのうち三つは見覚えがあった。


 『北関東の魅力アピール、納豆餃子パスタ。~ニンニクと生姜の味と香りを添えて~』

 『山の幸満点、キノコパスタ。~北関東は海より山、山の魅力をお届け~』

 『大葉とシラスの海鮮和風パスタ。~北関東民の夢乗せて~』

 三つの画像一つ一つの説明にこう書かれていた。


 そう。早織が文化祭で作った三つのパスタ、つまり、早織が春のキングオブパスタに出品予定の物とよく似ている。

 見た目こそ違うが、使っている具材は早織が提案したものをそのまま使って、さらに、豪華な見た目に仕上げられている。


 この画像の投稿主を見る。

 そこにはこう書かれていた。


 『洋食屋のKUROYAMA公式アカウント』と。


 これを見た瞬間、ここにいる僕たち生徒会メンバーは、全てを確信した。


 黒山に早織のレシピを盗作された。


 僕は、早織の方に目を向ける。

「早織っ・・・。」


 早織は震えていた。そして。

「くすんっ、くすんっ・・・・・・・。」

 早織は大粒の涙が一気にこぼれ落ちた。


「どうして、どうしてぇ~。何で。何でよぉ~。」

 早織は跪き、声を上げて泣いた。


「八木原さん?」

 富田部長も慌てて、早織の方に目を向ける。


「とにかく、中に入ってください。こうなってしまった以上、富田部長にも知っていただく必要があります。」

 僕は、富田部長を生徒会室に促した。


 結花と義信は、早織の両腕を抱え、葉月と加奈子、そして、史奈が周りを確認して、生徒会室の扉を閉めた。


 富田部長が席に座り、数分の沈黙。その間に、早織が落ち着くのを待つ。

 声を上げて泣いていたのは少しだけで、今は涙をこぼしながらも、少し落ち着いてきたようだ。


 そうして、僕が口を開いた。

「すみません。驚かせてしまって。」

 僕は富田部長に頭を下げる。


「ええ。私も本当にごめんなさい。まさか、SNSの一件と言い、八木原さんのことと言い、一体何があったのか。」

 富田部長も頭が混乱している。


「事情が複雑で、混乱させてしまったらすみません。でも、話さなきゃ、いけなくなりました。」

「ええ、大丈夫、ゆっくり聞くわね。」

 富田部長が深呼吸して落ち着いた。


「今から、文化祭で、僕と結花が皆さんのメイド喫茶を手伝うことに至った理由を話すのですが、その前に、僕のことを話さなければいけません。僕が、この花園学園に来た理由を知ってますか?」

 僕は富田部長に尋ねる。


「そう・・・。だね。ネットのニュースに話題になっていたし、確か、前の高校で、問題が起きてこっちに来たのよね。」

 富田部長は少し暗い表情をしながら頷く。


 僕は、安久尾建設の連中がやった、僕への妨害、僕への虐め、それを細かく話した。

 ピアノのコンクールで、審査員を金で買収して、予選落ちさせたこと、万引きや合コン、カンニングの濡れ衣を着せられて、退学させられたこと、今はこうして頑張っていることを話した。


 不思議だった。初めて、自分で、スラスラと話すことが出来た僕が居た。


「そんなことが。なんてひどいことを・・・・。」

 富田部長の表情は重いものに変わっていく。


「まあ、今は過去の話で、気にしてないです。いい人と出会えましたから。」

 僕は、富田部長の目を見て、最後にこういった。


 富田部長も頷いている。


「社長、すごいっすね。」

「うん。輝君、すっかり元気になった。」

 義信と葉月は大きく頷いていた。


 そう、今までは、この話をするときは、誰かの助けが必要だったし、初めて打ち明けたときには、もう少し時間を要した。


 だけど、今回は違う。

 今は、早織のことだ。


「まあ、今は、早織のことがあるからね。それもあってだと思う。」

 僕は皆を見回す。生徒会メンバーは頷く。


 富田部長の重い表情が治ったところで、今度は早織のことを話さなければいけなかった。


「これを踏まえたうえで、今度は早織のことを話すのですけど。大丈夫ですか?」

 僕は富田部長を見る、そして、早織を見る。

 富田部長はすぐに頷く、問題は、早織。


「だ、大丈夫・・・。輝君・・・。ここからは、私が、話しても、いい?」

 早織は僕を見た。

 僕は頷く。


「無理しないで、必要があればフォローするから。」

 僕は早織を見る。

 同じく頷く生徒会メンバー。


「あの、実は、私。私は、その輝君のことを邪魔してきた人達の筆頭、あ、安久尾建設の隠し子だったんです。輝君のことを退学にした人の、母親違いの、い、妹なんです。」

 早織は涙ながらにも、富田部長に必死で伝えた。


「えっ・・・。」

 富田部長は両手で口元を覆う。

 早織はさらに説明を続けた。


 早織の母親と祖父母は、早織にそのことを伝えず、父親の正体も明かさず、今まで必死で、高校入学まで育ててくれたことを話す。

 そして、安久尾たちが逮捕されたことで、かつての祖父の同期、黒山がお店に押しかけ、自らの出生の秘密を暴露されることに至ったこと。

 気持ちを切り替えて、黒山を見返そうと、祖父、道三の提案で、早織のお店、【森の定食屋】の店長代理として、春のキングオブパスタに出ることになったこと。僕たち生徒会メンバーもそれまで手伝ってくれることを約束したこと。だから、こうして、先日の文化祭で、僕と結花が手伝っていたことを話した。


 早織の口からゆっくり話した。

 そして、僕たちもフォローしつつ、富田部長に伝えたのだった。


「そんな。そんなことって・・・・。」

 富田部長の目には大粒の涙が光る。


「そのスマホのSNSに、『洋食屋のKUROYAMA』と表示されています。そのオーナーが、早織の出生の秘密を暴露した、黒山、張本人なのです。そのアカウントから投稿されていることこそが、動かぬ証拠だと思います。」

 僕は頷いて、富田部長に説明した。

 他のメンバーも頷いている。


「ごめんなさい。八木原さん。本当に、ごめんなさい。」

 富田部長が泣きながら、早織に謝罪してくる。

 今は、早織よりも富田部長の震えが止まらない。


「実は、あなた達が、家庭科部のシフト時間を終えて、花園学園グランプリの準備に行っていた時、ご高齢の男性の方がメイド喫茶に来たの。」

 富田部長は顔をしかめて話す。


「その男性は、高齢にもかかわらず、八木原さん、貴方の考えた三つのパスタの全メニューを頼んでいたわ。そして、私に色々聞いてきたの、材料は何かとか、味付けはどうしたとか。そして、最後に・・・・・。」

 富田部長は、息をごくっと飲む。


「このメニューを考えた人は誰かってね・・・・・。」

 富田部長はこの瞬間大粒の涙を流した。


「そんなっ、じゃあ。」

 僕は目の色を変える。

 同じく結花も。

 そして、ここに居る生徒会メンバー全員も。


「あなたの、あなたの名前を教えてしまった・・・・。本当に、本当に、ごめんなさい。」

 富田部長は早織に頭を下げ、両手を早織の肩に乗せた。


「まさか、皆が、そんなことを背負ってたなんて、私は・・・・。私は・・・・。どうしたらいいの。本当に、ごめんなさい。」

 富田部長は声を上げて泣く。

 そして。


「私は、その、悔しいですが、その、富田部長は悪くないです。その。ごめんなさい、話すのが遅くなって・・・・。」

「早織ちゃん!!」

 富田部長と早織はお互い抱き合い、声を上げて泣いた。

 それを見守る僕たち。


 かなり時間が経過しただろうか。お互い落ち着くのを待っていた。


 そして。早織と富田部長が落ち着いて、今日の生徒会はお開きとなった。


「本当に見苦しい所を見せてしまって、ごめんなさい。」

 富田部長は頭を下げる。


「あの、富田部長は悪くないです。頭を上げてください。」

「はい。本当に、メイド喫茶ではお世話になりましたから、私を、調理班のリーダーにしてくれて、ありがとうございます。」

 僕と早織は、富田部長に言う。


「そうね。まずは、今後どうするか、話しましょ。文化祭も終わって、落ち着いているころだし、私も、大学合格が決まってるから、今なら、皆、早織ちゃんを手伝えるわよ。」

 史奈が大きく頷く。


「うん。そうだね。とりあえず、SNSの一件は家庭科部でも話題になっているから、そっちは私に任せて、私から話せるところは、話しておくし、八木原さんは、しばらく生徒会の活動に専念して。そして、落ち着いたら、八木原さんから部員の皆に話してくれればいいからね。多分だけど、家庭科部の皆も、キングオブパスタに協力してくれると思うわ。私も手伝うから。」

 富田部長は、早織に向かって親指を立てていた。


「あ、ありがとうございます。」

 早織は頭を下げる。


「「「あ、ありがとうございます。」」」

 僕たちも富田部長に頭を下げた。

 家庭科部の皆が、キングオブパスタを手伝ってくれるのは心強い。全員は無理だとしても、少なくとも、富田部長が手伝ってくれるだけでもありがたい。


 そうして、生徒会を出て、僕たちは、帰路に就いた。

 帰る方面が一緒の僕と加奈子は、今日は雲雀川の北側の橋を経由し、早織を森の定食屋まで送り届けることになった。


「ありがとうございます。輝君。加奈子先輩。」

 早織は頭を下げる。


「うん。辛かったね。本当にごめんね。」

 僕は早織に謝るが。


「わ、私こそ、ごめん。折角、頑張ってくれたのに、これだと・・・・・。」

 早織の目から再び大粒の涙が出る。

 思わず抱きしめる僕。


「大丈夫。大丈夫だから。」

「わ、私、悔しいよぅ。どうして。何で。」

 早織は大粒の涙を流しながら、僕の腕の中にとどまり続ける。


「大丈夫だよ。傍に居るから。」

 僕は頷く。

「うん。早織は一人じゃないよ。」

 一緒に居た加奈子。大きく頷く。


「あ、ありがとう・・・・。」

 早織は、制服の袖で涙を拭き、再び歩き始める。


 そうして、森の定食屋の看板が見えてくる。


「今日はゆっくり休んで。」

「うん。ありがとう。」

 僕は早織に声をかける。

 早織が森の定食屋に入っていくのを見届けて、僕と加奈子は自転車に跨り、勢いよく自転車を発進させた。


「ねえ。輝。」

 加奈子が声をかける。

「ちょっと、私に考えがあるの。しかも二つ。」

 僕と加奈子は自転車を止め、近くの公園に入る。


 公園のベンチに座り、加奈子は僕の耳元でその考えを囁く。


 加奈子の考えにハッとする。

 そして、同時にニヤニヤと口元が緩む僕たち。


「いいじゃん。それ。」

 僕は親指を立てて笑う。


「でしょ。」

 加奈子が大きく頷いて、笑っていた。


「私、パパに話してみる。輝も伯父さんに話してみて。」

 加奈子はニコニコと笑っていた。

 僕は大きく頷く。そして。


「「そして、先生にも話そう。」」

 僕と加奈子は笑っていた。

 そうして、加奈子と別れて、僕は伯父の家へ、加奈子は橋を渡って、自分の家に帰っていった。





今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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